File / 08
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その日、オリビオンは晴天だった。
晴れ渡る空、雲ひとつない青。見上げながらペールピンクのドレスを着た娘は、くすくす笑いながら言う。
「あんなに反対してたのに、今度は銀の紋章を手に入れるように促すなんて」
「……」
「ウィル、なんだかんだでユエの気持ちが嬉しいんでしょう?」
隣に控えていた2体のホムンクルスは首を傾げながら、カップにお茶を注いでいく。
黄色い目をした方が話に夢中になりすぎて、カップから溢れそうになった紅茶を慌てて止めているのが視界の端に入った。碧い目をした方が、同じく手を止めさせようとして本を片手にポットに手を添えている。
無事に止まったことを見届けて、男は続けた。
「そりゃ……嬉しくないわけないけど……」
「もう。まだぐちぐち言ってるの?好きにさせてあげたら?」
「それは、わかってるつもりだ……。でもユエがオリビオンの血を引いているのは確かでも、育ったのはレガーロであることも間違いじゃない」
「だから銀の紋章を手に入れろって言ってるの?」
「あぁ……。紋章さえ持っていれば、民もユエが動いたとしても従ってくれる……」
「……それって間接的にもう、“守護団に入れ”って言ってるようなものじゃない」
「……――」
“え?”と驚いて顔をあげたのは、コズエとコヨミ。
聞き間違いでなければ、今の会話からいくとユエに守護団へ入団しろ。と言ったように聞こえた。
「ユエさんが……」
「守護団に……?」
驚く2人を余所に、アルベルティーナはふぅ、と息を吐く。
「貴方が口添えしてあげればいいのに」
「それじゃあダメだ。他にも銀の紋章を欲している者もいる。不公平はよくない。まして、ユエは私の血縁者だからね」
「……」
「私は、オリビオンにある全ての者を護り、愛したい。民から不満を募られるような王にはなりたくない」
ウィルが決意した想い。痛いほど、アルベルティーナは分かっているつもりだった。
だからこそ、それ以上は何も言えなかった。
「……わかったわ」
「……」
「でも、ウィル様」
「なんだい?コヨミ」
銀の紋章を手に入れる方法は、今の所一つ。
その試練に参加してくるのであれば、間違いなく紋章を手にするのはユエだろう。
「ユエはきっと、優勝すると思います。彼女より強い民なんて……」
「そうです、無駄に民に怪我が増えるだけじゃないですか……?」
コズエも身を乗り出して聞いてくる言葉。
真の狙いはそこにある。
そんな顔付きで、ウィルは2人の子供たちに優しく笑うのだった。
「無駄ではないよ」
――これは、これからユエがオリビオンで動いていくうえでの財産になるだろう。
【File / 08】
「で。その銀の紋章ってのはどこで手に入るの?」
順調に溺れたダメージから回復したユエは、朝食の席でリアの目の前に席を陣取り、話を聞いていた。
頬杖つきながらサラダをフォークでつつきつつ、視線はリアから逸らさない。
威圧感満載のユエ相手に、こちらもダメージから回復したリアが頬に小さく汗を浮かべて僅かに苦笑いしている。
「ウィルがあたしを開放してくれて、ようやく自由になれるところまではわかった。でも条件である“銀の紋章”はどこで手に入れていいかわからないんですけど」
「自慢の行動力はどうしたわけ?」
「行動した。あれからラディに話を聞いて、守護団全員が銀の紋章を持ってるってことが分かった」
「……で?」
「だから、団長代理のあんたにどこで手に入るのかを聞こうと思って」
そこは調べないのか。なんて思いながらも、まぁ行動したのなら教えてやっていいか、なんて思いつつスクランブルエッグを口にする。
皿の端に置かれたトマトを気にしながら、リアは続けた。
「……まぁ、銀の紋章は書物に載っているような事柄でもないし、載っていたとしても大したことは書いてないだろうから教えてあげもいいけど」
「お願い。マジでお願い」
「そもそも、あんた“銀の紋章”についてそれが何なのか、どんな意味を持つのか知ってるわけ?」
片目を伏せて、コーンスープを啜りながらもう片方の目でユエを確認すれば、ユエは眉間にシワを寄せ、頭に「?」を漂わせていた。
やはり、何も知らないらしい。
「やっぱ知らないんだ」
「守護団が全員持ってる、って聞いた時はてっきり守護団の象徴なのかと思ったんだけど……違うの?」
「……少し意味合いが違う」
カタリ、とコーンスープが入ったカップを置いて、リアが視線をあげた。
ユエと真っ直ぐに絡み合う紅色と水色の視線。
口を開こうとした刹那、長いテーブルの逆端から何かが飛んできた。
ユエとリアはそれをきちんと捕え、投げられたそれをキャッチする。
手の中に落ちたものを見る前に投げてきた張本人の仏頂面を拝んだ。
「アルト……」
「帰ってきてたんだ。お疲れ」
リアがしれっと挨拶を交わし、何事もなかったかのように食事を続ける。
角に座っていたユエとリアの前まで来たアルトが、ユエの手の中にあるものを見ろと視線で促してきた。
「これ……」
開いた掌の中には、丸いピンバッチ。
周りにリースがあしらわれ、真ん中には狼が一匹、勇ましく雄叫びをあげるようなポーズでどんと構えている。狼が雄叫びをあげた鼻先には天秤が描いてあり、天秤には錬成陣と子供の姿が。
天秤のはかりは子供の方が重くなっていた。
全て純銀でつくられたそれこそが。
「銀の紋章だ」
「これ、アルトの……?」
「あぁ」
守護団が誰一人、今の所見える位置にはつけていないそれ。
理由があるのかどうかも聞きたかったが、今のところはやめておこう。
「守護団はもちろん、守護団以外の者でも紋章を持っている奴もいる。デザインは全て同じだ」
「ちなみに銀の紋章の上には、もう1つ黄金の紋章ってのがあるんだよ~」
「黄金の紋章は、ウィルが持ってるんだ」
どこからか、ぞろぞろと姿を現したのはイオンとラディ。
イオンに関してはアルトと共に近海まで調査に出ていたのだろう。一緒に戻ってきたのが潮の匂いでわかった。
どこからか一緒になったのかはわからないが、ラディも朝食をとるためにユエとリアの前にやってきた。
待ちきれなかったようで、リアの皿に残してあったトマトを嬉しそうに頬張るラディ。
何も言わずに頬杖だけついて横にやってきたラディを視線だけで見つめていた。
「黄金の紋章は王族とかじゃないと持てないから、今の所持ってるのはウィルとアルベルティーナだけだろうね。もぐ……ん、おはよう。ユエ」
「そうなんだ……。おはよう、ラディ」
順番が逆じゃないか?なんて思いつつ、美味しそうにトマトを頬張ったラディ。
見ていたら、なんとなく食べたくなって、リアの皿にのっていたトマトに手を伸ばしたが、流石の速さでユエの手は皿の持ち主である彼女に叩き落されたのであった。
「あのヴァロンでも銀の紋章だったもんね~。あ、あと騎士団の幹部クラスの人たちも銀の紋章持ってたよね~」
「つまり、守護団じゃなくてもやっぱり銀の紋章手に入れられるんだ……」