File / 18
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辿り着いた地下書庫の門前。
風を切り裂くようにして下ってきた道はこれで2度目。
見上げた先にはもう小さく入り口から漏れる光も届かないような場所だった。
前回、ここでやりあった時の残骸や名残がまだある。
門番との対決で傷つけた跡もそのままであり、地に滴った水はここの温度に耐えられずに霜になっていた。
あれから2ヶ月以上の時が流れた。
今、こうして青い団服に包み襟元に銀の紋章をつけてオリビオンを闊歩できるのは、あの日ここで挫折しかけた過去の自分がいるから。
門番もいない、そして力を確実にあげたユエはかたく閉ざされた扉の前に立った。
「忘れない」
オリビオンのために動く。この国を守る。
そして、いつか必ずヴァロンを助ける。
自分の足で、デビトのもとへ帰る。
もてる全力の笑顔で、「ただいま」と言いたい。
「……よし」
行こう、と踏み出した足。
しかし、それは上からやってきた音に遮られた。
「いやあああああ!ユエさぁぁぁあん!!」
「?」
下ってきた入り口の方、顔を見上げて音源を辿ればそこにはツインテールを逆らわせてやってくる––––もとい、落ちてくる––––コズエの姿。
「助けてくださいぃぃ!このままじゃ止まれないですぅぅ!」
涙目で叫びながら落下してくるコズエ。
あぁ……なんて思ってしまったが、溜息をついて右手を彼女に翳してやる。
これでもウィルの姪だ。だがしかしヴァロンの娘だ。
錬金術はなんとか使えるようになっていたが、簡単なものしか使用できない。
今、コズエに使おうとしているのはただの盾だが、コズエと冷たい地面の間に張ってやれば彼女をキャッチするくらいの役目は果たせるだろう。
「あ、ありがとうございます……!」
無事に盾の上に尻餅をつきながら着地したコズエに、ユエは溜息混じりの苦笑い。コズエもつられて苦笑していたが、ゆっくりと近付いてきて閉ざされた門を見上げた。
「ついに……辿り着きましたね。ユエさん」
「うん」
自由に動けるようになるまで時間もかかった。
だからこそ、こうして意志を貫き通してここまでこれたことが嬉しい。
「開けるよ」
「はい!」
未知なるものが先に広がるだろう。
辛いかもしれない。苦しいかもしれない。だけど目を逸らさずに前に進み続けよう。
必ず辿り着く先に、待っててくれる人がいると希望を持ちながら。
自分の足で、前へ。
【File / 18】
「うわぁ……すごい」
重く大きな扉を開けた先、ひろがっていた空間はとても広かった。
だが、ウィルが言っていた通り、大きいだけで実際に置いてある書物自体は少ない気がする。
高い天井。扉の前までは湿気が多かったのに、ここはからっとしている。
至る所に備え付けの本棚があったが、どれもサイズは小さい。
暗い空間に目が慣れてきて、全貌が明らかになるかと思ったが……これは光源があったとしても先の先までを一気に捉えるのは難しいかもしれない。
ふと足を踏み出し、驚いたのは次。
ボォっと、足元と壁側にある燭台に火が勝手に灯る。
歩いて先に進めば、勝手についていく炎。光源としてはまだ少し弱かったがないよりマシだ。
片手に取り出したウィルからのメモ。まだどの辺りなのかはわからないが、これを頼りに進むべきだろう。
「ユエさん、怖くないんですか……?ひっ」
「コズエ、くっついてるのはいいけどもう少し離れて歩いてほしい」
「は、は、はは、はい!善処できないと思いますが善処します!」
「(連れてくるならコヨミにするべきだったかな……)」
完全にびびってしまい、へっぴり腰なコズエにもう一人の双子の妹を思う。
あの子はあの子で無表情すぎて、空間に似合いすぎるかもしれない。
不意に話しかけられたらユエの方がびびりそうだ。
まぁ協力してくれるだけいいか、とユエはもう一度辺りを見回した。
灯る燭台の橙は、奥の奥までは照らせない。
しかし、目の前の道らしき道は教えてくれている。
少し行ったところにひらけた場所があり、机と椅子が用意されていた。
あそこで書物を読むとしよう。地下書庫から持ち出し厳禁な書物を扱うのだから、外で読むことはできないだろうから。
「コズエ、ちょっとここにいて」
「へ!?ひ、一人で行くんですか!?」
机と椅子の場所まできて、ユエがコズエに待機を命じれば彼女は真っ青な顔で口をあけていた。
「多分、この燭台の火は錬金術なんだと思う。だから気配がなくなれば火は勝手に消えちゃうみたい」
ほら。と指差せば既に入り口の方は真っ暗闇。さっきまでついていた燭台は順番に消えてしまっている。
机と椅子をせっかく見つけたのだ。ここをひとつの目印にしたい。
