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「みなさん、今日はとてもいい天気となりました。新たな門出をまるで喜ぶような天候に私も嬉しく思います」
激動のトーナメント試合から数日。
晴天の空の下、オリビオンではとある授与式が行われている真っ最中だった。
風に乗ってプルメリアが流れていく。
城で一番大きく、正面に位置するバルコニーで民へと呼びかけるのは一国の女王。
そして傍に仕えるウィル。更にコズエ、コヨミ。
守護団はリアを除いた全員が集合していたが、民と同じ屋外の庭園からアルベルティーナを見上げていた。
既存の守護団メンバーはどうやら外の警備のようである。姫の元にはウィルもいるし、コズエもコヨミもいる。何より一番のセキュリティーポリスとしてリアが抜擢されていた。
「こうして、守護団が13人になり……新生オリビオンの守護団として生まれ変わったこと。とても喜ばしい限りです」
「……」
「今日ここに至るまで、多くの犠牲を伴いました。たくさんの家族を失い、家を失い、苦しんだことも事実です。何よりウィル・インゲニオーススの実弟であり、守護団団長でもあったヴァロン・インゲニオーススの失踪。そして、巫女の死……。私もたくさんの悲しみに直面しました」
「……」
「もう、本当にダメかと思い……一時は全てを諦め、せめて生き残った者を守る為だけに眠りにつきました。ウィルも廻国を封印するために、多くの時を犠牲にしました」
語られる言葉たち。
国民がどこまでの事実を知っているのかユエにはわからなかったが、あの戦いの中、たくさんの者たちの口から語られた伝承は、やはり切ない物語である。しかし、切ないだけで終わらなかったのも、また運命だ。
「しかし、私たちの国……迷宮都市・オリビオンが再び再建できているのにも理由があり、縁があります。今日は授与式と共に、その事実と私たちを救った英雄を忘れずにいただきたく思い、こうして語らいの場を設けさせていただきました」
アルベルティーナが反面振り返り、ユエを見つめる。
こうしてユエがきちんと名を語り、そしてオリビオンの歴史上に姿を表すのは初めてだ。
前へ、と促され、不安そうにリアを横目で見やる。肝心のリアは片目を閉じて、だるそうにしながら”早く行け”と小声で言ってくる始末だ。
「私は、この国に廻国が何故存在するのか、ずっと疑問に思いながらも、思うだけで何も行動してきませんでした。しかし、今こうして私たちが他国からの侵攻を受けずに生きていける可能性が高くなったことには、廻国が消滅したことが大きく関わります」
「あ、ユエちゃん」
アルベルティーナの横に現れたユエに、屋外の広間から演説を聞きつつイオンが声をあげる。
横に構えていたアルトもユエの姿を捉え、僅かに口角をあげた。
「似合ってるじゃないか」
「ね~。ユエちゃん胸ないけど美脚だよね~。あの子を抱いたデビトが羨ましいな~」
「イオン。お前の趣向に口を出す気はないがここは公衆の面前だ。言葉を慎め」
「抱いたってこと?」
「お前な……」
イオンとアルトが私語をしている間にもアルベルティーナの話は続いていく。
そしてイオンとアルトが”似合っている”と口にした理由もすぐにわかることになった。
「ここにいる彼女、ユエは廻国を消滅へ導いたオリビオンの救世主である一人です」
「……、」
ざわざわと、集まった国民たちがアルベルティーナの横に立つユエの姿を見て声をあげる。
それは戸惑いや不満ではなく、どちらかというと驚きや感謝、感嘆だった。
そしてユエの姿はある意味すでに知れ渡っていたので、二重で驚かれたのだろう。
「彼女、ユエはここから遥か遠い国で生まれました。しかし、彼女の父親はオリビオン出身の者です。故に、彼女はオリビオンの血を継いでいます」
「……」
「しかし、その父親の詳細は……––––詳しくわかっておらず、調べることも困難を極めています」
アルベルティーナが言葉を濁したのには理由があるだろう。
だが、今はまだ……何も言えないのだ。
「そんな彼女が廻国を消滅させたとある一味の一人であり、今こうしてオリビオン再建のためにこの国へ身を置いてくれることになりました。そして……」
オリビオンの空は遥かに遠かった。
