025. 旧き友
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昔、昔の大昔。
錬金術が栄えた旧き街には、廻国と呼ばれるこの世界と異世界をつなぐ扉が存在した。その中には古代より存在する魔物が封じ込まれていて、開門すれば異世界からその魔物がやってきて、世界を滅ぼすという言い伝えがあった。
故に決して開門してはならないと、その街の歴代の王家は廻国の存在を恐れながらも、誰も触れないように管理を続けていた。
廻国がある鼓動の神殿には、廻国が造られた時代より残る古代文字と壁画よって伝説が残っていた。
世界の創造者・パラケラスス。彼がこの廻国に関わり、そして扉の向こう側に災厄である“白き龍”を葬り去ったこと。その過程にはパラケラススの他に、セイレーン、そしてレヴィアと呼ばれる女たちが登場している。
古代文字と共に残された壁画には、彼、彼女たちがどんな経緯で廻国誕生に関わったのかが残されていた……。
そして時代は途方もない時間と共に移り変わり、今に至る。
とある戦いからレガーロとオリビオンを繋ぐコズエとコヨミのゲートが、再びユエをレガーロに引き止める機会をくれていた。
今、ユエは最大の戦いと謎解きに挑んでいる最中である。
オリビオンに旧くからの言い伝えである禁書。
悪魔の力を封じ込めた、その名の通り本であり、大きな力を持つもの。今、その禁書と契約を結んだ者がいると判明したことから、この戦いは動き出した。
禁書の契約者の目的を確かめ、驚異となるならば阻止するため、ユエはオリビオンのAとしてリアたちに力を貸しつつ、ヴァロンの件で支えてもらうことになる。
もうひとつの故郷であるオリビオンでも素晴らしい仲間に巡り合えたと思えたのも事実だ。
調べを進めていくうちに、禁書の契約者が5人存在し、その者たちは廻国に大きく関わった“白き龍”の配下になった可能性があると判明する。
白き龍……。それは古代からオリビオンに残る伝承に現れた災厄そのもの。そして、廻国を消滅させた戦いで、確かに門の中から開放されたのを……ユエは覚えていた。
ならば、禁書の契約者もろとも、白い龍を止めなければならない。何かオリビオンや世界の驚異になるならば、なんとしてでも阻止しなければまた危険なことが起きるはず。
決意を胸に、戦いに挑む中……ユエはこうして巡り合わせでレガーロへと帰還していた。
レガーロを去った理由は忘れもしない。オリビオンでヴァロンについての行方を探すことだった。
このメインの目的も置き去りにはしなかった。そして、悲しきことにヴァロンの行方すらも白き龍の戦いに関わってきていたのだ。
ヴァロンは“クレアシオン”という街で、青年たちと写真を撮ったという証拠が出てきていた。コヨミが持ち帰ったそれには、間違いなくヴァロンが写っていた。
そして、そのクレアシオンという街は……白い龍によって壊滅し、生存者はほぼいない状況になっているという。
ヴァロンの安否も確認できぬまま、時に干渉している龍を追うべく動いていたユエは、ついにノルディアとレガーロにて禁書の契約者と対面したのだった……。
025. 旧き友
「なるほどな。白い龍が廻国と関わってたのも、あの戦いで最後に門の中から出てきたのも……古代文字で神殿に残っていた話も整理できたぜ」
ある晴れた日のこと。
今までの振り返りを再度行ったユエは、話を聞きたいと言っていたアッシュと共に状況整理をしていた。
ヴァスチェロファンタズマの書庫にて、買いたてのインクをつけてペンを走らせていたアッシュは一息ついてユエに告げる。
「あたしも、いろんなことが一度に起きすぎて……ずっとモヤっとしていたけどだんだんわかってきた」
「あぁ。今一番に言えることは、前回のスペールやルッス……所謂、“禁書の契約者”って奴らの狙いは、俺たちが保護したギラだってことだな」
「うん」
ギラ。
人身売買事件の被害者としてファミリーに保護されてから、まさかこんなことになると思った面々はいなかっただろう。
「次にいつ乗り込んでくるとも限らねえ。が、今は相手の出方を見ない限り、目的を明かす手段自体がねーな」
「そうだね……」
「それにリリアの目的も、アンナの嘘も見抜けてねえ」
それに関しては、ユエは彼女たちとゆっくり時間をかけながら暴いていこうと決めたので、賛同することができなかった。
