08. 刺客
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隣島までは1日あれば来れる距離だ。
その島までは、レガーロから船も出ている。
交易島とは呼べないが、貴族階級の者たちが毎夜毎夜、輝かしい社交界を繰り広げている世界だ。
レガーロとは纏う空気も、何もかもが違う。
今から約3日後、ここで自分のファミリーがパーティに出席すると思うと、どこか違和感を感じた。
島に降り立ったユエとダンテは、能力を使い…―――そして辿り着く。
「オーラコンドゥシャン・レターニタ」
響かせた言葉と、同時にくる精神消耗。
だが、手ごたえがあった。
「―――…っ」
レガーロで消えた足取りが、続く――。
「ユエ……」
「ダンテ」
歩き続け、やってきたのは……―――
「ここにある」
シャロス・フェアのお屋敷。
この島で一番煌びやかで、一番大きな――。
「行こう」
「あぁ」
今夜も何かしらのパーティが行われているらしく、とても大きな外壁の向こうでは賑やかな声が聞こえる。
食器が重なる音や、ワインが注がれる音。
女性と男性の声。
ダンテと顔を合わせてユエは頷く。
賑やかな個所から離れてる場所を選び、その脚力で外壁を超えた…――。
「来たねー」
「さぁて…どうやって殺そうかな」
「ねぇリア、ユエは僕が相手してもいい?」
そんな2人を見つめる影が……12人。
「好きにしろ」
「わーい♪」
「―――……だが、まだ殺すな」
筆頭で真ん中にいる少女が凛とした声で告げた。
「あれは生贄だからな」
08. 刺客
時間枠は少し戻り、同日の日中。
食堂でデビト、ルカ、パーチェ、リベルタ、ジョーリィと接触した後のアッシュ。
彼は己のアルカナ能力を使い、1つの部屋へとやってきていた。
――…その姿を、サングラスの相談役に変化させて。
「おぉ、ジョーリィ。どうした」
ガチャリ、とノックもせずに開けた扉の向こうからアルカナ・ファミリアのトップ・モンドの姿が見えた。
ジョーリィに化けた今、彼は特に“自分”がここにいることに違和感がないらしく、いつも通りの態度を見せた。
「……」
なんと切り出すか悩み、一拍不審な間が出来た。
だが、ここは賢いアッシュ。
詰まる前に会話を始める。
「例の件で聞きたいことがある」
「例の件? あぁ、スミレとの記念日のことか?」
モンドから発された言葉に、“そんなの隠語にしてどーすんだ”と突っ込みながら、モンドへ視線を投げる。
「違う。ユエとダンテの件だ」
「あぁ、それか」
「確認したいことがある」
「なんだ」
このやり取りで聞き出せるかどうかが不安だったが……――。
「あの2人、もう着いている頃か?」
「……」
モンドが一瞬顔をしかめ、時計を確認して…――頷いた。
「そうだろうな」
「…」
なかなか会話を続けてこないモンドに、アッシュは眉間にシワを寄せた。
下手な尋ね方をしても怪しまれるし、どう聞きだせば……と思考をフル回転させたが……
「なぁ、ジョーリィ」
「!」
「先日、ユエと共に“あの部屋”に行ったらしいな」
「(あの部屋……?)」
モンドの方が上手だった。
「何を思った?避け続けた場所へ足を踏み入れた時」
――答えは………もちろん出せなかった。
「――……もういいか?アッシュ」
「っ!」
頬杖と溜息をついたモンドが、目の前のジョーリィに告げた。
利かなかったか…と落胆してから、能力を解いた。
「やっぱバレてたのかよ」
「アイツはお前のように、表情豊かではないからな」
「は?原因そこかよ」
「おもしろいものを見せてもらった」
豪快に笑うモンドに、“敵わねぇな…”と小さく吐き捨てた。
「それで、ユエのことでここに来たのか」
「アイツ、今どこにいるんだ」
モンドは溜息をついて、ジョーリィが言ったのだろう。と理解した。
「隣島に調査で出ている」
「聞きたいことはそうじゃねぇ」
「あぁ。それも分かっている」
