012. File / 29
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「デビト~!デビトったらー!」
「うるっせえなパーチェ!さっきからそんな呼ばなくても聞こえてるンだよ!」
館までの道のりで、最後に差し掛かった坂を登りながらいい加減うるさくてデビトが振り返る。
ルカと別れてデビト側に戻ってきたパーチェが唇をとんがらせながら言い返せば騒がしさが更に増す。
デビトの第六感が知らせた予兆。まさかこんなに早く表れるなんて、2人は考えもしなかっただろう。
「館に戻ったらどーする?ちょうどお昼だし、マーサにラ・ザーニア作ってもらおうと思ってるんだけどデビトも行く?」
「んあー……まぁそうだな。昼時であるのは違いねェ」
だいたい、なんでパーチェはわざわざ自分を追って戻ってきたんだ。
デビトは余計な気を回さなくてもよかったのに、なんて思いながらパーチェと並んで坂を登りきる。
館の入り口が見えた時、奥の扉をフェリチータがジョルジョやシモーネと一緒に潜って行ったのが見えた。あぁ、巡回が終わる時間だな、と太陽が真上に来ていることを確認すれば視界の端に何かが見えた。
「あぁ……?」
3階の大きな天窓が割れている。
そして、そこから誰かが館に侵入したのが見えた。一瞬にして目を疑うような光景にデビトがパーチェに声を荒げた。
「パーチェ!」
「え!?」
「いいから来い!」
「な、なになに!?いきなりどーしたのデビト!」
駆け出して、確認しようと扉を目指すデビト。びっくりしながらも追うパーチェ。
何かが起きたのか?と思いながら扉を目指せば、ガシャーン!と派手な音が聞こえて来る。方角から言えば間違いなく天窓が割れていた方向だ。
「なにこの音!」
「3階の天窓が割れてやがった。そっから誰かが侵入した形跡がある」
「え、侵入者……!?」
「だろうなァ?人が手薄になるこの時間を狙って、どっかのネズミが入り込みやがったンじゃねーかァ!?」
先に入って行ったフェリチータも気になる。
スートがついているから問題ないはずだが、館の奥から何度も何度も派手な音がすれば”やっぱり勘が当たりやがった”と思うばかり。何度目かわからない舌打ちをして、ようやく扉に辿り着いた。
荒々しく、乱暴に扉を開け、玄関ホールから右上の方へ目を向ける。
リリアが言った通り、ここは吹き抜けになっており3階の様子は見えはしないものの破壊音は聞こえてきた。
「やっぱり侵入者みたいだね……ッ」
パーチェとデビトがそのまま階段を一気に駆け上がる。
先に館に入ったはずのフェリチータやジョルジョ達剣の人間が見えないとなれば、恐らく彼女達も上を目指しているはずだ。
逃がすものか……!と彼らが駆け上がっている最中、それでも3階の踊り場ホールでは激しい戦闘が繰り広げられていた……ーー。
012. 【File / 29】
「せっかくオリビオンからこちらの時代へ飛んでくる時の時空ゲートを妨害したというのに、まさか貴女がやってきてしまうなんて……。我々もついに運が尽きましたでしょうか」
「やっぱ、あんたらだったわけね。コズエのゲートを邪魔したのは」
「フフフ……。あの光源の速さと威力……クレーターの跡を見た時、殺ったとも思ったんですがね。貴女が相手ならば話は別だ」
そう。数日前にレガーロに現れた隕石が落下したような現象。
あれは、オリビオンから禁書の契約者を探すために時代を越えようとしていたユエを止めるため、ゲートに飛び込んだリアが襲撃されていた現象だったのだ。
妨害された時空のゲートはユエだけをノルディアへ運び、ゲートの出口まで辿り着けなかったリアを中途半端な時代へと導いたのだ。
そしてその終着点がレガーロであり、落下の衝撃でクレーターを生み出したということ。
イーラやチディーアの話を聞き取り、館へと急いで向かってくれたのも、ここへ参戦してくれたリアだと分かる。
「重力加算の錬金術をかけているにも関わらず、相殺しながらここまでの動きができるとは。さすが、守護団を率いる者なだけありますよ。リア殿」
「あんたに賞賛されてもなんとも思わないけど」
「そう言わず。私は素直に貴女の力を認めてるのです。ですが……ーー」
言いながら、ギラを抱えたままのスペールが片腕だけでリアの体術を防いでいく。
間合いを取り、踏み込む距離をきちんと弁えたまま、リアの蹴りや無手の術がかわされながらもスペールを追い詰めた。
片手で防ぎながら退路を導き出そうとしているからか、スペールは防戦一方のまま。別の見方をすればリアとの戦闘を楽しんでいるようにも見えたけれど。
「困るんですよ。この小娘を……ギラを手に入れるまで、オリビオン勢に手を出されては」
「あんたらの探し物はその娘?」
「さぁ。どうでしょう?ご想像にお任せしますよ」
リアにとっては久しぶりの戦闘だった。
体調を崩し、倒れてからは絶対安静の状態で日々を過ごしていた。
イオンから持ってきてもらった資料を読解し、考察していただけで体は正直動かしていない。
