04.
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1つ、あたしは大きな事実に気付いてしまった。
ヴァニア。
あの近海の令嬢と、あたしに対するデビトの接し方の大きな違いを。
「……―――」
あの繊な動きで、手を差し出す仕草。
お似合いの2人。
エスコートするデビトも、それに笑顔で応える彼女も。
「あたしには全然、触れてこないくせに」
繊細で、優しく触れた指先。
その先には、あの少女の存在。
「まぁったく。そんな顔ばっかりしてるからダメなのよ」
「そうだよユエ!可愛いんだから、もっと笑ってないと勿体ないよ!」
「男なんていくらでもいるわよぉ?隠者にこだわる必要なんてないじゃない」
ガチャガチャと賑やかに食器の音が響く空間。
隣に腰かけていた人物は頬杖つきながら綺麗な指先で1つ、チェリーを口に運んでいく。
前に座っていた少年・ラディは、ダンダンと手をテーブルに打ちつけながらユエへと前のめりに告げて来た。
「というか、僕がもらう!僕がユエをもらう!」
「あら、それも面白いわね」
「おい、このテーブル粉チーズ置いてねぇのか?」
目の前に腰かけているラディの横で、辺りをきょろきょろと見回しているジジは、ある物を探しているようであった。
「というよりー、ユエちゃんの気にし過ぎだとも思うけどね―」
「そうかなぁ……」
「そーだよー。男なんて可愛ければ誰でもいいんだからさー」
「お前、それコイツへのフォローになってないぞ」
「えー?」
「そこのオヤジ!粉チーズ!粉チーズ持って来ーい!」
粉チーズへの愛の叫びをあげているジジの更に横では、ニコニコと笑顔を浮かべた赤褐色の髪の男・イオンが楽しそうにしていた。
その前で溜息をついたアルトはこめかみを抱えている。
「もういっそー、アッシュくんとかにしたらどーう?」
「いいよ!アッシュに行くなら、同じ魔術師の僕がユエを幸せにする!」
「お前は年の差を考えろ」
「へい!粉チーズお待ち!」
会話をよそに、運ばれてきた粉チーズのビンのストックを見て、ついにジジは耐えがたいというように立ちあがった。
「ふっざけんなオヤジ!ケチケチしてねぇでもう10瓶くらい持って来いよ粉チーズ!」
「ひぇえっ!?10瓶ですかッ!?」
「ったりめぇだろ!こんな1瓶で足りるワケねぇだろうが!無料なんだろ!?さっさと持って来いって!」
「そ、そんなぁ……!」
「それともなんだ、ここは粉チーズに追加料金払わせる気か!?どんだけ現金至上主義なんだテメェ!」
「それ、アンタが言えることじゃないでしょ」
ぎゃーぎゃーと騒ぎだし、自分の相談どころではなくなったユエは、フォークの動きを止めて、冷静になり、口を開いた。
「ていうか」
目の前の、時代の違う人物たちに。
「なんで守護団がレガーロにいるの?」
「「「え?」」」
04.