「……」
「アッシュ。お前がユエのことを誰よりも理解し、案じているのも分かる……。だが、今は言えん」
アッシュはぐっ…と言葉を詰まらせ、拳の行方を悩ませる。
「行け。アッシュ」
出て行け、という意味を告げられてしまえば納得もいかなかったが……モンドの口が“アッシュ”となった今、情報を割り出せるとは思えなかった。
「危険なのか?」
「…」
仕方なく、出ていくためにドアノブに手をかけ……後ろ背で尋ねた。
モンドは黙ったまま。
だが、視線を下げたのが分かる。
「アイツ……最近、調子悪そうだったんだ」
「…」
「もし……」
強さは十分理解している。
それでも…―――
「深追いはするなと伝えてはある」
「…」
「危険とも言える任務だ。……ユエにしか出来ない」
「アイツにしか……?」
幽霊船の騒動で、ユエのアルカナ能力の強さは痛い程見せつけられた。
ヨシュアの攻撃を特定の範囲で止めて、相手のもとまで乗りこむ力。
数字……―――時間を操る力。
「ユエ……」
今は待つしかないのだろうか……―――。
◇◆◇◆◇
時間軸を冒頭に戻そう。
アッシュ、そして幼馴染やファミリーに心配されているユエは、ダンテと共にシャロスの屋敷へと侵入した。
再びユエが能力を使い、タロッコを持った人物がどう移動したのかを追いかけていく。
野外で行われているパーティのため、侵入した屋敷内はとても静かで薄暗かった。
「これだけデカイ屋敷なのに、使用人の姿が見えないな」
ダンテが素朴な疑問を投げかけたが、ユエは精神力の消耗で答えることが出来なかった。
膝から崩れ落ちる前にタロッコがどの部屋にあるのか。そしてこんなことをしたのが誰なのかを特定させなければならなかったが……。
「――……ここだ…っ」
階段を三度ほど上り、やってきた屋敷の一番奥の奥の部屋の前でユエは足を止めた。
力を解き、肩で息をしながら大きな扉を見つめる。
綺麗で繊細で、とても細かい装飾のある扉はダンテの倍の高さを誇った。
「大きい……」
簡単に開くはずはないと思っていたが、ダンテとユエが片方ずつ、手をかけると―――。
「!」
「開いた」
ゆっくりと押しやり、開けば扉の向こう側の空間が現れる。
そこは特殊な部屋のようで、ホール状になった丸い部屋だった。
薄暗く、何もない部屋。
「何もない……?」
そんなはずないとユエがもう一度、ここへ来た相手がどこへ向かったのかを調べようとした時だ。
背後に不審な気配を察知し……――。
「ようこそ」
ダンテとユエ以外の声が響く。
構えを取り、能力を使うのをやめる。
振り返れば、薄暗かった部屋にロウソクの明かりが灯った。
「やだなぁ、そんな睨まないでよ」
緑のふわふわの髪を揺らし、上手に大玉の上に乗っている少年。
ユエは途端に、それが過去に接触したことのある人間だと気付く。
玉乗りをしている少年の背後には、まだ幾多の影が見えた。
「ユエ」
「あぁ」
ダンテと声を掛け合うと同時に、キィィ…と音を立てて先程の扉が閉じられた。
逃げ場なく、背水の陣となった空間で、ユエとダンテが現れた影と対峙を示す…。
数は……――12人。
「また会えたね、素敵なおねえさん」
緑の髪を揺らし、玉乗りをしている子供が告げる。
“また”
その言葉が動かない証拠だった。
「玉乗りピエロ……」
「あ、覚えててくれたんだね?うれしい!」
「…っ」
ポンっと、大玉から飛び降りた少年は笑顔を向けて、一礼をして見せた。
「改めまして、僕はラディ。ラディ・トッリチェッリ」
紳士のように会釈をしてあげた顔に、また笑顔。
ラディの隣にも並ぶように男が立った。
「出来れば、“トッリチェッリ”とは呼ばないで欲しいな」
「目的はなんだ」
ユエが静かに問えば、隣に並んでいた少年……――ユエと同い年くらいの、少年と青年の間の男が答える。
「なんだ、じゃねーよ。侵入者がいるから排除するだけ。だろ?」
「お前……っ」
