アーチャーのご飯が美味しいから聖杯が欲しい
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*いつかどこかの聖杯戦争
●ファースト・インパクト
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した」
「おぉ、アーチャークラスかぁ!
触媒なしの召喚だからドキドキだったけど、ちゃんとできてよかった。よろしくね」
「また緊張感のないマスターに呼び出されたものだな……。
君はこれがどういう儀式かわかっているのかね? もしや巻き込まれた系素人マスターではあるまいな?」
「出会い頭に失礼なヤツだな……私は歴とした魔術師だ。魔術師の外見が実年齢と同じとは限らないとは、魔術世界の常識だぞ? 覚えておけよ」
「これは失敬。気にはなるが薮蛇になりそうなのであえて触れない事にするよ」
「普通そういうことはわざわざ言わないものなんだけどね!?
……まぁいいや。無礼な君に私の年齢を知る権利はないが、私は主として君の真名を知る権利がある。まずは名乗ってもらおうか」
「悪いが、生前の記憶はかなり失われてしまっていてな。……まあおそらく、君の知らない国の、無名な英雄だよ」
「ふうむ。私の召喚術式は完璧だったはずなのだけどなぁ……。やはり触媒なしでは……いや、実家の倉庫から掘り出してきた本では、表記が間違っていたか……?」
「本当に歴とした魔術師なのか、不安になる発言が聞こえたんだが?」
「うるさいなぁ。歴としてるさ。だがそれをここですぐさま証明できないのはお互い様だな。ではその為にも、早速だが喧嘩をふっかけに行こうじゃないか」
●腹が減ってはなんとやら
「まずは様子見という事で、今回は痛み分けだったけど……君本当にアーチャー? 剣使ってたけど」
「多芸に優れる方が、戦場では有利な事もある」
「ほう、言うじゃないか。まあ、口先だけではないところがまた悪くないね、アーチャー」
「お褒めに与り光栄だ。君こそ、伊達ではないようだな。見事なバックアップだった」
「ふふん、うちの家系は実戦重視だからね。見直したかい?」
「ああ、幸先がいいな」
「ふう、それにしても戦闘後はやはり腹が減るなぁ。魔力は生命力だから当然といえば当然なのだけど。自分の戦闘とサーヴァント、二人分ともなるとさすがに堪える」
「……何をしている?」
「ん? 何って、食事の準備だけど」
「それは……もしかしなくても、軍用レーションではないか?」
「そうだけど……よくわかったね。もしかして、近代の英霊だったりするの?」
「さてな」
「ふうん。あくまで真名についてはダンマリか。まあいいや。……どしたの、頭抱えて」
「いや、カルチャーショックと言うか……」
「何がさ。これ意外に美味しいんだよ? 洗い物も出ないし手軽だし。食べる?」
「結構だ。サーヴァントに食事は必要ない」
「そうか。そりゃ残念。睡眠も必要ないんだっけ?」
「ああ」
「なら見張りを頼むよ。おやすみ」
「もう寝るのか!? 食べたばかりだと消化に悪いぞ!?」
「大丈夫大丈夫、いつもこうだから」
「だがそれでは……ってもう寝たのか」
●翌朝 いい匂いで目覚める
「……ん、この匂いは……」
「ようやく目覚めたか、マスター」
「なっ、これは……」
「見ての通り朝食だが」
「見ての通りと言われても……まさか、君が作ったの?」
「そうだ」
「なんと……とても美味しそうだけど、こんな食材どこから。冷蔵庫には水とレーションしか入れてないはずなのに」
「ああ、全く。有り合わせのもので……と思い冷蔵庫を開けて唖然としたよ。まさかあそこまで徹底しているとは思わなかった。だから買ってきたんだ。近くに食料品店があって助かった」
「買ってきた? その格好で?」
「ああ。やむを得まい。金は事後承諾で悪いが、君の財布から拝借した」
「それくらいは構わないけど……しかしスーパーはこんな時間に開いてたのか?」
「こんな時間も何も、もう昼前だが」
「本当だ……。はあ、寝坊とは不甲斐ないな。いつもはもっと早く起きるんだけどね。予想以上に魔力を消耗していたみたいだ」
「召喚即戦闘だったからな。好戦的なのはいいが、無茶をして肝心なところで倒れられるのは勘弁だぞ」
「む、君はいちいち一言多いね。せっかくの美味しそうな食事を前に、食欲がなくなっちゃうよ」
「それは失礼。作ったものを食べてもらえなくては困るからな。さあ、冷めないうちに」
「ああ、ありがとう。手作りの料理を食べるなんて、実に久しぶりだなぁ」
「そうなのか。口に合えばいいが」
