アーチャーとおでん作るだけ
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●深夜の衝動
「あー、おでん食べたい。おでんなら今食べても太らないよね。コンビニでも行こうかな」
「もう日付が変わっているぞ。今行っても望み薄ではないか」
「ええ、やだやだ、おでんー」
「む……もし君が、どうしてもおでんを食べたいと言うなら、作ってやるのも吝かではないが」
「えっ、いいの!?おでんって下ごしらえが大変なんじゃ」
「いや、下ごしらえさえしてしまえばあとは煮込むだけだから、むしろ意外と簡単だぞ。ただし食べられるのは明日の夜になるが、それでもいいならば作ろう」
「アーチャーが作ってくれるならいくらでも待つ!」
「よし、では明日の朝、買い出しに行こう」
「やったー!アーチャーの手作りおでん楽しみ!」
「というわけで今日のところはもう寝たまえ」
「わかったー。じゃあアーチャー、添い寝して」
「……相変わらず甘えん坊だな依久乃は」
「いいじゃん。ねえ、くっついてていい?」
「ああ」
「こうしてるとよく眠れるんだ。おやすみ……」
「ああ、おやすみ。ってもう寝たのか……くっ、思いの外力が強い。これでは身動きが取れん。まったく……人の気も知らないで……」
●翌朝 スーパーにて
「おでんの具といえば」
「とりあえず大根は鉄板だな。あと卵と、はんぺんと……」
「牛すじ入れていい?」
「ああ。こんにゃくも忘れるなよ。あと、じゃがいもを入れても美味い」
「じゃがいも!いいねえ。ホクホクしてて好き。あ、タコも入れよう」
「いいだろう。あとは厚揚げと、練り物系をいくつか…」
「あれ?厚揚げあるのに薄揚げも入れるの?」
「これはもち巾着用だ」
「え、もち巾手作りするとか、アーチャーさんマジ意識高い」
「これくらい簡単だぞ?」
「いやいや、おみそれしました」
「む……君の料理スキルがだんだん心配になってきたな。こんなことでは将来、お嫁に行けないぞ」
「いや、そもそも私はお嫁になんて……」
「よし決めた。今日は君にも手伝ってもらう」
「ええー」
「おでん作りは大変だからな」
「昨日は簡単だって言ってたじゃん」
「下ごしらえが終われば煮るだけだからという意味だ。具材の数が多ければ下ごしらえの手間も増える。食べたいのなら拒否権はないぞ」
「うっ……横暴だー!」
「何がだ。働かざるものなんとやらだ。せめてもち巾着くらいは作れるようになりたまえ。ちゃんと教えてやるから」
「わかりましたー。ちゃんと手伝いますー。ご教示よろしくお願いします、アーチャー先生」
「君はまた、そんな態度で……」
「私はいつでも大真面目だよ。知ってるでしょ」
「はあ……ああ、よく知っている。だからこそ厄介なこともな」
「ねえねえ、アーチャー先生、私、お願いがあるんだけど」
「なんだね」
「ちゃんと手伝うから、日本酒買っていい……??」
「おでんには辛口だぞ」
「さすがアーチャー先生、わかってるねえ」
●槍兵に会う
「あ、ランサーだ」
「む」
「よう、お二人さん」
「こんにちは。今日は魚屋さんかあ。精が出るね」
「今日はいいのが入ってるぜ、見てくか?」
「ごめん、残念ながらもう買い物終わっちゃったんだ」
「そうか、そりゃあ残念だ。ってやけに袋がでけえな。二人でそんなに食うのか? 何作るんだ」
「貴様には関係ないだろう。余計なお世話だ」
「オイオイ、オレは今依久乃と話してんだぜ?」
「彼女は私の連れだ。顔見知り同士、会話に入っただけだが?」
「よく言うぜ。殺気丸出しの癖によ」
「ほう。よく気づいたな。流石は大英雄様だ。しかし人の女に手を出すなど、器が知れるな?英雄色を好むと言うが、節度を知らねばただの獣だぞ」
「ただの世間話だろうがよ。嫉妬深い男は嫌われるぜ?」
