File / 23
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久しぶりに解放された空間に足を踏み入れた。
どうにも鈍りかけている体。手足を動かした時に少しの違和感が駆け上がる。
見上げる先、白い部屋。
ホールと呼ぶにふさわしい大きさと、円の形状はゲートを出現させるにはもってこいかもしれない。
ラ・ステッラの能力。
千里眼で見据えた先、集められた情報から割り出した次の関連する場所。
今回は地名まではわからなかったので、脳内に巡った光景をテレパスで伝えようと試みている。
もちろんその光景をテレパスで送る相手は、ゲートを生み出す者。
「リア!お待たせしました……!」
自室からようやく出てきたリア。共に待ち構えていたアルベルティーナ。
そして、ユエを呼びに行っていたコズエと当人。おまけでついてきた守護団が数名。
ついに次なる白い龍へ近づける関連地を割り出した。と報告を受けたのはつい数分前だ。
コズエに連れてこられるままに部屋へやってきたユエは、2週間ぶりに対面したリアの様子に心底安心した。
あれだけ弱っていた彼女が、ここまで回復しているのであれば問題ないだろう、と。
「遅かったな」
「えへへ……探すのに時間がかかってしまいまして」
コズエにユエを連れてくるように頼んだのはリアだった。ここから先の行動と予定、ユエが動くのが心情的に考えて一番いいだろうと思ったから。
コヨミはまだ再構築に時間がかかる。しかし、関連地もリアやユエ、コヨミの回復を待ってはくれないだろう。
動けるものだけで動こう。次なる地に足を踏み出そう。
そう決めて、彼女はユエを呼び出したのだった。
「リア、もう体はいいの?」
「おかげさまでね」
「そう……ならよかった」
「挨拶はこのくらいで。時間がない。本題に入る」
ついてきてしまった守護団にも軽く目配りして、リアは頷きひとつみせた。
ごくり、と生唾を飲んで話を聞くラディ。最初から準備はできている、とアルトも視線で返事をする。
「ここにくるまでの間に、コズエから少し聞いてると思うけど。次の龍に関連する場所がわかった」
「関連……ってことは、出現地点ではないってこと?」
ユエが気になり、念のため尋ねる。
首を竦めて同意をしたリアは続けた。
「まぁ、聞けって。確かに龍が出現している光景は見えなかったけれど、それより面白いものが引っかかるかもしれない」
「どうゆうこと?」
「禁書と契約した者たち」
「!」
リアがアルカナ能力で見た光景。その中にあったもの。禁書の契約者たち……。
だとすれば、白い龍側についた可能性が濃厚な悪魔の力の持ち主たちの顔や詳細を割り出し、尚且つ見事に屈服させれば龍の出現地点も割り出せるかもしれない。リアにもこれ以上、負担を掛けずに済むということだ。
「顔やらなんやらはまだわからない。でも、気配があった。敵さんがお出ましになる場所がわかれば、必然的に龍の潜んでる場所、襲撃地点、目的がわかるかもしれない」
「なるほどな。で、どうする?」
「もちろん行くんだよね?」
黙って聞いていたサクラとエリカが尋ねればリアがもちろん、と返した。
禁書の契約者をその時代、時間軸から探し出し、話を聞き出す。これが今回の目的といったところか。
「コヨミの話によれば白い龍はクレアシオンを崩壊させた時、何かを探していたと聞いた。探し物がみつからなかったのであればまた動くのは当たり前だし、見つかったのだとしてもこれから何かが起きるはず」
「オリビオンの地に眠る悪魔の力……禁書と契約した者を、他の時代や時間軸に干渉させるのは好ましくありません。どうか、みんなの力を貸して欲しいの」
アルベルティーナも周りを見渡し、願う。
一国の姫の願い。守護団が守るべき存在のひとつ。誰もが首を横に振るはずなかった。
参戦の意思をみせ、笑えば女王は安心したように瞼を伏せた。
「問題はコヨミがいない今、その地へのゲートの繋げ方なんだけど」
リアが横目でじとーっとひとりの娘を見る。
やばい、危険だ。と察知したツインテールの黒髪娘がゆっくりゆっくり回れ右をし始める。
「さすがに吊るし人……唯一時間に干渉できる刑死者の力で数字を操るといっても、ぽんぽん時代を超えられるわけなんてない。つーまーりー?龍と同様の力を持つホムンクルスの力をやっぱり借りたいんだよねぇー?コズエ姉サァン?」
「ひぃっ」
「ってことで、ゲートはコズエに繋いでもらう」
「む、無理ですよ!?」
回れ右しようとしていたコズエの腕をがっしり掴んだリアが、ニヒルな怖い笑みを浮かべている。抗おうにも掴まれた腕の強さが強すぎて逆らえない。ぎゃーぎゃー騒ぐコズエを無視してリアは説明を続けた。
「今回は地名も時代もわかってない。私の脳内に見えた光景をテレパスに乗せて視覚的にコズエに送る。あとはコズエに頑張ってもらうから」
「投げやりです!リア、めちゃめちゃ投げやりです!」
「私だってテレパスに視覚的に情報を送れるかどうかなんてやったことない。物は試しっていうだろー?ほら、始めるぞー」