スッ…と横に並んだ男にも見覚えがあった。
サーカスの入り口で料金を回収していたタトゥーの男だ。
「俺の目的は、お前らの排除の向こうにある報酬だけどな」
「ジジは現金至上主義だからねー」
タトゥーの男・ジジの横に更に並んだのは、赤褐色の髪をゆらし飄々とした顔で出てきた男。
「悪りぃか?この世の中、一番大事で信用できるもんつったら金だろ?」
ニヤッと笑みを浮かべ、挑発的にユエの顔を見るジジ。
その隣で“ははは~”と笑顔を見せる赤褐色の男。
「ちょっとみんな!レディに対して自己紹介なしで話を進めるのは失礼だよ」
ラディ・トッリチェッリがジジと隣の男に注意を促した。
ジジがめんどくさそうに顔をしかめたが、隣の男は“そうだねー”と頷く。
「はじめましてー。おれはイオン・ネグロ。よろしくねーユエちゃん」
「お前、ユエの名前を……」
「えー?うん、知ってるよ~?おれたちの中では有名だからさ~」
「お前みたいなのと関わった覚え、ないけどな」
ユエが2ヵ月ほど前、ファミリーと再び関わりだした時と同じような口調で告げる。
イオン・ネグロはさほど気にせず、というか聞いていないという空気を醸し出して笑っていた。
「それからね~」
イオンが視線をユエの背後に意味ありげに向けた。
同時に背後に1つの影。
ダンテが視線だけを向ければ……
「その2人はアルトとシノブだよ~」
1人は確かに気配を感じたが、もう1人には感じることが出来なかった。
ネイビーブルーの髪を束ねた、エメラルド色の瞳がこちらを見据えているのが分かる。
だが、もう1人は…
「はじめまして、ユエ」
「っ!?」
どこにいるか感じられない…と思った時だ。
背後から首元に刃物を宛てられる感触。
耳元に間近から声が響けば、やられた…とユエは動きを止めた。
だが、焦りを見せることはない。
「僕はシノブ。よろしく」
「…ッ」
「ユエ!」
「動くな」
捕えられたユエに叫びをあげたダンテだったが、同時にダンテに声をむけた者が…。
シノブと同じ同系色の長い髪を揺らし、構えを取った少女。先程、お茶会でサクラと呼ばれていた者だ。
「コナゴナにされたくなければ、動かない方がいいよぉ?」
「なっ…」
「使い手の僕ですら、手袋つけないと扱えないからさぁ」
笑みを浮かべたサクラ。
シノブとサクラにそれぞれ捕えられた所で、ユエが口を割る。
「襲うってことは、犯人ですって認めるも同然だよな?」
「襲われて当然のことをしてるのは、ユエちゃんたちでしょ~?侵入者なんだからー」
捕えられたまま話を進めると、イオンがユエに答えた。
ラディは笑みを浮かべ、集団の中心でただ立っていた少女を見上げる。
光の関係で、まだ顔が見えないが底光する水色の瞳は窺える。
それだけで分かる―――……コイツは強い。
「たった2人にこんな大人数でかかるなら、私は手を出さないでおくわ」
ラディとイオンの隣に姿を現したのは、先程お茶会で紅茶をブレンドしていた少女・ファリベル。
彼女に同意したのは背後にいるアルトのようで、彼も静かに目を閉じ、壁に背を預けた。
「ユエ……――レガーロ島を自警する組織・アルカナファミリアに属する第12のカード、ラ・ペーソの宿主」
「どうしてそれを……っ?」
水色の瞳の少女が、だんだんと前に出る。
ようやく顔が見えるところまで来て、瞳と同色の髪が月光の輝きに揺れた。
冷静な―――いや、表情を成さない端正な顔つきの少女。
水色の髪、水色の瞳…――恐れを見せない凛としたオーラ。
「お前を殺す」
「知らない女に殺されなきゃならないようなことは……」
言いかけ、考え、黙る。
「……してきたけど、言う通りになるつもりはない」
「そこ冗談でも“ない”って言えよ」
ジジが腕を頭の後ろで組みながら、呆れて突っ込みを入れる。
ユエが目を細め、正面に対峙した水色の少女を見つめた。
「状況を把握してる?お前の背後に今、誰がいるのか分かってないみたいだね」