【Sequel Day】 とある日の魔術師と死神
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「やだよ!僕は絶対に認めないからね……!」
「やだって、お前なぁ……」
「諦めないからッ」
ここは小さな交易島。
平和の象徴であり、領主と権利を二分するアルカナファミリアが存在するレガーロと呼ばれる島。
誰もが認める美しい風景と、心根の優しい島民、そして豊な流通が揃った誰もが憧れる場所である。
そんなレガーロ島で今、1人の少年が声を荒げて抗議していた。
「ユエが誰かのものになるなんていやだ!」
「嫌も何も、現在進行形でアイツの心は金貨のカポのものだろう」
「そうよ、ラディ。だいたいバールで彼女の話を聞いた時に諦めがつかなかったの?」
「つかないよ!僕はユエをファム・ファタルとして認めたんだ!絶対に諦められない!」
「だいたいアイツのどこがいいんだ「ジジは少し黙ってて!」
「ラディくんの気持ち~おれはよーくわかるよー」
時刻は陽も落ち、酒盛りをするのには持って来いの頃合いだった。
バールで落ち込んだ顔のユエと遭遇して、デビトとの恋の悩みを聞いてから数日。
あれから進展があったようで、ユエは無事に彼のものになったという風の噂を聞きつけた。
その噂を聞いてしまったユエに――割と本気で――好意を寄せているラディ少年が反論を言い始めたのが始まりだ。
その場にいたレガーロ観光を楽しんでいる守護団の男(乙女を1人含む)メンバーが、個人個人のらしさを見せながらラディの話を聞いていた。
諦めを促すようにするアロイスとアルト。そもそもアロイスは本気でユエを応援していたので、デビトと結ばれたのではないかという噂を聞いて誰よりも喜んでくれたのは彼女だった。
アルトに関してはそこまで興味がないようで、荒波が立たないように考慮してくれているといった感じだ。
否定するでも茶化すでもなく、事実をありのまま受け入れているのはジジと、黙って食事をとりながら話を聞いていたシノブ。
ジジに関しては受け入れ態勢ではあったが、ラディの神経を逆撫でするようなことを言いかねなかったので先に“黙ってて!”が飛び出した。
周りの者は何も言わずに彼らを放置することにする。
最後の1人になったのは、どちらでもなく、意外にラディの背中を後押ししているイオンだった。
「いいんじゃないかなぁー?年の差も~関係も、存在すらも超越した愛ってのも~♪」
「存在超越して愛情注いでんのはお前だろイオン」
「もっともだな」
ジジの鋭いツッコミに賛同したのは目を伏せながら酒を口にしたアルト。
ヘラヘラ笑いながら当人はアルトの話も右から左にしてみせた。
「確かにエトワールに対しては愛だよ~?でもさ、愛にもいろんな形があっていいと思うんだよね~おれはー」
「うんうん!そうだよ、僕はユエを諦めきれないから、どんな形であれ思い続けるよ!」
「それが報われなくても構わないの?ラディ」
横から凛とした声で放ったのは、意外にもシノブだった。
伏せた横目で這うように投げられた視線は、ラディを少しだけチクチクと攻撃する。
「報われる報われないの問題じゃないんだよ!だって好きなんだもん!」
「お前のユエに対しての好きは、どっちかっていうと母親を求めるような好きって感じが「ジジは本当に黙ってて!」あー、へいへい」
釘をさされたので、煮込みハンバーグに粉チーズを黙ってかけはじめたジジを余所に、イオンが告げる。
「その誰にも譲れないって気持ちがあるんだったら、余裕でしょ~?色仕掛けでユエちゃんのこと落としちゃえばいいんだよー」
「色仕掛けってお前……」
「相変わらず下衆な考えしてるわね、イオン……」
相棒であるアルトと、隣で聞いていたアロイスが呆然としながら彼を見守る。
にこにこと笑みを絶やさない――他称・下衆な男――イオンはまだまだ続けた。
「でも欲しいものでしょー?必要なものなんでしょー?だったら手段なんて選ばなくてもいいんじゃないかな~?ラディくんがユエちゃんに優しくして心身ともに気持ちよくしてあげたら、世の中すごく穏便に事が運ぶし~?」
「イオン、お前が俺の代わりに黙ってろ……」