「一途と言ってもらおう。女の尻を追いかけるしか能のない貴様とは違うのだ」
「言うじゃねえか、ああ?」
「あーもう、二人とも落ち着いて。ランサーも店先でケンカしたら、またクビになるよ。あとあんまりアーチャーいじめないで」
「オレはいじめてねえよ。あっちがつっかかってきたんだろ」
「まあそうなんだけどさ……(小声)今日なんかちょっと変だから、これ以上刺激しないで」
「……あー、わかったよ。嬢ちゃんがそう言うなら……」
「うちの子がごめんね。でもそこが可愛いところだから勘弁してあげて」
「お前、子供扱いされてんぞ。いいのかそれで」
「あまり言わないでくれ」
「ね、可愛いでしょ」
「うーん、わからん。わからんが、とりあえずアーチャー、お前は嫉妬する必要なんてねえってことはわかった」
「何故貴様から慰められねばならんのかさっぱりわからんが、私は嫉妬などしていない」
「よしよし、もういいよ。帰っておでん作ろうね」
「なるほど、おでんか。いいねぇ。ご相伴に預かりたいが、相棒がそんな様子じゃなあ。にしてもしこたま買い込んだな」
「うん、ちょっと買いすぎたかな」
「大丈夫だ、おでんは日をわけて食べる事もできる。従って二人で食べても問題ない。貴様の出る幕は一生ない」
「あーあー、わかったっつーの。邪魔しねえよ」
「そういうわけだから、今日のところは。また今度お魚買いに来るよ。バイトがんばってね」
「おう、またいつでも来いよ!ついでにオレに乗り換えたくなったらいつでも言えよ!歓迎するぜ!」
「死ね、100万回死ね」
「はいはい煽んないでね、絶対ありえないから大丈夫だよ。じゃあね」
●おでん仕込み終わって休憩。煮てる
「はあ、なんとか終わった。具材もぜんぶ、鍋にもおさまったし。あとは煮るだけ。もち巾着って意外に簡単だった」
「そうだろう。君は料理が苦手という割に、手際がよかったぞ。筋がいい」
「えへへ。アーチャー先生に言われると自信つくなあ」
「それは何よりだ」
「夜が楽しみだなあ」
「ああ」
「…………」
「…………」
「ねえ、アーチャー。どうしたの」
「何がだ」
「さっきから、少し様子がおかしいと思ってさ」
「何を根拠に」
「いつもならランサーの軽口くらい、余裕で流すのに。今日はどうしたってくらい殺気立ってた。何か嫌なことあった?」
「いや………なんでもない」
「………私のこと、あんまりなめないでね」
「………すまない。君を謀るつもりはないんだが」
「わかればよろしい。で、どうしたの。もしかして、私なんか怒らせるようなこと言った?」
「いや、それは決して違う。……違うんだよ。ああ、そうだ。これは嫉妬だよ。奴の言う通り、な」
「嫉妬?ランサーと話すのダメだった?」
「いや、そうではない。それくらいはいい。……なんと言ったらいいのか……器の小さい男だと笑ってくれるか」
「んー、笑うかはわかんないけど、とりあえず聞くよ」
「……先程『お嫁に行けないぞ』と、口にしただろう」
「うん、言ったね」
「それ自体に深い意味はない。口をついて出た言葉だった。しかしふと君が、私がいなくなったあと、他の誰かと一緒になることを想像してしまったら、どうにも胸の辺りが熱くて苦しいのだ」
「うん」
「私はサーヴァントだ。死者の影であり、いつかは君の前からいなくなる泡沫のような存在だ。それはわかっている。だから私がいなくなったあとの君の人生を、私が縛る事は出来ないとはわかっている。だからこそのあの言葉だった」
「うん」
「それなのに、それを口にした途端不安になったんだ。自分ではわかっていると思っていたのに、オレは心の底で、依久乃がオレだけを見ていればいいと、オレがいなくなってからもオレのことだけを考えていればいいと、そう望んでいる。そう気付いてしまったんだ」
「………そっか」
