76. オリビオンの血
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「るっるる、るっるる、るっるっるー♪」
とても陽気な空気を出して、1人の少女は長い道をスキップするように歩いていた。
時は100年後。
ユエやアルカナファミリアのメンバーが、まさか時を超えて100年前の世界で苦しんでいると誰が思ったのだろうか。
もちろん、彼女たちが100年前で戦っている間も、この時代の時は流れる。
そして、過している時代の速度が同じであるわけでもなかった。
既に数ヶ月以上、行方不明となっていたアルカナファミリアのメンバーを、レガーロでは全力で調査をしているところだった。
そんなことが起きているとは全く知らないであろう、その少女。
ふわふわのフリルのワンピースを揺らしながらるんるんと鼻歌を歌えば、日常が充実していることを伝えていた。
「あ、いたいた!セルレイナ!」
「んー?」
廊下の端から、大声で呼ばれたので“セルレイナ”と呼ばれた彼女は振り返る。
映ったのは、こちらに紙切れ1枚をひらひらと大きく振って、挨拶する男だった。
「手紙だよ!君宛さ!」
「あら♪誰かしら?」
「またラブレター?」
男から手紙を受け取り、中身をゆっくりと開けようとした。
「!」
「まったく、君は本当にモテるよなぁ。本命とかいないの?」
―――記載されている字に、見覚えがあった。
「フフフ…」
「セルレイナ……?」
「―――そうねぇ」
ぺりっと封を破いて。
中から出てきた見覚えのある字を見つめて、彼女は笑う。
書かれていた“頼みごと”をするのは、宛名の人物を連想したら滅多にないこと。
「この子が本命かなっ♪」
「え?」
彼女は見せつけるようにして、男の目の前に封筒を差し出す。
中身だけを持ち去り、封筒を彼の手に残して、セルレイナは元来た道を戻り始めた。
「…?」
宛名には、ただ1つ“ユエ”と記載されていた。
76. オリビオンの血
―――時代を戻し、100年前。
空に現れた黒騎士、獣、そして天使のような召喚された者たち。
影の錬金術と合わせて、彼女がここまでの力を発揮するとは思えなかった。
一緒に過ごしてきたリアも、ファリベルも。
もちろん、サクラ、エリカ、ウタラ、ツェスィも上空に現れたそれに目を疑う。
「同時に3体……ッ」
見える才能。
その器量は確かにコズエを超えている。
同じ双子とは思えないくらいに。
「やれ」
コヨミの命令で動きだした、あの強敵な黒騎士を始め、他2体の熊のような獣と、浮遊している天使が彼女たち戦える者を苦しめだす。
「ウタラ……!」
「チッ…」
まず、熊の形状をした1体がコヨミを解放させるようにしてウタラを狙う。
毒針をコヨミの喉元に宛てていたツェスィにもふりかざすように、鋭い爪が襲ってきた。
交わして、逃げれば叫びを上げる獣。
これはヤバイと誰もが悟る。
馬力で言えば、黒騎士を超えてくるだろう。
前回あれだけ苦戦した黒騎士以外にこのレベルでは、勝ち目が……と不安に煽られる。
「邪魔ばかりされても困ります」
「…ッ」
アルトを横目で睨むコヨミ。
傍にあり、近くに居た家族同然の者に命の危険に曝される。
表し難い感情、そして身体的な苦痛も感じた。
「ハルモニア!!!」
ファリベルが、デルセの人形を突き飛ばして、女神・ハルモニアで再度対抗を示す。
黒騎士の前に1人で立ち向かう女神だったが、今日は騎士に相手にされる前に行く手を阻む天使のような少女。
2体目に召喚された者だ。
ハルモニアの攻撃を避けながら攻撃を仕込んでくる。
もちろんハルモニアも避け、上手い具合に対抗し守っていくが、これでは攻め入れない。
ましてや、敵はこの天使だけではないのだ。
[ファリベル]
「!」
[加勢する。頼んだよ]
デルセを相手にしつつ、脳内に響いた言葉。
聞き慣れた、親しみある声は水色の瞳の少女を連想させる。
顔をリアの方向に向けると同時に、リアも1つのボールを空に投げつけて、召喚錬金術を発動した。
背に翼が生え、そして立派な角を誇る―――毛並みに水色の輝きを放った神話の馬。
「リア……!」
現れたペガサス。
熊に対抗するように自由に飛び交い、前足をあげて威嚇をするペガサスに、リアはしっかり前を見てアルカナファミリアの影たちと対峙した。
リアが放ったペガサスと、ファリベルの女神が天使と熊を引きとめて。
