038. Limited Ground
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「その勝負、受けて立つ……ッ!」
白亜の塔の前に、5人の黒服の陣営と15人の黒スーツ・青い団服を着た者の陣営。
彼らは今まさに命をかけたゲームに乗り込む、この舞台の登場人物だ。
ユエの反論に、ニィと口角をあげたスペールとルッス。
背後にいる大男のイーラとフードを深く被った男・チディーアも今回は参戦するらしく、5人の禁書の契約者たちとの激戦になることが伺える。
「交渉成立です」
もう一度、ぱちんっと指が鳴る。
今度はどんな錬成陣が現れるか身構えたが、構えた時には既に錬成は成功していた。
「痛ったぁ!!」
「!?」
「貴方がたに、追加のプレゼントです」
紫の光によって導かれたさらなる転移者。
尻もちをついて出現したのは、意外な人物だった。
「イルマ……!?」
思わず声をあげたのはアッシュ。
お尻をさすり、涙目になりながら見上げてくる少女はユエの旧き友人だ。
「イルマ……!なんでここに……っ」
「あれ、ユエ?それにアッシュまで、どうしたの……」
そこで初めて世界の異変に気付いたとでも言うように、イルマは白亜の塔を見上げてギョッとしている。
「え、え、えぇ!?なにこの塔!昨日までなかったよね!?」
「……」
きょろきょろと辺りを見回して状況を懸命に把握しようとするイルマ。
対してユエには理解が追い付かなかった。
どうしてギラと関わりがなく、ファミリーでもオリビオンでもない人物が、禁書の契約者との戦いに巻き込まれる筋合いがあるのか。
スペールたちがイルマを参戦させた意味がわからない。
「その様子ですと、オリビオンのAは理解ができていないようですね。どうして彼女がここに召喚されているのか」
「……っ」
「彼女は歴としたプレイヤーです。それに、これで驚かれては困ります。このゲームの参加者は“ギラを除いて17名”。まだこの場にいない者があと2人」
「(あと2人だと……?)」
「その方々は錬金術に対してなかなかに強い耐性があるため招集ができなかったようですが……まぁ、いいでしょう」
思わずジジとリアも内心で仲間の顔を思い浮かべる。
ラディ、イオン、アルトあたりはあり得るかもしれない。ジジやリアを心配して追加で人員をレガーロに派遣する可能性もある。
オリビオンの錬金術に耐性があるというならば、エリカやファリベル、ツェスィの可能性も高い。
もし2人、誰かしら仲間が来ているのならば一度合流しなければと焦りを抱える。
「では、最後にアイテムを支給しましょう」
スペールから放物線で投げられるソレを、代表してアッシュが受け取った。
パシッと掴んだ手の内のものを見れば、それはパールのように輝く砂時計。
「そのアイテムは、この舞台の特性を表しています」
「特性だと……?」
「前回は火あぶり。その前は物理的破壊。その前は毒殺で楽しみました。となると、4度目は水没がよろしいかと思いまして」
アッシュの手の中にある砂時計は、ちょうど上部から砂が落ち切るタイミングだった。
カウントダウンが進み、上部の砂が下部へと落ち切る。
「そうですね……このステージに名前を付けるとしたら、」
スペールの会話の合間。
ドッドッドという腹の底に響く音がだんだんと聞こえてくる。
数十分前に起きた、地響きが再開されたようだった。
「リミテッド・グラウンドとでも呼びましょうか」
038. Limited Ground
響き渡る轟音。ざわざわと胸が騒ぐ。
次の瞬間、背後の建物の間からじんわりと広がるように、まずは緩やかに水が浸水してきた。
「水……っ!?」
「水没って……まさか―――!!」
今はヒールが濡れるだけで済む水量ではあるが、勢いが止まることがない。
ちょろちょろと、だが確かに詰めてくる水量が継続されればいずれこの地を飲み込むだろう。
「上流にある貯水湖に錬金術で仕掛けをしました」
「な……っ!?」
「お渡ししたアイテムの砂時計は3時間に一度、錬金術によって湖から大量の水をレガーロ市街地へ送り込みます」
「……ッ」
「序盤はまだエリアが広いですが、だんだんと街は水没し、足場は最終的にこの塔のみとなるでしょう」
ゆえに建設されたシンボルとでも言いたげに、スペールは微笑み塔を見上げている。
「それはそれは美しい……水没都市・レガーロを目指しませんか?」
「ふざけんなッ!」
ついに黙っていられなくなったリベルタが反論しスペランツァを抜刀する。
ノヴァもリベルタに続き、応戦体制をみせれば頃合いだとスペールは言う。
「ルール説明は以上です。では、アルカナファミリア、そしてオリビオンの守護団。存分にゲームを楽しみましょう」
最後の合図がパチン、と響く。
待ってましたと言わんばかりに、ルッスとヴィヴィが同時に飛び出てくれば命をかけたゲームが開始されたことを嫌でも思い知った。
「高いところへッッ!」