「ひぃぃぃっ」
こうして犠牲になったコズエには苦笑いを送りつつ、ユエも気合をいれて臨むことにした。
白いホールの中、見える光景。ここからもう一度、スタートだと言い聞かせて。
episode of OLIVION 最終章 突入。
【File / 23】
立たされた白いホールのど真ん中。
汗ばむ手を何度も何度もスカートで拭きながら、不安を隠しきれないコズエがリアの前に棒立ちしている。
リアは腰に手を宛ててため息混じりにコズエを見ているが、まぁ気持ちはわからないでもない。
ゲートを繋ぐのはいつだって能力が安定しているコヨミの方だったから。
死ぬという概念がないホムンクルス、ウィルが再構築すればコヨミは再び起きあがれるだろう。だが、待てない。
心のホムンクルスは才能のホムンクルスである妹の代わりになれるかどうかが不安なのだ。
「わ、わた、わたし……ちゃんと安定してゲート繋いだことなんてないのに……」
「……」
「コヨミの代わりなんて……」
「今はぐだぐだ言ってる暇もない。悪いけど協力してもらうよ」
「で、でもみんなが全然違う時代に飛んじゃって帰ってこれない可能性もあるのに……」
「心配ないだろ、そのへんは。第一、コズエ。あんただってレガーロからアルカナファミリアを呼び寄せた時はきちんとゲートを繋いだじゃん」
「そ、そうだけど……。でもあの時はみんなを止めなきゃって必死で……」
「なら今も一緒。これは最終的にヴァロンに繋がる可能性がある」
「!」
「ヴァロンに会える。それを想像しながらゲートを繋いで」
リアが腕にあるスティグマータに力を込め、光を放ち始める。
コズエに向けて、視覚的にも情報を送り込めるように……限界に挑む。
「ヴァロン様に……会える……」
「(従え……ラ・ステッラ。真実を掴むための力なんだ。私に……––––)」
「ユエさんが……みんなが報われる、幸せになれる……」
「(従え……!)」
手を翳し、リアがコズエに向けて能力を解放した。
瞼を閉じ、ゲートを作る前にコズエが情報処理のための体制にはいる。
リアが唇を噛み締めながら、水色の光の中に念を込めて送り出した光景。
水路、街、街灯、仮面、チェス、祭り。
コズエがひとつずつを抱きしめるように受け取っていく。脳内で高速処理されていくそれは常人では片付けられる量ではなかっただろう。彼女がウィルが生み出したホムンクルスであるからこそ成せた技。
情報と共についてきたリアの苦しみや痛み、切望を一緒に受け取りながらコズエは耐え切った。
「コズエ……リア……」
圧倒的な力を持ち繰り出される能力。
ユエが2人の交信をみながら、生み出されていく黄色い光の円に気付いていた。
「あれ……」
「ゲート……」
「コズエの奴、情報を受け取りながらゲートを繋げてるのか」
「整理する時間は要さないってとこが、さすがウィルのホムンクルスだね」
円の入り口は大きく、廻国を巡る戦いの時よりも安定したように思えた。
がたがたとふらついていた振動はなくなり、しっかりとした基盤で生み出されるゲート。
ユエは自分のことのように、コズエの成長が嬉しかった。
「コズエ……」
やがてリアが手を止めた。
情報がすべてコズエに行き渡ったようだ。
一歩一歩、後退しながらコズエが生み出すゲートの入り口を眺める。
「成功……って言ってもいいかもね」
「さて、どうする」
アルトがリアに尋ねれば、リアはユエの顔を見ながら視線でアルトと同じことを尋ねた。
「……っ」
”止めないけど”。
そう言うような顔つきに、ユエはもう一度ゲートの入り口を見る。
例え先がどんな場所になっていようと。
必ず禁書と契約した者を見つけ出す。そして捕まえて、龍の居場所を割り出すんだ。
「行く」
「そうこなきゃな」
リアが口角をわずかにあげてドヤァと笑う。
ユエがゲートへと歩み出したのを見て、アルトとラディが頷く。
「僕たちも一緒に」
「アルト、ラディ……」
「ユエを一人では行かせない。共に行こう」
「なんていったって、僕たちユエの仲間だからさっ」
ウインクを飛ばしてきてくれるラディと、頷きをみせたアルト。彼は振り返り、サクラとエリカに”イオンを頼んだ”と告げた。
サクラが”お断りだね”と間髪置かずにいれていたが、エリカが肘鉄砲を飛ばし、アルトに”いってらっしゃい”と笑顔で見送る。
ユエが瞼を閉じたまま、ゲートを繋げることに集中しているコズエの前まで辿り着いた時。
横にいたリアも踏み出した。
しかし。
「リアはダメよ」
「は?」
ぐいっ、と腕を引っ張られ元の位置よりも後ろに連れて行かれる。
リアを呼び止めたのはアルベルティーナだった。
「リアはダメ。病み上がりだし、ウィルから許可が出てないわ」
「おいおい、ユエの次は私を軟禁する気?あいつに許可なんてもらう必要ないんだけど」
「いいからリアはダメ。またいつ無茶して倒れるかわからないんだから、しばらくはオリビオンで休養してもらうんだから」
「誰の権限で私を止められるって言って「女王の権限よ」…………」