013. オリビオンのA
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ーーその物語は、彼女の戦いの記録である。
リンクを果たした物語。
ここから続きを語らおうか。
「待てッ‼‼」
「じゃあね、A」
その時代が、スペールが現れた時代から半年ほど前だったなんてユエは知らなかっただろう。
コズエとリアが協力して繋いでくれたゲートの先。辿り着いた地はノルディアだった。
水の都・ノルディアに、オリビオンの禁書と契約した者が現れる可能性が高いとの予測を受け、ユエは独自の調査に当たろうとしていた。
そこで出会った者たちがいた。
セラこと、セラフィーノ。テオ。エルモ。ネーヴェ。アガタ。そしてウィル。
彼らから色々な話を聞き、等価交換を結び、最終的には協力を得ることができた。
ノルディアでの困難を乗り越えユエは禁書の契約者にあたるルッスと交戦することになる。
総督邸で黎明の戦闘。ルッスの”透過”という能力に手こずり、ユエは脚、それから腹部に銃創を負う。それらの傷を抱えたまま、劣勢を感じ時空のゲートに逃げ帰るルッスを追いかけたユエ。
揺るぎない真実を探す心。そしてその先に繋がるであろう父の姿。譲れない気持ちがユエの痛みを押さえ込んだ。
受けた銃創は変えられない。だが、アルカナ能力で止血はできる。血の流れを止め、赤く染まった灰色のローブとフレアスカート、ナポレオンコートに身を包んだままユエは白いゲートの中を走っていく。
多くの時代、時間、時空が重なるこの空間ではやはり思うように体が動かない。
それでもルッスを逃したくなくて、前を行く男に電撃を幾度も放ち続けた。
逃げるだけに必死になっているルッスは、何かを恐れているようだった。そもそも、あれだけの強者がセラやテオ、エルモが増えたところで負けはしないのではないかと思考が過る。
なら、何故撤退の意を示しているのだろうか。
考えたところで頭に浮かばない答え。体が起こす行動と思考が全く重ならないところで前を逃げるルッスに電撃が直撃した。
まだ距離があるので呻き声が聞こえただけだったが、恨めしそうに睨みを飛ばしてくる男。反撃で錬金術が放たれるが、なんとかかわせるものだったので難を逃れることができた。
空間の色が白から青に変わる。
時代が変わり、出口が近いことを教えた。
かなり先を行っていたルッスが体を少し引きずりながら出口から飛び出したのを見届ける。
どこか別の時代に辿り着くんだろうとユエも覚悟を決めたところで声が聞こえた。
[ユエ]
「!」
[ユエ、聞こえてる?]
「リアのテレパス……!」
脳内に響く声。
何故だか少し懐かしく、そして余裕がなさそうだった。いつものリアよりも疲労しているように聞こえる。
つまり、このゲートの先はオリビオンだろうと思っていた。
[ユエ、ゲートから出てきたら最初に狙ってほしいものがある]
「狙ってほしいもの……?」
[悪いが余裕ないから簡潔に伝える。ゲートの真下にモノクルをつけた黒髪の男がいる。そいつが殺そうとしている女を助けてほしい]
「交戦中ってこと……?」
テレパスだけで伝えられるものはユエの脳内でイメージするしかなく、ありとあらゆる可能性を考えながら一歩、また一歩前へ進む。
[私も応戦してはいるけど、かなり不利だ]
「……」
[状況打開はあんたにしか任せられそうにない]
リアからの依頼。ここまで聞き終わるところでユエの目前にゲートの出口は差し迫っていた。
腹部の痛みが少し響く。が、そんなこと言ってる場合じゃない。
