015. 勇敢な戦士たち
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最前線で並ぶユエ、リア、ジジ。
背後から同じく横並びで構えをとってくれるノルディアからの応援・セラ、テオ。そしてエルモ。
4階から下を見下ろし、にやりと笑うウィルもネーヴェも確認できる。
守られる形になってしまったアルカナファミリアと、その客人であるギラ、リリア、アンナ。
彼ら、彼女らの前に現れた錬金術で操られているシャンデリア。まるで意志を持ち、フォルムを自身で変えて宙に浮かび上がったのは機械のようだった。
「リア、ユエ。お前らその怪我と体調でやれるのか?」
ジジがふと心配になり、ぶっきらぼうに声をかける。
リアに関してはいつも通り、なんでもなさそうに答えていたけれど、ユエは呼気が少し乱れていて、返事を返すことができなかった。
「こんなんでへばってられないっての」
「……」
「だろ。ユエ」
「……もちろん」
にやり、とリアの口角が上がる。
ジジが安堵したように眉を下げ、仕方ないなという面持ちで溜息をついた。
「じゃあ、信用させてもらうぜ。容赦なく頭数に入れさせてもらう」
「当たり前だ」
ぐるんぐるんと装飾を回しながらタックルを仕掛けてくる敵。動き出したのを見届けて、リアとジジが前へと飛び出す。
「ユエちゃん……」
自由を取り戻したリリアとギラが、まだ動けないままに残されたユエを見上げていた。
正面切って突っ込んでくるシャンデリアに、ユエは視線を床に落とす。
「……」
痛みから声が出ないわけではない。
痛みから前に出るのをやめたわけではない。
掌で握りしめた紺色のリボンをギュッと握り、ユエは決めたように顔をあげた。
第一波の乱闘・終章。
015. 勇敢な戦士たち
右腕を突き出し、空っぽになった二の部分に視線をむける。
長年そこに巻かれ続けたリボンの痕をみつけて、そこにもう一度印を巻きつければ完成だ。器用に片手と口を使い、ガロの形見をあるべき場所へと戻した。
リアとジジは左右の壁を伝い、シャンデリアの背後から攻撃を仕掛けるようだ。
長年連れ添った仲間である2人の息はぴったりだ。頭の片隅でそんなことを思う。
ユエ目掛けてタックルをしてくる敵のスローモーションが目に見えた。口からリボンの端を放し、完成した右手を前へ翳す。
開いた掌に力を込めれば、アルカナ能力でもフェノメナキネシスの力でもないものが生まれていった。
無から有を生み出す。ーー……それが錬金術師。
タックルし、こちらを殴り殺そうとしていたシャンデリアの攻撃を真正面から錬金術の盾で受け止めた。
「錬金術の盾……」
「でかい……!」
セラとテオ、エルモも独自で動き出していた。
ユエが真正面に生み出した紋章入りの盾は、リリアとギラ、そしてアルカナファミリアの仲間たちを覆い隠すくらいに大きいものだった。
思わず、同じ使い手のルカとアッシュが呆然としてしまうくらい、盾は大きいものだった。
デビトもフェリチータも、まさか彼女がここまで成長して帰って来るとは思わなかったのだろう。
「ユエ……っ」
だが、その大きさの驚いたのは本人もだった。
「(オリビオンで練習してた時よりも大きい……!?)」
これがレガーロとオリビオンの錬金術の差。
時の流れの中で、衰退してしまった能力。強さが全く違うのだ。
これなら守れる。
ユエが眉間に力を込めて盾を作り続ける。
思わず4階から眺めていたウィルも賞賛するレベルだった。
「こうみると、やはり強者のようだね。ユエは」
「……旦那様」
「なんだい?ネーヴェ」
「ユエは約束どおり、巡り雫を手に入れたみたいです。タロッコのお話……」
「もちろん。包み隠さずに話してあげないと困るだろうね。そこは俺も誠意を見せる。安心していいよ、ネーヴェ」
