026. イルマ
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晴れ渡る空、カラッとした気温。
初夏から本格的な夏を迎えようとしているレガーロでも、冷たいドルチェが一番美味しく食べられる季節が近付いてきている。ジェラートはいつ食べても美味しい!という声はもちろんあるだろうが、最高に食べれるとしたらこの季節だろう。
敢えてそれを狙ったわけではないが、アッシュは先日の約束を果たそうとイルマにアップルパイをご馳走しようと計画を立てていた。
約束を交わしてから1日しか経過していないが、アッシュは再び路地裏でイルマを捕まえることに成功する。
「あ、アッシュ!」
「ようイルマ。約束、果たしに来たぜ」
「ありがとう! 最高のアップルパイ、楽しみにしてたんだ!」
今日は近くに子猫はいないようだ。あたりを見渡す素振りも見せないし、近くに白い塊がいる様子も気配もない。
その方が好都合。アッシュが笑みを浮かべ、こっちだ。と案内を始めれば、ついに因縁のドルチェチケット事件は和睦の道へと向かい出す。
「アップルパイさ、あたしも自分で作ったりするんだけど、なかなか究極の味には巡り会えないんだよね~……今日のお店、本当に楽しみ!」
アッシュが黙っていても止まることないイルマの会話に、ついつい微笑んでしまいそうになる。
ふと、そういえば大事なことを伝えていなかったと思い返し、アッシュが路地裏に切り取られた空を見上げながら告げた。
「そういえば、今日はお前の知り合いも呼んでおいたぞ」
「知り合い?」
「行けばわかるさ。久々の再会に驚くんじゃねーの?」
「……?」
「ま、楽しみにしてろよ。あいつも様変わりしたからなー。特に髪色」
「あたしの……知り合い?」
思わず足を止めたイルマは、前へとゆったりした歩調で進むアッシュの背に投げかける。
眉をひそめ、考えこむ彼女らしくない態度に首を傾げたが、きっとユエだと気付いていないからだろうと思う。
しかし、この態度はあまりにも予想外の結果を招くことになるのだった……。
026. イルマ
“混んでいると待つのが面倒だ”という理由から、先にお店で席の確保を任されたユエ。
アッシュがイルマを連れてくるのを待ちながら、久々の友人との再会に緊張してしまう。ミレーナやセナは大人になってからもそれなりに会っていたが、イルマは数年前……ガロが死んで、心の傷が落ち着いてから出会っているのが最後。あれから心も体もお互いに成長しているだろうから、久しぶりすぎて緊張してしまう。
「イルマ……会ったらなに話そう……」
柄にもなくソワソワしてしまうユエは何度も何度も、ちょびちょびと出されたお水に口をつけてしまう。
途中、ユエに気付いた子供や島民たちが“ユエさん、お久しぶり!”なんて声をかけてくるものだから、そのたびにイルマじゃないかと身構えてしまっていた。
結局落ち着きを取り戻せないまま、ユエはその時を迎えることになる。
カランカラン、と音を立ててベルが鳴り、二人の人物が店内へ入ってきた。
「いらっしゃい! アッシュの旦那、ユエさんならあちらにもう来てますぜ!」
「あぁ、サンキュー」
「アッシュ」
こっちだよ。という意味で声をあげれば、アッシュの後ろには確かに見覚えのある顔つきの娘が一人佇んでいた。
「うわぁ~……お店の内装もすごく素敵! 夜はバーになるんだね!? その印象が強かったから、昼間にドルチェを提供してるなんて知らなかったよ……!」
「だろ?」
「すごいすごい! ありがとうアッシュ!」
興奮気味にやってきた茶髪の女の子は、間違いなくイルマだった。
とある島で出逢い、友情を築き、そしてまたね。と別れたひとりの友達。