「いただきます。……いやぁ、これは美味しい。戦闘でも君の多芸ぶりには目を見張るものがあったけど、料理までできるとは……。これも戦士の嗜みというヤツかい?」
「……まあ、そのようなものだ」
「しかしなんでまたいきなり料理なんて。食料なら足りているのに」
「そこだ。見るに見兼ねて、というヤツだよ。いくら手軽だからといって、軍用レーションというのはどうなんだ。
君のような年端もいかぬ……いや、年齢はわからないが、どうあれ生きているのなら、まして肉体を酷使して戦うのであれば、せめてきちんとした食事を摂らねばなるまい」
「むう……でも研究や鍛錬に明け暮れていたら、料理をしている時間が勿体ないんだよ。そも、出来もしないし」
「だが合理性以前に、食事は身体を作るもの、鍛錬の一貫だぞ。少なくとも、あのままでは健康を害す。戦闘に支障が出ては元も子もあるまい」
「これから死ぬかもしれない戦いに挑むのに健康も何もないだろうに」
「バカを言うな。生き残るために戦うんだろう。それに、どうせ食べるなら、美味しい方がいいに決まっている」
「…………君、アレだな。実はとんでもないお人好しだろう」
「な……サーヴァントとしてマスターをサポートするのは当然の義務だ。勘違いするな」
「ははっ、いいよいいよ、気に入った。
善良そうなヤツに限って、大抵腹に一物抱えているものだけど、君は逆だな。慇懃で皮肉屋なくせに、その実、真に礼節を弁えた善良な男だ。……まあ、多少お節介ではあるけどね」
「善良とは聞き捨てならないな。私はそんなに良い物ではないぞ。少なくとも、人を殺すことに躊躇いはない。それに善悪など状況次第で変わる。優先すべきは目的だ」
「人を殺せる奴なんて魔術世界にはゴロゴロいるし、薄っぺらな道徳の話をしたいわけでもない。倫理や人道とは別のところにある、魂の在り方の話だよ。
……まあ、気に食わないってんなら、それでも構わない。あくまでいち個人の感想として、流してくれたまえ」
「……む……何かいたく褒められたような気がして落ち着かないが……」
「気じゃなくて、褒めてるんだよ。しかし、美味しいね。本当に美味しい。ところで、アーチャーは食べないの?」
「言っただろう、サーヴァントに食事は必要ない」
「しかし、えらく量が多い」
「昨晩、沢山食べていたので、多めに作ったのだが」
「なるほど。でも、悪いけど実は朝はあまり食べないんだよ。折角作ってもらったのに残すのも勿体ないから、一緒に食べない? 必要なくとも、食べることは可能だろう? 魔力にもなるはずだ」
「まあ、それは……そうだが」
「さあ、座って。……ねぇ、君はさっき食事は鍛錬だと言ったが、食事には親交を深める目的もある。これから共に戦うんだ。誘いには乗ってくれるよね?」
「……ああ、それは確かに、悪くない提案だ」
●ごちそうさまでした。そして
「決めたよ」
「何をだ。今後の方針か?」
「まあ、ある意味そうかも。というか聖杯への願いだね」
「何……? 君は願いも決めずに参戦していたのか」
「うん。元々聖杯には興味がなかったから。実戦経験と研究が目的」
「なるほど……。ある意味、戦闘を楽しめる人間が一番強いのかも知れないな。それで何を願うんだ?」
「アーチャー、君を受肉させる」
「は……!? 何故だ!? 考え直せ、マスター。聖杯は万能の願望器だ。もっと色々あるだろう、叶えるべき願いが」
「いいや、それならなおさら、サーヴァントを受肉させるなんて魔法まがいのこと、聖杯にしか望めまい?」
「……それにしたって、私のような……」
「……何を言う。君は今や私のものだ。君が自分を卑下するという事は、君を買っている私の鑑識眼、引いては尊厳まで否定する事になるんだぞ。わかるかい?」
「……君は、なんというか、見た目に反してやり手というか、支配者に必要なものを持っている気がするよ」
「光栄だね。けれど私は釣った魚に餌をやるタイプの支配者だから安心してくれていい」
「……百歩譲って君の願いを受け入れたとして、理由は? 何故、私を受肉させる事に決めたんだ」
「ごはん、美味しかったからね 」
「…………他には?」
「他にも何も、それだけだよ?」
「いや、まさか……そんなものが、命を懸けるに足る理由になるのかね」
「命を懸ける理由なんて、そんなもので十分でしょ。こういう願いは、本能的で、シンプルであればあるほどいい」
「だからと言って、召喚二日目の、真名もわからないサーヴァントだぞ、私は……正気なのか、君は」
「それこそ今更だ。何世代もかけて、辿り着けるかわからない根源なんてものを目指す奴らが、正気な訳ないだろう?
