034. 新緑と邂逅
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「ハァ……」
ユエがヴァニアがいる島からレガーロに戻った頃。
そして、リアとジジがゲートを超えてオリビオンからレガーロに現れた頃。
食堂の椅子に腰かけ、項垂れているデビトの顔色が明らかに悪いことにルカは気付いた。
声をかけるのも憚られるほど調子が悪そうだ。
「デビト、顔色が良くありませんね。義眼の調子が……?」
デビトの体調に波があることも、精神的にも抑揚が強いことも幼馴染の彼は理解している。
もし、ルカ自身が作り上げたエメラルドの義眼のせいならば調整をかけよう心に決めていたのだが。
「いや、目は問題ねェ」
と、あっさり体調不良の原因は義眼でないと断られる。
「そうですか……。少し休まれた方がいいのでは?」
ハーブティーでも淹れてリラックス効果を高めてやろうかと思ったが、彼は首を横に振った。
そして珍しく素直に、不調の理由を語る。
「夢見が悪くてなァ。眠る気にもなりやしねェ。でも眠ィ」
「悪循環ですね」
「おまけにベラドンナはオリビオンから戻ったその足で船で出かけて行きやがったしなァ」
確かに、ユエがレガーロへ戻ってきたことは聞いていた。
オリビオンへ一度戻ると言ってはいたが、フェリチータからとある手紙を受け取り、その足で出かけたのは2日前の出来事だった。
「ユエもそろそろ戻る頃ではないでしょうか」
「さァな」
「デビト、貴方がその調子だとユエが心配しますよ。少し休んだらいかがですか?」
少々強めの睡眠薬で強制的に眠らせ、休養をとらせることはできる。
が、確か必要なハーブが一種類足りないことを思い出した。
「ルカちゃんに言われてってのが癪だが……あいつが戻ってきてこの調子じゃ、レガーロ男としてのプライドに傷がつくからなァ。寝てくる」
「えぇ。少しでも寝れるといいですね」
いい夢を見れるように。とはいかなくても、せめて彼が安眠できるようにと思う。
夜まであの調子であれば、明日にも差し支えるだろうので、ルカは足りないハーブを採りに行き、薬を調合してやることにした。
フェリチータの巡回が終わるまでには戻れそうだ。
軽く身支度をして、ルカは館から少し先にある森を目指すのだった。
034. 新緑と邂逅
「さて、と」
光のゲートから降り立ったジジは辺りを見回す。
リアもジジの後につづき、スペールたちとの戦い以来のレガーロを感じていた。
相変わらず降り注ぐ太陽の光は地中海であることを語り、高台になっているファミリーの館からは海がキラキラと輝いている様が見える。
アルカナファミリアの館のすぐ近くに降り立った2人は、コズエとコヨミに別れ際に告げられたことを思い出していた。
「時間に干渉した者がいるって言ってたな。先に探すか?」
ジジがリアに確認するように視線を投げる。
一方のリアはジジではなく、ファミリーの館の気配を伺っていた。
静まっているとまではいかないが、平穏な日常を感じさせる生活音は聞こえてくる。
どうやら、まだ何も起きていないらしい。
「今のところ、襲撃を受けた形跡はない。ってことで、ユエと合流して事情を共有しておいた方がいいんじゃない?」
「んじゃ、リアはユエを探せよ。俺はこの時代に飛んできた禁書の契約者がいないか見回ってくる」
「りょーかい」
青いナポレオンコートを羽織った2人組は一度行動を別にすることにした。
オリビオンにしか咲かない特別な花で染められた糸を使用し、作られた青いコートは、案の定レガーロでは目立つのだろう。
ユエも感じていたことだろうが、島民からの視線はまぁまぁ集める結果となった。
しかし、気にしていられない。
リアはまず館の中へと赴き、ユエへと会えるようにファミリーの者へと挨拶をしに向かうのだった。
一方その頃、イルマの生死について思考をつかっていたユエ。
まさかリアに探されているとは思っておらず、そのままアッシュにありのままを伝えるために、ヴァスチェロ・ファンタズマが停泊している入江を目指していた。
前回、アッシュ御用達であるレガーロの情報屋からダンテライオン一座の情報を提供してもらったユエ。
