File / 22
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閉められたカーテンが開かれる音がした。
瞼を押し上げて、射し込む光に目を細める。
「……まぶし」
「ふふっ、ほら起きて。リア」
明るい声が響いてきた。
それも本来の明るさより作っているような気もしたけれど、今は何も言えない。
体を起こし、目を擦りながら部屋を右から左まで行ったり来たり、忙しなく動く声の主に言葉が出てこない。
「調子はどう?」
「……だいぶよくなった」
「そう。ならよかった」
能力の酷使から、体に大きな負担をかけていたリア。
能力を使うことをやめ、しばらく大人しく部屋で絶対安静な日々を過ごしていた。
ユエに鼓動の神殿から連れ戻され、早2週間。
その間、目を覚ましている時は地下書庫以外の気になる書物を読み返し、パラケラススや白い龍につながるヒントを探し続けていた。
そして何より解読を急いでいたのは、ユエから聞いた鼓動の神殿の古代文字と壁画が指す意味。
こちらはもう一度地下書庫に乗り込む必要がありそうだったが、仮定をいくつか立てて白い龍に近づこうとしていた。
「ウィルは?」
同じく、考えなければならないのは白い龍の出現地点。
リアはウィルから強いられた絶対安静を守り抜いた2週間を終えようとしている。
次なる動きに出る頃合いにはもってこいだ。
何より、2週間前にクレアシオンに乗り込み再起不能となって帰ってきたコヨミ。
ウィルはつきっきりでコヨミの再構築にあたっており、リアが動けない今、ファリベルがウィルをサポートし続けていた。
「まだよ……。でも手応えはあるみたい」
「そ……」
ウィルがコヨミを再び喚び戻せれば、ゲートが開けるはずだ。
残念ながらコヨミが動きを止めた時、クレアシオンへの道は閉ざされてしまっていた。
振り出しに戻り、白い龍の行方がまったくつかめなくなったオリビオン。
開け放たれたカーテンが見慣れた景色を映し出す。
窓から見下ろした先に、中庭が見えた。そこで今、鍛錬として組手をしている者たちが見える。
絶対安静を強いられた今、部屋から一歩も動かしてもらえないリアが彼らの姿を見たのは実に2週間ぶりだった。
「リア」
「なに」
「……ラ・ステッラ」
改まってなんだ、と視線を窓の向こう側から動かせばアルベルティーナが不安そうにこちらを見ている。
「能力……つかうの?」
「約束は守った。あれから2週間、きっちり休んだし、能力も使わなかった。遠慮するつもりはない」
「……」
「今度こそ……」
––––見つけてやる。逃がしはしない。
オリビオンから放たれた災厄の種。
必ずこの手で止めてみせる、と胸に誓う。
その先に、ヴァロンがいることを信じ続けて。
【File / 22】
風を切り裂く音が耳元で響く。
次にくるであろう攻撃のために両手を前に構えて、相手の蹴りを凌いだ。
蹴られた反動に乗り奥へと飛んで追撃を逃れる。
飛んでくるはずのナイフも読めているので、ここですかさず力を使う。
「ぐっ……」
「甘い」
「まだ……まだッ‼‼」
現れた錬金術の盾が飛んできたナイフを弾き落とす。
盾の内側で両手を翳して炎を生み出し、敵役を買って出てくれた相手めがけて投げつけた。
意志を持った炎は飛んでいき、手の内を離れた今でも敵の攻撃を自主的に避けて攻め続ける。
その間に盾を超え、自らの足でも飛び出した。
「チッ……」
「(この場面、雷で……金属ナイフを操る‼‼)」
敵が炎の雨を避け、退いている間に先程弾き落としたナイフを電流を使って手繰り寄せる。
反応を見せたナイフが、電流の速度をもって持ち主のところへ戻ろうとしていた。
「何……ッ」
ナイフが己を越えていく。
それを追うようにして蹴りを繰り出せば、相手を仕留めたのは最後の一撃だった。
「ッ!」
寸のところで止めてやり、踵を相手の首元に宛てがった。
跪いた敵役はナイフも炎にも打ち勝ったが、マルチで繰り出された攻撃の最後にきた蹴りを交わせずに負けを認めた。
「……悪くない」
「ほんと?」
「あぁ。実にキレのある戦いだった」
敵役を買って出てくれた手合わせの相手……アルトが服の汚れを払いながら立ち上がる。
宛てがった踵を下ろし、アルトに相手をしてもらっていたユエも青いフレアスカートを整えた。
