030. 見果てぬアモーレ
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「よう、シニョリーナたち。楽しんでるか?」
「うん!とっても!」
「料理も美味しいし、すっごく楽しい!」
「たまにはこうして騒ぐのもいいね」
ガンっ!とテーブルにジョッキを置きつつ、別のテーブル席に腰掛けていたリリア、アンナ、ギラ、そしてフェリチータに声をかけたのはレガーロの色事師。
スマートに椅子を手繰り寄せ、フェリチータの隣に落ち着いたその男・デビトは、笑みを浮かべながら距離を詰めていく。
「まァ、ダンテも言ってたとーり、たまにはイイ企画するなァ?ワンコ兄弟も。アンナの極上の微笑みが見れただけで、ご褒美モンってやつだ」
「もう、デビトってば」
パーチェが言い出した、客人も含めてもっと親交を深めようというバールでの食事会は、とてもフレンドリーであり、賑やかに執り行われていた。
アンナとデビトのやりとりにくすくすっと笑うフェリチータも、奥のステージ前で楽器を演奏している男性たちに釘付けになるギラも、そして骨つきチキンを頬張っているリリアも、とても楽しんでくれているようだった。
「ねぇねぇ、ユエちゃんはー?」
デビトの口説き文句に天才的なスルースキルを発揮したのはリリア。デビト自身に興味がないとでも言いたげに、恋人の所在を確認してくる。
決してリリアがデビトに対して威圧的だったり、嫌味っぽいわけではないのだが、少なからずリリアの態度は、デビトとの間にある秘密……“ユエの銃創が癒えた”といい事柄が関係していそうだった。
「ユエならダンテにつかまってんゼ?」
「ダンテ、久々にユエに会えて嬉しかったんだね」
フェリチータも別のテーブルで盛り上がっているダンテとユエを見つめてフォローを入れる。
ダンテは例の如く忙しいので、ユエがこうしてレガーロに留まっている間でも言葉を交わした回数や時間は明らかに少ないだろう。
ダンテも密かに、今日は目一杯絡んでおこうと決めているのかもしれない。
「あららー。デビトはユエちゃんを取り上げられちゃったわけだね?」
「ん、まーな」
「でも余裕だね?」
アンナが茶化すように告げれば、“束縛する男はレガーロ男の風上にも置けねェ”と言い切る。
その言葉に誰もがデビトらしい。と感じただろう。
「てなワケで、だ」
「?」
フェリチータの肩を抱きつつ、丸いテーブルに身を乗り出してきたデビトは円卓を囲む彼女たち客人に目を向ける。
きちんと企画をしてくれた意図を理解し、真実に、そしてなにより彼女たちの真心に近付こうとデビトはしていた。
もちろん、それは今は別のテーブルにいる者たちもだ。
「今はユエっていうアモーレも不在だ。こっちはこっちで楽しもうゼ?シニョリーナ」
「羽目外さない程度にね~!」
どこまでもデビトに辛口なリリアの返事に、またワッと笑いが起きる。
これはこれでイイ役だと思いながら、レガーロでの夜は更けていくのだった。
030. 見果てぬアモーレ
「んん~!このエビのフリッタおいひいぃ~!」
「アンチョビのパスタも美味い!」
デビトがお酒を片手に彼女たちに近付く一方で、ガツガツとすごい勢いで他のテーブルより料理がなくなる箇所があった。
女子の花園から弾かれてしまったリベルタ、パーチェ、ノヴァ、アッシュの席である。
パーチェやリベルタは気にせず食事を進めていたが、アッシュとノヴァは呆れ果てている。
頃合いを見てこの席を抜け出し、客人たちと親交を深めようと心に決めたアッシュは、ふともう一方のテーブルを見やった。
ルカとダンテ、そしてユエ。
ダンテがお酒を飲みながら、ユエの話を興味津々で聞いている。だが決して乗り出さず、スマートな対応をしているあたりが大人だ。
ルカがフェリチータから離れているのも珍しいと思ったが、たまにはいいかと思えるくらい、久しい光景だった。
「やっぱ、みんなで食べるご飯は美味しいね!」
「だな!あっ、このペンネアラビアータ、アンナに持ってってやろ!」
「持って行かずとも同じメニューが配膳されるだろう」
「いいんだよ!一緒に食うの!」
ノヴァの小言も弾き返し、リベルタが大皿片手に席を立つ。
アッシュが離れるより先に、リベルタが動き出した。と思いきや、釣られてパーチェも動き出す。
「あ、じゃあオレはリリアにこのエビさん持ってってあげよ」