一座の座長にイルマの件で手紙を出し、返事の内容を確かめるためにユエは2日かけて出掛けていたのだ。
事の発端を与えてくれたアッシュには、伝えておかなければならないと思った。
イルマが、実はもう死んでしまっていることを。
「アッシュ」
なんて伝えればいいか、迷いながらユエは船内にいるアッシュを探し歩いた。
甲板にはいなかったので、船長室にいるかと思い扉を開ける。
ドアノブは軽く触れただけで開いていく。最初から半分開いていたようだ。
「あ?ユエ……」
誰かがここに来るのは珍しいからか。
来客に警戒をしたアッシュだったが、ユエの姿を見つけて今度は疑問の表情を浮かべる。約束していたか?と。
船内は随分と散らかっており、彼がまたなにか別の件で忙しくしていることが伺えた。
「今、少しだけいい?イルマの件で」
「かまわない。丁度、少し休むかって思ってたとこだ」
読みかけていた資料を閉じて、アッシュはサイドボードからこちらに向かってきた。
食うか?と問いかけと同時にりんごが飛んでくる。
両手でキャッチしてお礼を告げたが、これから話す内容的にはりんごを食べている余裕はない。
「早速なんだけど、座長から手紙の返事があったの。見て欲しくて」
ポケットから取り出した可愛らしい封筒。アッシュが受け取り、中を確認していく。
まずは手紙を見てもらうことが一番理解に近づくはずだ。
生唾を飲み、アッシュの反応を盗みみれば、彼は一瞬だけ息を詰まらせたようにした。
「死んでる……?」
こくり、とひとつ頷く。
これは予想外だったようで、アッシュも眉間にシワをつくってしまう。
記憶喪失や嘘をついている線はいくつでも考えられたが、死んでいる。は予想できなかっただろう。
「……差し出し人は確かか?」
「間違いない。さっきまで、その島に行ってきた」
「あぁ、だから2日間また出かけるってイチゴ頭が言ってたのか」
フェリチータはきちんと伝達をしてくれていたようだ。
アッシュがもう一度手紙を読みながら、表情をなんともいえないものにした。
「ヴァニアがいる近海の島には、間違いなくイルマのお墓が……あった。埋葬した人にも会ってきた。間違いないって」
「なら、俺たちが接触したあの“イルマ”は何者だ……?」
浮かぶ疑問はただそれだけ。
食い違う話題も、初対面であるかのような様子も……―――。
「仮にイルマに成りすましている者だとしても、イルマと瓜二つすぎる」
「双子とか……?」
「その線はありえるが、あのサーカス団にイルマの親類はいなかったはずだ。双子だとして、イルマの情報を知りすぎている。の割に、成りすますには情報に穴がありすぎる気もするが……」
りんごを食べる手を止めたアッシュは、ユエと同じ思考に陥ってしまった。
イルマ本人に「あなたはもう死んでいるらしいんだけど……」なんて言えないし、言ったところで論破できる状況が揃っている。
ただ生存説に対して、死亡説にもしっかりと証言がとれていることがちぐはぐなのだ。
「次にイルマに会ったら、どんな顔すればいいのかわかんない……」
「そう……だな」
アッシュもつい歯切れが悪くなってしまう。
まさかこんなに大きな事情に発展してしまうなんて思わなかった2人は、ヴァスチェロ・ファンタズマの船内でしばしの重い沈黙を共にするのだった……。
◇◆◇
ユエがリアに探され、ユエはアッシュとヴァスチェロ・ファンタズマにいる頃。
ハーブの採取が終わったルカは、デビトの疲労の色が濃くなる前に薬の調合に取り掛かろうと館への道を戻り始めていた。
「確かに、最近はリリアの件でも心配はあったでしょうし、心労があるのでしょうね……」
ふと思い出されるのは、「ユエの傷を治したリリア」について。
そして、「リリアは過去にユエと出会っているのではないか」という話。
リリアのユエを慕う態度と、ユエがリリアへ接する態度では温度差が少なからずあるように思えた。
だとしたら、リリアはユエと本当に出会ったことがあるのだろうか……―――。
ルカですら、デビトから話を聞いただけで頭を悩ませてしまうのに、デビトの立場なら尚更だろう。
先日のバールでの食事は大変楽しく過ごせたが、残念ながら今一歩情報には届かなかった次第だ。ゆっくりでも彼女たちの心に近づいていきたいと思う。