レナートに肩を抱かれて、イシス・レガーロの裏方に回った頃。
時刻は21時を回っていた。
夕方から手を貸していたユエからすれば、ちょうどお腹がすくであろうと思った彼の好意に甘えて、ユエは今休憩時間を過ごしていた。
1人で来たリストランテ。
手軽な軽食をして、すぐにあの場に戻ろうとしたのだが、足取りは軽くなかった。
そんな時だ。
注文を終えて、1人で食事が運ばれてくるのを待っていた彼女のテーブルには、いつの間にか見知った顔が取り囲んでいた。
左隣にアロイス。
右隣にアルト。
正面にラディ。
その右にジジとイオン。
どう考えても、生きる時代が違う人物がまるで“当り前”とでもいうように、ユエのテーブルを囲んで食事を始めたのだ。
「なんでって、ユエがそんな顔してるからだよ」
ラディがサッとユエの横、アルトとの間に回り込んで来て、ガシッと腕を掴む。
ラディはキラキラした緑の瞳でユエを見つめていた。
「ユエにこんな悲しい顔させるなんて。僕ならこんな想いさせないのに」
「ら、ラディ……」
「だからアンタは年齢考えなさいよん、ラディ」
アロイスがカクテルに浮かんでいたチェリーをもう1つつまみ上げて、ヘタをくるくると回していく。
「愛に年なんて関係ない!」
「おぉーラディくんいいこと言うー」
珍しくイオンも参加して来たかと思えば、彼がそのまま続けたのは安定のネタだった。
「おれもー愛に年齢も容姿も、性別も関係ないと思うんだー」
「だよね!イオン!」
「そうそーう。だからおれはエトワールを愛してやまないし~」
「お前の場合、容姿というより存在を超越してるがな」
アルトの鋭いツッコミすら、全く気にせずに右から左に聞き流すイオン。
デレデレしながら笑顔を見せて銃を構えるその様は、本当に怪しい人物に近いものであった。
「ったく、ここの店主チーズを甘くみすぎてるぜ」
「ジィジはユエの悩みを真剣に聞こうとすらしてないわねぇ」
「あ?悩み?」
「ははは……もういいよ」
話を最初から聞いていなかった、という雰囲気丸出しで、ジジは運ばれてきたパスタとグラタンに山盛りの粉チーズをかけていく。
みんながユエの話をしている最中も、彼は我関せずというようにチーズの道を進んでいたようだ。
「(なんでここにいるのかも疑問だけど、守護団のメンバーに会っちゃったことも、あたしの不運かも)」
ある意味、気は紛れるのでとてもありがたいが、真面目に相談している自分もバカらしくなってきてしまったユエ。
溜息をついて、軽食で頼んだパストラミのサンドを口に含んで溜息をつく。
そんな様子を真横で見ていたアロイスが、痺れを切らして肩を落とした。
「ユエ、アンタ何でそんなに悩んでるのよぉ?」
「え?」
「ちゃんと言ってみたらどう?」
「ちゃんと……?」
どうやら隣に腰かけていたアロイスは、割と真剣に話を聞いてくれていたようで。
頬杖ついた綺麗な顔が、覗き込んで来る。
ユエはまじまじとそれを見つめながら“美人だなぁ”なんて考えていた。
「アンタが隠者のどんな態度で悩んでて、何がイヤなのかを伝えてみたらどう?」
「べつにイヤだなんて思ってない……」
「やだねーやせ我慢しちゃダメだよー」
イオンがエトワールの銃口をナプキンで拭きつつ、ボソっと言い捨てる。
アルトは既に口を挟む気はないらしくて、目を伏せて耳だけ傾けていた。
「現に、悩みの種はデビトでしょう?」
「……」
「というより、今のアンタ達ってどんな関係なのよん?」
「どんな?」
言われて気付く。
いや、再び自覚する。
今、デビトにとって、自分は……―――何なのだろう。
「あーもう!じれったいわね!」
アロイスがもぉん!と机を叩き、ビシッ!と指を突きだす。
ユエはサンドを手から離して、小さく指の前に縮こまった。
「まず!どこまでしたの!?」
「ど、どこまで……?」
「アンタ達、両想いなんでしょう?お互い想いあってるんでしょ!?」
「えっと…」
「やだ!僕そんなのやだ!認めないっっ!」
「ラディ、お前少し大人しくしてろって」
粉チーズを大量にかけたグラタンを頬張りながら、真顔で話の行方を見つめていたジジがラディを宥める。
ラディがバタバタしながら、涙目でユエを見上げていた…。
「で、どこまでしたの?」
アロイスはラディの存在もお構いなしに、恋愛講座を続けていく。
「キスくらいはしてるんでしょ?」
「キ……っ」
