【Sequel Day】 とある日、星はひとつの真実を掴む
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天井から吊るした星のアクセサリーが音を鳴らす。
光を反射させるそれを飾り付けたのは、この部屋の主の趣向ではなかった。
昔、この城に存在して笑顔を振りまいて優しさをくれた人。
人々は、彼女のことを巫女と呼んでいた。
“何も能力を使うことなく、人の心を癒す力がある”と誰かが言い始めたのがそう呼ばれたきっかけだったと思う。
だが、人を癒しすぎたからか、はたまた単に無力だったからか。周りが守るべき彼女に注力できなかったからか。
結果として、巫女はこの場所を離れることになってしまった。
「……」
それを望んだ者が果たしていただろうか。
優しさをくれて、支えになってくれていた者にここから離れて行けという者がいただろうか。
過去を悔やんだところでどうにもならない。何より、誰よりも悔やんでいる者はもっと別にいるはずだ。
今は、出来ることを出来る分だけしていこうと誓っていた者が、ここにはいた。
「……これもダメか」
投げ捨てたのは、古い書籍。
文献の山とにらめっこして、ようやくだだっ広い城の書物室の三分の一に手を付け終わった状態だった。
水色の髪、同色の瞳。きっちりシワなく着こなされたスーツ。
そこにあるのは、ここ最近この書物室に噛り付いて片時も離れない少女――リアだった。
彼女はたったひとつ、ただひとつの真実をどうしても手に入れたいがために動いていた。
守護団が休暇を貰い、復興に手をいれる前に思う存分、今を楽しめということでレガーロとオリビオンを行き来している間も、彼女はただただ書物室で本を読み漁っていた。
どれもこれも、物語の類ではなく、全てが歴史などに関わるもの。
彼女が掴みたいものは、過去に必ずあると信じていた。
「……これもダメか。自国の歴史って、あんま書物としては残さないもんなのかね」
どうしてどこを探しても出て来ないんだ。
必ずあるはずだ、手掛かりが、何かしら残してあるはずだ。
願い続け、直向きに本と向き合う姿を――先日、王女と婚約を誓った――錬金術師が眺めていた……。
Sepuel Day Ⅹ
「リア」
呼ばれたので、振り返る。
没頭していたので、もしかしたらこれが数回目の呼びかけだったかもしれない。なんて思った。
しかし、顔をあげた時、錬金術師……――ウィルの顔に不審な点はなかったので、1回目だろうと自己完結する。
「……なに?」
「ちょっと頼みごとがあるんだけど、いいかな」
「……断ったらどうする?今、それなりに忙しいんだけど」
「おかしいな。私は守護団である全員に“休暇を楽しむように”って伝えて時間を与えたんだけれどな。書物室に籠って忙しいと言うリアが何をしているのか教えてもらいたい」
「言う必要ある?それとも、ウィルが答えをもってるとか?」
「設問すらされていないのに、唐突に答えは出せない。錬金術も、数式もね」
「……で。頼みごとって何?」
この天才に付き合って手も時間の無駄だ。頭がいい分、相手に言いくるめられて終わりになるはず。
無駄なことは好まないリアが冷たく放てば、ウィルは苦笑いしながら告げるのだった。
「レガーロに使いに行ってきてほしいんだ」
「レガーロ?ジジとかシノブが行ってるんじゃないの?」
「それが、行きっぱなしで戻ってこないから頼めないんだよ」
「……」
「使いって言っても簡単なことだ。この包みのチョコレートが売ってるお店を探して、このチョコを箱で買ってきてほしい」
手渡されたのは、かなりファンキーな絵柄が書かれたチョコレートの包みだった。
リアが目を細めて、そのピンクやら黒やらが使われている絵柄を確認する。
ウィルは、彼女の視力が――タロッコの代償により――落ちていることに気付いていた。
「……これ、ウィルが食べるの?なんか個人的にこの袋を開けて食べてるウィルを想像したくないんだけど」
「ははは……。私も食べたけれど、気に入ったのはアルベルティーナとコズエとコヨミだ」
「ふーん」
頼まれたものは仕方ない。
まして相手が彼のウィル・インゲニオーススであるならば尚更断ることができないのも承知の上で声をかけてきたのだろう。
「箱って、何箱買って来ればいいの?」
「とりあえず、あるだけ買ってきてくれると嬉しい。もう少ししたら、レガーロへのゲートも繋げることが出来なくなるとコヨミが言っていたから」
「へー。そうなんだ」
彼女の関心はお菓子より、ゲートが繋がらなくなるという方に言ったらしい。
同時にどこか焦りを伺わせたリアに、ウィルが背後の文献を見つめる。
――大方、何をしようとしているのか察しがついたらしい。
「いいよ、気晴らしに行ってきてあげる」
「頼むよ。それから、ユエに会ってくるといい」
「え、なんで?」
「ゲートが繋がらなくなれば、もう会えなくなるだろう。寂しくないの?」
「別に、どうでもいいけど」
「そう……つれないね」
文献はそのまま帰ってきたら読むのだろう。ほったらかしのままでリアは書物室からレガーロへ向かう準備を始める。
ウィルがその背を見守りながら、呟いた。
「リア。これは等価交換だから安心して」
「は?」
「チョコ。買ってきてくれたら、お礼はするから」
「……あっそ」
別に礼を求めていたわけではない。
気晴らしに、手詰まりなこの状況、なんとかしなければならないと頭を使うことをやめただけだ。
リアはそのまま城門近くに出ている碧い色をした光の中に、チョコレートの包みを持って身を投じた。
ウィルが、書物室の窓からそれを眺めていたが、リアの姿が見えなくなると同時に、傍にいたホムンクルスに願いを伝える。
「コヨミ、頼みがある」
「はい」
「レガーロの時代に行って、一番大きな図書館で調べて来てほしいことがある」
「……」
「レガーロの時代なら、既に伝説や伝承の類にされているかもしれない。だけど、オリビオンよりも時間が進んでいる未来だからこそ、情報が多く出てくるかもしれない。この件はリアにも誰にも言わずに動いてくれ」
「わかりました。何を調べてくればいいですか?」
「……――」
リアが調べている事実。そして未来の世界へ帰った、姪にあたる娘が必ず今後、気にするであろう真実。
今から手を打っていても、損はしないと読みこんだ。
「“白い龍についての伝説”と、“太陽の代償”について」
「“太陽”……それはヴァロン様のことですか?」
「いや、ヴァロン個体の話じゃない。太陽のタロッコが求めた代償の詳細が知りたい。もし可能なら、アルカナファミリアのトップに話を聞いて来てくれると嬉しい。……トップでなくとも、太陽について詳しい者がいるなら、誰でも構わない」
「かしこまりました」
「白い龍に関しては正直、かなり厳しいかもしれない。それは僕もこちらで調査にあたるから不安にならなくていい。……頼んだよ、コヨミ」
「はい」
――こうして、コヨミが太陽の代償を調べている過程で、ユエと再会を果たしたのはまた別の話である。
が、あながち物語は間違った方向へ進んでいるわけでもなかった。
状況は、事実を知るには難しいものばかりだったけれど……。
「ユエ……。父と母を知った今、廻国の存在を消した今、貴女は一体、何を望み何を願う……?」
リアが投げ捨てた書物に問いかけながら、ウィルは静かに目を閉じた。
「リアが望む答えを、貴女も欲しているというならば……――」
――自ずと、再び戦いの幕は開かれることになるだろう。
そう、ウィルは確信していたのだった……――。