77. 最後の選択
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リアは目の前で真っ直ぐとした視線を向けているユエから目を逸らせなかった。
彼女は確かに巫女の娘と言われても、異論はなかった。
栗色の髪、母親よりかはウェーブが緩かったが、瞳の色も同じ。
どこかで魅せるような強さも、全身全霊でぶつかってくる真っ直ぐさも。
だが、そんなユエを“カレルダの娘”と言わせるには……リアからしてみれば―――あまりにも見当違いすぎた。
何より、リアは気付いている。
召喚錬金術を使えるのは……――――
「ちがうな」
「え?」
空間の中心で立っていたリアは、横に戻ってきたツェスィとウタラに聞き返された。
「アイツ」
―――…ユエは……
「オリビオンの血を……」
カレルダの娘じゃない。
77. 最後の選択
リアが“カレルダの娘”と称されたユエが、目の前で起こしたことに疑問を持つ。
その間にも戦いは細々と続いていた。
「第12のカード、ラ・ペーソ……」
「…」
「最悪です……ッ」
コヨミがキッと睨みを利かせて、ユエを見ればユエは涼しい顔している。
退きを見せるように1歩足を下げたコヨミ。
ユエが時間を止めているせいで、影の錬金術で合成された偽物のファミリーたちは全く持って動けずにいた。
だんだんと負担がかかったようで、同じくガラスが割れるような音がして、影の錬金術たちは全ていなくなる。
呼吸がうまく出来るようになった男達も、敵を見つめながら次にどう動いてくるかを窺っていた。
「どうして邪魔ばかりするんですか」
「…」
「どうして……ッ」
コヨミが俯き、拳を作る。
ユエは止まらない血のせいで、ぐらりと揺れた視界と、我慢を続ける意識を抑えることが出来なくなってきていた。
ここからもう1回、戦うとなると少しキツイかもしれない。
「邪魔ばっかり……――」
「…っ」
「姉さんばっかり……ッ」
コヨミの無いと言われていた心。
だが、その瞬間フェリチータのアルカナ能力・恋人たちが反応を示した。
[姉さんばっかり……私は愛されてない……ウィル様……どうか誰よりも強くなりますから……どうか]
「…!」
[どうかお傍に……私を置いて行かないで下さい……ウィル様……姫様……巫女様……]
「コヨミ……」
瞬時にめぐるような多くの感情が、フェリチータの中に入って来た。
姉と比べられて生きてきたこと。
彼女たち双子の違う点。
そして、心と才能。
全てが、彼女からしてみればプレッシャーだったのかもしれない。
「だから私は……―――」
握られた剣が、もう1度狙いを定めた。
そこから少し離れていたリア、ウタラ、ツェスィ。
エルシアとレミと対峙をしているフェリチータ。
中心から少しはずれた所にサクラとエリカ。
デルセの前にファリベル。
全員がユエと距離ある場所にいて、今のコヨミに動かれたら少し厄介だった。
だが、もちろん彼女は止まるつもりはない。
「ウィル様を諦めたくない……ッ!!!」
「…ッ」
コヨミから剣が振りかざされる前に、ユエは即座にアルカナ能力を自分自身に使った。
眩む意識はそのままだったが、これ以上血を失わない為に止血を能力でして。
終わるタイミングで斬りかかられれば、間一髪の所で避けて、蹴りを入れ込んだ。
剣を交わされ、バランスを崩したコヨミだったが、こんな所でやられる彼女ではない。
蹴りを避け、頬に掠りながらも彼女はもう一度、剣を真横に薙ぎ払った。
今度はユエが地面を蹴って、宙に逃げながら退く。
ファミリーとアロイス、シノブがいる中心に戻った所でコヨミが錬金術の炎を投げつけてきた。
「だから私は戦います……ッ!」
「…っ」
「愛されてきたアナタには何も分からなくていいッッ!!」
蒼い炎が確かにユエを捕えた。
が、能力を使うまでもなくフェノメナキネシスの炎で彼女の攻撃を無効にして。
ギリギリの所で耐えたものだったが、失った血の量のせいで、ユエの視界は定まらない。
「ユエ……っ」
アッシュが加勢しようと立ち上がったが、彼も今まで気管支を半分潰されたような状態だったため、疲労が見える。
アッシュだけではない。
デビトもルカも、パーチェも。
ノヴァとリベルタに至っては未だ肩を荒げている。
ここで誰かに頼るということは出来ない。
ユエの状況に気付いて、フェリチータが戻ってこようとしていたがエルシアとレミがそれを許さない。
同じく、力を貸せれば……!と思っていたファリベルも、デルセに全力で邪魔をされた。
コヨミの音をも超える速度で斬りかかられれば、鎖鎌で対抗しても余裕のない戦いになる。
ましてや、コヨミは先程アルカナ能力を復活させた想いが、ユエの弱点を示していることに気付いていた。
「アナタに負ける……私じゃありません……ッ」
「…っ」
正面しか見ておらず、サイドから飛んできたコヨミの蹴りにユエは“しまった”と息をのんだ。
痛みを軽減させるようにして受け身を取ったが、威力が強すぎた。
顔面を思いっきり、彼女の持てる力全てで蹴り込まれて、飛ばされる。
気付いたエリカとサクラが、互いの顔を見つめて頷き、ユエのフォローを出来るようにと動いた。
「ユエッッ!!!」
「アナタも力を使いすぎのようですね」
コヨミが、だんだんと立ち上がらなくなっていくユエを見つめながら言う。
同時にエルシアとレミ、デルセを見て、コヨミは潮時だと踏んだ。
戦えるが、先日の傷も完全に癒えていない中、ここで無理に戦っても目的は果たせない。
シャロスには従う気はサラサラないんだ。
ただ奴が果たそうとしている目的の過程に、自分の目的への道を確実に通るから共に行動しているだけ。
コヨミにとっての世界はウィルであり、それが既に今……崩れかけている。
ようやく、ようやく今、ユエはコヨミの苦しみや願いを分かった気がした。
「これで終わりです」
コヨミが碧い光を上げる。
その笑みは儚く……心がないと言われ続けた彼女には出来ないはずのもの。
あの表情は“心が存在しない”のに、出来るものではなかった。
「なんだ……ッ」
碧い光が、コヨミの腕に巻きつくようにして生まれる。
これと似たものを、アルカナファミリア。
何よりも守護団のメンバーは知っていた。
これは…―――
「時空の扉…ッ」
アロイスが“どうしてここで?”と思いながらも、コヨミが手を翳した相手に目を向けた。
そこには、デビト、ルカ、パーチェの姿…。
「!」
「ルカ!パーチェ!デビト…!」
リベルタが呼吸を整え、光に包まれて拘束される3人の名を叫んだ。
意識が軽く吹っ飛んだユエが、リベルタの声にようやく目をさまして、起きあがった。
フェリチータもリア達も、その声にコヨミが何をしようとしているのかを悟る。