02.
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別にあの子だけが、デビトとキスしたことがある訳じゃない。
可愛くて、誰もが息をのむくらいの美人。
そして凛とした強さも持っているような空気。
誰もが“守りたい”と思うような、女の子の鑑だ。
「ユエ」
対して、あたしはどうだろう。
男として育てられた覚えはない。
女らしくとは到底言えないけれど、女として生きていた。
が。
問題は自分の生き方にある気がする。
特に男に頼るということは、意識的にしたことがあまりなくて。
“お前が出来ないならあたしがやる”
そんなスタンスで生きてきてしまった。
彼女を守りたい、と思ってもらうというよりはどっちかというと“守ってください!”と思われるような気がする。
「ユエ……」
「んー……」
「オイ、ユエ」
それって男からしたら、どうなんだろう。
守りたい対象=女の子らしさ。
そんな方程式がもしあるのだとしたら。
最強女=No女子力なんじゃないだろうか。
「ユエ!朝だッ!起きろ!!!」
あたしは…―――
「あと5分んん……」
「いい加減にしろッッ!!!」
02.
今日もまた、平和な朝がやってきた。
昨日はアッシュと一緒にアップルパイを食べてから、ヴァスチェロ・ファンタズマでゆっくりしてて。
気付いたら今に至る。
恐らく船で寝てしまったので、アッシュが館まで送ってくれたのだと思う。
「全く。聖杯の巡回に付き合わせてほしいと言ったのはお前だろう」
ベッドの中でぐだっていた所へ、ノヴァがカタナ剥き出しの勢いでやってきたので仕方なく起きて、着替えた。
眠りが浅くなった時、デビトのことについて何か考えた気がしたが、忘れてしまった。
「所属のセリエを決めるため、か。いいことじゃないか」
「……」
そんな今日は、ノヴァが率いる聖杯と共に仕事をするために彼と行動を共にしていたユエ。
叩き起こされたこと……まぁ、寝坊したのが原因なのだけれど、仕度という仕度をする時間がなかったために、髪がボサボサであることを気にしていた。
ぴょん、と跳ねてしまった髪を引っ張りつつノヴァの背を追う。
「今日のルートはどこ?」
「お前は僕と一緒にポポラリタ通りを回る予定だ」
「ヴィバーチェ広場じゃないんだ」
「なんだ、広場の見回りをしたかったのか?」
朝陽がまぶしすぎる中、2人揃って館の廊下を進む。
気だるげにぷぅっと頬を膨らませながらユエは足を動かし続けた。
その時だ。
真横の通路から、だるそうにしながらデビトが出てきたのは。
「あ……」
「あァ?」
思わず声が漏れた。
バッチリと目が合い、瞬きする間もなく、昨日の光景が脳裏によみがえる。
カジノに向かう……ピンクの瞳の少女。
デビトとキスした女の子。
「よォ。ユエ」
「お、おはよ……」
ノヴァが振り返り、デビトとユエが会話をしているのを見て、数歩で戻ってきた。
「デビト、ここで何をしている?普段はもうカジノにいる時間じゃないのか」
「あァ~朝から小言か?チビちゃんはよォ」
「チっ……!?」
デビトの言葉をなんとか飲み込んだノヴァが、表情を改めて言う。
「ここ最近は、近海の島のご令嬢がイシス・レガーロに来ていると聞く。ここにいていいのか、と言っているんだ」
「ヴァニアのことだろォ?今日は夜からって約束だからなァ。あとは俺がいなくてもレナートあたりがうまくやるさ」
「……」
「夜からは俺の出番だがなァ」
ノヴァの心配に、デビトは鼻で笑いながら答える。
呆れつつ、そうか。と返したノヴァはデビトに既に背を向けていた。
「(“ヴァニア”……)」
あの女の子のことか、と思いながら少しだけ…―――顔に出てしまった。
