003. リリアーヌ

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第12のカードの宿主&オリビオンのA




「リコラ付近……ってことはこっちか!」


「急ごうぜ。ないとは思うが、あいつらが捕まったことを受けて別の仲間が女を捕らえている可能性もゼロじゃねぇ」


先頭を走るリベルタとアッシュ。
後ろからノヴァとフェリチータが追いかけて、レガーロで捕らえられたと聞く女性のもとへ。
港の宿・リコラの付近ということで一直線に海岸沿いを目指して走り続けていたが、この時間は出航の関係で人の動きが多い。もし敵にまだ仲間がいれば、下手をするとこの波に乗って一緒にレガーロを出ることもできるだろう。


それだけは、許してはいけない。
このレガーロにいる全ての人に幸福を与えたい。
フェリチータは、前を見据え……リコラを目指すのだった……。




003. リリアーヌ




リコラ付近にある廃墟で、今まさに事態は起きていた。
捕らえられた少女は、正方形の大きな木箱の中で足枷と手錠をされており、実際に動くことは最小限に限られてしまっていた。
木箱の中から外の様子をみることはもちろんできない。
だから今、自身が置かれている状況は不明確であり、扉の向こう側から誰が侵入してきたのかもわからない。
扉と木箱が接触し、大きく衝撃を受けたことしか理解ができない。


「(怖い……ッ)」


喉元を抑えた手に伝う涙。乾く前に命の行方が決まるだろう。
目を強く瞑り、息を潜め、存在を殺した。
が、大きな木箱があれば誰もがそれを開けたくなるのは心理。
ガタガタと木箱に誰かが触れ、蓋が取り払われていくのがわかった。


差し込む光。
薄暗かった木箱の中に、数本の線が照らされる。眩しくなる感覚だけが、目を閉じた世界に飛びこんだ。
あぁ、あとは二択だ。生きるか、死ぬか……。


「あ、いたいたっ!」


「……ッ」


「お、っとっと」


響いた声は、女のものだった。
明るく、陽気なイメージ。思わず瞑ったものを無防備に開けてしまう。
首を傾けて見上げれば、確かに小柄な少女が大きな木箱の蓋を持ってよろけているのが見えた。


「ちょっと待っててね~」


「……」


ぽかん、と開いた口が塞がらない。
助けに来てくれる人がいるとは思っていなかったから、助けてくれようとしている今の光景に全くついていけなかった。
そもそも、彼女は……誰だろうか。


「よいしょ……っと!うんうん、これでいいね!」


「あの……」


「さてさて!悪党たちが帰ってくるまでに、逃げよう?」


にっこり、と屈託ない笑顔が歌姫に向けられた。
大きな木箱の中を覗き込む様は、まるで落とし穴に落ちた歌姫を助けようとしている風だ。
差し出される手。小柄だからか、少女が伸ばす腕は歌姫のもとまで届かない。


この手をとっていいのだろうか。
そうすれば、自由になれるのか?


「--……」


【おいで】



そこで、フラッシュバック。
過去か、妄想か、嘘なのか。
歌姫に手を差し伸べた男がいたことを思い出す。
だが、男ということ以外は認知できない。
優しい声、優しい笑み。全てを惑わすかのような視線。
息を呑み、震えた。


「白い……龍から、逃げないと……」


「……」


「あの龍から……」


「……--」


「逃げないと……」


”殺される”。
脳裏に導く答えはいつだって同じだ。
逃げなければ死んでしまう。生きるために、逃げなければ。


虚ろに繰り返す歌姫を見ながら、助けに来た少女は視線や表情を変えることはなかった。
どうしたの?とも声はかけず、まるで何があったのかを知っているようにも見える。事実はわからぬまま。


「だから、逃げよう」


「……」


「このままここにいても、白い龍から逃げられるはずないよ」


言い聞かせるように告げられた意見。ごもっとも。
歌姫は怯えながらも、きちんと理解はできるらしい。
見上げた空、蓋から乗り出す少女がひとり。重力にしたがってパサリ、と落ちてくる水色の髪。くせ毛に跳ねているサイドと、編み込んだ三つ編み。
紫の瞳を向けられれば、歌姫はもうその手をとるしかなかった。


だが、結果から言えば邪魔が入る。


手と手が触れ合う寸前。
きちんと閉じた入り口の扉が蹴り破られる音に、紫の瞳を持つ娘は勢いよく振り返った。
直感的にやばい、と悟る。
角度が変わったからか、歌姫から見上げた少女がセーラー服を着ており、背にある襟のラインが見えた。


「全員動くな!」


「下手な抵抗すると、こっちも容赦しねーぞ」


一体、どこのチンピラ集団か。とも思えるような呼びかけだった。
セーラー服の少女は歌姫の前から逃げてしまうだろう、と思っていたが意外と応戦するような構えを瞬時に見せていた。
”本当に助けてくれるの……?”と期待の眼差しを向けた後、木箱の外から聞こえてきた声に惑う。


