File / 11
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「うーん、ひどい有り様だね~エトワール」
検証に来たイオンの第一声。
昨日。植物園の一面の窓ガラスが、錬金術によって破壊されたと聞きつけて、借り出されたのだった。
一緒に来たファリベルは先程から熱心に錬成陣について調べているが、イオンは相変わらず傍に寄り添う妹と話をしてばかりだ。
ふらふら~と園内を一周して、不審者がいた形跡や錬成陣の組み替えの跡を確認はしたものの、それ以降は全てファリベル任せ。
それもいつものことなので、さして気にしないファリベルは設置されていた錬成陣を見ながら渋い顔していた。腑に落ちない、というように。
「おかしいわね。通常どおり、定刻に水をあげる錬成はできていたみたいなのに、どうしてそのあとにこんなことになったのかしら……」
と言いつつも、もう答えは半分でている。
故障でないとしたら、誰かが意図的にこの園内の錬成を変えたのだ。
「……まさか、城の中でその大罪を犯せる者がいるなんてね」
ここは天下のオリビオンの城だ。
ウィルに刃向かう者、アルベルティーナを危険に晒そうとした者がいるということ。これを黙って見過ごすわけにはいかない。
そして気になるのはもう一つ。
「でも今回は、ウィルやアルベルティーナを狙ったわけじゃなさそうね」
「ファリベルちゃーん、何かわかった~?」
呑気に話しかけてくるイオンに、ファリベルは小さく溜息をついてから言う。
この男、どう使いこなしていいのかがわからない。アルトに相談したほうがいいかしら?なんてぼやきが浮かんでは消える。
「窓ガラスが割れた原因は、錬成陣の組み替えね。誰かが意図的にしてるわ。故障ではないの」
「そっか~」
「錬成陣を見る限り、時間で発動するものじゃないわ。誰かがその手で完成させて、頃合いを見てタイミングで発動させたもの」
「つまり狙いたかった人がいるってことだね~」
「問題はその人物よ」
この大事な時期に、どうして彼女なのか。何を目的として狙っているのか。調べる必要がある。
「その時間、ここを抜け道として通ったのはユエだけよ」
「つまりユエちゃんを殺したかったんだね~」
「どうかしら?この殺傷能力の低い力じゃ、あのユエを殺すなんてまず不可能に近いと思うけれど」
つまり、脅しでかけてきているのか。はたまた、ユエを狙っているがユエの実力を知らない者か。知るために仕掛けた者なのか。
「どちらかといえば、おそらく前者……脅しに近い気もするけれど」
でも何故?
どうして脅しを彼女にかける必要があるのか。彼女がここへ来てから、特別外をふらふら出回ったのも数少ない。知り合いがいるはずもないのに、恨まれるようなことをしたのだろうか。
「本人に話を聞くほうが早そうね」
踵を返し、ファリベルは検証を終える。
連れてきた部下たちに後処理を頼み、ウィルたちに報告をするために植物園をあとにした。
そんなファリベルとイオンの影を、植物園から遠く離れたところで見る者がいる。
錬成させた目玉、その目を通して視覚だけをこちらに預けているようだ。
植物と花の匂いに混じり、何かの薬品の匂いがする。
おかしい、と感じ取ったイオンだったが、目玉に近しい箇所に視線を向けるだけで……。
「……––」
攻撃を仕掛けることはなかった。
いや、しなかった……。
「イオン、何してるの?戻るわよ」
「はいは~い」
守護団へ入団するため、銀の紋章を手にいれるためのトーナメントは6日後に迫った日のことだった……。
【File / 11】
「…………だれ」
「だから、えーっと、その……」
「だれ」
「ひぃぃっ」
植物園で嫌がらせにあってから2日が経過した。
トーナメント進出まであと5日に迫ったところ。
許可が出た闘技場で、1人修行に明け暮れていたユエを訪ねてきたのはコズエだった。
コズエがユエを訪ねてくること自体は珍しくもないが、ユエが修行中にわざわざ来ることは初めてだった。
呼び出されたので、コロッセオの外まで向かいコズエと対面する。
そこにいるもう数名のメンバーにユエは顔をしかめ、コズエにきつい口調で聞き返した。
どうにもいやな予感しかしない。
「えっと……この子たちは、姫様が懇意にしている宿場の主人のご子息ご令嬢たちで……」
「コズエ~、鬼ごっこしようよ~?」