近海の島の令嬢と聞き、身なりや仕草ですぐにピンときてしまった。
それをデビトが見逃すわけもなく。
「オイ、ユエ。それより昨日、どこにいた?」
「昨日?」
俯いた視線を少しだけ上げて、デビトが顔を覗き込んで来る。
瞬発的に顔が赤くなったのがユエ自身でもわかった。
デビトの隻眼に射抜かれつつ、昨日のことを思い出し……吃る。
「あ、アッシュと一緒にいた、けど……」
「……」
瞬時に、顔がしかめられたのはユエも気付いた。
アッシュとデビトは、犬猿の仲だったり険悪ではないものの、特別親しくないのは理解しているつもりだ。
「夜中まで、ねェ」
「え?」
「…」
そのままスッと離れた彼。
逆方向へと歩いていくデビトの背を見送りながら、ユエはどこか胸騒ぎを覚えた。
「デビト……?」
歯切れの悪い反応のデビトを視界に捕えながら、ノヴァの後を追おうとした時だ。
「うわぁッ!!?」
意識が完全にデビトに向いていたせいか。
グキッと足をこじらせて、盛大に廊下の真ん中でこけるユエ。
ノヴァがその声にぎょっとして振り返る。
同じくデビトも“!?”という感じに振り向けばしりもちをついた形でへたれこんでいるユエが。
「ユエ……っ」
駆け寄って、声をかけてやろうとしたが―――。
「まったく、前を見ながら歩け!」
「うぅ……」
「捻ったか?見せてみろ」
「だいじょうぶ……足より、腰が痛い……」
ノヴァに手を借りつつ立ち上がった彼女を見て…―――デビトは伸ばしかけた手を、止めてしまった。
行方のなくなった手は、そのままポケットに突っ込んで。
行くはずだった道を、そのまま進む。
背後ではまだユエの声がしていたけれど、気にも留めずに。
「…」
彼女がノヴァに苦笑いしつつ、見せた表情はあまりにも無防備だった。
「……チッ」
余裕がないのは、みっともないけれど。
出てしまった舌打ちを隠すように、デビトは無心で歩き続けた。
◇◆◇◆◇
館を出てからは、いつもの実力が出せたとユエは思った。
ノヴァと共にスリを捕まえたり、道に迷っているおばあさんを案内したり、子供たちの相手をしたり。
やはり、仕事の内容だけで見れば聖杯はユエ自身も卒なくこなせると思うし性根には合っているのだ。
実力と地理的なものが求められ、時には頭脳も必要なのが聖杯の仕事だ。
一番最後のものに関しては、不安ではあるけれど……。
「ユエ、そろそろ昼食にしよう」
ノヴァに声をかけられた時、ユエはポポラリタ通りに咲いている花壇を見つめていた。
「うん」
1つ返事を返して、ノヴァの元まで行けば、彼はユエが気にしていたものに気付いていた。
「花がどうかしたのか?」
「うん。その花、ノヴァが植えたのかなぁって」
ユエが指差した先には、確かにノヴァが育てた花が咲いていた。
マンマのバラ園で育て、ある程度成長してからこちらの花壇に提供したのだ。
「なぜ見抜けたんだ…?」
「前に、マンマからノヴァに渡してくれって言われた花の肥料あるでしょ?あれと同じものが見えたから」
「……」
ユエの洞察力と思考は、やはり鋭いなとノヴァは感じていた。
本人が思うほど、不安視されてはいないのだ。
「そうか…」
どこか嬉しそうに笑ったノヴァに、ユエも笑みが零れた。
昼食にするといいつつ、ポポラリタ通りから見渡せるレガーロの街並みに2人は動きを止め、それを眺めた。
「やっぱりいいとこだよね、レガーロ」
「あぁ。守るべき島だ」
ノヴァの言葉に、“守る”ということを意識する。
その意味に直面し、本当の真意を考えた…つい先日の戦いを思い出す。
ノヴァも同じことを考えたようで、目を1度伏せてから笑った。
「お前は、纏う空気が変わったな」
「そう……?」