よかった、と黒の着物の袖で唇を隠して笑う彼女。
ネーヴェはネーヴェなりにユエを心配していたのだろうか。わからないが、彼女はウィルの返答に安心したようだった。
盾が打ち破れないとわかったのだろう。
シャンデリアが大きな図体で一回退却を見せたのをユエは見逃さなかった。同じく、左右から攻め込むジジとリアもだ。
「あの手の錬金術は確かに強力だが、エネルギー源になってる核を叩けばこっちのもんだ!」
「そして恐らく……」
ルッスが投げた錬金術。宿り、光を見せたシャンデリア。
無数の豪華なランプを灯し、踊るように暴れるそれ。光はルッスから譲り受けた力と同じ色をしている。
つまり。
「どこかのランプを破壊すれば、動きは止まるはず」
「任せとけって……がっぽり稼いでやるからよッッ!!」
「その金、誰に払わせる気だ」
「もちろんお前だよリアッ!」
「断る。ふざけんな」
「はぁ!?そっちこそふざけんな!」
出し惜しみなく、ランプ目掛けて銃撃戦を繰り広げるジジ。
飾られた装飾がこちらに振りかぶれば、待ってましたとばかりに飛び移り、今度は剣でランプを破壊してやる。
リアも同じく、振りかぶった装飾に飛び乗って、体術で光を消滅させていく。
ぐらぐら揺れる足場と、容赦なくリアたちを振り落とそうとするシャンデリア。頭脳はこちらが優勢で、リアとジジに集中すると今度はユエやセラ、テオ、エルモの方がガラ空きになる。
「セラ!エルモ!俺たちもランプ狙うじゃんね!」
「わかった」
「了解!」
銃を用いて戦うセラと、錬金術で応戦するエルモ。
テオは未だにフェリチータたちのためにイル・カッロの力を使ってくれていたので、ジジやリアのようにシャンデリアに飛び乗ってランプを破壊しようと試みる。
「く……っ」
そこまではとても連携がとれたプレーでよかった。
しかし、多少は崩れることになる。
盾は出したままだったが、ユエが片膝ついてついに動かなくなったからだ。
その姿を見つける前はルカとアッシュも”ランプを壊せばいいんだな!?”と錬金術を発動させていたが、フェリチータの声で手が止まってしまう。
「ユエ……!」
心臓を押さえ込み、視線だけがシャンデリアを睨み上げる彼女。
動きを解放されたデビトとパーチェが、ユエに寄り添うために距離を詰める。走り出した心の心拍数が激しくなる。
「ユエちゃん!しっかりして!」
「ユエ……」
一番近くにいたリリアとギラが、盾は発動させているものの、苦しそうにしゃがみ込むユエに触れてくる。
リリアは顔面蒼白で、異常なくらい恐怖を見せた顔をしていた。ギラはまた別の理由で血の気のない顔をしている。それもそうだろう、さっきまで……いや今も、命を狙われているのだから。
「ユエちゃん!」
「……だい、じょうぶ……。平気……」
「そんな顔して平気だなんて言えないよ……!」
銃創の痛みもあるが、そうではない。
片膝ついて動けなくなったのは、錬金術の強さのせいで心臓に負荷がかかっていたからだ。
これが、ルッスが総督邸で言っていた”心臓にガタがくる”という意味だろう。
確かに、これじゃあ召喚錬金術なんて使えるはずもない。ましてここはオリビオンではなく、レガーロだ。ボールを投げたからといって、オーウェン……あの狼が助けに来てくれるのだろうか。
奥歯を噛み締めて、気持ちをもう一度締める。睨み上げた先でリアとジジがシャンデリアに乗り上げて、ランプを破壊しているのが見える。
小さな小さなランプが何十にも重なってできたシャンデリア。どこかに核があるとしてもそれなりに時間がかかるだろう。
あと5分あれば足りるか。5分、シャンデリアの攻撃をギラやファミリーたちから遠ざけられるか。その5分、ユエの体が持つだろうか。
「リア……ジジ……ッ」
リアとジジもユエが張り上げた盾の大きさには驚いていた。