だが、自由に暴れ続けるのはあの黒騎士。
馬に乗った騎士が槍をこちらに翳し、気を抜けば倒れているメンズの命が奪われそうになる。
サクラとエリカがこまめに動き、2人で黒騎士の動きを拡散させようと働いていた。
「エリカ」
「大丈夫よ、任せて」
ナイフを投げ、黒騎士に跳ね返されるのはわかっている。
2人の狙いはそこじゃない。
サクラが手早くワイヤーを張り巡らせて、どんどんと動ける範囲を狭めさせ、追い詰める。
これだけのことでこの黒騎士が消えるとは思っていなかったが、多少の力になればと思っていた。
「うわぁ……ッ」
「きゃ……!」
だが、巨大な槍がエリカとサクラの行く手を苦しめた。
どうにもならないのか……と顔を歪ませている間にも、ユエやリアの本人たちの戦いは続いていた。
「チ……ッ」
舌打ちが響き、デビトの残りの銃で繰り出される銃撃を避けるリア。
その星の能力で、少し先の未来も多少は予測が効く。
だが、リアを苦しめたのは隣にいる帽子の男の能力だった。
「コイツ、節制か……」
姿を消したデビトの影を追おうとしたが、莫大に強力化された力とリアの力を相殺する節制―――ルカの影の力。
舌を出して、緑の光を放つ彼のコピーされた力はこの場では大きく影響した。
対してユエも、ノヴァとアッシュの剣術を避けて、隙があれば入り斬りかかったが、だんだんとデビトに最初に撃たれた傷の出血が悪化していくのに気付いていた。
「…ッ」
「ユエ……ッ」
少しだけ動くことに苦しそうにするユエ。
姿を見ていたリベルタと、傷つけた本人がその姿に悔しさを見せた。
サムライノヴァの速さ。
錬金術師アッシュの剣と術を駆使した攻撃。
どちらにこけても、この場面では痛い。
上空には暴れ続けた黒騎士。
フェリチータもエルシアとレミと蹴り合いの対決を行っている中、黒騎士がユエを見下ろして笑った気がした。
次の瞬間―――
「!!!」
光速とも言える速さで槍がユエの立っていた場所を仕留める。
咄嗟の判断だけで、自分は退けると思っていた。
だが、今この場でそれだけをするのは、守ったことにならない。
自分に矛先を向けたアッシュを、本人に心で謝りながら思いっきり蹴っ飛ばし、黒騎士の軌道から外す。
同時進行で腕は振りかえりざまにノヴァを押して、一緒に倒れ込んだ。
「ユエッッ!!!」
轟音と共に、地に罅が入ったことに誰もが叫ぶ。
間一髪で避けたユエはアッシュの無事も確認してから、ノヴァの元から退いた。
だが、そこは速さでは誰にも負けないノヴァ。
彼の影は迷うことなくそのままカタナを真横に斬った。
「い…ッ!!!」
腹部に真横に斬り目が入る。
上着もワイシャツも、恐らく素肌にまでくっきりと線が残るはずだ。
更に血を流す結果になったユエが、ファミリーとアロイスやシノブが倒れている所まで戻り、痛みを表情にも出した。
「ユエ……っ」
「…っ…、だい、じょぶ……」
「ユエ……もういいよ……、無理しないでッ!」
ルカとパーチェの叫び。
だが、彼女は立ち上がった。
死を選んだわけではない。
背中で守ることを選んだわけじゃない。
存在で守ることを選んだ。
共に生きるために、彼女は戦うことを選んだんだ。
「黒騎士に、生身で勝てるわけがないですよ」
サクラとエリカ、そしてユエに向けられた言葉でもあるそれ。
影のリベルタやパーチェは退いてきたウタラとツェスィが手合わせしていた。
止まらない血を流しながら、ユエは顔を伏せなかった。
空にあがる召喚錬金術の物体が5体。
「―――…」
右手を腹部に宛てて、ヌル…っとした感覚に目が覚める。
この痛みを、この感覚を忘れない。
誰かを守るために傷付いたとしても“死”を選んではいけない。
身を投げ出すことは、誰にも許されない。
もちろん、自分も許さない。
「つまり、生身じゃなきゃいいわけだ」
「生身以外で?どうするんですか?」
「……」
「また狼でも出します?前回はアナタが呼んだわけでもないのに」
コヨミが黒騎士の横でユエを嘲笑いながら言う。
ユエは…期待に応えた。
「どうかな……」
ガロ。
いや、アナタがガロなのかどうかなんて、分からないけれど。
彼の精神を宿した者なのかどうかも分からないけれど。
ただ、言えることがある。
「あたしは…アンタ達が言う―――」
強さの意味を履き違えるな。
その言葉の意味を…
「“あの”カレルダの娘なんだろ?」
ようやく理解出来たよ…―――。