「そのことに気付いたとき、オレは混乱してしまった。本来なら、愛しているなら君の幸せを願うべきなはずなのに。己のエゴに、冷静さを失ってあんな態度を取ってしまった……。できるだけ平静を装ったつもりだが、君にはすぐ気付かれてしまったな」
「……そうだね(わかりやすかったことは黙っておこう)」
「ああ……オレは自分が情けない。これでは笑われてしまうな」
「……はあ」
「何故そこでため息をつく」
「うーん。アーチャーは私のことなんもわかってないんだね」
「な……」
「私はアーチャーのこと笑わないよ。別に。あと、私がこの先他の人とどうなるって話だけど。それは多分ないから」
「何故だ。私が消えた後も、君には人生があるだろう」
「そりゃあまあ、そうだけどさ。でも、これから先、本気でアーチャー以外とどうこうなるとか考えてないよ。絶対……とは言い切れないけど、今はそう思ってる」
「君は、依久乃はそれでいいのか!?」
「別にいいよ。それに、そもそもサーヴァント云々は、アーチャーのことが本気で好きで、アーチャーが私を受け入れてくれた時に、もう腹を括ったし。っていうか、いつかは離れ離れになるのは人間同士でも同じだしね」
「そんな、それでは、君は……」
「それにさ。なんか嬉しいよ。そんな風にアーチャーが自分のこと話してくれるの、あんまりなかったから。いっつも他人のこと優先で、自分のことは置きっ放しだから。だから、アーチャーが、そんな風に私のことを想ってくれてるってわかってすごく嬉しいって思った。だから、笑わないよ」
「………ありがとう。やはり、依久乃を選んでよかった」
「……そりゃ、どうも」
「照れているのか?」
「……照れてないですう。なんか言ったら恥ずかしくなっただけ!」
「それを照れと言うんだぞ」
「うっさい。……ねえアーチャー、もしこの幸せが怖くなって、罪の意識に自分の首を絞めたくなっても、どうか私のそばからいなくならないでほしい。アーチャーの罪の意識の分も、私が代わりにアーチャーを愛すから、だから」
「ああ……ああ。何があっても、君のそばにいると約束するよ」
「私は、アーチャーとできるだけ長く一緒にいられるよう頑張るよ。だから、アーチャーも」
「ああ、わかった。私も、君と一緒にいられるよう全霊で努力しよう」
●その日の夜 おでん実食
「できたぞ」
「やったーおでんだー!待った甲斐がありました。……ん〜〜いい匂い。疲れた身体に沁みますなあ」
「煮ていただけだろう」
「調理手順としてはそうだけど。アーチャーさんは疲れてないんですか。絶倫ですか。あんなに激しく求めてきたのに。昼間から」
「バカを言うな。それは君があんな事を言うから悪いんだぞ」
「ええ、人のせいにするの?」
「ああ、君が可愛いのが悪い」
「………」
「もしかして気を悪くしたか?」
「いや、別に、悪くなんてしてないもん」
「………」
「どしたの。今度はアーチャーがだんまり?」
「………もう一度、君を抱いていいか」
「いや、それは……流石にもうお腹空いたし、その。おでん食べよ、おでん。取ってあげるよ。何がいい?」
「いや、疲れた君に無理をさせるわけにはいかない。私が取り分けよう」
「やだ紳士」
「私はいつも紳士だろう」
「野蛮な紳士だけど」
「あまりからかうと食べさせないぞ」
「嘘です!やだあ、おでん食べる!」
「何が欲しいか言いたまえ」
「んー、全部」
「取り皿に入りきらん。順番に取るから選びたまえ」
「えーとじゃあ……大根と卵とこんにゃく、あとこんぶ」
「了解した。おい、どこへいく」
「いやあ、まあ待っててくださいよ」
「おまたせ」
「ああ…熱燗か」
「レンジですみませんけど。熱いから気をつけてね」
「いいだろう。こちらも熱いから気をつけろ」
「うん、ありがとう。うわー、美味しそう」
「いただきます」