「イルマ……!」
思わず声をかけて立ち上がったユエは、アッシュと並んでやってきた彼女に駆け寄って行く。
「むむ?」
アッシュも友人同士の感動の再会になるだろうと予測していた。
きっとこのイルマのことだ。ドルチェチケットを手にした時と同じくらい、オーバーな表現で喜びを表してくるはず。そう思っていた。
しかし、その予想は大きく外れる。
駆け寄ってきたユエに、イルマは目を丸くして一瞬動きを止めていたからだ。
「イルマ! 覚えてる? ユエよ」
「ユエ……?」
「昔、アッシュと一緒に航海してた時、イルマのサーカス団の公演を見て、仲良くなったでしょ」
「……」
透き通る芯ある瞳。
なにも疑わない瞳がユエの紅色を見つめていたが、どこか空虚に彼女の色を見据えている。
アッシュはその瞬間、何かに異変を感じた。
凄く親しいわけではないが、ひとつのことに執念深く、明るく気丈な彼女のこんな態度はおかしい、と。
「イルマ……?」
おい、とアッシュが声をかけ、その華奢な肩に触れそうになった時だ。
「ーー……」
「イル「あぁぁああああ! ユエね! ユエ! 覚えてるよ~! 久しぶりっ!」
一体、何秒フリーズしていたんだと責めたくなるくらいの間を空けて、彼女はぽん! と手を叩き、ユエににこやかに歩み寄った。
その調子を見て、ホッと安心したユエも表情を緩ませる。彼女はイルマの違和感に緊張してか、気付かなかったようだ。
「すごーく久しぶりだねぇ? 元気だった?」
「うん。いろいろあったけど、元気だったよ。イルマは?」
「あたしもあたしも~! いやぁ、びっくりした! ユエに会えるなんて思わなかった! 久しぶりだねぇ!」
あはははは~! と豪快に笑い飛ばすイルマに、ユエも自然と笑顔になる。
そんな友人2人を見て、アッシュは今その違和感を突き詰めるのはやめようと心に決め、イルマの隣に腰掛けることにした。
「アッシュからイルマがレガーロに来てるって聞いた時は、すごくびっくりしたんだよ? まさかここで会えるとは思わなかったから」
「レガーロで? あたしは随分昔からレガーロにいるけど……」
「え? そうだったの?」
「え? あ、うん……?」
イルマの正面にきたユエが、歯切れの悪い彼女の答えに首を傾げそうになる。そうだったんだ、と。
アッシュは頬杖つきながら横目でイルマを眺めていた。
「そ、そうだ、ユエ、聞いてよ! アッシュがね、あたしからドルチェチケット奪って逃走してさ! それで期間限定のチョコラータ食べれなくて! だからこうして今日、アップルパイをご馳走してもらうことになったんだよ!」
「うん。それを昨日聞いて、今日ついてきたの。びっくりさせたらごめん」
「確かに今もびっくりしてるけど、いいの! 美味しいものはみんなで食べた方が幸せになれるし!」
「まるでパーチェみたいだな」
「そうだね」
ユエとアッシュがにこやかに笑いながら、向日葵みたいなイルマの元気な姿に再会できてよかったと改めて実感した。
昔話にも花を咲かせたいし、くだらないこともたくさん話したい。次から次へと会話が出てくる中で、3人は楽しそうにアップルパイを頬張っていく。
「んんん~! おいひい! このごろっとしたりんごの食感! さらにとろけるくらい煮詰められたジャム! しつこくないくらい強さで鼻を抜けていくシナモンの香り……最高だぁ……」
「ん、相変わらず美味いな」
「ほんと。久しぶりに食べたけど、ヨシュアにも負けないよね」
「あぁ」
フォークで切っては口に運び、その甘さと香ばしさを感じる口内。幸せなハーモニーに酔いしれている中、イルマは微笑み合うアッシュとユエに思わず思ったことを口にしてしまう。
「そういえばさ、アッシュとユエって恋人同士みたいだね?」
「え?」