「わぁ、髪ながーい!綺麗~!」
「あわわ、引っ張らないでくださいぃ!痛いですぅ!」
「……」
「じゃなくて!そのご子息ご令嬢たちなんですが、わたしの手には余るんです!なんとかユエさんの力を借りれないかと思いまして……!」
「いや、あたし修行中なんだけど……」
「それも分かった上です!でもお願いします!一緒に面倒みてくれませんかぁぁあ!?」
背中に背負った末の息子。
右手と左手に長女と次女。走り回る長男と次男……。
全部で5人の子供がコズエと共にやってきた瞬間から、そんな気はしていたのだ。
聞いたところ、発端はこうだ。
アルベルティーナが隣の宿場町へとウィルとコヨミ、リアを連れて視察に向かうとのことであり、”真剣に今後の国の行方について話し合いたい”との要望も重なり、遊び盛りの娘や息子を預かったそうなのだ。
ベビーシッターの人も一緒についてきたそうなのだが、途中の船酔いにやられ今は医務室で休んでいるらしい。
その間、元気な子供達の世話をする者がいなくなり……。
ココアでお茶をしていた――置いて行かれたともいう――コズエが役目を買って出たのだが、要領の悪さからすぐに根を上げてしまったらしい。
守護団は各自でオリビオンのために動いていて、今日も手が空いている者がいないようだ。
代わりといってはなんだが、トーナメント間近で修行に明け暮れるユエしか思いつかなくてここへやってきた、とのこと。
「もう、わたし一人じゃ無理です!あっ、ちょっとそっちに行っちゃだめですよ!こらぁ~!」
「……」
「ちょ、ちょっとユエさんお嬢様方を見ててください! 待てこらぁ~!」
「…………マジでか」
コズエが話ながらも元気に周りを走り回るご子息たち。はいもいいえも言う前にもはや決定事項らしく、ユエに言伝してコズエはご子息たちを追いかけていく。
背中で揺られている末のご子息がコズエが走るたびに激しく揺れていたのをみて、大丈夫なんだろうかと不安になる。
そして置き去りにされた2人のご令嬢。
目の前のユエを見上げて、首を傾げつつ純粋な目でみつめてくる。
「おねえさま、コズエさんのお友達?」
「なかよしなの?」
「うーん、友達……なのかな……?でも、まぁそんな感じ」
「なかよしなんだね!コズエさん、ずっと涙目で不安そうだったのは、あなたに会いたかったからなんだね?」
「そう……なのかな……」
子供から見ても不安そうにしていたのか、なんて思い、今までのコズエからそれが想像できてしまうことに笑みを浮かべてしまう。
コズエはどこにいってもコズエだ。
「……しょうがないな」
ここは腹をくくって、1日くらい相手をしてやろう。修行はこの子たちが帰った夜でもできるだろう。
膝を折り、地に双方つけて視線を合わせてやる。
「あたしはユエ。あなたたちのお名前は?」
「イラーリ!」
「エラ!」
「そう。かわいい名前だね。どっちがお姉さん?」
「エラがお姉さん!」
「じゃあイラーリが妹さんね?」
「そう!」
「そっか、いいね。姉妹がいるの羨ましい」
「ユエさん、お兄さんもお姉さんもいないの?」
「……―――」
言いかけて、思い出す。
いないと言っても嘘。いるといっても、それは彼女たちのいう兄弟や姉妹とはまた少し違う意味になる。
「お兄ちゃんがいるかな、一応」
「そうなの?どんなお兄ちゃん?」
「どんな……」
まさか掘り下げられるとは思ってなかったので、返す言葉に困る。
悩み、……ありのまま伝えた。
「自分の主人のことが大好きで、ちょっと変わってるけど……頭のいい優しい兄貴だよ」
「優しいんだぁ!エラも優しいよ!」
「そう、仲がいいのね」
「イラーリもエラに優しいんだよ!だからエラも寂しくないの!」
「……それはよかった」
「ユエさんも、お兄ちゃんがいるから寂しくなぁい?」
こんなことを聞かれるなんて思っていない質問ばかりが飛んでくる。
イラーリとエラは慣れたのか、ユエに近づいて手を握りながらにこにこしていた。
寂しくない?
それに頷けば、これも嘘になる。
ずっと、どこかで寂しいと思っている。それは守護団との戦いが、このオリビオンで終わりを迎えたあの時から。
ヴァロンの面影を追って、デビトとさよならをしたことも。ヴァロンを見失ったことも。
寂しくない?と聞かれれば”寂しいんだ”が真っ先に返ってきてしまった。
だから、嘘をついた。
「うん。寂しくない」