File / 20
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『創造者は廻国へ封じる。1つは2つに。2つは2つで1つ。声を亡くし、完成の時を待ち侘びる』
『待ち侘びど、どれだけ待てど、完成しないことを願って』
【File / 20】
ユエがオリビオンに来てから、もうすぐ5ヶ月の月日が経とうとしていた。
コズエと共に、鼓動の神殿に向かったのは先日のこと。
その日にわかった多くのことは、再びユエを地下書庫や城内の書庫へと閉じ込める理由になった。
あの日、最後に鼓動の神殿でわかった一文。
”待ち侘びど、どれだけ待てど、完成しないことを願って”
それが、右側の傷に刻まれていた内容だった。
結局、その日に掴んだヒントはそれだけで。パラケラススが世界の創造者と語られている人物であることはわかった。
しかし、白い龍の正体、そしてレヴィアとセイレーンというまたもや謎が増える結果になりユエは片っ端からレヴィアとセイレーン、そしてパラケラススの関係を書物から探し出すことにしたのだった。
「全然でてこない……」
作業は難航。
なんといっても歴史を紐解いているわけだが、伝説ベースだ。壁画のことすら記載がないのに、一般人にあたるかもしれないレヴィアとセイレーンが書物から読み解けるだろうか。
いい加減、本と仲良くするのも飽きてきたところだ。
少し気分転換を……と、城内にある一般の書庫から出た時だ。
「あれ」
窓の向こう。
外を通して、向かい側の廊下を付き人も付けずにひとりで歩いているアルベルティーナの姿をみつけた。
それも随分と落ち込み気味であり、哀愁漂う。
心配になり、声をかけようと回り道をして姫のあとを追いかけた。
「アルベルティーナ」
「!」
背後から突然呼び止められたことに驚いたようで、ビクリと肩を震わし振り返る。
ユエの姿をとらえ、反射的に顔が強張ったのに気付いた。
「ユエ……」
「こんなとこで何してんの?コズエは?」
コヨミが出払っている今、姫の付き人として支えるのはコズエだったはず。
もともと、コヨミがどこへ行っているのかもユエは知らなかったけれどコズエはオリビオンにいるはずだ。姫が一人で出歩いていていいはずない。
「コズエは……私が頼んだ使いで手が空いていなくて」
「そう……。どこいくの?ついていこうか?」
「いえ、平気よ。用は済んだから」
この廊下の向こうには医務室しかないはずだ。
どこか体調でも悪いのだろうか。顔色は確かによくなかったが、体はどこも痛そうではない。
「医務室に用だったの?」
「えぇ。薬の在庫を確認したくて」
「言ってくれればやるのに……」
「……ありがとう。でも私、こんなことしかできないから」
「え……?」
「象徴なだけで、本当に役に立たなくて……」
ぼそり、と聞こえた声を聞き取ってしまった。
どうしてそんなことを言うのか、と聞き返したかったけれど張られた境界線を踏み超えることが、まだ、出来ない。
「ごめんなさい。なんでもないの」
「アルベルティーナ……?」
「ユエも何かしていたんでしょう?戻っていいわ。私も部屋に戻るから」
「じゃあ、送るよ」
「……ありがとう」
少なくとも、こんな衰弱してしまいそうな顔をしているアルベルティーナを一人残して気分転換などしている気にはなれなかった。
ここは普段、あまり誰も寄り付かない東の塔付近。このへんの書庫をもう一度しらみ潰しに当たろうとしていたが、ここで彼女に会えたのはよかったかもしれない。
「あのさ、姫様。聞いてもいい?」
「なにかしら?」
「あたし、今調べてることがあって。その事柄について知ってたら教えて欲しいんだけど」
真横を歩くのは、一国の姫に失礼かな、と思いユエは半歩さがったところで声をかけていた。
アルベルティーナの表情は見えない。大きな心配事と疲労しているのはわかったけれど、ユエがかけた声でどう動じたかは読めなかった。
「パラケラススと白い龍についてなんだけど……」