「あぁ。棘がなくなったというか……」
「…」
「ここに来た時は、触れる者全てを壊す勢いだっただろう」
「え」
そうだった?なんて不安に思いながら、顔をしかめる。
「だが、お前は僕たちの目の前で、急激に成長していった。強さも、心も、アルカナ能力も」
「…」
ノヴァにそう言われた時、少しだけ考えた。
所属のセリエは、やはり聖杯であるべきではないか、と。
島を、街を、島民を守るということ。
自分の強さ。
それを有効に使うために…―――
「僕もまだまだだな」
ノヴァの微笑みに、ユエも目を細めて笑った。
「戻ろう。今度こそ昼食にしよう」
「うん」
ノヴァの背を追い、坂道を下る。
本当に海と山と、人にも恵まれた島だと肌で感じていた。
「終わったらイシス・レガーロの近辺を巡回する」
ノヴァの言葉に、少し肩が跳ねた。
「(デビト……)」
朝の様子もちょびっとおかしかった。
いや、ユエが着火をさせてしまったのだが、彼女には自覚がないのだ。
「ヴァニア、か……」
そう言えば、ノヴァはその令嬢について何か知っているのだろうか。
「ねぇ、ノヴァ」
―――本当は、自分がむやみやたらに調べたり、知りたがることすら、よくないと思うのだ。
だけれど、気になったものは仕方ない。
この“気になる”が、何からきているのかも理解していた。
「なんだ?」
「朝、デビトに言ってた令嬢って……」
「あぁ。近海のご令嬢のことか」
そんなことも話したな、という空気で進めるノヴァ。
オリビオンで戦っている間に抜かれた身長を追いながら、ユエは彼の言葉を待つ。
「近海に大きな島がある。レガーロほどではないが、栄えている島だ」
「交易島?」
「いや、あそこは貴族が豪遊をする島に近い。そうだな……シャロスの島に少し似ている」
「あぁ……」
どことなく想像と納得が出来た。
「その島の1番大きな屋敷の令嬢だ。年は僕より1つ上だったか……」
「17歳?」
「確かな」
年下なんだ、と初めて知る。
纏われた空気や容姿からは、全く持って想像がつかなかった。
年上か、頑張って同い年か。
「年下……」
自分が童顔だとは思ったことはないが、あの妖艶な空気に勝てる魅力は、ない。
「貴族であるにふさわしい娘だと聞いたが、厄介事も抱えていると聞く」
「厄介事?」
ようやく追いついたノヴァと並んで、彼の顔を見ながら尋ねた。
ノヴァは少しだけ言葉を選定しながら…続ける。
「彼女はその……色恋沙汰が多い、と」
「な…ッ!?」
「オイユエ!」
「へっ?!」
ノヴァから飛び出た言葉に、ユエは思わず声をあげる。
同時に彼女は避けなければならなかった段差に躓き、頬から壁に突撃をしてしまった。
ノヴァが“危ない”という前に、既に事は手遅れであった。
「いたぃ……」
「だろうな……」
呆れつつ手を貸してくれるノヴァに甘えながら、出てきた生理的な涙を拭う。
これだけ見れば一見冷静にも見えたが、内心は誤魔化すので手いっぱいだった。
「(色恋……色事とか……?ってえ、つまりはそーゆーことでしょ!?男をおとすとか、とっかえひっかえとか…え…、え!?)」
プラスで引っ掛かったのは、デビトの今朝の言葉だった。
―――…夜からは…
「い、色事師……」
「は……?」
頬を押さえながら、ポツリと呟かれた言葉はノヴァを怪訝そうにさせるには十分だった。
そんなノヴァの視線もお構いなしに、デビトが彼女に近付くことがいやだな思う。
心がざわざわした。
彼は金貨の幹部で、仕事で、カジノに来る女性をもてなすことはわかっているし、今までは何とも思ってこなかった。
だけど……
「そんな子が、何しに来てるの……?」
ボソッと小さい声で、割と冷たい声で言い放ってしまった。
ノヴァは目を細めながら続けた。