ルッスが持っている巡り雫を奪うこと。そして、その雫をウィルに渡すこと。ルッスの親玉がクレアシオンを壊滅させた者で間違いないならば、そこにいたであろうヴァロンについて話を聞き出すチャンスになる。ウィルと等価交換が成立すれば、太陽の代償についてきちんと話を聞くことができる。
目を吊り上げ、光を宿す。携えた鎖を引き、一気にゲートから飛び出した。
虹彩に光が届き、辺りの景色を認識するまでどれくらいの時間がかかっただろう。
見えた景色。一瞬、違和感を感じる既視感。
ここは、どこだったか。どの記憶の引き出しから違和感を感じているのか。
ゲートの真下、確かに男が女の首を締めようとしているのが見えた。
あぁ、あれを止めなければならないのか。
ジャラジャラと音を立てながら鎖で攻撃し、飛びかかる準備をしたところでリアの姿が見えた。刹那、更に違和感が膨らんでいく。
見たことのある廊下、カーペット、ソファー。破壊されたシャンデリアにも見覚えがある。
眉を顰めたところで、ユエは1秒にも満たない一瞬で捉えてしまったものがあった。
「ーー……っ」
息が詰まる。動揺している場合ではない。女を助け、状況を打開しなければならないのに、呼吸ができなくなりそうだった。
「デビト……」
視線は絡まなかった。だが、姿形、見紛うはずない人物。ふと既視感と違和感が一致し、ここがどこだか理解した。
レガーロだ。
「ユエ……」
声が聞こえた気がしたが、どうだろう。
そこからは、鬩ぎ合う気持ちがぶつかり、勝った自分は”オリビオンの守護団・A”であるユエだった。
リアの願い通り、スペールに狙われていた女・ギラを掻っ攫いリアとリリアの近くまで連れて行き、なるべく乱暴にならないように落としてやった。
そのままユエは落下したシャンデリアの上に着地すれば、彼女がレガーロに帰ってきた瞬間が成立する。
「さて。説明してもらうけど、覚悟はできてんの?」
「……」
「ユエ?」
スペールから受けた攻撃は、首筋のローブを切り裂いた。幸い肌には触れなかったのでダメージは受けていないけれど、おかげで隠れようにも隠れられないくらい、顔が晒されてしまう。
「なんの覚悟がいるっていうの?」
ユエの本音はーーーー正直、喜んではいなかった。
レガーロに上陸してしまったことに対して、無力さを感じながら目の前の敵に対峙する。
気持ちが追いつかないまま、今、ユエのレガーロでの戦いが始まった……!
013. オリビオンのA
聞こえてきた轟音に、扉を開け、部屋を出てしまったのが間違いだったかもしれないと思った。
階段のフロアまで行った時、落下したシャンデリアと狙われるギラが見えた。その光景を見ていた人物……ーーアンナは、奇襲を仕掛けてきた男のことは知っている。
「スペール……」
また手が震えそうになるのをぎゅっと握って止めた。
負けるものか。今度は絶対に。
キッと美人に似つかない殺意を込めて男を睨んだ時だ。
ゲートの向こう側から帰還者が来たのは。
降りたったシャンデリアの上。
鎖を携え、灰色のローブに身を包み、山吹色の髪をした女。ウルフカットのロングヘアのその娘を見て、アンナは更に息を詰まらせる。
見覚えはあるが、はっきりとした既視感が浮かばない。
だが、現れたユエをアンナは知っていた。
「ユエ……?」
口に出してみて、懐かしい響き。
少し前までよく呼んでいた。
だが、その顔つきの相手は髪の色が茶髪ではない。
そして……
「瞳の色が……」
そして、その娘に反応したのはアンナだけではなかった。
ギラの隣にいたリリアも、見上げた先の存在に泣き出しそうな顔をする。
「ユエ……ちゃん……」
誰もが待ち望んだ待望の帰還と言えただろう。
しかし、語られない当の本人の気持ちは違うものだった。
「ユエ、どーゆーつもり?」
「なにが」
周りの空気にお構いなしに始まった会話。
