042. 見知らぬ色
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―――それは、今から数分前のやり取りに遡る。
「あ」
白亜の塔の中。アルカナファミリアと対立を示した禁書の契約者が5人揃う。
塔の正面扉を開けた先にはプラネタリウムのような暗い空間に、人工的に作られた星々が輝いている。
その所々に扉があり、外に備えられた螺旋階段状の道へとつながっているようだ。
中にも一応螺旋階段があり、よく見れば外からも中からも塔の最上階を目指せるようになっていた。
空洞の間、最下層。
突然声を小さくあげたのはチディーア。
「動き出した」
ぽつりと宣言。
さらに指さしたのは港がある方向。
スペールとルッス、ヴィヴィもイーラも笑う。
「3つの集団になってるみたい」
「なるほど。まとまっていれば的がでかい。別々に動き出したか」
「ギラがどこにいるかはわかりますか?」
「んふ、アタシはユエのところがいいわ」
「気配しか追えない。どこに誰がいるかはわからないから、運だね」
スペールとルッスがチディーアに尋ねたが、フードを深くかぶり直した彼は首を横に振った。
3チームのどれを追いかけたとして、誰と当たるかは運である、と。
「1つは港でまだ動いてない。もう2つはバラバラに北部と東部に向かってる」
「隠れている、という可能性もありそうですね。ならば私は港へ向かいます」
先陣切って動き出したスペールは、にこやかな笑みと一緒に去っていく。
「他の2つの集団は、貴方たちで手分けして追いかけてください」
「りょーかい」
「裏切り者の首を飛ばすの、楽しみだな~」
ヴィヴィも物騒な言葉を発しながら歩き出す。
ルッスもキャッキャッと喜びながら出口を目指して歩き出した。
刈り込み頭のイーラも静かに後をついていく。
が、チディーアは階段に座り込んだまま動こうとしない。
「チディーア」
「めんどくさい。イーラたちだけで行けばいい」
「そう言うな……」
フードのせいで陰りができた表情は本当にめんどくさそうだ。
動きたくない、省エネ思考の男にイーラはやれやれと来た道を戻ってくる。
フードの下にある、うなじ部分を丁寧に掴み上げイーラはチディーアをずるずると引きずり出した。
「ルッスとヴィヴィが暴れたら誰かが止めなきゃならない。俺ひとりじゃあの二人の世話はできん」
「僕がいてもムリですよ。世話できません。戦闘狂なんて」
膝を立てたままかがみ、器用に引きずられていくチディーア。イーラも手慣れているようだ。
いつものこと、とでも言うような空気。
出口で待っていたルッスとヴィヴィが「早くしろ」と言いたげに2人を出迎えた。
「さ、行くわよチディーア」
「いやです。ルッスだけで行ってください。僕はここから気配を追いますから」
「職務怠慢だぞ!働けやチディーア!」
「働いてます」
「まぁまぁ」
宥めるイーラ。
ルッスとヴィヴィがわいわいとチディーアを連れて行こうと騒いでいる。
これだけのシーンを見ていれば、彼らも禁書の契約者という輪で繋がれた「仲間」であることが理解できる光景だった。
自分の欲望に忠実なルッス。
負けず嫌いなヴィヴィ。
面倒くさがり省エネ思考なチディーア。
それらを宥める苦労人のイーラ。
そして、その一癖も二癖もあるメンバーをまとめるスペール。
―――彼らの中にも、なにか絆があるように思える。
結局、ルッスに引っ張られて戦場へと赴いたチディーア。
ヴィヴィとイーラも別方向に飛び込んでいき、塔の内部は静まり返る。
何も響かない、むしろ一度音響が生まれれば永延と響きそうな空洞。
次にここへ足を向ける者たちはスペールたち禁書の契約者か。
アルカナファミリアや守護団の軍勢か。
誰も戦いの結末は予想できなかった。
042. 見知らぬ色
―――そうしてスペールが乗り込んできたヴァスチェロ・ファンタズマは、お目当てのギラはおらず、ユエやデビトたちが対峙することになったのだった。
「ユエ!」
「ぐっ……」
スペールが乗り込んできた船内はマストが折られ、柱が海に沈む被害を受けていた。
足場が傾き、ぐらつくがデビトもユエも体勢を整えてスペールの攻撃を受け止める。
錬金術の攻撃も激しかったが、スペールは肉弾戦もいけるようだ。
高所から飛び降りて来た彼は、そのままユエに強烈な拳を見舞う。
鎖鎌の鎖でなんとか静止し、間近でユエとスペールが睨み合う。
