041. 貴女にとっての
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「アンナ……」
切ない表情の理由が掴めない。
どうしてそんな顔をするのか。
一体、隠している事情の向こう側にどんな気持ちが隠れているというのか。
アタッカー部隊となったリアとジジが率いる部隊のメンバーがヴァスチェロ・ファンタズマから去っていく。
この理不尽な沈没ゲーム兼サバイバルゲームを生き残るためのチーム分け。
ユエは背後で気を失ってしまったリリアを見つめつつ、どうしてもアンナの表情を脳裏から拭うことが出来なかった……。
041.貴女にとっての
船内に残ったギラを守るディフェンダーチーム、そしてリリアの意識が戻ることを待つ真相追及チームは、決して明るい空気ではなかった。
事の発端としてはゲームに巻き込まれたことだが、リリアを気絶させた原因であるジョーリィがまだここにいるというのは割合として大きい。
ユエもパーチェもリリアを気にしつつ、ジョーリィを警戒を続けていた。
が、――気を遣ったわけではないだろうが――ジョーリィはそのまま甲板へと出ていき、船長室から去っていった。
ユエも息を吐きだしたが、思いのほか大きく安堵したのはイルマだった。
「こ、怖かったぁ……」
まだドキドキしているようで、心臓のあたりを抑えつつ呟いた彼女。
ユエはハッとして、イルマへと視線をむける。
いくらヴァロンやオリビオンの話をしたからといって、突然このゲームに参加することになってしまったイルマが一番不安なのではないだろうか。
リリアやアンナ、ギラは今までの経緯や隠している事情からか、どこかスペール達が攻め入ってくるかもしれないという覚悟はあったはずだ。
しかし、イルマからは一般人という雰囲気しか感じられない。
覚悟をする間もなく、戦いに精通しているわけでもない彼女がどうして参加者に選ばれたのかも疑問だ。
「イルマ、大丈夫?」
ユエが膝をつき、座り込んでいるイルマと視線を合わせた。
ようやく、話したことのある相手としっかり話せそうな場面になったからか、イルマは素早く口を開いてきた。
「ユエ!いまさらだけど、どうしてあたしここにいるの!?」
「イルマ……」
「ほんの数十分前まで、あたしいつも通り路地裏で子猫と戯れてたんだよ!もう少ししたらドルチェでも食べに行こうと思ってたのに、いきなりみんな石になっちゃうし、水浸しになるし……!」
早口に事情を説明してくる彼女に、フェリチータやアッシュ、ギラ、デビト、ルカも近寄ってくる。
唯一、ここにいる者たちの中でイルマだけは知り合いでないファミリーからすれば、彼女の存在も気になるだろう。
「真っ白な塔まで街の真ん中にできちゃうし、猫の姿も見えなくなっちゃうし……それに―――」
今までで一番深刻そうな顔をして、声を途切れさせたもんだからユエも身構える。
まだなにか大ごとがあるのだろうか。
ユエがイルマの肩に触れ、顔をあげて、と言いかけた時だ。
「ルフィナさんのお店の期間限定パンケーキ今日までだったのに!!食べられなかったらどうしよう!?」
「「いや、ドルチェより命の心配しろよ」」
グワッとユエに掴みかかり、イルマが懇願する。
思わず後ろからツッコんだアッシュとユエに、ギラとフェリチータも目をぱちくりさせていた。
一拍間を置き、身なりを整えたイルマは、その場にいる者に改めて自己紹介をすることにした。
どこか不気味な船内に、やたらと明るい声が響く。
「どうもどうも、お騒がせしました!あたしはイルマ!ユエとアッシュの友人です!」
黄色いカットソー、ダメージジーンズ、チャイニーズシューズを履いたその娘はにこやかにデビトやルカ、フェリチータに順番に挨拶をしていく。
ユエは傍目にファミリーに名乗っていくイルマを見つめていた。
「(どう見ても生きてる……よね)」
ユエからすれば、イルマは旧き友人だ。
アッシュと一緒にヴァスチェロ・ファンタズマで旅をしているときに知り合った。
サーカス団の看板娘、空中ブランコの演目で有名であり、運動能力に優れている。
明るくて、真っ直ぐで、花にたとえるならばヒマワリ。元気のある女の子だった。
そのイルマを相手に探るような視線になってしまうのは理由がある。
彼女の死亡説があり、イルマが死んだことを証言するものが多々いるからだ。
主にサーカス団の団員たちからの証言。
先日、墓まで赴いている以上、ユエは彼女に関して何を信じていいのかわからなくなっていた。
「(いや、死んだといわれてた人が実は生きているならいいことだ……!いま深く、余計なことまで考えちゃダメだ)」
