【Sequel Day】 とある日の女帝と月と節制
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静まり返った部屋。
時計が時間を刻む。秒針の音だけが鳴り響いていて、気を許せばその音すら聞こえなくなりそうな静寂がそこにはあった。
稀に鳴るのはページをめくる音。ペラ、と音をたてては沈んでいく。
一通り書物を読み終えたところで、この部屋に1人で本を読みふけっていた少女はガタリ、と椅子から体を離した。
「……」
自分が今、見つめ直したものはファンタジーや御伽草子などの読んでいて楽しいものではない。
どちらかというと、悲惨なオリビオンの歴史を記した文献ばかりであり、どれをとっても目を通して気が楽になるものではなかった。
ましてや答えが見つからないとなれば、尚更。
「リア」
扉が開く音すら聞き逃すほど、集中してしまっていたらしい。
一度目で返答ができなかったので、名前を呼んだ相手はこれぞとばかりに開けた扉をノックしてみせた。
コンコン、と木製の扉を叩く音が二つほど音が響く。
「コヨミ……」
「少し休んだらどうですか。エリカとファリベルがお茶を淹れてくれましたよ」
「どーも」
「根気詰めても何も結果なんて生まれませんからね」
「……」
リアのところに訪れたのは、現在レガーロに時空のゲートを繋いでいる張本人。
今、リアが何について調べているのか。コヨミは知っていた。
そんな簡単に結果が出るものではない、と。
「あなたもレガーロに羽を休めに行った方がいいかもしれませんよ」
「あーはいはい。うるさい小姑はじゃじゃ馬姫だけで十分なんだけど」
「だったらそれなりに自分にも気遣いをしてほしいもんですね」
「大きなお世話。ちゃんと休んでる」
読んでいた書物を大げさな音を立てて閉じ、コヨミの真横を通り抜けた。
恐らく、城の書物室から、ここ談話室まで持ってきたのであろう文献たちを見ながら、コヨミは溜息をついた。
「……タロッコの因果は、果てなどないということですか」
碧い瞳が少しだけ感情を見せた。
失くしたものが多い彼女たちは、一つの真実を探し続けていた……――。
Sepuel Day Ⅵ
きっとここにいるだろう。
その程度で食堂へやってきたリアは、扉を開ける前からここにファリベルとエリカがいることに確証を持った。
案の定、彼女たちは廊下にも響くくらいの大きな声で、談笑していたからこそ気付けたということもある。
ノックもせずに扉を開けてやれば、そこでは楽しそうにしているファリベル、エリカ。声が聞こえなかったのでいないと思ったが、黙々とお菓子を食べているサクラの姿があった。
「あ、来たわね。リア」
「リアー!お疲れ様」
「んぐ、もぐ……リア…、もぐ」
「相変わらず楽しそうだね」
女子3人で楽しい楽しいティータイムを繰り広げていたというところか。
リアが空いていた席に座ると、当たり前のようにファリベルがティーカップを取り出してリアにもお茶を淹れてやる。
同じようにエリカが大皿からリアの分のお菓子を取り分けて、彼女に差し出した。
「今日の紅茶はブルーベリーよ。目の疲労によく効くし、香りもいいから楽しんでって」
「私が作ったチョコチップスコーンもよく出来てるわよ!プレーンもあるから、お好みでバターとアプリコットのジャムでどーぞ♪」
「……ありがと」
今日のお菓子も、紅茶もとてもよく出来ているのだろう。
黙々と会話に参加することなく、口を動かしているサクラがそれを物語っていた。
「サクラも、食べてばっかりじゃなくてお話しようよ」
「んぐ……僕は聞くのに徹してるから大丈夫だよ。もぐ……あ、ファリベルおかわり」
「はいはい……。間違ってもリアの分まで食べないでちょうだいね?今日はリアのためのお茶会でもあるんだから」
「私のため?」
初耳である催しに、リアはティーカップを持ったまま顔をあげる。
表情のあまり変わらない水色の視線を受けて、ファリベルがくすりと微笑みを零した。
「そう。今日は、戦いが終わったあとも何故か忙しそうにしてて、一向に休んでくれない守護団の団長代理に少しでも羽を伸ばしてもらえたらいいなって思って」
「そうそ!リアってば休暇もらっても、ずーっとオリビオンで本ばっかり読んでるでしょ?全然休みになってないなって思ってね!」
「もぐ……リアもレガーロに行けばいいのに。はむ、むぐ……美味しいもの沢山あったよ」
「本当はツェスィもウタラも誘ってたんだけどね。ウタラはわからないけど、ツェスィに関してはレガーロに行くからって言われちゃったわ」
「誰よりもレガーロの魅力にはまってるのは、ツェスィかもね。意外と」
また笑いが生まれる中で、リアはそうだったのか……なんて口にも顔にも出さずに思っていた。
紅茶のおかわりをもらったサクラは満足そうにティーカップを口に運びながら、2人の話に耳を傾ける。
「だから、予定より人数少ないけれど、リアも少しは休んでよね?こうしてスコーンもチョコも、マドレーヌだって作ったんだから!」
「エリカのお菓子は本当に美味しいからね。それこそレガーロにも負けてないわよ」
「へっへーん♪もっと褒めてくれてもいいのよ!」
「褒めたらまだおかわりできる?」
「サクラ、その言い方はちょっとおかしくない!?」
エリカとサクラコンビを横目にして、リアは手にしたスコーンを口に運ぶ。
甘いものはあまり好きではないので、ジャムもバターもつけずに食べた。
口内に広がるほどよい甘さと、しっとりした感触に心が和んだ気がする。
「ん、美味しい」
「ほんと!?よかった~!」
「リアはあんまり甘いもの好きじゃないから、どんなお菓子をつくろうかって、エリカはずっと考えてたのよ」
「ちょ、ちょっとフェリベル!……ち、違うんだからね!そんな風に考えてなんか……っ」
「照れなくてもいいじゃない」
女子らしい3人に囲まれて、いつでもここは賑やかだと思う。
少しだけ、肩の荷が下りた気がしてリアが――本当に、僅かに口角をあげて――笑った。
その笑みは、誰にも気づかれない。
「そ、それよりファリベル!あの件について教えてよ」
「あ、そうだ。僕もその件、気になってたんだよね」
「あの件?なにそれ」
「あぁ、この間話してたことね」
ファリベルがティーカップを置いてから、バターのナイフをつかい、スコーンにジャムをつけていく。
同時進行で切り出されたのは、前回の女子がいれなかったバールでの出来事。
「リアは聞いてない?メンズがユエにバールで2回ほど会ってる話」
「全然。そもそも、最近メンズらに会ってないし」
「それはリアが部屋に閉じこもって本ばっかり読んでるからだよ」
「ま……否定しないけど」
次のスコーンに手をつけながら、ファリベルの続きを待っていた。
「そうなの。実はメンズたちがユエにバールで会ったらしくて。その時に出てた話題がちょっと気になってね」
「へぇ。どんな?」
「ラディの恋人探しの候補に、私たちの名前があがったらしいの。まぁ、最終的には全員却下の扱いだったらしいけれど」
「ラディの恋人、ってあの子が好きなのは紅目のどっかの誰かさんでしょ?」
どうやら全員認知していたようで、ラディが好意を寄せている相手はユエだという認識はできているようである。
「でも、ユエとデビト、付き合い始めたらしいわよ」
「そうなの!?」
「ふーん。やっと。って感じね」
「リア、気付いてたの?」
「見ればだいたいわかるじゃん。父親に似て、きちんと言い出せないところとかめっちゃそっくり。後ろから背中蹴りたくなる」
「あはは、それはどうかと……」