「いただきます」
おわり
「あー、おでん食べたい。おでんなら今食べても太らないよね。コンビニでも行こうかな」
「もう日付が変わっているぞ。今行っても望み薄ではないか」
「ええ、やだやだ、おでんー」
「む……もし君が、どうしてもおでんを食べたいと言うなら、作ってやるのも吝かではないが」
「えっ、いいの!?おでんって下ごしらえが大変なんじゃ」
「いや、下ごしらえさえしてしまえばあとは煮込むだけだから、むしろ意外と簡単だぞ。ただし食べられるのは明日の夜になるが、それでもいいならば作ろう」
「アーチャーが作ってくれるならいくらでも待つ!」
「よし、では明日の朝、買い出しに行こう」
「やったー!アーチャーの手作りおでん楽しみ!」
「というわけで今日のところはもう寝たまえ」
「わかったー。じゃあアーチャー、添い寝して」
「……相変わらず甘えん坊だな依久乃は」
「いいじゃん。ねえ、くっついてていい?」
「ああ」
「こうしてるとよく眠れるんだ。おやすみ……」
「ああ、おやすみ。ってもう寝たのか……くっ、思いの外力が強い。これでは身動きが取れん。まったく……人の気も知らないで……」
●翌朝 スーパーにて
「おでんの具といえば」
「とりあえず大根は鉄板だな。あと卵と、はんぺんと……」
「牛すじ入れていい?」
「ああ。こんにゃくも忘れるなよ。あと、じゃがいもを入れても美味い」
「じゃがいも!いいねえ。ホクホクしてて好き。あ、タコも入れよう」
「いいだろう。あとは厚揚げと、練り物系をいくつか…」
「あれ?厚揚げあるのに薄揚げも入れるの?」
「これはもち巾着用だ」
「え、もち巾手作りするとか、アーチャーさんマジ意識高い」
「これくらい簡単だぞ?」
「いやいや、おみそれしました」
「む……君の料理スキルがだんだん心配になってきたな。こんなことでは将来、お嫁に行けないぞ」
「いや、そもそも私はお嫁になんて……」
「よし決めた。今日は君にも手伝ってもらう」
「ええー」
「おでん作りは大変だからな」
「昨日は簡単だって言ってたじゃん」
「下ごしらえが終われば煮るだけだからという意味だ。具材の数が多ければ下ごしらえの手間も増える。食べたいのなら拒否権はないぞ」
「うっ……横暴だー!」
「何がだ。働かざるものなんとやらだ。せめてもち巾着くらいは作れるようになりたまえ。ちゃんと教えてやるから」
「わかりましたー。ちゃんと手伝いますー。ご教示よろしくお願いします、アーチャー先生」
「君はまた、そんな態度で……」
「私はいつでも大真面目だよ。知ってるでしょ」
「はあ……ああ、よく知っている。だからこそ厄介なこともな」
「ねえねえ、アーチャー先生、私、お願いがあるんだけど」
「なんだね」
「ちゃんと手伝うから、日本酒買っていい……??」
「おでんには辛口だぞ」
「さすがアーチャー先生、わかってるねえ」
●槍兵に会う
「あ、ランサーだ」
「む」
「よう、お二人さん」
「こんにちは。今日は魚屋さんかあ。精が出るね」
「今日はいいのが入ってるぜ、見てくか?」
「ごめん、残念ながらもう買い物終わっちゃったんだ」
「そうか、そりゃあ残念だ。ってやけに袋がでけえな。二人でそんなに食うのか? 何作るんだ」
「貴様には関係ないだろう。余計なお世話だ」
「オイオイ、オレは今依久乃と話してんだぜ?」
「彼女は私の連れだ。顔見知り同士、会話に入っただけだが?」
「よく言うぜ。殺気丸出しの癖によ」
「ほう。よく気づいたな。流石は大英雄様だ。しかし人の女に手を出すなど、器が知れるな?英雄色を好むと言うが、節度を知らねばただの獣だぞ」
「ただの世間話だろうがよ。嫉妬深い男は嫌われるぜ?」
「一途と言ってもらおう。女の尻を追いかけるしか能のない貴様とは違うのだ」
「言うじゃねえか、ああ?」