とにかく今は生き残ることを考えよう。
頭を振ったユエは挨拶を終えたイルマに近付いていく。
そんなユエを見守りつつ、フォローをしようと決めたのはアッシュだった。
彼は唯一、イルマの死亡説について共有している。
アッシュはイルマとユエを見つめつつ、どこまでイルマを守れるかはわからなかったが、ユエの抱えているものを減らそうと自身に言い聞かせていた。
「よろしくね、イルマ。私はフェリチータ。アルカナファミリアの剣の幹部よ」
「私はルカ。お嬢様の従者をしています」
「フェリチータにルカ!よろしくね!もしかして、みんな自警組織の人?」
「あァ。アルカナファミリアのメンバーさ。俺もその一人」
ルカを押して現れたデビト。イルマは警戒心ゼロの状態でデビトを見上げ、目をキラキラさせている。
純粋、無垢、という言葉が似あうなと瞬次デビトは思う。
「俺はデビト。金貨のカポ、ユエは俺のアモーレさ」
「あぁ、やっぱり!歩く18禁っぽいなって思ってたの!」
「はァ?」
それはアップルパイを食べた時、アッシュがイルマに伝えた入れ知恵だ。
「オォイ、アッシュ」
「あながち間違ってねーだろ」
デビトが冷やな視線を向ければ、アッシュが逃げの姿勢を作っていた。
ユエは苦笑いしかできずにいたが、素直なイルマはどこまでもポジティブだ。
「でも。エロカッコイイって言葉が似あうね、お兄さん!」
「……」
卑猥な意味ではなく、どこまでも上品に言い換えられる。
デビトは瞬きを二度したあと、ニヒルな笑みを浮かべてアッシュを追いかけるのをやめた。
「ま、そう言われるのは悪くねェな」
「意外と現金だな、お前の彼氏」
「ははは、悪い気はしなかったんだよ」
さすがイルマだな、とユエは関心するばかりだった。
最後まで黙っていたのはギラであり、こうしてイルマが巻き込まれる根本の原因を作っている自覚があったからだろう。
「で、おねえさんは?」
イルマが無邪気にギラへ近づけば、ギラは気まずそうに顔を逸らしていた。
「わ、私は……」
「……」
名乗るほどの者でもないし、迷惑をかけていることに変わりはない。
もじもじと口を開けなくなったギラを見て、イルマはゆっくりと顔を覗き込む。
その表情は、とても優しさに満ち溢れていた。
「あたしね、サーカス団にいたことがあるんだ」
「サーカス団……?」
ギラが唐突に話し出されたイルマの話題に思わず顔をあげる。
胡桃色のまん丸の瞳と、深海の青が交わった。
「うん!空中ブランコの演目で有名だったんだよ!でも、見てもらった通り意外とタッパがなくてね、空中ブランコというより玉乗りピエロの方が似合ってるんじゃないかってよく団員に笑われてたの!」
「ピエロ……」
「ちなみに人を笑わせることも得意でーす!ほらほら~」
イルマが頬をびよーんと伸ばしてギラに笑顔を誘う。
人の扱いに慣れているというか、笑顔にさせる方法を心得ているというのが伝わった行動だった。
ギラも思わずクスっと微笑み、空気はすぐに和やかになる。
警戒しなくていいんだよ、とイルマが体現していた。
「ありがとう。イルマ、面白いんだね」
「えへへ~、そう言ってもらえるとサーカス団員としては嬉しいな!」
続けて改めて名乗りをあげるイルマ。
ギラは今度こそ真っ直ぐ彼女を見つめられた。
「私はギラ。クレアシオンという町で歌を歌ってたものです」
「歌か~!その声で歌ってくれたら心地いいだろうなぁ」
イルマの特徴は誰とでもすぐに仲良くなれることだったかもしれない。
暗い気持ちを敢えて吹き飛ばすように努めたファミリーと違い、イルマはとても前向きだった。
だからこそ、ギラも心の内にある不安や申し訳なさを抱えながらも、イルマとは笑顔で接しているのだろう。
パーチェはリリアを抱えたままだったが、イルマが彼に声をかけたことにより挨拶も済んだようだ。
イルマの紹介が終わったことにより、ここからは別行動になる。
「――んじゃ、自己紹介も済んだことだし、俺らも行くか」
アッシュがフェリチータを中心に声をかければギラも頷く。
イルマもディフェンダー側なので、アッシュと一緒にここを発つことになる。
「アッシュ、イルマをお願いね」
「おう」
甲板へ繋がる扉を開け、後ろ手で返事をしたアッシュ。
フェリチータとギラも頷き、イルマも彼女たちについていく。
「とりあえず水害に巻き込まれないように高台を目指す」
「わかった。なんかあったら合流する」
「頼むぞ」
ユエとデビトは静かにそれを見送れば、時間差でレガーロ島へと放たれていった……。