当り前とでも言うようにサラリと口にして流すアロイスの発言に、ユエは瞬時に顔を赤らめた。
反応を見て、ラディが叫びをあげる。
ラディと強制的に隣同士になっているアルトは、無言で水を口にしていた。
イオンは何故かニコニコしながら、話の行方を見守る…。
「し……たけど……、」
「どっちもしたの?」
「どっちも…??」
赤い顔になりつつ、アロイスの視線に捕えられ逸らせないユエ。
アロイスは溜息混じりに“ダメねぇ~”なんて首を振りつつ呆れている。
「ふつーのキスと、」
「!」
アロイスの細くて綺麗な指が、ユエの顎を捕える。
そのまま這うように指先が唇に触れ、軽く押し込まれた。
くいっと顔の角度も変えられれば間近に彼、いや、彼女の顔。
「舌で口内を犯すような、深くて気持ちイイ…キス―――」
「ちょ、アロイスッ!」
どんっ!と顔を真っ赤にして、ユエが彼女を押し返せば、イオンは更にニコニコを繰り返している。
ラディの叫びは止まらなかった。
横にいるアルトの肩をぐわんぐわん動かしながら奇声をあげている。
さすがにジジも、まだ口をもぐもぐさせながら話の中心に視線を向けていた。
「その反応なら、大丈夫ね」
「何がよっ!」
盛大に反論を始めてやろうと思っていたが、アロイスを赤面しつつ睨んでやる。
特に気にもせずに、更に続けていく。
「で、その先は?」
「はっ……!?」
「だから、その先よ。そ・の・さ・き♪」
今度の反応は、赤い顔のまま口ごもる仕草。
即座に見抜いたアロイスは、あらら~…と言葉を止めた。
と、彼女が次の言葉を用意する前に、その場にイオンが放った言葉。
「あーやっぱりユエちゃん生むす「「イオンッッ!!!」」
彼が放った言葉にかぶせるように、声をあげたのは常識人であるアルトとジジだった。
こんな人の多い公共の場でなんて単語を連発させるんだ。
しかも案外大きな声量で。
アルトは隣にいたラディの耳を勢いよく手で多い、相棒に呆れた視線を投げた。
ジジもグラタンを詰まらせつつ、オイオイ!と慌てている。
が、アルトと違って彼は顔がほんのり赤かった。
「えー?おれ間違ったこと言った―?」
「イオンッ」
「ちょっと!いまなんて言ったのか僕聞こえなかったぁ!」
ユエがキッとイオンを睨む。
「そんな怒らないでよー。経験したいなら、おれが相手にな「いい加減にしろ」いたーい」
ジジが彼の暴走を止めようと、頭をこつけばイオンは“あはは~”なんて言いながら流して、エトワールとの会話に戻っていく。
いや、逃げたといった方が正しい。
アルトがようやくラディの耳を解放して、溜息をつけばユエはこの場にとてつもなく居づらくなった。
アロイスが、相変わらずのデリカシーの無さだ……とイオンを視界の端で捕えた。
「アイツはほっといていいわ。可愛い顔して、そんじゃそこらに手つけてくエグさは、さすがにアタシでも真似出来ないわよ」
「イオン、そんなキャラだったんだ……」
「アイツの世界はエトワールと、その他大勢のどうでもいいもので構成されているからな……」
アルトが、イオンという人物について改めて語ってくれれば、笑顔が張りついた彼が、どこか怖くなってきたユエであった。
「でもまぁ、健全なことよ?順序が違うのはあんまり良くないわ」
「アロイス……」
「それに付き合ってるかどうか、まだ曖昧じゃぁ尚更よね」
アロイスが、落ち込み気味のユエを心配してか、微笑して慰めを与えていく。
だが、ユエの不安は…―――
「でも、ヴァニアとあたしの扱いは……全然違う」
「扱い?」
脳裏に甦る光景は、カジノで起きたこと。
そして以前、2人がキスしていたシーン。
「デビトはヴァニアには簡単に触れても、あたしには……」
「……」
零された、不安の1つであるそれに、アロイスは1度黙った。
が、フォローを向けたのは意外な人物。
「お前、わかってねぇな」
グラタンを刺していたフォークをユエに向けて、ニィっと口角をあげたジジが告げる。
「男ってのは、好きな奴ほど大事にすんだよ」
「大事に……?」
「それって、当り前のことでしょ」
ラディが机に乗り出して、ジジに問う。
アロイスは“ジジにしては言うじゃない”と続けた。
「ちげーよ。大事にすんのは当り前だが、そーゆー大事じゃなくて、」
「…」
「壊れモンみたいに扱うんだよ。本気だからそんな簡単に触れないし、そんな簡単に近付かない」
「あらやだ、いいこと言うじゃなーいジィジ」
