File / 01
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星色の髪が突風に靡く。
力強く攫われる体の一部に、体を傾けさせないようにして脚に力を入れた。堪えた。
眼を傷つけないために覆っていた腕を払い、目先にいたはずの敵の先へ。
視線を辿れも、相手はそこにはおらず、随分先にある白いゲートへ片足を突っ込んでいるところだった。
「じゃあね、“A(エース)”」
「っ……」
「あんたはここで戦いの行く末を思って嘆いてなさい……!」
相手が、敵が逃げてしまう。
このままでいいことなんてない。
なんのために、何をするためにここに来たのかをよく考えなければいけない分岐点にいた。
気付いたら立っていたわけではない。望んで選んだ道の先に現れた分かれ道。
ここまで歩いてきた日々を思った。ここへやってきた意味を問うた。
「逃がさない……ッ」
「バカ!ユエッ……!」
背後から名前を呼ばれた気がした。
だけど、気にしてなんていられない。
あたしは、たったひとつの真実と、その先に隠れているはずの希望を手に掴むために全てを置き去りにしてきた。
白いゲートをくぐりながら、敵を追う。
たくさんの時間、時空、時代を渦巻かせるその空間、思うように体が動かない。
受けた傷は痛んだ、きっと血が滲んでる。滲んでないはずがない。
それでも、前を行く敵を見失わないように、スローのような動きで走り続けた。
前へ、前へ。
「……っ」
思い出す。
オリビオンへ来た日。
こうして動きにくい時空のゲートを覚束ない足で、でもしっかりとした想いを胸に歩いてきた日を。
そこから今日まで歩んできた日々を。
瞼を閉じて、もう一度覚悟を決める。
脳裏に浮かんだ日々に背中を押されて。
白いゲートの終わりから力強く飛び出す。
胸に二つのバッチを輝かせて。
目の前に広がる景色に驚きながらも、敵を討つため。
あたしは鎖鎌を引き抜いた……――。
アルカナファミリア
第5章 外伝
第5章 外伝
- episode of OLIVION -
【 File / 01 】
その国は長かった冬を越えた。
花は咲き乱れ、曇り空は晴れ渡り、光が辺り一面に降り注ぐ。
晴天の空には鳥が飛び、人々の活気は確実に戻りつつあった。
かつてその地は、廻国という魔物を封じ込めていた空間があった。
開門されるものならば、封印された魔物たちが世界へ飛び出し、終焉へ導かれるといわれていた。
それが故、他国に狙われることがあった。
平和でなくなってしまったこの国を救ったのは、100年後から時代を越えてやってきた能力者たち。
アルカナ能力を使い、この迷宮都市・オリビオンを救った彼らは英雄として一部の民の間では記されることになる。
だが、それもまだ一部の者の間だけ。殆どの国民は、時代を越えてやってきた英雄たちがオリビオンを救ったなんてことは知らないだろう。
こうして、伝承が生まれていくことも今はまだ先の話である。
「……これでよし、と」
長い長い橋が導く先。
復興作業に追われつつも、本来の明るさを取り戻すオリビオンから海を渡った先にダクトと呼ばれる森がある。
その森の入口、至ってオリビオンへ続く橋から近い場所に小さな湧水が出る庭園があった。
どんな天気の日でも天使の梯子が舞い降りる庭園は、かつて騎士団の団長、そして守護団と呼ばれる強者をまとめた者が好んでいた場所。
白を基調にした煉瓦造りの湧水の水場、新しく設置した入口の花のアーチ。
小鳥たちが休みやすいようにと動物用の水飲み場なども用意して。
最後に庭園の後方、湧水場の正面に備えられているのはリースだった。
地に置かれているのではなく、宙につられたそこには、まるで結婚式や誰かの祝い事に渡すような色とりどりの花束が2つ。
可愛らしく揺れるカスミソウが、それを供えた人物を満足げにさせた。
「お墓ってわけじゃないけど」
墓、とはいえない気がした。
十字でもなく、墓標でもなく。だけど誰かの存在を象徴するようなリース。
――……目前に立つ者は、肩下まで伸びた髪の色をオリビオンでの戦いのときとは別の色に変えていた。
「ユエさん!」
呼ばれたので、振り返る。
この先の森の中に家を持っている少女の声。
コズエか、なんて思いながらきちんと視線が合えば笑ってやった。
「もぉ、探しましたよ?突然いなくなっちゃうんですもん……」
「ごめん。ちょっと気になって」
「だったら声かけてくださいよ……。心配しちゃいました」
“また”と言われるのは失礼だ、なんて思いながらも眉を下げて笑ってやる。
薄明光線に輝く光は、変わった髪色を反射させた。
「――……ほんと、そうしてるとヴァロン様と巫女様の娘だなって思います」
「ん?」
ユエ。
彼女は列記としたアルカナファミリアのメンバー。
どんな経緯でファミリーにいたのかは、コズエは知りえなかったけれど、彼女が別の時代からここへやってきたことが、オリビオンが解放される物語の始まりなのは知っている。
その時は色素の薄い茶髪だったのだけれど、今は彼女の意志で髪の色は星色……もとい金髪と呼べる類に変わっていた。
「茶髪、似合っていたのに……って最初は思ったんですけれど、こうしてみるとなんだか金髪の方がユエさんらしい気がします」
「それって似合うってこと?」
金髪の髪の端っこを持って、へらっと笑う彼女にコズエはうんうん!と素直に頷く。
彼女……ユエがどうしてここへ戻ってきたのか。あの戦いで世話になった者たちは既に周知の事実だった。
「茶髪だと巫女様に似ていますし、金髪だとヴァロン様そっくりです」
「へへっ、ありがと」
誇らしげに笑んだユエは、あの先の戦いで中心人物となって戦った女。
彼女をオリビオンの恩人というべき相手であることも知っている。
ユエが廻国を消滅させた張本人であるのは、守護団もウィルも姫君も認識していた。
そして、ユエがウィルの姪にあたる女であり、ヴァロンと巫女の娘であることも。
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