奥歯を噛み締め、力を入れる。
スペールが不自然に笑いながら、告げて来た。
「A殿のお顔を拝見するたびに、なぜか懐かしい気分になるのは何故なのでしょう」
「勘違いでしょ……!」
「失礼を承知で伺いますが、私と出会うのは初めてですか?」
スペールから出た発言に、ユエはギョッとする。
どいつもこいつも、初対面なのに初対面ではないという匂わせをしてくる。もう散々だ。
リリアの事情をしっかり聞きたい。考察を立て、理解したい。
そのためにもらった貴重な時間だったのに、スペールの存在が心から邪魔だと思えた。
「あんたなんか知らないって、ばッ!」
言い切り鎖で投げつければスペールが後方に飛びのく。
すかさずデビトが銃弾を乱射させ、逃げ場を失くすようにしていけばユエもデビトがいた箇所に合流した。
港ではパーチェとルカがこちらの様子を見守っている。
彼らにはまだ意識が戻らないリリアを見てもらっているので、参戦はさせたくない。
デビトが乱射したせいもあるが、甲板の床が脆くなっていく。
マストは完全に海へと姿を消し、倒れた柱は海面と船を繋いでいる。
海水が流れ込んでくるのは時間の問題だ。
足場が悪い。
不吉な音が近付いてくれば、ヴァスチェロ・ファンタズマがいつまで保つかが不安だ。
「まさか幽霊船が沈没船になりかけるなんて」
「アッシュに詫びるしかねーなァ」
「怒るよね……」
余裕そうにデビトとユエは会話をするが、大した余裕はない。
真正面に距離を詰めてきたスペールに、ユエとデビトは構えをとる。
スペールがまた手に錬金術の光を集めているので油断はできない。
デビトも銃口を向け、モノクル男を捉えていたが、小声で告げられたのは今後のこと。
「ユエ、お前はルカとパーチェと行け」
「え?」
「相手は1人だ。2人で相手をして足止めを喰らうより、誰かがしんがりを務めて時間を稼いだ方がいい」
「でもスペールは強者だよ、禁書の契約者だっていっても未だアイツは錬金術しか見せてないから能力も不明だし……っ」
スペールが強者だからこそ、2人で止めなければデビトの消滅に繋がると思っていた。
この男はそんな簡単に勝てる相手ではない。
直感的にユエは思う。
「錬金術でルカがコイツに敵う状況じゃねェ。パーチェにはリリアを守ってもらわなきゃ、真実に近づけねェだろ」
「でも……」
「頼むぜベラドンナ。俺にも背負わせてくれ」
「……っ」
たった一言。
その一言が、デビトのどんな心から出てきたものだったか。
ユエは刹那の間に考えてしまう。
「お話は終わりましたか?」
まるで待っていた、というようにデビトとユエの小声の会話にスペールが割り込んだ。
「ですが残念」
スペールの手に宿った光が一度収束する。
消えたと思えば、真っ黒な闇へと変換され再び現れた。
「私は、オリビオンのA、ユエ殿に興味がある」
「ユエッ!!」
たった一瞬でも目を離したら追い付けないスピード感で、スペールがユエに突っ込んだ来た。
デビトが庇うように真横に彼女を飛ばしたが、ユエをしっかり捉えていたスペールの攻撃は腹部に大きくヒットしてしまう。
「痛ゥ……ッッ」
「教えてください。貴女のこの世界の役割、そして正体」
「……っ」
「ここは貴女の時代ですか?」
「は……―――」
「貴女はこのレガーロの大アルカナですか?」
「……っ―――」
「先日から気になっていましたが、あらゆる数字に干渉する刑死者のアルカナ能力。オリビオンではシノブ殿が契約者。ならば貴女は別の時代の契約者であると予測します。だとしたら、実に興味があるのです。なぜなら―――」
この世にある音という音が消えた気がした。
ユエの耳に、スペールの声だけが届いた。
「今まで破壊してきたレガーロで、アルカナ能力を宿した貴女の存在はお見受けしなかった」
ヴァスチェロ・ファンタズマの船体が破られ、木屑や破片と共に一直線へ空中へ飛ばされる。
デビトが叫んでいるのも、トリガーを引いているのも頭の片隅では捉えていた。
捉えていたけれど……
「大アルカナを宿したアルカナファミリアは、今まで一人残さず殺してきました」
「(なんの……)」
「ですが、刑死者を宿した方は存在しなかった。ユエという者も、ファミリーの重役には上がっておりません」
「(話……っ)」
「この世は様々なものから均衡を保っています。それは光と闇を始め、陰と陽、そして表と裏。その理から外れている貴女は、一体何者なのでしょうか?」