「だろ?って、どうでもいいがその呼び方やめろアロイス」
ユエは、ジジに言われた言葉の真意を必死に理解しようとしていた。
では、ヴァニアが大事じゃないから簡単に触れるのか。
仕事ということも含まれて入るが、そうではない気はする。
恋愛がこんなに難しいものであるなんて、知らなかった。
ぼーっと思考を巡らせていると、アロイスがガッと肩を掴んできた。
その衝撃で、ユエが現実に戻ってくる。
「とにかく!いい、ユエ?勘違いしちゃダメよ」
「え」
「女はね、“体が武器”とかいう輩もいるけれどそんなことないんだから」
そりゃそうだよな、とアロイスに言われれば納得してしまった。
その言葉自体が、心が乙女のアロイスを否定しているもの、そのものであるから。
「ユエが真剣に隠者を想ってる気持ち。あの色男もバカじゃないだろうし、互いが互いに近付く勇気があれば、きっと解消されるわよ、その不安は」
「……」
「それに、触れる触れないの体の関係だけなら、誰だって出来るじゃない」
イオンを指差して、アロイスが冷ややかな視線を送る。
「アイツみたいにね」
「あはは~。だっておれが優しくしたら、みんな優しくしてくれるし、買い物もサービスしてくれるよー?」
「イオン……」
「アイツは外道なんだ、気にするな」
アルトがフォローになってないフォローをくれたところで、アロイスが再び笑ってくれた。
「本来は触れたい、触れられたいって想いがそーゆー行為に繋がるものなの。簡単に脚開いたらダメなんだからねぇん」
「そんなことしないってば」
「そう?物欲しそうな顔してるけど」
「し、してないッ」
「ユエ、欲求不満なの?」
「ちょ……!」
ラディが背中から覆いかぶさってきて――というより、おんぶの状態で――顔を覗き込んで来る。
「イオンがそーゆー相手するなら、先に僕に声かけてね?」
「ラディ……っ」
「絶対に」
瞬間、光が彼を纏ったかと思えば…―――少年はユエを抜いて、青年へと成長を見せる。
途端に声も低くなり、可愛らしい顔が爽やかで整っているものになれば、驚くのは当たり前だった。
「絶対にね。約束だよ?」
大きくなった掌で後頭部を押さえられ、片手で顎を下から捕えられれば逃げられなかった。
「イオンより、絶対僕のが…―――巧いから」
「えーラディくん宣戦布告~?」
「アルト、お前ラディの耳ふさいだ意味なかったな」
「ラディは生粋の色事師だったな。忘れてた……」
ジジが告げたものも、アルトが零した言葉も、確かに的を射ている。
彼はデビトの如く、将来有望な色事師になるだろう。
「(今日ここで守護団に会ったことが不運かも……)」
赤い顔が熱を引くこともなく、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらユエはそう思った。
だが、少しだけ自分がしなければならないことが分かった気がした。
ちゃんと気持ちを伝えるためにも、話をするべきなんだろうな、と。
「(そういえば……)」
きちんと好き、と言われた覚えもない。
だが好きだと、言った覚えもないけれど。
「伝え、なきゃね」
時刻は、もうすぐ10時になるところだ。
そろそろ戻らなければ、レナートが心配するだろう。
「話聞いてくれてありがとう。そろそろ戻るね」
「えー?もう行っちゃうのー?」
素直な気持ちを伝えること、嫉妬に屈しないこと。
守護団との賑やかな会話の中で得たものを抱えて、ユエはイシス・レガーロへの帰路についた。
「いってらっしゃい」
「気をつけろよ」
「うん、ありがとう」
守護団はその背を見ながら、大丈夫だろうか……と心配していた。
「デビト、なぁ」
「何よ、ジジ」
「いや。アイツ読めないよなぁって思ってよ」
“アイツが惑わなきゃいいけど”
ジジが零しつつ、再び粉チーズを山ほどかけ始める。
ラディとイオンは、2人で何か別の話題を続けていたがアルトはユエの背を見送ると、立ち上がった。
「アルト?」
「先に戻る。そろそろシノブが偵察から帰ってくる時刻だ」
「え?もうそんな時間?」
「レガーロとオリビオンの時間枠は少し違うからねー」
コヨミが創り出したゲートへ戻るアルトの背も送り出し、残りのメンバーはもう少しだけ。
レガーロでの夜を楽しんだのであった。
1人の少女の、恋路を見守りながら…―――。
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