廊下。空間。木漏れ日。
音なんてひとつもないのに、何かが揺らぐ音がした。
前を歩いていたアルベルティーナが足を止めた。
ユエが気付いて顔をあげ、倣って歩を留める。
半歩の距離が保たれたまま、2人は立ち尽くしていた。
「ユエ……それを知って、どうするの」
「どう……って、」
過程はきちんと覚えている。
禁書と契約した者がいると知った。禁書とは何かを知りたくて調べていたら、たまたま廻国の存在について知ることができた。そこで出てきた白い龍とパラケラススという人物。
そして白い龍を消滅させるべき時に、自分の力が劣らずに龍を生かしてしまったこと。
その龍のもとに、禁書と契約をしたものが見方になった可能性があること。
ヴァロンを探す前に、食い止めなければいけなかった廻国から放たれた白い龍をどうにかしなければいけない、と思った。
これが今、ユエが書庫に閉じこもり、本との睨めっこに没頭している理由である。
だが、この事柄の中にはウィルとアルベルティーナの会話を盗み聞きしたことも入っている。
話していいかどうか迷い、ユエは吃った。
「あたしは……銀の紋章を手にいれた理由のひとつに、禁書について知りたいって思ったから」
「……」
「その禁書について調べてたら、廻国の存在理由と封印された白い龍の話を……地下書庫で知って……––––」
禁書と白い龍の繋がりを知っていることは、話さなかった。
言えばまた、何かを制限される気がしてならない。
せっかく手にいれた自由を、何かできるチャンスを無駄にはしたくなかった。
「パラケラススと白い龍については、本を読んでもでてこないから。姫様なら知ってるかと思って……」
振り返ったアルベルティーナの瞳が、なぜか悲しみに満ちていた。
ユエは言葉を飲み込む。
なぜ、そんなに悲しそうな顔をしているのか……わからなかった。
「ユエ、貴女も強いわ」
「え、」
「ですが、それ故に心配です。貴女が……無茶をしないかどうか」
––––リアのように。
続けられるはずだった言葉の裏には、含みがあった。しかし語られない音はユエに届かない。
首をひねるだけのユエに、アルベルティーナは眉をおとして笑った。
「私から話せることは何もないわ」
「……、」
「ごめんなさい。ひとりになりたいの。護衛はここまででいいわ」
例えば、フェリチータのように相手の心が読めるならば。
どうしてそんな顔をして、どうしてそんなことを言ったのか、わかったかもしれない。
ユエの能力は読心術ではない。向けられたものが拒絶なのか、愛情なのかわからないまま、その場に立ち尽くし、アルベルティーナの背を見送ることしかできなかった。
「アルベルティーナ……」
呼んだ名前すら届かなかっただろう。
角を曲がろうとした姫、廊下の真ん中に突っ立ったユエ。
見送りもここまでか、と踵を返そうとしてた時に運命を変える一言が放たれた。
「姫様……!アルベルティーナ様!」
「!」
「コズエ?」
ユエが踵を返し、アルベルティーナに背中を向けた刹那。
視線の先に血相を変えたコズエの姿があった。
どうやら酷く気が動転しており、息を荒げている。パニックを起こしているようにも見えた。
「コヨミが……!!コヨミが戻りました……!!」
「っ……!」
「すぐに……すぐに来てください!!ひどい怪我してて!!」
叫び声はアルベルティーナにも届いていたようで、はしたないという気持ちを捨てて廊下を走り抜けてくる彼女。ユエを追い越して、コズエのもとまで駆けていく。
ユエも迷い、それについていこうかどうするか一瞬悩んだ。
しかし、コズエが泣き崩れながら告げた言葉に決心する。
「ユエさんも……!お願いします……っ」
「……っ」
「コヨミが伝えたいことがあるって言ってたんです!!」
早く!と促され、ユエも2人についていくように駆け出した。
涙を拭きながら走りだすコズエに、息を荒げながら走るアルベルティーナ。
緊迫した事態が起きていると悟れば、胸のざわつきは酷くなる一方だった。