投げかけたのはシャンデリアの下にいたリアだった。片腰に手をあてて、呆れたように目を向けてくる。
「そのローブの紋章。あんた、オリビオンからどこの配下についたわけ?」
問われてユエはようやく気付いたというように背中に目を向けるようにしていた。完全に見えるわけじゃないが、背中に何か記載されているのはわかったようだ。
「これ?借り物」
「その血は?」
「いろいろあって」
「今の今まで何してたわけ?」
「ちょっくらノルディアに」
「てゆーか、戻ってこいって言ってんのに無視して突っ走るとか、あんた喧嘩売ってんの?」
ちょんちょん、とシャンデリアの段差を越えてリアの横に降り立ったユエ。苛立ちを顔などに見せているわけではなかったが、放たれる視線が痛々しい。いつもよりキツい凍るような目で言われればユエは苦笑いするしかなかった。
「しょーがないじゃん。体が勝手に行っちゃったんだから」
「おかげでこっちは酷い目にあったんだけど」
「そーいえばリア、なんで別の時代にいるの?」
今気づいた。というようにユエはなるべく明るく努め、尋ねる。
堪忍袋の緒が切れるようなブチッという音がどことなく響いたのにユエも気付き、”やべ”と身を引く。
「あんたがゲートを止まらずに進んだからこうなってんだよ」
「へ、へぇ追いかけてくれたんだ?ありがとう」
そのまま、ごめんごめん。と明るく笑ってやればヴァロンと同じ空気を感じたリア。ここで引けば、ヴァロンといる時と同じようにユエのペースに巻き込まれると思ったリアは、ぼそりと本気で呟いた。
「お前、本気で覚えてろよ……」
「わ、悪かったって!ごめんってば!」
両手を前に出して謝るユエ。だがへらへら笑っている空気が納得いかないらしく、リアの睨みは止まらなかった。
戦場に一人の娘が参戦したことにより、少しだけ空気が明るくなる。しかし、状況は何ひとつ変わっていない。
明るく笑っていたユエも、リアも本調子には程遠い体調だ。
一方は病み上がり、一方は腹に銃創を抱えている。状況がどうなるかも時間の問題であった。
ユエを見上げ、言葉を失っていたリリアもギラも。更に後ろにいるデビトやパーチェ、フェリチータも、戻ってきた彼女に意識を向けていたがだんだん息が苦しくなってきた。
気管支が狭くなり、呼吸がままならなくなるまであと少し。動きたいのに動けず、体が重くなるばかり。
限界も近いというところでユエがこの場にかかった錬金術を即座に理解する。
それは、彼女の成長そのものだった。
「重力操作の錬金術?」
「あぁ」
「……なら、」
黒いシースルーの光が停滞していた箇所を見破り、ユエが左手を大きく翳した。
ガラスが弾かれるような音が鳴り、戦況が覆る。それは彼女のアルカナ能力。
「息が……」
「く、苦しくない……」
まだ立ち上がれはしないものの、ユエが放った紅色の光はその場にいた者の呼気を安定させた。
重力の術を、数字を操り相殺する。まさに吊るし人のアルカナ能力だからこそできる戦法だ。
「あたしもちょっとばかし色々あってね……。完全に解放はしてあげられないけど、今はこれで我慢して」
傍にいたギラやリリアにそう呟けば、ユエの表情が一瞬だけ歪んだ。何かに耐えるような、痛みを堪えた顔だった。
「……」
それをリアは見逃さない。
しかし、こうして重力を相殺し、動けるユエとリア。この二人でスペールとルッスを倒さなければ勝ち目のない戦いだ。守る対象が多すぎる彼女たちの方が不利であることにも変わりない。
しかし、状況は打ち破られた。上々だ。
「ーーなるほど。オリビオンのAと2が揃ってしまいましたか」
スペールがモノクルをクイッと持ち上げ合わしている。