「あーもう、二人とも落ち着いて。ランサーも店先でケンカしたら、またクビになるよ。あとあんまりアーチャーいじめないで」
「オレはいじめてねえよ。あっちがつっかかってきたんだろ」
「まあそうなんだけどさ……(小声)今日なんかちょっと変だから、これ以上刺激しないで」
「……あー、わかったよ。嬢ちゃんがそう言うなら……」
「うちの子がごめんね。でもそこが可愛いところだから勘弁してあげて」
「お前、子供扱いされてんぞ。いいのかそれで」
「あまり言わないでくれ」
「ね、可愛いでしょ」
「うーん、わからん。わからんが、とりあえずアーチャー、お前は嫉妬する必要なんてねえってことはわかった」
「何故貴様から慰められねばならんのかさっぱりわからんが、私は嫉妬などしていない」
「よしよし、もういいよ。帰っておでん作ろうね」
「なるほど、おでんか。いいねぇ。ご相伴に預かりたいが、相棒がそんな様子じゃなあ。にしてもしこたま買い込んだな」
「うん、ちょっと買いすぎたかな」
「大丈夫だ、おでんは日をわけて食べる事もできる。従って二人で食べても問題ない。貴様の出る幕は一生ない」
「あーあー、わかったっつーの。邪魔しねえよ」
「そういうわけだから、今日のところは。また今度お魚買いに来るよ。バイトがんばってね」
「おう、またいつでも来いよ!ついでにオレに乗り換えたくなったらいつでも言えよ!歓迎するぜ!」
「死ね、100万回死ね」
「はいはい煽んないでね、絶対ありえないから大丈夫だよ。じゃあね」
●おでん仕込み終わって休憩。煮てる
「はあ、なんとか終わった。具材もぜんぶ、鍋にもおさまったし。あとは煮るだけ。もち巾着って意外に簡単だった」
「そうだろう。君は料理が苦手という割に、手際がよかったぞ。筋がいい」
「えへへ。アーチャー先生に言われると自信つくなあ」
「それは何よりだ」
「夜が楽しみだなあ」
「ああ」
「…………」
「…………」
「ねえ、アーチャー。どうしたの」
「何がだ」
「さっきから、少し様子がおかしいと思ってさ」
「何を根拠に」
「いつもならランサーの軽口くらい、余裕で流すのに。今日はどうしたってくらい殺気立ってた。何か嫌なことあった?」
「いや………なんでもない」
「………私のこと、あんまりなめないでね」
「………すまない。君を謀るつもりはないんだが」
「わかればよろしい。で、どうしたの。もしかして、私なんか怒らせるようなこと言った?」
「いや、それは決して違う。……違うんだよ。ああ、そうだ。これは嫉妬だよ。奴の言う通り、な」
「嫉妬?ランサーと話すのダメだった?」
「いや、そうではない。それくらいはいい。……なんと言ったらいいのか……器の小さい男だと笑ってくれるか」
「んー、笑うかはわかんないけど、とりあえず聞くよ」
「……先程『お嫁に行けないぞ』と、口にしただろう」
「うん、言ったね」
「それ自体に深い意味はない。口をついて出た言葉だった。しかしふと君が、私がいなくなったあと、他の誰かと一緒になることを想像してしまったら、どうにも胸の辺りが熱くて苦しいのだ」
「うん」
「私はサーヴァントだ。死者の影であり、いつかは君の前からいなくなる泡沫のような存在だ。それはわかっている。だから私がいなくなったあとの君の人生を、私が縛る事は出来ないとはわかっている。だからこそのあの言葉だった」
「うん」
「それなのに、それを口にした途端不安になったんだ。自分ではわかっていると思っていたのに、オレは心の底で、依久乃がオレだけを見ていればいいと、オレがいなくなってからもオレのことだけを考えていればいいと、そう望んでいる。そう気付いてしまったんだ」
「………そっか」
「そのことに気付いたとき、オレは混乱してしまった。本来なら、愛しているなら君の幸せを願うべきなはずなのに。己のエゴに、冷静さを失ってあんな態度を取ってしまった……。できるだけ平静を装ったつもりだが、君にはすぐ気付かれてしまったな」