最初から疑うのではなく、信じてみようと決めたからだ。
「とりあえず、助かった。ジョーリィから文献を読んでまとめろとか無茶振りされてたが、お前の話を聞いて白い龍についてわかってきたしな」
「ならよかった」
買いたてのインクを元の位置に戻し、転がっていたリンゴを掬い上げながらアッシュは満足そうに口角をあげていた。
ユエは久しぶりの船内に思わず視線を右から左に移していくが、あまり自身がいた頃と変わらない姿に安心しながら声を漏らす。
「船、相変わらずだね」
「ん? あぁ、まーな」
「動かしたりするの?」
「最近は殆どねーよ。ジョーリィの仕事で手一杯だし、ゆっくり航海してる暇もねぇ」
「そっか……でも、ファミリーに入るってそうゆうことだもんね」
「あぁ。これでも大分慣れてきたしな」
「なら安心した」
くすりと笑って、ソファーから立ち上がり、ユエは窓の外を見つめる。
石灰岩の入江から見える景色も、2年半前と殆ど変わらない。
本当に帰ってきたんだ、という気持ちにさせられる。
「(でも、まだ終わりじゃない)」
おかえりも、ただいまも、今はまだ言いたくない。
すべて終わらせて、必ず一緒に帰ってくる。ヴァロンと共に、それぞれの故郷に帰るんだ。
鈍らない決意は、今もまだユエの道を支え続けてくれていた。
「そういえば、ユエ」
「なに?」
「お前、“イルマ”って覚えてるか?」
それは、唐突な問いかけだった。
外を見つめていた視線をアッシュに戻し、目をぱちくりさせながら頷く。
「懐かしいね。覚えてるよ」
「外見も?」
「外見……? まぁ、顔はもちろんわかるけど」
「ふーん。どんな女?」
「なに、いきなり」
突然出てきた過去に出会った友達の名前に、ユエは驚く。
アッシュの歯切れの悪い答えにも疑問が湧き、思わず首を傾げながら歩み寄った。
「いや……ちょっと気になって」
「イルマのことが?」
「まぁ、なんつーか」
「……」
一向にこちらを見ようとしないアッシュ。
首のイル・バガットのスティグマータを抑えながら、アッシュは鋭い視線を本に向け続けていた。
ユエは悟る。歯切れが悪いのは照れているからなどではない。何か嫌な意味で、気になることがあるんだろう。
「外見は、茶髪系の髪色に同じ色の瞳だったと思う。目が大きくて、確かサーカス団の看板娘で……」
「茶髪系の髪、同色の瞳……。ってことは、やはり……」
「で。イルマがどうかしたの?」
再度、アッシュに尋ねてみた。
唸りながら目を細めた彼は、確認したかったことが聞けると観念したかのようにボソボソとユエに告げてくる。
「いや、多分そいつなんだけど、さっき会ったんだ」
「え? イルマと、レガーロで?」
「あぁ。お前と朝、館で別れてから買い出ししてた時にな。正確には再会? てゆーか……レガーロで会うのは二度目なんだが」
「イルマ、レガーロに来てるの……!?」
次に身を乗り出すように尋ねたのはユエだった。
思い返される記憶。
ガロとの別れを経験し、荒れるに荒れた時……。
ヨシュアとアッシュが立ち寄った島で、サプライズでサーカスのチケットをプレゼントしてくれたことがあった。
そこで出会ったのが、団員のイルマ。彼女はユエたちと年も近く、なによりサーカスの花形である空中ブランコを披露する人物だった。
ブランコを自在に操り、美しく宙を舞う姿に惚れ惚れしたのは今でも覚えている。
公演が終わった後、たまたま仲良くなる機会があり……。
ガロと同じく、一時の思い出を共有し、その島を離れる時に別れた……数少ないユエの友達だった。
「あぁ、多分な。サーカス団も来てるのかは知らねえが、自分のことを“イルマ”って名乗ってたぜ」
「そうなんだ……。会えるなら、あたしも久しぶりに会いたいな」
数年ぶりの再会。
お互いにお互いのことを覚えていたら素敵だが、どうだろうか。
会えるなんて決まっていないのに、少しだけドキドキしてしまう。
「俺は当時、お前と違ってそこまで話し込むこともなかったからな。顔が朧げだったんだが……そう聞くと、アイツで間違いないと思うぜ」
「そっか……。イルマ、元気なんだ。安心した」
「で。その……まぁ、いろいろ訳あってな。今度、イルマにアップルパイを奢る話になってんだ」
「アッシュがイルマに?」