ましては、本調子か?と言われるとそうでもない。
クレーターを生み出したあの衝撃に耐えた体が、どこまで持つかは時間の問題だ。
対して、その場で守られる形になったのはリリアだった。
スペールが発動したオリビオンの強力な錬金術。それを弾き返す術をーーどんな力だったのかはわからないままだがーー使用し、ギラを撃とうとした彼女。
どうしてあの場面でギラを撃ったのかも不可解だが、リリアは再びスペールの重力に囚われる。
体は思うように言うことを聞かず、腕は落ち、膝は折れたまま。
まだ上半身を起こしていることはできるが、力が更に強くなれば悩ましいだろう。
リリアはそんな状態のまま、まっすぐにリアの戦いを見つめていた……。
「だれ……?」
水色の髪に水色の瞳。青いナポレオンコートで現れたリアに向かって、リリアは思わず本音を零す。
リアがそう仕向けたのか。はたまたスペールがリリアに向けようとしていた錬金術が捉えたのか。天井から落ちてきたシャンデリアが装飾品をキラキラと飛散させ輝いているのが見えた。
リアはスペールを知っていたのだろうか。知らなかったのだろうか。
さして、今のリアには関係ないのだろうが、ギラを捕らえた”敵”を倒さなければならず、それがオリビオンで禁書と契約した悪魔の力を使う能力者だとは……少なくとも理解しているようだった。
「貴女はアルカナ能力者であり、私は禁書と契約した者……。すぐに決着をつけるのは惜しいですからね。楽しみましょう」
「悪いけど、私はあんたらと違って戦いを楽しむ趣味はない」
「それは残念」
「今は……」
リアが無手で攻め入り、スペールが錬金術や片手で攻撃を防いでいく。
互いに武器を携えていないのに、命のやり取りが目前で行なわれていることがギラには息を吸うよりも速い光景に見えていた。
脚を回したリアの攻撃が防がれた。しかし、そこは読めていたのだろう。体制を下ろしたリアが両手で床に手をつき、脚を上げ直す。
勢い付けたまま振りかぶれば、スペールの肩へヒットした。
「バカな親子を探す方が先だ」
ぐっ、と退きを見せるスペール。
ギラもこのまま解放されるかもしれないと淡い希望を持ち、彼の腕の中でじたばたと暴れてやる。
モノクルがきらりと嫌に光るのが見えれば、恐ろしくて仕方なかった。
「やりますね、団長代理殿」
「……」
「いけませんね……興が乗ってしまう……」
「っ!」
モノクルの男はそこで、いとも簡単にギラを投げ捨てた。
スペールからほど近い場所に投げ捨てられたギラは、スペールがモノクルの傾きを直す仕草に息を詰まらせ怯えている。
彼女にはまだ重力の加算がされていないようにみえたが、リアには直後の動きを当てることができた。
「ならば……」
「走れッッ‼‼」
「え?」
「これでどうでしょう?」
リアが忠告であげた声も無駄になり、驚いたギラが声を漏らして目を見開く。
重力加算がギラに向くのが予測できた。そのままスペールが錬金術をギラに向けるのもわかっている。
リアが駆け出しギラに近付きながら手を翳せば、ギラも重力加算が相殺された。
が、そこからのスペールの攻撃が防げない。
錬金術の盾を生み出そうと別の術を使おうとしたが、リアの体に異変が現れたのはそこでだ。
「くッ……」
思わず呻き声を止めることができなかった。
心臓を抑え、異常に脈打った鼓動に嫌な予感がする。
ーーそう、ここはリアにとっては故郷でもなんでもなく自分の時代でもない。まして未来にあたる場所であり、オリビオンと比べ錬金術の廃れたレガーロからすれば強力な術の解放は術者への体へ負担をかけるのだ。
その原理と理由はわかっていたが、相手がオリビオンの錬金術を使用するならこちらも郷の術で対抗しなければ勝てるはずない。第一、オリビオンの錬金術以外リアは扱えるはずもなかった。
「逃げ……っーー」
声がうまく出ない。
無に等しい表情が歪む様を見たのはギラとリリア。異変に気付き、リリアが彼女達に近付きたかったがリリアには重さを相殺させる力は働いていない。
固唾を飲み、劣等感を感じながら前を見据えるだけ……。
リリアが声にならない声を発した時、リアは意地で地から拾い上げたナイフを投げつける。
だが、間に合わないだろう。
「哀れですね。小鳥ちゃん」
「……っ」
「君を助けてくれる”ネオ”も”スザク”も、もういない」
「ーーーー」
振り下ろされる錬金術。
その色を見つめながら、ギラの頭の片隅にもうひとつ蘇ったものがある。それも、色だった。
赤い色。真っ赤な色。そしてもうひとつ、碧い色……。
どちらも、スペールが振り翳した錬金術が纏っている色だ。
「受け渡してもらおうか」
色に魅入られたまま、ギラはスペールを見上げるだけ。
リアが放ったナイフはスペールの片手で防がれギラを守ることができない。
唇を噛みながらリアが踵を蹴り、脚に力を入れて走り出したのも同じ頃。
誰もが思考の欠片の中で”間に合わない。助からない”と諦めを携えた時だ。
リリアの背後から数本のナイフが飛んでくる。
それがひとつ、見事にスペールの錬金術の軌道に重なった。
「チッ……‼」