「デビトのファンになった、とかだったな」
「…………。」
詰んだ。
詰んでしまった、と心のどこかで悟ったユエ。
とりあえずよろよろしながらも、ノヴァと2人、聖杯のメンバーがいる広場まで戻ることにした…。
◇◆◇◆◇
今日、1日の仕事を終えたユエは館に戻って来た途端、自分の部屋へと直行した。
ベッドにダイブをして、そのまま固まりながらただ一言。
「つかれた」
やってること、量、悩みとしてみれば、守護団たちと過した時間と比べればどう考えても少ない。
体力が劣った訳でもないし、あの戦いの方が本気で悩んでいたのも間違いない。
だが、ものすごく疲れた気がする。
「寝ちゃおうかな……」
シャワーは朝でいいかな、なんてボーっと考えていたら、部屋の扉がノックされた。
反応するようになんとか起きあがれば、廊下から声が響く。
「ユエ、戻ってきてる?」
「フェル?」
扉を開けてやれば、にっこりと笑ったフェリチータがいた。
「お疲れ様。はい、これ」
「これ……」
渡されたのはバーチェ・リ・ダーマ。
貴婦人のキスと呼ばれるお菓子だった。
「ルカと一緒に焼いたんだ。疲れてる時は、甘い物が一番だよ」
「ありがとう……」
そのままフェリチータを部屋に入れて、2人で少し遅いお茶会をすることになった。
メリエラ達が、ファリベルから貰った紅茶を淹れてくれて、ゆったりとした時間を過ごす。
寝ようとしていた眠気はどこかへと飛んでいっていた。
「今日、大丈夫だった?ノヴァが心配してたよ」
「ノヴァが?」
そりゃ、あれだけ奇怪な行動をしていれば心配もするか、と自分に呆れる。
心配してもらうほどのことでもない内容だからこそ、苦笑い。
「ノヴァ、ユエが聖杯に来ればいいって言ってた」
「本当に?」
「うん。今日、すごくよかったみたいだね」
「……」
確かに任務の遂行具合で言えば悪くはなかったと思う。
だが、そこに私情が入ってしまったのは改善するべき点だ。
「だから、無理したんじゃないかってノヴァが言ってた」
それでフェリチータが気を遣って様子を見に来たのか。
これは後でノヴァに謝らないとな、と決めてもう1粒、甘い塊を口に運ぶ。
「無理はしてないけど……」
「?」
心に溜めこんだ、不安。
ザワザワと騒ぎ続けるこの予感が、当たらなければいいと思いながら。
フェリチータに告げるつもりはなかったのだけれど、相手は“恋人たち”である彼女。
「あ……」
[デビト…ヴァニア…色事…不安…]
「ユエ、」
「え?」
「今……」
そこまで言いかけて、ユエが顔を赤くした。
「ちょっ、見えたの……!?」
「ご、ごめんなさい……!」
「~~…ッ」
恥ずかしいと顔を逸らし、ユエはぷぅと頬を膨らませ、布団に顔を沈める。
「明日は金貨でしょ?デビトとも一杯話せるよ」
「そーかな……」
「ユエはディーラーとしても動けるんだから、大丈夫だよ、きっと」
フェリチータに慰められつつ、消えない胸のモヤモヤを抱えたユエ。
デビトの態度も、その横にいるであろう少女の存在も気になってしまう。
こんな風に不安になるのは、初めてだ。
守護団の戦いが終わる前は、なんとも思わなかったのに。
変わっていない関係性の中にある、変わりたいものと、変わった心。
順序が違うだけで、どうしてこうも崩れて行くのだろうか。
「デビト……、」
呟かれた彼の名前の音色は、切なさが含まれていた。
明日は、金貨。
イシス・レガーロで、ディーラーとして、金貨のセリエを体験する日だ。
何も起きないことを願いつつ…――すれ違いが互いに認識されるまで、もう1日を切っていた…。
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