ルッスも電撃からそれなりに回復したようで両足できちんと立ち上がれば、狂ったような笑みを見せていた。
「手間がかかることになりましたが、致し方ない。小鳥さんを連れ帰ることが任務ですからね」
「まったく……わざわざゲートまで超えてルッス様に会いにきたいなんて……。ンフフ、相当ワタシに抱かれたいのね?ユエ」
再び構えを見せるスペールとルッス。
リアと並び、ユエが状況を理解した。
「なるほど。変態の仲間がモノクルだったわけね」
「そーゆーこと」
「強いの?」
「かなりな」
テレパスで止めて欲しいと言われた相手はルッスの仲間であったのかとわかり、ユエは強者であろうと予測した。これは本気でいかなければ勝てないだろう。
そしてどのタイミングで、ルッスの持っている星型の小瓶……巡り雫を奪うか、ユエは見極めなければならない。
「スペール……ユエはワタシに抱かせて頂戴」
「貴方の趣向はあまり好みませんが……。好きになさい。私はギラを狙います」
「わかったわ」
舌舐めずりをし、そのまま指を舐めあげるルッス。リアが目を細めれば、誰もが気色悪い男を連れてきたもんだと思っただろう。
「ユエ、あんたが連れてきたんだからそっちの変態はあんたが処理してね」
「どっちにしたってあの言い草じゃ、あたし狙いだろうね……」
ほとほと気持ち悪い。と訴えるようなユエの目に、リアが”ざまあみろ”という表情を僅かに見せた。悔しそうに睨み返したところで、スペールとルッスが突っ込んでくる。
並んだリアとユエがサイドに飛んだのはほぼ同時だった。
突っ込んできたスペールは、そのままギラ狙い。
動けないまま悲鳴をあげるギラに対し、錬金術の盾を生み出し守りをかためたのはリア。狙いがギラである以上、そこに注力した方が戦略的だ。向かって左側に避けたリアがスペールの姿を捉え、壁を加速台にして弾き、舞い戻ってくる。
間近で行われる肉弾戦に、リリアもギラも目を奪われた。
かわして攻め込み、退いて踏み込む。互いに動きの読み合いで、手を抜けばどちらかが仕留められるだろう。
だが、スペールがまだ本気でないことをリアは十分理解していた。
対して右側に避けたユエを好んで追撃してきたのはルッス。
繰り出された青い炎をフェノメナキネシスの力で相殺し、ユエは踏み込むタイミングを見計らっていた。すぐに体術を繰り出さなかったのは、彼の力が透過であることを理解していたから。
だが、能力を使うにも上限や条件がつくはずだ。それを見破らない限り、勝てないだろう。
「わざわざワタシを追いかけてきたのだから、余程構って欲しかったのよねぇ!?ユエ!」
「くっ……」
「ほらほらほらほら!余所見しないでワタシだけを見て頂戴!」
繰り出される炎の渦。相殺すること自体は難しくないが次の一手が欠けてしまう。
ユエもフェノメナキネシスとアルカナ能力で対抗していくが、ルッスの錬金術の方が上手のようだった。そして何より彼の透過が厄介だ。
「遅いと本気で脱がせにかかるわよ」
「気色悪い……っ」
透過の条件を見抜くのであれば、やはり情報が必要だ。となると無理を承知で突っ込むしかないと開き直り、ユエはそのままルッスに武術を仕掛け始める。鎖鎌と足技をうまく使い、ルッスの体制を崩そうと試みた。
ローブを引きずりながらバク転で後ろまで退き、足のベルトにあった残りのナイフを投げ切る。交わされると思っていた通り、ナイフの動きを読まれ交わされた。今のは通り抜けなかったので透過を使ったわけではない。見え隠れする条件を見極めながら、ユエは再び近距離戦に持ち込まれたルッスに蹴りを入れていく。体を反らして交わされるものと、透過で交わされるものがあったがこれだけでは条件は見えなかった。
奥の奥で戦闘を繰り広げるルッスとユエ。