「だから、ここにいてもらった方が助かるかなって」
「ひぃい……わ、わかりました」
「お願いね」
「う、う、歌っててもいいですか!?」
「え、あぁ、うん。いいけど……」
一歩、また一歩とコズエから離れて書庫の中を歩き回ってみた。
どこにいっても、コズエが大声で歌を歌っていてくれるのが聞こえるのでこれはこれで助かる。
戻る方向が指し示されていたからだ。
「おっまえのいっのちはうーみのさちぃーー!」
「なんでその選曲……?というかどこで覚えて来たの……」
「のこっさず食べって俺のーもーーのーー!」
合いの手は入れた方がいいのかどうか考えながらも、とりあえず手短な本棚から漁ってみることにした。
おそらく、ウィルが指し示してくれた場所までこれたはずだ。
オリビオンの古代文字はかなり特殊だが、なんとか一般書庫で頭を抱えながらも覚えたのはつい先日のこと。
その古代文字で”歴史文献・伝承・地学”と書かれたジャンルの本棚が見つかったからだ。
「とりあえず、あの時街の人たちが騒いでいたのは禁書についてだった。禁書の正体を知るとなると……」
伝承と歴史が近いだろうか。
古びた厚い本を指先で辿りながら、1つのタイトルに惹かれた。
「これ……」
”オリビオン禁時文献”。
持ち出しは不可とされており、旧いまじないがかけてある。ここから持ち出されれば燃えるような仕組みなのだろう。
ユエはそれを脇に抱え、もう何冊かを持ち寄ることにした。
その後、隣の本棚と同じ本棚から数冊手に取り、コズエのところへ戻ることにする。
どれも似たようなものばかりだったが、歴史とこの国の伝承について何かわかれば、また進む方角が見えるかもしれない。
「シノブですら禁書については”危険なもの”としか認識がなかった。街の人たちも同じように考えて、本の墓を見ていたなら”禁書が危険”って伝わった理由とその時期があるはず」
伝承にも必ず始まりはある。その始まりを紐解き、理由を知れば何かできることがあるかもしれない。
未だに大声で海の男の歌を歌っているコズエの声を頼りに、ユエが彼女が視界に捉えられる所まで戻れば、コズエは涙を流しながらユエの帰りを待っていた。
「ユエさぁぁん!」
「ごめんって。お待たせ」
「もうめちゃめちゃ怖かったですよぉ!」
「歌上手だったよ」
「それとこれとは関係ないですぅぅぅ!」
ははは、とポカポカ背中を叩いてくるコズエをあやしながらユエは机に数冊の分厚い本を置いてやる。
次に起きるであろうことを想像して、コズエの涙は止まることを知らなかった。
「まさかここで読むんですか……?」
「持ち出しできないからね」
「その量を……?」
「読まなきゃ始まらないから」
「うぅ……ですよね……」
「隣で寝ててもいいよ」
「寝れないですよ!こんなに不気味なところで!」
とりあえず椅子に腰掛けて、コズエも座るように促してやった。
そこからは集中力との勝負。
コズエはまだ泣き叫んでいたけれど、ユエは耳をシャットダウンして本とにらめっこを続けた。
1冊目はオリビオンが辿ってきた歴史について語られていた。
しかし、最初から古代文字ではなかったことから予測できた通り、語られていたのはランザスとオリビオンの戦いの勃発について。港の開港記念日の話までであった。ここは本人たちから聞いていたし、何よりその戦いを終わらせたから知っている。
とりあえず最後まで読みきったが、当てが外れた。
気を取り直してもう1冊。
次の1冊は、またもや今現在オリビオンで使われている文字と同じもの。
サクサク読み進められることができたが、この国の歴史と、廻国が原因ではなく起きた他国との戦いについて述べられていた。年号から見て、アルベルティーナやウィルが生まれる前のもの。
廻国をめぐる戦いに比べればなんてことなかったが、どうして戦いが起きたのかを綴られていた。確かに、庶民がここまで詳しい内容を知っているはずないな、と納得する。
結局2冊目も目当ての事柄は一切出てこなかった。
ヤマを張っても仕方のない作業だ。次へ、と手を伸ばしたところで気がつく。
「結局寝てる……」
静かだな、と思えば机に突っ伏して笑顔を浮かべながら眠っているコズエの姿が真横にあった。
この真っ暗闇の中には似つかないくらいの幸せそうな表情であり、先程飛び出てきたコズエの発言を疑うくらいだ。
「まぁ、怖い思いしないで済むならそっちの方がいいか」
このまま寝かせといてやろう、とユエは静かに3冊目を手に取った。
3冊目は、一番最初に気になった古代文字の文献。
ごくり、と唾を飲み込んで表紙のページを開けてやる。
見開きが出てきた時点で古代文字が継続されていたので、頭を抱えることになった。
「マジか……全部古代文字……」