「え~?ジジくんなんでー?」
言っても無駄だと思ったのか。
粉チーズを大量にかけたジジは、そのまま大きく口をあけて――イオンの問いかけは無視し――ハンバーグを頬張り続ける。
アルトはイオンが口を開けばこうなることはわかっていたらしくて、溜息しか出て来なかった。
「でもねぇ、ラディ。ユエだってずっと悩んでいたじゃない。ここでアタシたちが邪魔したら、あの子の幸せが幸せじゃなくなるわよ」
「アロイスまでそんなこと言うの!?僕は姑息な手は使わずに、正々堂々と略奪愛に走ろうとしているのに!」
「まず表現が既に正攻法の恋愛じゃねぇんだけど「ジジもう黙っててよ!口にキンキンに冷えたジェラート突っ込むよ!!」
もはや八つ当たりの道具に使われているジジは相棒からの言葉に、毎度毎度余計なことを零すからこうなるのか、と反省する。
が、こうも個人で色の強いメンバーが集まると会話を成り立たせるのも難しいものだ。
アルトは既に我関せず……というより聞き手に徹底しているので、話を聞くだけであった。
シノブはーーどちらかというとアルトと違い話を流しているような態度で――食後の煎茶を店員に注文していた。
アロイスはカクテルの中に入っていたチェリーのへたを口の中に入れて、器用に輪っかをつくろうとしているのが微かにわかる。喋りながらもそれを行えているようで、かなり手慣れた感じだった。
「ラディ、なにもユエにそんな執着しなくてもいいんじゃない?これからの人生、まだまだ出会いもあるんだし。それにユエはこの時代、レガーロの人間なのよぉ?一応」
「会えない時間が愛を育てるんでしょアロイス!昔、僕にそう言ったじゃない!」
「アロイス、お前か。この将来有望な色事師を完成させたのは」
「そんなつもりはなかったんだけどねぇ……」
「しかも何気にいいこと言ってんし……」
一歩も引き下がらないラディ。引き下がらないといってもユエは既にデビトのもの。
どうすることもできない事実と、行き場をなくした感情だけがラディの頬を膨らませる。
なんだか可哀想になってきたアロイスが、結局彼の相手をするのだった。
「まず、どうしてユエにそれほどこだわるのよ?」
「だめ?」
「だめではないけどぉ……理由があるんでしょ?理由っ」
守護団のメンズは基本、自由人だ。こうしてラディの恋愛ごとに対しての相手をするメンバーがほぼいない。
だからこそ、アロイスが昔からこの手のことに関しては携ってきたのだけれど、もしかしたらそれがラディを色事師にさせたのかと思えばどこか恐ろしい、とアロイスは自身で思ってしまった。
そんなアロイスの不安を余所に、ラディはキラキラと瞳を輝かせて言う。
「もちろん、理由はあるよ!まず可愛い!美しい!あの紅色の瞳が僕を見つめてるのかと思うと、本当にドキドキするんだ……!まるでそう……写真で見た、巫女様のように!」
「まぁ、親子だからな。アイツ巫女の娘だし」
「そんなの知ってるよ!巫女様だって美人だったし、あのヴァロンが惚れるくらいなんだよ?そのヴァロンと巫女様の娘っていったら、文句なんてないじゃない!」
「ユエや巫女みてぇな強い意志を見せる眼が好きなら、うちのメンバーにもいるじゃねぇか」
咄嗟に出てきた言葉に、ラディがジジの顔を見返す。
――やはり――黙っていられなくて、口を挟みだしたジジにラディが首を傾げた。
「うち?」
「リアとかそうだろ。特にあの“してやったり”のドヤ顔。ユエやヴァロンとそっくりじゃねぇか。アイツも姉妹なんじゃねーの?」
「巫女様のこと好きだったジジにそんなこと言われたくないよ」
「はぁ!?お、お前、デタラメ言うんじゃねぇよ!」
ガタン、と席を立ちあがって、どこか顔を赤くして反論するジジ。
初耳だったようで、アロイスがにやにやとジジを見やった。
“そうだったの~?”なんて言い出して、エトワールと2人の世界にいたイオンが、ジジいじりの会話に混ざってきた。
こうなったらジジがいじり倒されるのは回避できない場面であるのも長年一緒にいるメンバーは理解をしていた。
「でもさ、リアも強い目をするけどユエとはまた違うのよねぇ。どちらかというと、ファリベルのが系統としては同じじゃないかしらぁ?」