それにね、アーチャー。驚くほど些細な理由で、どこまでも走り抜けられたりする、それが人間って奴なんだよ。……どうした?」
「……君の、あまりのバカさ加減に目眩を覚えただけだ」
「そうか。顔をゆがめて、相当に辛いようだな。涙まで滲んでいる」
「いや、これは目にホコリが入っただけだ。……ああ、全く。だが、君が仕えるに値する人間だという事は理解出来た」
「それは嬉しいね。実に光栄だ。
ねえ、アーチャー。改めて問おう。私の願いのために、この聖杯戦争を駆けてくれるかい?
私はこの戦争が終わっても、君に料理を作って欲しいんだ。私は料理できないし……多分放っておいたらまたレーションばかり食べるだろうしね」
「ああ、改めて。この身は君の剣となる事を誓おう」
「弓兵なのに?」
「いいところで茶化すんじゃない!」
「はは、ごめんごめん、つい。こういう空気は苦手なんだよ」
●おまけ 赤いアイツの居る所、青いアイツ在り
「いい加減、テメェの顔も見飽きたぜ」
「そこに関してだけは、気が合うと思っているよ」
「え、なになに、二人知り合いなの!?」
「またお前、今回はえらい可愛らしいマスター連れてんなオイ」
「私のマスターを見くびらない事だ。こう見えて実戦派だ。そして見た目に反して年齢は……」
「余計なこと言わなくていい! まったく。だいたい君は私の本当の歳を知らないだろう!
さて、名も知らぬ青き槍兵よ。どうやらうちのサーヴァントとは旧知の仲らしいが、手加減はしないよ。聖杯は、私がいただく」
「おおう、背中を任せられるマスターとは、こりゃ益々羨ましいね」
「なんたって、アーチャーのご飯食べたいからね!」
「………」
「あ? 今なんてった?」
「いや、聞かなかったことにしてくれ」
「なんでさー! いいじゃないか、本当のことだろう? アーチャーのご飯が美味しいから、アーチャーを受肉させたい。それが聖杯にかける願いだよ」
「私も確かに君の願いを承服した。しかしだな、君以外のマスターは、そんな緊張感のない理由で聖杯戦争に臨んではいないかもしれないんだぞ? 過度に挑発しては逆に不利になる。
……何を笑っている貴様」
「いや笑うだろ普通! まだ始まったばっかだってのに、もう出来上がっちまってんのなァ、お前ら」
「出来上がる? 何のこと?」
「こいつの言うことに耳を貸すなマスター」
「飯作って貰うために受肉させるなんざ、娶 るって言ってるようなモンだろ? アツいねぇ全く」
「……なっ、な、そ、そんなつもりは全くない! わっ、私はただ、アーチャーのご飯が食べたいだけだ!」
「おお? 顔赤くして、可愛らしいじゃねーか。愛されてんなぁ、弓兵」
「女の尻を追いかけてばかりの色惚けた貴様らしい思い違いだが、残念ながらそういう関係ではない。この通り、年甲斐もなく……いや、歳はわからないが、色気より食い気のマスターだ」
「フォローの仕方に少々物申したいところはあるが……そうだ! そういう関係じゃない! 断じて! これ以上は侮辱と受け取るぞ!」
「色惚けは余計だ、甲斐性ナシ野郎。
だがそういうんじゃねえなら、その願いに付き合うお前も大概だぞ、アーチャー。お前ら、揃いも揃って、気の抜けたヤツらだな」
「気の抜けた……? 何を言う、私は本気だぞ。
だいたい、なんだって言うんだ。あれこそ繁殖行為のおまけだろう。
青き槍兵よ、貴様が言う色や情が命を懸ける理由として認められるならば、同じ本能である食欲を嗤 われる謂 れはない」
「いいねぇ、ちみっこいのにいい殺気が出せるじゃねえか。
確かに、色気にせよ食い気にせよ、そういう一見バカげた理由で命を懸けられるヤツこそ侮れねえかも知れねぇな。大義だの正義だの言ってるヤツより余程強い力を出すってものだ。悪かったぜ」
「分かればいいんだ。さてアーチャー、場も温まってきたところで仕合おうか」
「了解した。全力で行くぞ!」
「おう、かかって来な!」
つづかない!!
