57. 絶界戦争
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篝火が燈った部屋。
膝を付きあわせた四人は、口を割るであろう人物が戻ってくるのを待っていた。
祇園料亭の別宅。菖蒲には席を外してもらい、一階の客間にて爛を待つ茜凪、烏丸、狛神、そして水無月。
先程伏見にある奉行所から戻り、着替えに行った爛の帰りを待っているところであった。
烏丸 爛。
烏丸 凛の兄であり、一族で天才と呼ばれるに等しい実力を兼ね備えながらも次期頭領の器ではないと里を出て行ったっきり、風来坊として各地を転々としている男。
そんな男が気になり、調べていたのが正しく妖の羅刹のことであった。
進展があったということで奉行所から素直については来たものの、一体何から語るというのか。
そしてこの話は新選組には知らせるべきだったのではないか。と弟はどうしても思えてならなかった。
なぜならば、今までもこうして巻き込まれてきた彼らには知る権利があるのではないかと思ったからだ。
「悪い、待たせたな」
障子をあけ、現れた体格のいい男に誰もが顔をあげた。
いつもは飄々とした空気を持ち、弟以上に掴みどころのない雰囲気だが、こうも真剣みを出されると兄の方がやはりしっかりして見える。
「あ~、どっこいしょ」
声をあげて腰掛けた男に狛神が盛大に溜息をつきながら、悪態で口を開いた。
「さっさと教えろよ。進展あったんだろ」
「まぁまぁ、そう焦りなさんな。まず俺はお前から自己紹介すらされてねぇぞ。狛神 琥珀くん?」
「知ってんなら問題ないだろ。烏丸 爛」
「それも正論か。大方、凛に聞いてんだろうしな」
「そりゃまぁ、京に来て行動を寝食共にしてんだから簡単には教えたけど……」
そんな軽い感じでいいのか、と弟は思いながら苦笑い。
隣で聞いていた水無月はお茶を啜りながら笑う。
「爛はいつもこんな感じで適当ですから。早く本題に入りましょう」
「だな。そろそろ余興はやめにしないと、さっきから殺気出してる女に殺されそうで怖いぜ」
一番真剣に俯き、一言も言葉を発しない娘に狛神が噛みつく。そんな嫌味も余所に、茜凪は顔をあげ、真っ直ぐに爛を見つめた。
「いいねェ。その眼。相変わらず惚れ直しそうなくらい、いい眼だ」
「くだらないこと言ってないで早く話してください」
これから話されることは、きっとこれから自分たちがどう行動していくかということに関わるはず。
無駄にはしない、小鞠の死を無駄死になんてさせるもんか。
翡翠の瞳にはこの物語の真実を解き明かすという決意が宿っていた。
第五十七片
絶界戦争
ゆらゆらと行燈の火が揺れる中、爛はにやりとあげた口角をそのままにゆっくりと口を開いた。
「“
音を発し、告げられた言葉は何度か耳にしたことがある単語。そこにいた誰もが反応を示す。
「伊達に俺たちは、妖って呼ばれてる人生を生きてるわけじゃない。一度くらいは聞いたことあるだろ」
「あぁ」
「妖界において歴史上最悪な妖同士の戦争」
「人間も多少絡んではいたが、まぁそんなとこだな」
今から何十年か前。
妖同士での権力、武力争いが勃発していた時代があった。
妖は本来、憎悪を持ち力を発揮し、初めて妖と呼ばれる真価を発揮してる。鬼を守るために与えられる障害を壊し役目を果たすためにある存在。
そんな妖同士が起こした、歴史に残る全種族の妖を巻き込んだと言っても過言ではない戦いが“絶界戦争”だった。
「俺や綴、それからお前らが知ってるところでいうと茜凪の兄である環那、藍人の姉である旭が参加した戦争でもある」
「爛、北見 旭のこと知ってるの……?」
それは意外なところから繋がった線だった。
確かに爛ほどの力があり、風来坊として各地を転々としている存在ならば藍人の姉にあたる旭のことを知っていてもおかしくはない。
藍人と旭は結構、年が離れていたことは知っていた。
外見は年を取っても変化がなかなか見られない妖からすれば、旭と爛は年が近いのかもしれないと思った。
「知り合いというより、幼馴染だな」
「そうだったのかよ……」
「お前らみたいな関係だよ。種族は違えど、幼少期は一緒に育った仲だ。俺と環那、旭、綴はな」
茜凪、烏丸、狛神。
種族は違うけれど、共に切磋琢磨し、同じ目的のために力を合わせてきた面々。
爛にも同じような時代があり、そしてその時の仲間が旭や環那、そして綴だったのだろう。
「あの時代に、藍人くらいの天才がいたらまた結果は変わったかもしれないが、アイツはまだ子供だったからな。藍人はこの戦争には参加してない」
「……」
「具体的な勃発理由なんかは、当時の頭で理解してる者は少なかった。ここはまだ調べる必要がある。表向きには権力や領土で武力争いがあったってことになってるが……」
「……裏で何か絡んでいるということですか」
「あぁ。今回の妖の羅刹を生み出しているやつらの目的というか、動機というか……少なからず“理由”の部分には絶界戦争が絡んでる」
妙に断言するものだから、烏丸と狛神が視線だけで合図を送る。
まぁ、待て。というように爛がまた口角をあげつつ続けた。
「何故なら、敵が純血の妖狐だからだ」
「―――」
視線が、一気に茜凪に集まる。
どくん、と鼓動が跳ね、嫌な汗が浮かんだ。喉にひっかかる生唾が飲めない。
「詩織と……呼ばれた者は、春霞だということですか」
「そういうことだ」
「……」
「凛伝いに話を聞いた。詩織って女は、本能に任せて力を振るった茜凪の脚の速度に、臆することも引けとることなく戦ったってな。……おかしくないか?」
「……そう、ですね」
「純血の妖狐は妖界では王者だ。敵う者なく頂点に君臨する血を持ち、嫌でも力を備えて生まれてくる。弱者などない。いくら獣化の方法を知らないと言っても、茜凪の脚に敵うことが無いはずだ」
何故なら狐の速度、人を欺き騙す力、そして頭の回転の速さ。ここは他の種族より秀でているはずだから。
だが、詩織は茜凪と対等だった。どちらが勝ち、負けてもおかしくないという戦い方だった。
「普通じゃありえない。まだ茜凪がいつものように本能を理性で押さえつけているなら話は別だが、本能に任せて戦える条件がその時は揃っていたはずだ」
小鞠の死。己への劣等感。悲しみ、そして憎悪。
いつもの自分ではなかったこともわかっているし理解していた。思い返せば、確かに異常な話である。
「なら、話は簡単。相手も純血の妖狐だ」
「そんな……証拠はどこにあるんだよ」
烏丸が茜凪を庇うように尋ねる。
小鞠を殺した者が同じ血を引く妖であり、同じ立場の者であるなんて。あんまりにも背負う宿命が痛すぎる。
どうしても否定の素材が欲しくて烏丸が投げたかけた言葉は、証拠を生み出し返ってきた。
「茜凪。詩織の瞳の色、何色だった?」
「え……」
その問いかけに答えた先、何が来るのかは分かっている。
「――……赤」
「お前、最近力を本気で使った時、瞳の色は何色になる」
「……赤」
「それは妖が妖力使えば眼は赤くなるだろ!自然の原理だ!」
「なら聞き方を変える。お前、影法師の呪いを受けなかったとしたら」
「……っ」
「瞳の色、なに色だ……?」