「お前たち、落ち着いて食えないのか……」
ノヴァが頭を抱えて零したが、アッシュは鼻で笑うだけ。
そのまま手元にあったサラダをつまみつつ、アコーディオンの音が流れる店内の雰囲気を楽しんでいた。
「全く、いつまで経っても変わらない」
「いいんじゃね?変わらないものがあるってのも、案外救われるもんだ」
アッシュが珍しく庇護に回れば、ノヴァは目を見開いていた。
だが、その心がわからないわけではない。
デビトも含め、ファミリーに年月が流れた。
ノヴァの背も伸び、ノルディアでの一件もあり。しかし、ファミリー自体の空気や雰囲気はまるで変わらない。
そのことに救われたのは、紛れもなくユエだろう。
「まぁ……そうだな」
「言っても、お前も変わってねーけどな。豆」
「なっ、アッシュ!相変わらず僕を豆だのチビだのミジンコだの、小さい呼ばわりするが」
「そこまで言ってねーよ!」
「僕とていつまでも小さいわけではないからな!これでも背は未だ成長途中だ!」
いつか見下ろされる日が来る……とは到底思えなかったが、はいはいと手をヒラヒラ返しながら相手にしてやる。
悔しそうに顔を歪ませたノヴァが料理に手をつけていけば、これはこれでいいキャラなんだよな。と改めて思ってしまった。
「リリアー!お嬢!それにギラもアンナも、このエビさん一緒に食べなーい!?」
「アンナ!このペンネアラビアータ美味いぞ!」
一方、席を移動したリベルタとパーチェは、デビトがきちんと頭脳を働かせているところを見事に邪魔しにきた結果となる。
思わず隻眼で睨みを飛ばしたが、2人は気づいていないだろう。
「お前ら……」
「特に、このバジルソースで食べると美味しいんだ!ほら、リリア!」
「パーチェ、ありがとう!」
「アンナは辛いもの嫌いか?もし嫌いじゃなければ、このアラビアータの刺激!ちょうどいいから食ってみろって!」
「辛いのは嫌いじゃないよ。わざわざ教えてくれてありがとう、リベルタ」
それぞれ、今日この日にくるまでにあった過程の中で個々に親交を深めていた相手がいたようだ。
パーチェはリリアと。
リベルタはアンナと。
それはそれでいいことだと思いながら、デビトは浅く溜息をついた。
「デビト、本当にユエのこと大切にしてる」
「ん?なンだバンビーナ。唐突に」
思わずフェリチータが口元を押さえて零した。
デビトが隣にいる赤髪の彼女の顔を覗き込めば、フェリチータは続ける。
「ユエが、みんなのことを信じて歩み寄ろうって決めて……。パーチェやリベルタが今日のこと考えてくれて。今、本当にたくさん大変なことがある中で、きちんとユエの思いに向き合って、ギラたちに歩み寄ろうとしてるんだなって思った」
「別にユエが言ったからってワケでもねェよ」
「でも、この手詰まりの状況のために打開策を探してくれてるでしょ?」
「……」
「見えない部分に近付く為に、まず自分たちから心を開こうとしてる」
今、ユエが抱えた問題。同じくファミリーが抱えた問題。
禁書の件。白い龍の件。ギラの記憶の件。アンナの件。リリアの件。
そのどれもが手詰まりで、先が見えないトンネルの中にある。
少しでも改善するように、前を見ているユエの力になろうとするデビトが、フェリチータにはきちんと見えていた。
「それって、すごく大事なことだから」
フェリチータが、デコルテにあるスティグマータに触れる。
能力を簡単に使用しない。という決意の表れから、胸元が大きく開いたスーツを選んだ彼女。
心を覗き見るのではなく、歩み寄ろうとするファミリーの動きに考えさせられるものがあったのだろう。
「バンビーナ。お前は本当にイイ女だ」
「ユエの次に、でしょう?」
「比べちゃいねェさ。どっちもイイ」
「ふふっ、ありがとう」
こんな笑みの交わし合いを従者が見ていたら、後ろから錬金術の嵐が降ってきそうだ。
ふと振り返り、身の安全を確認したデビトは未だにダンテとユエと話しているルカの姿に安心するのだった。
と、そこでフェリチータが気付いたことを口にした。
「ギラ?」
先程から全く会話に入ってこない人物がいたのだ。
どうかしたのだろうか?と、フォークを片手に固まっているギラへと視線を向ける。
別段、体調不良や気分が優れないということはなさそうだ。
ただ、切り分けたチキンをさしたフォーク片手に固まっているのだ。
不思議に思ったフェリチータは、ギラの視線を追っていく。