●裏設定というか蛇足
*見た目は大体14歳くらい
*触媒なし召喚なのでアーチャーと在り方が似てる
強がってるけれど実は素直で自分に対して無頓着。受け継いだものを守ろうとする(後継者としての自覚)。あと鍛錬という名の自分いじめ好き、ワーカホリック傾向。
*アーチャーに夢主の言葉が刺さったのは、彼自身が「驚くほど些細な理由で駆け抜けられた(駆け抜けられてしまった)」から。(軽率に守護者の涙腺を刺激していくスタイル)
*思いついた時点ではもっとギャグっぽくなる予定だったのに、どうしてこうなった?
*見た目年齢誤魔化してるスゴい魔術師風だけど……実際は見た目通りの年齢だったらいいな。ライネス嬢みたいな……アレほどはモンスターじゃないけど。子供扱いされるのが嫌で黙っている。アーチャーにはメッチャ年上に誤解されてるけど気付いていない。
*最後はランサーの指摘で二人ともドキドキする感じにしたかったけど、夢主のキャラが煽り耐性つよすぎて思ったほど転がってくれなかった……つらい(今はまだ目覚めてないだけで、感情はこれから育っていってアワアワするといいなぁ……ふわっと感じて欲しい)
●ファースト・インパクト
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した」
「おぉ、アーチャークラスかぁ!
触媒なしの召喚だからドキドキだったけど、ちゃんとできてよかった。よろしくね」
「また緊張感のないマスターに呼び出されたものだな……。
君はこれがどういう儀式かわかっているのかね? もしや巻き込まれた系素人マスターではあるまいな?」
「出会い頭に失礼なヤツだな……私は歴とした魔術師だ。魔術師の外見が実年齢と同じとは限らないとは、魔術世界の常識だぞ? 覚えておけよ」
「これは失敬。気にはなるが薮蛇になりそうなのであえて触れない事にするよ」
「普通そういうことはわざわざ言わないものなんだけどね!?
……まぁいいや。無礼な君に私の年齢を知る権利はないが、私は主として君の真名を知る権利がある。まずは名乗ってもらおうか」
「悪いが、生前の記憶はかなり失われてしまっていてな。……まあおそらく、君の知らない国の、無名な英雄だよ」
「ふうむ。私の召喚術式は完璧だったはずなのだけどなぁ……。やはり触媒なしでは……いや、実家の倉庫から掘り出してきた本では、表記が間違っていたか……?」
「本当に歴とした魔術師なのか、不安になる発言が聞こえたんだが?」
「うるさいなぁ。歴としてるさ。だがそれをここですぐさま証明できないのはお互い様だな。ではその為にも、早速だが喧嘩をふっかけに行こうじゃないか」
●腹が減ってはなんとやら
「まずは様子見という事で、今回は痛み分けだったけど……君本当にアーチャー? 剣使ってたけど」
「多芸に優れる方が、戦場では有利な事もある」
「ほう、言うじゃないか。まあ、口先だけではないところがまた悪くないね、アーチャー」
「お褒めに与り光栄だ。君こそ、伊達ではないようだな。見事なバックアップだった」
「ふふん、うちの家系は実戦重視だからね。見直したかい?」
「ああ、幸先がいいな」
「ふう、それにしても戦闘後はやはり腹が減るなぁ。魔力は生命力だから当然といえば当然なのだけど。自分の戦闘とサーヴァント、二人分ともなるとさすがに堪える」
「……何をしている?」
「ん? 何って、食事の準備だけど」
「それは……もしかしなくても、軍用レーションではないか?」
「そうだけど……よくわかったね。もしかして、近代の英霊だったりするの?」
「さてな」
「ふうん。あくまで真名についてはダンマリか。まあいいや。……どしたの、頭抱えて」
「いや、カルチャーショックと言うか……」
「何がさ。これ意外に美味しいんだよ? 洗い物も出ないし手軽だし。食べる?」
「結構だ。サーヴァントに食事は必要ない」