足元に迫る波のような水量。
市街地へ流れ込んでくれば、一般人であるギラやリリア、アンナに危険が及ぶと考えユエは叫んだ。
逃げろと言われ、フェリチータはギラの手を取った。
冷静だったノヴァ、そしてルカを中心に客人たちとファミリーが高台を目指して走り出す。
「ちょっ、どうなってるの……!?」
途中で現れたイルマに気をかける者が足りない。
尻もちをついたまま不安そうな顔をする彼女に、ユエは1人の男の名前を叫んだ。
「アッシュ!」
「任せろ」
イルマを連れて行けという意味で指示すれば、頼もしい返事が返ってくる。
このメンバーの中でイルマと面識があるのはアッシュだけだ。
彼女にアッシュを任せ、ユエは飛んでくる敵に向き合う。
逃げずに対峙をしたのは、まず3人。
ユエ、リア、ジジの守護団だ。
「よぉ、裏切り者のリア」
「チッ」
一瞬にして錬成されたロッドを振りかざし、迷わずリアに突っ込んできたのはヴィヴィだ。
発言からして、この2人の間に縁があることは戦闘中のユエでもわかった。
そしてユエの前に降り立ったのは、相変わらずのルッス。
「ユエ、会いたかったわ。今日こそお互いの快感のために命をかけましょ」
「あいっかわらず気持ち悪い!」
応戦すべく腰から抜いた鎖鎌でルッスの攻撃を凌いでいく。
そして今回から初参戦である大男・イーラの相手を務めたのはジジだった。
「お前、守護団のジジだな」
「へぇ。俺を知ってるのか」
「現金至上主義だろ?噂はよく聞く」
「悪い気はしねぇな」
鍔のない剣を抜き、イーラの拳に対抗すべくジジが悪い笑みを浮かべる。
「世の中なんでも金で解決できるからな」
「……」
「買えないものはただ1つ」
銀灰色の煌めきが、イーラの拳より速く繰り出される。
脳裏に浮かべたイメージは獣の速度。
「絆だけだ」
「―――……なるほど」
三箇所で勃発する戦いに、フードを目深にかぶり傍観者を務めるチディーアは参戦する気がないらしい。まったく動こうとしていない。
「チディーア、少しは働いてください。アルカナファミリアを追っていただきたいのですが」
スペールがやれやれと首をすぼめて振り返る。
言われても微動だにしない彼は座ったままイーラやヴィヴィの戦いを見つめていた。
「うん、一応追ってるよ」
「……なら良いのです」
スペールがモノクルを整え、塔の中へと歩いていく。
チディーアは横目でそれを見ながら尋ねた。
「スペールこそ参戦しないの?」
「最初からフル火力なんて退屈じゃないですか」
「そう?」
「ヴィヴィやイーラ、ルッス。そして貴方に苦しめられる様を高みの見物をして楽しみたいのです」
にっこりと微笑みながら、スペールが扉の奥へ引っ込んでいく。
チディーアはため息をつきながら
「相変わらずのサディスティックだね」
と呟くのだった。
チディーアとスペールが話をしている間もユエやルッス、リアとヴィヴィ、ジジとイーラの戦いは止まることはなかった。
彼らの足止めを活用し、まずは距離を取ろうとフェリチータやギラは市街地を奥へ奥へと駆けていた。
「水で足が重い……!」
既に路地には踝あたりまでの水が蓄積されつつある。
小川を走り抜けるような感覚に縺れそうになる足を奮いたたせ、フェリチータはギラを連れていく。
ルカとノヴァがすぐ側をかためつつ、大分戦闘音から距離をとれたことに安堵はしていた。
「問題はどこへ逃げるかですね……」
「あぁ……3時間ごとに放水されるとしても、どれくらいの水位で上昇するのか見当がつかない。敵方の攻撃からも身を守れる場所なんて、そうないだろう」
「えぇ……」
ルカとノヴァの会話を聞きながら、アンナとリリアは黙って走り続けていた。
恐怖は常に背中にある感覚。今は逃げることしかできない。
「ユエちゃん……」
「(どうして……こんなことに……っ)」
リリアはぽつりとユエの名を呼び、アンナは険しい表情を隠せない。
そんな2人の後ろから、パーチェとリベルタが追いかける。
「ルカちゃーん!どこを目指してるの!?」
「残った奴らに伝えねえとはぐれることになるぞ!」
背後からの声に、ルカとノヴァは思案する。
半面だけ振り返れば、リリアとアンナ、リベルタとパーチェがすぐ後ろにいた。
少し距離を開けた箇所にアッシュ、そして追加で飛ばされてきたイルマ。
その後ろにはダンテ、ジョーリィ。
最後尾に背後を気にしながら銃で牽制しているデビトの姿。
「そうですね……これだけの人数、一度体制を立てるためにも身を隠した方が良さそうです」
「となると……」
「―――アッシュ!」
尻もちをつき、うずくまっていたイルマを無理やり立たせて走っていたアッシュは、前方から呼ばれたことに気づく。
大方、行き先で力を貸して欲しいということだろう。
ルカからの視線に意思を悟り、頷いた。
「あぁ、構わねぇ!」
「決まりです!石灰岩の入江へ!」
行き先はヴァスチェロ・ファンタズマ。
船内で作戦を立て、しっかりと対策していくしかなさそうだ。