「……そうだね(わかりやすかったことは黙っておこう)」
「ああ……オレは自分が情けない。これでは笑われてしまうな」
「……はあ」
「何故そこでため息をつく」
「うーん。アーチャーは私のことなんもわかってないんだね」
「な……」
「私はアーチャーのこと笑わないよ。別に。あと、私がこの先他の人とどうなるって話だけど。それは多分ないから」
「何故だ。私が消えた後も、君には人生があるだろう」
「そりゃあまあ、そうだけどさ。でも、これから先、本気でアーチャー以外とどうこうなるとか考えてないよ。絶対……とは言い切れないけど、今はそう思ってる」
「君は、依久乃はそれでいいのか!?」
「別にいいよ。それに、そもそもサーヴァント云々は、アーチャーのことが本気で好きで、アーチャーが私を受け入れてくれた時に、もう腹を括ったし。っていうか、いつかは離れ離れになるのは人間同士でも同じだしね」
「そんな、それでは、君は……」
「それにさ。なんか嬉しいよ。そんな風にアーチャーが自分のこと話してくれるの、あんまりなかったから。いっつも他人のこと優先で、自分のことは置きっ放しだから。だから、アーチャーが、そんな風に私のことを想ってくれてるってわかってすごく嬉しいって思った。だから、笑わないよ」
「………ありがとう。やはり、依久乃を選んでよかった」
「……そりゃ、どうも」
「照れているのか?」
「……照れてないですう。なんか言ったら恥ずかしくなっただけ!」
「それを照れと言うんだぞ」
「うっさい。……ねえアーチャー、もしこの幸せが怖くなって、罪の意識に自分の首を絞めたくなっても、どうか私のそばからいなくならないでほしい。アーチャーの罪の意識の分も、私が代わりにアーチャーを愛すから、だから」
「ああ……ああ。何があっても、君のそばにいると約束するよ」
「私は、アーチャーとできるだけ長く一緒にいられるよう頑張るよ。だから、アーチャーも」
「ああ、わかった。私も、君と一緒にいられるよう全霊で努力しよう」
●その日の夜 おでん実食
「できたぞ」
「やったーおでんだー!待った甲斐がありました。……ん〜〜いい匂い。疲れた身体に沁みますなあ」
「煮ていただけだろう」
「調理手順としてはそうだけど。アーチャーさんは疲れてないんですか。絶倫ですか。あんなに激しく求めてきたのに。昼間から」
「バカを言うな。それは君があんな事を言うから悪いんだぞ」
「ええ、人のせいにするの?」
「ああ、君が可愛いのが悪い」
「………」
「もしかして気を悪くしたか?」
「いや、別に、悪くなんてしてないもん」
「………」
「どしたの。今度はアーチャーがだんまり?」
「………もう一度、君を抱いていいか」
「いや、それは……流石にもうお腹空いたし、その。おでん食べよ、おでん。取ってあげるよ。何がいい?」
「いや、疲れた君に無理をさせるわけにはいかない。私が取り分けよう」
「やだ紳士」
「私はいつも紳士だろう」
「野蛮な紳士だけど」
「あまりからかうと食べさせないぞ」
「嘘です!やだあ、おでん食べる!」
「何が欲しいか言いたまえ」
「んー、全部」
「取り皿に入りきらん。順番に取るから選びたまえ」
「えーとじゃあ……大根と卵とこんにゃく、あとこんぶ」
「了解した。おい、どこへいく」
「いやあ、まあ待っててくださいよ」
「おまたせ」
「ああ…熱燗か」
「レンジですみませんけど。熱いから気をつけてね」
「いいだろう。こちらも熱いから気をつけろ」
「うん、ありがとう。うわー、美味しそう」
「いただきます」
「いただきます」
おわり
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