「そうか。そりゃ残念。睡眠も必要ないんだっけ?」
「ああ」
「なら見張りを頼むよ。おやすみ」
「もう寝るのか!? 食べたばかりだと消化に悪いぞ!?」
「大丈夫大丈夫、いつもこうだから」
「だがそれでは……ってもう寝たのか」
●翌朝 いい匂いで目覚める
「……ん、この匂いは……」
「ようやく目覚めたか、マスター」
「なっ、これは……」
「見ての通り朝食だが」
「見ての通りと言われても……まさか、君が作ったの?」
「そうだ」
「なんと……とても美味しそうだけど、こんな食材どこから。冷蔵庫には水とレーションしか入れてないはずなのに」
「ああ、全く。有り合わせのもので……と思い冷蔵庫を開けて唖然としたよ。まさかあそこまで徹底しているとは思わなかった。だから買ってきたんだ。近くに食料品店があって助かった」
「買ってきた? その格好で?」
「ああ。やむを得まい。金は事後承諾で悪いが、君の財布から拝借した」
「それくらいは構わないけど……しかしスーパーはこんな時間に開いてたのか?」
「こんな時間も何も、もう昼前だが」
「本当だ……。はあ、寝坊とは不甲斐ないな。いつもはもっと早く起きるんだけどね。予想以上に魔力を消耗していたみたいだ」
「召喚即戦闘だったからな。好戦的なのはいいが、無茶をして肝心なところで倒れられるのは勘弁だぞ」
「む、君はいちいち一言多いね。せっかくの美味しそうな食事を前に、食欲がなくなっちゃうよ」
「それは失礼。作ったものを食べてもらえなくては困るからな。さあ、冷めないうちに」
「ああ、ありがとう。手作りの料理を食べるなんて、実に久しぶりだなぁ」
「そうなのか。口に合えばいいが」
「いただきます。……いやぁ、これは美味しい。戦闘でも君の多芸ぶりには目を見張るものがあったけど、料理までできるとは……。これも戦士の嗜みというヤツかい?」
「……まあ、そのようなものだ」
「しかしなんでまたいきなり料理なんて。食料なら足りているのに」
「そこだ。見るに見兼ねて、というヤツだよ。いくら手軽だからといって、軍用レーションというのはどうなんだ。
君のような年端もいかぬ……いや、年齢はわからないが、どうあれ生きているのなら、まして肉体を酷使して戦うのであれば、せめてきちんとした食事を摂らねばなるまい」
「むう……でも研究や鍛錬に明け暮れていたら、料理をしている時間が勿体ないんだよ。そも、出来もしないし」
「だが合理性以前に、食事は身体を作るもの、鍛錬の一貫だぞ。少なくとも、あのままでは健康を害す。戦闘に支障が出ては元も子もあるまい」
「これから死ぬかもしれない戦いに挑むのに健康も何もないだろうに」
「バカを言うな。生き残るために戦うんだろう。それに、どうせ食べるなら、美味しい方がいいに決まっている」
「…………君、アレだな。実はとんでもないお人好しだろう」
「な……サーヴァントとしてマスターをサポートするのは当然の義務だ。勘違いするな」
「ははっ、いいよいいよ、気に入った。
善良そうなヤツに限って、大抵腹に一物抱えているものだけど、君は逆だな。慇懃で皮肉屋なくせに、その実、真に礼節を弁えた善良な男だ。……まあ、多少お節介ではあるけどね」
「善良とは聞き捨てならないな。私はそんなに良い物ではないぞ。少なくとも、人を殺すことに躊躇いはない。それに善悪など状況次第で変わる。優先すべきは目的だ」
「人を殺せる奴なんて魔術世界にはゴロゴロいるし、薄っぺらな道徳の話をしたいわけでもない。倫理や人道とは別のところにある、魂の在り方の話だよ。
……まあ、気に食わないってんなら、それでも構わない。あくまでいち個人の感想として、流してくれたまえ」
「……む……何かいたく褒められたような気がして落ち着かないが……」
「気じゃなくて、褒めてるんだよ。しかし、美味しいね。本当に美味しい。ところで、アーチャーは食べないの?」