「錬金術の盾が出てくるタイミングも悪くない。大きさは別として」
「あー……もう少し大きく作れるかやってみる」
「問題はそこだけだ。俺が投げたナイフをフェノメナの力で手繰り寄せて使用したのは機転の利く戦闘方法だ。感心する」
「あ、ありがと」
褒めるところは褒め、認めるところは認めてくれるアルトにユエが照れくさそうに言う。
”悔しいが、今日のところは負けだ”と握手を求められたのでそのままきちんと返してやった。
さすがは守護団の切り込み部隊といってもいい男だ。”10”を担うアルトが守護団の中でも強者であるのはよくわかる。
「……そういえば聞きそびれたんだけど」
「なんだ」
「守護団の数字って、なにか理由とかがあるの?」
ユエがふと、己に与えられた数字を思い出す。
A。それは1を表した意味。
「意味?」
「うん。あたしがどうして、1を意味するAなんだろうって思って」
本来、1を指すならばリアの方が相応しいと思っていた。
どうしてリアが2であるのか、と。強さの順?とも考えたが、総合的に考えて順位をつけるほど実力差がある守護団のメンバーではない。
「担う数字に、どうして任命されたのかは特に理由はないはずだ」
「そうなんだ……」
「とは言っても、これはヴァロンがつけたものだからな。あったとしても知りようがない。あいつのことだから理由がそもそもないだろう」
「あたしがAになったのは?」
「単にそこが空席だったからだ」
つまり。
「Aはヴァロンが背負っていた数字だ」
知らなかった。と声が漏れた。
そうか、この1は父親が背負っていたものなのか。と襟元に飾った紋章を眺める。
「強さの順でつけるならば、今いる守護団では間違いなくイオンがAになる」
「え」
何気なく、特に意味なく発言されたアルトの言葉はユエにとってとても意外だった。
「意外か?」
「うん……。別に戦闘狂なイメージもないし……」
「あれは見境がないからな。箍が外れると、手がつけられん」
理性を無くして戦えるのは、守護団のメンバーだけでイオンだけだ。
アルトが箍が外れる危険があったのは、ユエのトーナメント試合だったのを思い出してため息をついた。
「(確かに、イオンってへらへらしてるし何考えてるか、あんまわかんないけど……)」
「あれは身内にいても扱いに困ることが多々あるが、敵にはしたくないな」
「そーかなー?おれはユエちゃんが敵になっちゃったら、例え見境なくても殺しはしないと思うな~」
「……」
「あ、でもいろんな意味で襲っちゃうかな~。殺しはしないで楽しんじゃうよー。アルトくんは苦戦した挙句に倒しちゃうかなー?」
「はぁ……」
いつの間にか現れた当の本人に、無言で”いつからいた”と問いかけたアルト。大きなため息をついて、それ以上返答するのはやめようと決め込む。
アルトの空気を悟ったのか、その話はそこまでにしてイオンがユエの前にへらへらしながら出てきた。
「ところでユエちゃん、調子はどーう?」
「まぁまぁかな」
「いつでも戦争できそー?」
なんと物騒な物言いだ。
苦笑いしながら、”覚悟はできてるけど”と返す。アルトはイオンがここに現れたのはユエに用事があるからなんだろうと察知して、肘鉄砲を一つ喰らわせた。
いてっ!と返しながら、”そうだった~”なんて言うイオンにユエは首を傾げる。
「そうそうユエちゃん、今日リアが白い龍の出現地点を割り出すみたいだよー?」
「あいつ、回復したの?」
「ウィルからの絶対安静命令は2週間だった。期日は守ったというところか」
「そうそーう。たぶん、もう能力使い始めてると思うから結果が出たら一緒に聞きに行こうかと思ってー」
イオンが”ね~エトワールー”と懐から愛用の銃に話しかける様も相変わらずだ。
しかし、ユエとアルトは顔を見合わせた。
イオンがこうも任務やら特別な動きに積極的なのが珍しい。
「イオン、やけに乗る気だな」
「そうかな~。いつも通りだよー?」
「なんかあった?」
「えー、ユエちゃんまでひどーい」
エトワールに会話を投げかけながらも、ユエとアルトの答えに彼はぶーぶー文句を言う。
しかし、きちんとこう言ったことにも理由があった。
「まぁ、強いて言うならリアちゃんに本を届けてる時におれも気になっていろいろ調べてみたんだよね~」