File / 02
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「遅い!」
「……」
「時間厳守ってあれだけ伝えたのにそれでも遅れてくるから、本当になにかあったのかと思ったじゃない!」
「ひぃぃ!」
城の門をくぐり敷地内へ。
そこから、だいたい家族とも呼べるメンバーがいるはずの談話室へ行ってみた。
予想通り、ユエとコズエは仁王立ちしたファリベルに、再会早々怒鳴られることになる。
怒りのファリベルの声を聞きつけたコズエは、ユエの背後に姿を隠し、彼女に対峙することになったのはやっぱり自分か、と溜息をついた。
「今日、ユエの外出を許可したのに条件をつけたの忘れたの?時間厳守、コズエを連れていくことって伝えたわよね?」
「ごめん」
「気持ちがこもってないっ!」
ユエがオリビオンにやってきて、約3週間の時間が流れた。
廻国が消滅して、約1月。
復興作業にあたる中での生活、慣れない土地と文化。懸念されて、心配されていることもわかっていたけれど、正直なところユエにとっては窮屈でしかなかった。
ルカ並みに小言を吐くようになってしまったファリベルに、背後で“またやってるよ……”と溜息をついたエリカとサクラ。
未だ肌寒い室内では暖炉が燈されており、火の調整をしていたシノブと、腕を組んで座っていたアルトが同時に溜息を吐き出した。
「ウィルだってあんなに散々心配してたのに……。どうして勝手な行動するのよ」
「勝手っていうか……。街を見てたら足が止まっちゃって」
「時計を見て行動して。それじゃなくても、今日は森の庭園まで行ってきたんでしょう?あそこは一応、オリビオンの外になるんだから……」
「だから心配しすぎなんだってば……」
「2人ともその辺にしておいたら」
見てられない、と声をかけたのはシノブ。
呆れた顔してこちらに視線を投げてきたアルトも、2人に“やめろ”と言っているようだった。
「無事に帰ってきたんだから。それに、ユエの強さは知ってるだろう。ファリベル」
「えぇ、知ってるわ」
「だったらあたしのこと、そんな風に扱わなくても……」
「知った上で言ってるの」
シノブの声すら遮って、ファリベルが決まり事を諭す姉のように告げてやる。
「この国は今、ランザスから本当の意味で解放された。でも痛みや苦しみが消えるわけじゃない」
「……」
「人は学習する生き物よ。今のオリビオンは規律やルールを重んじて動く方針になりつつある。前みたいに平和で自由でいていいわけじゃないの」
「っ……」
「ユエ。この意味わかる?」
コズエは、自分がついていながらユエが怒られる結果になってしまったことが申し訳なくて仕方なかった。
意を決して、ぐっと前に出て行こうとしたコズエ。しかし、その仕草で何をしようとしているのかがわかってしまったらしく、ユエの腕に止められる。
背中で守られて、コズエはユエの視線を見つめたけれどユエの目に恐れはなかった。
「わかってる。ただでさえ、前のオリビオンの在り方も文化も知らないのに、変わっていく“今”に対応できるはずがないって言いたいんでしょ」
「……少し捕え方が違うけれど、まぁそんなところね」
「だからって軟禁生活するために、ここまで飛んできたわけじゃない」
「なら、貴女は貴女のするべきことを優先して」
「……っ」
――……言い返せなかった。
確かに、庭園の手入れをするためにオリビオンに来たわけではないし、ここに永久的に過ごすためにレガーロから去ったわけじゃない。
オリビオンの土地や文化に慣れることも必要ではあるけれど、優先すべき知識は別のところにある。
“太陽の代償”について。これが優先すべきこと。
調べることに対し、動いていないわけではなかったけれど、結果が出せてない今、何を言っても勝てるわけがない。
「ちょっとファリベル、言い過ぎじゃないのぉ?」
「そ、そうだよ……ユエだって城に閉じ込められてていい気分になるわけないし……!」
フォローをいれてくれたサクラとエリカだったけれど、ファリベルの次の言葉で言い返せなくなる。