「言っただろう、サーヴァントに食事は必要ない」
「しかし、えらく量が多い」
「昨晩、沢山食べていたので、多めに作ったのだが」
「なるほど。でも、悪いけど実は朝はあまり食べないんだよ。折角作ってもらったのに残すのも勿体ないから、一緒に食べない? 必要なくとも、食べることは可能だろう? 魔力にもなるはずだ」
「まあ、それは……そうだが」
「さあ、座って。……ねぇ、君はさっき食事は鍛錬だと言ったが、食事には親交を深める目的もある。これから共に戦うんだ。誘いには乗ってくれるよね?」
「……ああ、それは確かに、悪くない提案だ」
●ごちそうさまでした。そして
「決めたよ」
「何をだ。今後の方針か?」
「まあ、ある意味そうかも。というか聖杯への願いだね」
「何……? 君は願いも決めずに参戦していたのか」
「うん。元々聖杯には興味がなかったから。実戦経験と研究が目的」
「なるほど……。ある意味、戦闘を楽しめる人間が一番強いのかも知れないな。それで何を願うんだ?」
「アーチャー、君を受肉させる」
「は……!? 何故だ!? 考え直せ、マスター。聖杯は万能の願望器だ。もっと色々あるだろう、叶えるべき願いが」
「いいや、それならなおさら、サーヴァントを受肉させるなんて魔法まがいのこと、聖杯にしか望めまい?」
「……それにしたって、私のような……」
「……何を言う。君は今や私のものだ。君が自分を卑下するという事は、君を買っている私の鑑識眼、引いては尊厳まで否定する事になるんだぞ。わかるかい?」
「……君は、なんというか、見た目に反してやり手というか、支配者に必要なものを持っている気がするよ」
「光栄だね。けれど私は釣った魚に餌をやるタイプの支配者だから安心してくれていい」
「……百歩譲って君の願いを受け入れたとして、理由は? 何故、私を受肉させる事に決めたんだ」
「ごはん、美味しかったからね 」
「…………他には?」
「他にも何も、それだけだよ?」
「いや、まさか……そんなものが、命を懸けるに足る理由になるのかね」
「命を懸ける理由なんて、そんなもので十分でしょ。こういう願いは、本能的で、シンプルであればあるほどいい」
「だからと言って、召喚二日目の、真名もわからないサーヴァントだぞ、私は……正気なのか、君は」
「それこそ今更だ。何世代もかけて、辿り着けるかわからない根源なんてものを目指す奴らが、正気な訳ないだろう?
それにね、アーチャー。驚くほど些細な理由で、どこまでも走り抜けられたりする、それが人間って奴なんだよ。……どうした?」
「……君の、あまりのバカさ加減に目眩を覚えただけだ」
「そうか。顔をゆがめて、相当に辛いようだな。涙まで滲んでいる」
「いや、これは目にホコリが入っただけだ。……ああ、全く。だが、君が仕えるに値する人間だという事は理解出来た」
「それは嬉しいね。実に光栄だ。
ねえ、アーチャー。改めて問おう。私の願いのために、この聖杯戦争を駆けてくれるかい?
私はこの戦争が終わっても、君に料理を作って欲しいんだ。私は料理できないし……多分放っておいたらまたレーションばかり食べるだろうしね」
「ああ、改めて。この身は君の剣となる事を誓おう」
「弓兵なのに?」
「いいところで茶化すんじゃない!」
「はは、ごめんごめん、つい。こういう空気は苦手なんだよ」
●おまけ 赤いアイツの居る所、青いアイツ在り
「いい加減、テメェの顔も見飽きたぜ」
「そこに関してだけは、気が合うと思っているよ」
「え、なになに、二人知り合いなの!?」
「またお前、今回はえらい可愛らしいマスター連れてんなオイ」
「私のマスターを見くびらない事だ。こう見えて実戦派だ。そして見た目に反して年齢は……」
「余計なこと言わなくていい! まったく。だいたい君は私の本当の歳を知らないだろう!