すばしっこく退き回るユエに、デビトやパーチェは彼女の脚や肉体的に出せる速度がレガーロにいた頃よりも速くなっていると感じた。
「ユエ……」
パーチェが固唾を飲んで見守る中、ユエが一瞬体制を崩したのをルッスは見逃さなかった。
口角を嫌という程あげて、ぺろりと唇を潤しながら即座に近付いてくる。
「可愛い顔をみせてちょうだい♪」
「しま……っーー」
まさか着地で崩れた体制に突っ込んでくるとは思わなかった。
唇が触れ合うのではないかという距離まできたルッスが音を鳴らすような笑顔をする。次の瞬間、剛力とも言える力で腹部の銃創を狙い蹴り飛ばされた。
苦しそうな声をあげながらリリアとギラの前まで飛んできたユエにアンナが動く。
「……っ」
手摺を乗り越え、戦闘を繰り広げているフロアまで飛び込む。
着地と同時に顔をあげ、ユエが投げつけルッスが交わしたナイフを拾い上げて投げようと決める。
「ユエ!」
誰かが彼女の名前を呼んだ。
全力で蹴り飛ばされたユエがリリアとギラの前で蹲っているのが見える。そこに容赦なくルッスが追撃を入れ込むように見えた。
衝撃でユエが纏っていたローブが靡いた。ルッスの視界を埋め尽くすように灰色が広がっていく。
「こんな目潰し無駄だッ!」
箍が外れ、興奮しながら戦闘狂に進化していくルッス。
アンナがナイフを投げる構えをとると同時に、ルッスが灰色のローブを振り払った。苦しそうにしているユエがいるだろうと思ったが、既にそこは蛻の殻。
「!?」
そんな俊敏に動けるといっても限度はある。
ルッスだって獣のごとき速さを誇っているにも関わらず、そこにユエの姿はない。
代わりに背後から攻め込んでくる気配。振り返り、今度こそ紅色の瞳を泣かせてやると殺気を滾らせたが、後ろにいたのは別の女。
「何……!?」
「……ーー」
飾られていた鎧の装飾品のひとつに短剣があった。それを手にとり、ルッスに斬りかかったのは、なんとリア。
背後から振り返ると同時に斬りつけられ、透過の反応が遅れたらしい。ルッスは胸を抑えて、斜めにできた傷に声を荒げた。
「ぐ……っ、……ンフフ……ンフフ」
「……」
「ンフフフフッッ‼‼‼そうよ、そうよそうよ‼‼殺り合うんだったら、こうでなきゃね!!?」
「……」
「一体、いつの間に入れ替わったのかしら!?」
丁度、リアがルッスを斬り付ける頃、ギラを狙っていたスペールに体術を仕掛けたのがユエだった。
灰色のローブを脱ぎ捨て、それを目隠しにし、リアとユエは見事に場所を入れ替わっていた。ルッスは興奮し、気にも留めていないようだったがこの男は違う。スペールは冷静に、この入れ替わりはユエのどの能力かを見定めようとしていた。
「ふむ……。今期のオリビオンのAはヴァロン団長殿の後釜として任命されている……。みたところA、貴女もフェノメナキネシストですね」
「だったらなに?」
「いえ。面白いと思っただけです。そのフェノメナキネシスの力に、瞬間移動が出来るものもあったのかと」
「……」
「はたまた錬金術か……。しかし、貴女のレベルで瞬間移動に見せかけた錬金術は高度すぎる……。錬金術という線はなくなります。ならばその力は”何”か」
ローブを脱ぎ捨てたことにより、ユエはついに団服が露わになる。
青い色に身を包み、ナポレオンデザインになった上着、そしてフレアスカート。右腕に巻かれた紺色のリボンは亡き狼を彷彿とさせる。
リアと似たデザインの服を着ていることから、デビトやパーチェ、フェリチータは彼女が一体どんなポジションに就いたのかを悟ってしまった。
そして今、何より気になったのは腹部から流れるようにして赤くなった痕跡。まるで大怪我を負っていることを思わせる血の跡だった。
「ユエ……」