この行路を進み続ける先に、必ず、必ずいてほしい人がいる。掴みたい真実がある。
だから。
「今日この日をもって、ユエがオリビオンの守護団に13人目として入団することを報告いたします」
【File / 16】
「姫様の演説、すごかったね!」
アルベルティーナによる国民へのユエの紹介が終了し、今は屋外の庭で立食会が設けられていた。
粉チーズをかけて、遠慮なくドリアを貪るジジ。そしてタバスコをたっぷり入れたピザをアルトに仕掛けようとしているイオン。飲み物を口にするだけの––––イオンのターゲットになっている––––アルト。
隣の席では周りをきちんと警戒しながら楽しんでいるエリカとサクラ。外交の種まきとして隣国の大臣と会話をしているファリベル。
アロイスとツェスィも美味しそうな食事に胸を躍らせ、バイキングを楽しんでいた。シノブは恐らく屋根の上から様子を見ているのだろう。ウタラも同じくしてこの立食会には姿を見せなかった。
そんなみんなにるんるんと話しかけたのはラディ。
「何よりユエが可愛かった!」
「だよね~ラディくん。ちなみにラディくんはユエちゃんのどこを見てたの~?」
「どこって全部だよ?」
「やだなぁ、部位的な話だよー」
「うーん、どこも綺麗だったけど、一番は脚かな?いい脚線美だったよね!」
「おいジジ、この2人を止めてくれ」
「やなこった。俺は今、チーズふりかけんので忙しいんだ。邪魔すると慰謝料請求すんぞ」
「はぁ……」
ラディの会話にのってゲスを曝け出すイオンに、彼を止めようと格闘するアルト。
しかしラディまで加わってしまえば話は別だ。ジジに応援を要請したが、一蹴されることになる。
ツェスィはにこにこ笑顔でそんな様子を見ていたが、アロイスがみんなを惚れ惚れしながらため息をついた。
「それにしてもあんた達……新しい団服、似合ってるわ」
そう。
今日は新しいオリビオンの守護団が生まれた日。新生守護団の始まりの日だ。
それに合わせて、ずっと新調しようとしていた団服がお披露目された。
戦争が終わり、新しい気持ちで国を守っていけるようにと願いを込めて国家の色に指定されている青を基調にしたそれ。
全員がナポレオンコートをモチーフにされており、枠は金、中地は白、そしてボタンは全て純金の装飾であしらわれた。
ボタンはもちろん、至るところにオリビオン国家の紋章が入っている。
ジジとイオンはロングコート。
ラディは半分のスラックスで上もばっちりナポレオン仕様で決まっている。
アルトはロングではなかったが、上着がナポレオンモチーフであり、下は動きやすいようにカスタマイズできるようになっていた。
エリカとサクラは上着はほぼ同じである。今回の女子の団服はとても可愛らしく出来上がっていた。
ファリベルは元からスラックススタイルだったので、今回も貫き通したようだ。
それはリアも同じだったよう。あまり前と変わらないが上着がきっちりとしたナポレオンコートになったのを全員が見かけていた。
アロイスもモチーフは同じく、だが彼女のはワンピース風に仕上がっている。
ツェスィも上下一体型であり、スカートはふんわりフレア、その上から丈の短いコートを着るようになっていた。
「アロイスさんも似合ってます……相変わらずいいスタイルですね♪」
ツェスィから告げられた言葉にまんざらでもないように答えたアロイス。
そして先程でていたラディとイオンの言葉は、守護団として団服を着て民の前に現れたユエに告げられていたものだった。
「ユエちゃんも似合ってたよね~団服」
「そうだね。ユエの脚、綺麗だったなぁ……」
「だいじょうぶ、エリカも綺麗よ」
「そ、そうかな……そんなことないと思うけど……っ」
照れたように告げるエリカに、大臣のもとから戻ってきたファリベルが笑う。
そんな警備をしつつ、楽しそうに食事をする光景をリアはバルコニーの上から眺めていた。
団長代理であることには変わりない。ヴァロンが戻ってくるまでの間、リアが主体となって守護団をまとめていく必要があることに変わりはなかった。
だからこそ、リアはユエの面倒を見るような気持ちで共にあったのだ。
後にこれが大きな絆に繋がるなんて予測もせずに。
「ねえ、いつまでそうしてんの」
「……」
「おい、ユエ」