さて、名も知らぬ青き槍兵よ。どうやらうちのサーヴァントとは旧知の仲らしいが、手加減はしないよ。聖杯は、私がいただく」
「おおう、背中を任せられるマスターとは、こりゃ益々羨ましいね」
「なんたって、アーチャーのご飯食べたいからね!」
「………」
「あ? 今なんてった?」
「いや、聞かなかったことにしてくれ」
「なんでさー! いいじゃないか、本当のことだろう? アーチャーのご飯が美味しいから、アーチャーを受肉させたい。それが聖杯にかける願いだよ」
「私も確かに君の願いを承服した。しかしだな、君以外のマスターは、そんな緊張感のない理由で聖杯戦争に臨んではいないかもしれないんだぞ? 過度に挑発しては逆に不利になる。
……何を笑っている貴様」
「いや笑うだろ普通! まだ始まったばっかだってのに、もう出来上がっちまってんのなァ、お前ら」
「出来上がる? 何のこと?」
「こいつの言うことに耳を貸すなマスター」
「飯作って貰うために受肉させるなんざ、
「……なっ、な、そ、そんなつもりは全くない! わっ、私はただ、アーチャーのご飯が食べたいだけだ!」
「おお? 顔赤くして、可愛らしいじゃねーか。愛されてんなぁ、弓兵」
「女の尻を追いかけてばかりの色惚けた貴様らしい思い違いだが、残念ながらそういう関係ではない。この通り、年甲斐もなく……いや、歳はわからないが、色気より食い気のマスターだ」
「フォローの仕方に少々物申したいところはあるが……そうだ! そういう関係じゃない! 断じて! これ以上は侮辱と受け取るぞ!」
「色惚けは余計だ、甲斐性ナシ野郎。
だがそういうんじゃねえなら、その願いに付き合うお前も大概だぞ、アーチャー。お前ら、揃いも揃って、気の抜けたヤツらだな」
「気の抜けた……? 何を言う、私は本気だぞ。
だいたい、なんだって言うんだ。あれこそ繁殖行為のおまけだろう。
青き槍兵よ、貴様が言う色や情が命を懸ける理由として認められるならば、同じ本能である食欲を
「いいねぇ、ちみっこいのにいい殺気が出せるじゃねえか。
確かに、色気にせよ食い気にせよ、そういう一見バカげた理由で命を懸けられるヤツこそ侮れねえかも知れねぇな。大義だの正義だの言ってるヤツより余程強い力を出すってものだ。悪かったぜ」
「分かればいいんだ。さてアーチャー、場も温まってきたところで仕合おうか」
「了解した。全力で行くぞ!」
「おう、かかって来な!」
つづかない!!
●裏設定というか蛇足
*見た目は大体14歳くらい
*触媒なし召喚なのでアーチャーと在り方が似てる
強がってるけれど実は素直で自分に対して無頓着。受け継いだものを守ろうとする(後継者としての自覚)。あと鍛錬という名の自分いじめ好き、ワーカホリック傾向。
*アーチャーに夢主の言葉が刺さったのは、彼自身が「驚くほど些細な理由で駆け抜けられた(駆け抜けられてしまった)」から。(軽率に守護者の涙腺を刺激していくスタイル)
*思いついた時点ではもっとギャグっぽくなる予定だったのに、どうしてこうなった?
*見た目年齢誤魔化してるスゴい魔術師風だけど……実際は見た目通りの年齢だったらいいな。ライネス嬢みたいな……アレほどはモンスターじゃないけど。子供扱いされるのが嫌で黙っている。アーチャーにはメッチャ年上に誤解されてるけど気付いていない。
*最後はランサーの指摘で二人ともドキドキする感じにしたかったけど、夢主のキャラが煽り耐性つよすぎて思ったほど転がってくれなかった……つらい(今はまだ目覚めてないだけで、感情はこれから育っていってアワアワするといいなぁ……ふわっと感じて欲しい)
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