そして、リアとジジが同じ力で同じ技を出したとしても、あのサイズの盾は作り出せないということを理解している。
考えられる可能性。それは……。
「あいつの盾、でかくねえか?」
「……巫女の血を継いでるからだ」
「はっはーん、なるほどな」
「レガーロの血を持つユエはオリビオンでもレガーロでも同じ強さで錬金術が出せる。レガーロでは錬金術というもの自体が衰退してるから、オリビオンの強さで術を出せば、オリビオンより強くなる」
「術は血も関係してるからな。納得だぜ」
「問題はあいつの体が持つかだけど」
「なら、さっさと終わらせてやるしかねえな!」
ジジが剣と銃でランプを二刀流で使うことを決めれば、真下からランプを狙うセラが”やるな”と関心を示している。が、お構いなしにランプを打ち狙うものだから、足場が悪くよろけたジジに当たりそうになっていた。
「あっぶねーな!気をつけろよ!」
「すまん」
初対面にも関わらず、こうして関係を築き上げていくのが戦場とは、さすがは守護団だ。
リアはユエに目を向けながらも形勢は意外に危ういのかもしれないということに気付いていた。
「っ!」
ぐらり、と足場が大きくよろめいた。
それはリアがいる方の装飾が大きく振り上げられた合図。
そのままユエが作り出した盾を右側から大きく回り込んで越え、背後からユエを攻撃しようとしたからだ。
「チッ」
この馬力と速度、そしてシャンデリアの大きさからして動き出した敵を止める力がリアにはない。
ランプを破壊しながらユエに声を上げて立つように促す。
「ユエッ!」
「……っ!?」
デビトとパーチェは結局ユエに辿り着く前にシャンデリアに邪魔をされる結果となった。
やばい、と察知しユエが振り返ったところで間合いの距離が近すぎた。
今から盾の再構築はできないし、フェノメナキネシスの力じゃ殴り合いは止められない。吊るし人の力で時間を止める余裕は精神的にもう残ってない。
このままじゃ潰される……と目を見開いた。
リアの声を耳に届かせてから息を吸うまでどれくらいかかったか。
気合いで痛む体と心を動かしたが、敵の狙いは最初からユエではなかった。
「え……?」
物凄い馬力で横に薙ぎ、体を吹っ飛ばしたのはなんとギラだったのだ。
「ギラちゃんッッ!!」
「ギラッ!」
「……っ」
シャンデリアに掴みあげられなかったのは幸か不幸か。
ギラが薙ぎ払われた先は、ちょうど開け放たれた窓だった。そのままにしたら確実に落下し、怪我をするのは間違いない。
しかもここは3階だ。戦いの経験を積んだユエやファミリー、守護団なら話は別だけれどギラはただの街の娘。まず3階から落ちて無事ではないだろう。
「ギラッッ!」
諦めてたまるか。たまるもんか。
盾を作り出すのをやめて、ユエが心臓の痛みから解放される。
ギラが飛んでしまった方向を見ながら逆向きに鎖鎌を投げ、対角線上にある手すりに引っかかるようにしたかった。が、それがうまくいかない。引っかかることなくじゃらり、と音を立てて流れた鎖。そこで走ることをやめたらギラが死ぬかもしれないので、最悪彼女の下敷きになることをユエは選ぶ。
デビトとパーチェの目前を走りきり、迷うことなく窓の淵に手をかけた。
手を伸ばせば、ギラが届きそう。だが届かない。
重力に沿って落ち始めた彼女に、ユエはそのまま体を跳ねさせ、窓の淵に足掛け飛んだ。
「キャァァアアッッ‼‼」
「ギラ……っ」
「ユエッッ!」
空中で掻いた左手が、ギラの手首をパシッと掴んだ。
捕らえた。心でガッツポーズを取ると同時に、鎖の先がどこにも繋がっていないことに思考をシフトする。
右手で掴んだ鎖、逆の鎖は今もまだ地を這いユエとギラを追って窓の淵を目掛けてやってくるだろう。出来ることなら止めなければ。
どうする……?と頭が考えた時、不意に鎖が音を立てて止まった。
「!」