「ユエは紋章だって持ってない。おまけに国王になる立場のウィルが、ユエの行動に制限をかけてるのよ」
「それは……」
「悪いけど、私はそこに従い、規律を守らせることが与えられた仕事だから」
そのままユエを追い越して、談話屋から去っていくファリベル。
サクラとエリカが顔を合わせてなんだか気まずそうにしていたけれど。
ユエは溜息を小さく零して、項垂れた。
――……わかってもいる。納得はしていないけれど。
ファリベルがいうことが正しい部分の方が多い。
ファリベルも色々考えてくれていることも理解している。
だから追い抜き様にあんなに切ない顔をしたんだ、ということも。
コズエの視線を感じながら、ユエはそっと踵を返すのだった……。
【 File / 02 】
「で、大人しく逃げてきちゃったの?」
ぶっす~としながら頬杖ついて、本を読み漁っていたけれど結局集中することが出来なかった。
確かに、ウィルにまだ太陽の代償については話を聞いていない。城にある全ての本も読んでいない。
だけれど、ここにいて衣食住をさせてもらっている以上、何かオリビオンのためにも動かなければならないと感じていたのも事実。
もちろん、森の庭園がどうなっているのかを確認したかったのもある。あそこに花を手向けに行きたいと思ったことも。
やりたいこと、この目で見たいこと、手を貸したいこと、真実を掴みたいこと。沢山ある。
だけど、真実を掴むまでまさか軟禁生活を強いられるとは思ってもみなかったのが本音。元の性質が自由人だから縛られることがこんなにも苦痛だなんて思わなかった。
「逃げたわけじゃない。そうするしか出来なかった」
「集中できずに真実掴めるならそれでもいいと思うけど」
「だって、あたしには本を読んで、ヴァロンの行方を探すしかないってことでしょ?城から出ちゃダメ、何をするにも許可がいります、許可とってきてください、許可ないとダメです」
「……」
「で、取りに行ったら“却下”。あたしは異端すぎるから動くのは禁止です……って。ちょっと酷すぎ」
「主にそうさせてるのはウィルだけどな。というかウィルだけか」
不貞腐れたまま書物室の机に突っ伏していたら、そこに現れたのが今、話を聞いてくれているリアだった。
彼女はどちらかというと任務がある時以外は自由にしていたし、ウィルにも逆らえるくらいの権力……――というか行動力がある気がする。
ここがレガーロだったら、リアの立場にいたのは間違いなくユエだった、なんて過去に縋ってみた。
同時に情けなくもなる。
「まぁ過保護だからね、うちの錬金術師は。ましてや血のつながりがあるってなったら尚更」
「じゃあ、あたし本当に自由に動けないわけ?」
「さあ」
決してユエとリアは、隣に座るような親しい関係では――まだ――なかった。
正面の席からひとつずれて、斜め前に座ったリア。彼女の方とは真逆に顔を向けて机に突っ伏すユエ。
お互い耳だけを働かせて、話を続ける。
会話の声にまじって、時折リアが本のページをめくる音が聞こえた。
「そう思うなら、納得させてみせれば?」
「力で?心配されないくらいに?」
「そこも自分で考えるべき個所」
「考えてる。けど、ここの“常識”についていけてない」
「それがウィルが懸念してるとこでしょ」
「……」
図星だ、と思えば最早何も出来ない。
「ウィルはあんたが強いことなんて重々承知してる」
「……」
「でも、あんたが慣れないオリビオンで生きていくための術がないことも知ってる」
「……」
「じゃあ、頭を使って考えるべき」
ガタリ、と立ち上る音が聞こえた。
その音に合わせてユエも顔をあげれば、リアは部屋から出ようと背中を向けていた。
「ウィルはあんたの動きを封じ込めたいのに、どうして誰も監視につけないんだかね」
「え?」
「じゃ。私、団服新調するために採寸してくるから」
「……」
パタリ、と閉じられた扉。
残されたユエの中には、ウィルの思考を読み解くヒントが残された気がしていた。
「……ウィルは、あたしを試してるってこと?」