「って……、え。女……?」


「女?」


狭い入り口から、木箱に面している方を向いた侵入者はようやくセーラー服の少女を見つけたようだ。
それ以外はからっぽの廃墟であり、敵はあの3人のみだったことが伺えた。
あとは、目の前にいる少女が敵でなければの話だが。
そう、侵入してきたのはモンドからの命令を受けて到着したアルカナファミリアの4人だったのだ。


「あらら……みつかっちゃったぁ」


焦るでもなく、呑気にそう呟いた少女は木箱の中にいる歌姫に視線を戻し、笑いかけた。小声で告げる。
”もうだいじょうぶだよ”と。
そのままもう一度、腕を伸ばして今度こそ歌姫を引き上げればようやく木箱の中からもう1人の娘が登場する。
駆けつけたフェリチータが、セーラー服の少女と捕らわれていた娘を見つけて半分安堵したように息を吐いた。


「動くな」


しかし、セーラー服の少女がまだ怪しいことには変わりない。
歌姫が近くにいる以上、危険なことはできないけれど気が抜けない状況だ。
並んだ2人の少女たちと対峙する、4人のアルカナファミリア。
ノヴァが前に出て、カタナを構えながら告げる。


「僕たちは捕らわれていた女性の救出に来た」


「そうなの?なら、リリさんの方が早かったね!」


「……お前は何者だ」


ノヴァの牽制すらのらりくらりとかわし、笑顔で答えた娘。セーラー服の少女は自身を”リリさん”と称した。
リベルタもフェリチータもいつでも戦闘には入れたが、謎の娘を1人相手に戦う気にはあまりなれない。
この明るい感じからも出来れば話し合いで解決させたいものだ。カットラスを抜く気になれなかったリベルタは、腰に手を当て尋ねるだけだった。


「早かった……つーことは、お前もこの子を助けようとしてたのか?」


「そうだよ!」


くるり、とサイドの髪が跳ねる。
水色のそれが彼女の動きに合わせて方向を変えていく様も、また元気な印象を残した。



「この子が、変態3人組に捕まっちゃったのをたまたま見かけて、助けなきゃ~!って思ってここまで来たの」


「……」


「ここに変態さんが戻ってきた時はどうしようかと思ったけど、なかなかこないから今がチャンスかな~って!」


小さな体で、大きな手振りをし、状況を説明してくれる。
歌姫は自身を守るように前に出てくれる小さな女にこめかみを押さえて考え込むだけだった。
じゃあ、この子は歌姫を見かけたことがあったことになる。が、歌姫自身は彼女を知らなかった。
これもまた、記憶が曖昧になっていることが原因だろうか。


「そうか……。助けてくれたなら、礼を言わなきゃな。えーっと……」


カットラスの柄から手を完全に離したリベルタは、水色の髪、紫の瞳、セーラー服を着用した少女の全身を見渡した。
髪の先からつま先まで。身長はとても小さい。ファミリーにいる誰よりも小さいだろう。
大きなくりくりの瞳に見上げられれば、なんとなく赤面してしまう。
例えば、フェリチータは可愛いと表現ができる。が、ユエに至っては可愛いというより綺麗、という表現が適切だ。
この娘に関しては、愛らしいが最も似合っている気がする。
視線を逸らしながら、実際にお礼を告げようとした時、リベルタは相手の名前を知らないことに吃った。
気付いたかのように、少女は笑い……そして笑顔の後ろ側に何かを隠すのだった。


「あたしは、リリアーヌだよ!リリアって呼んでね」


「リリアか。よろしくな!俺はリベルタ。そっちの女の子を助けてくれてありがとな!」


「へへへ~♪どういたしまして」


「リベルタ。話が逸れる。今は救出すべき女性のことで--」


明るい空気に飲み込まれ、話がだんだん歌姫からズレようとしている。
ノヴァがそれに気付き、ため息をついてからリベルタに喝を飛ばしていた。
リリアとノヴァ、それからリベルタで会話が進む中、こめかみを押さえ込み苦しそうにしている歌姫に気付いたのはアッシュとフェリチータ。


「大丈夫……?」


「え……?」


「頭が痛いの?」


フェリチータが優しく近づけば、歌姫と初めて目が合う。
鮮やかな紫の髪。瞳は深い青で、水底の輝きを連想させる色だった。どこまでも煌めいて見える。
フェリチータすらも美しいと思える娘が、このレガーロで捕らえられた人身売買に使われる者だとしたら、助けられたことは誇りに思えるほどだった。
緑の瞳と青い瞳が見つめ合えば、表情の差は歴然。苦しそうにする娘はフェリチータの顔を覗き込んだ後、ぽつりと言葉をこぼすのだ。


「私は……」


「え?」


「逃げ……、ないと……--」


「あ……」



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