75. 譲らない戦い
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フェリチータの蹴りを真横から喰らったレミ。
ナイフを突き立てられたエルシア。
完全にファミリーの前に立ち、守りを固めたユエ。
ここからまた過激な戦いが始まろうとしている。
守護団とここ最近、行動を別にしていたアルトはまさか、ユエやフェリチータを筆頭に、助けてくれるメンバーがいるとは思わなかったために驚いている。
ましてや、そのうちの1人が呪縛を受け、相当痛みやダメージを喰らった当の本人だったことは信じられなかった。
「邪魔ばっかり―――」
怒り狂うようにして、エルシアが風を解き放つ。
フェリチータが構え、ユエも鎖鎌に手をかけた。
同時に飛ばされる風の渦。
「しないでちょうだいッッ!!!!」
今度は避けることなく自然の力で無に還して。
「貫け」
「!」
辺り一面に張り巡らせるようにして現れた雷。
格子状となり、避けるに避けられない……とレミとエルシアが顔を青ざめた。
「!!!」
「お姉さま!!!」
雷も交わせない部分があると思ったが、レミの声に振り返れば、格子状の雷の中に突き飛ばされる形でフェリチータの蹴りが飛んできた。
どちらも交わせずに稲妻の中に投下されたエルシア。
綺麗な声で悲鳴が上がる。
「キャァアァアアアアッ!!!」
決してユエは力を抜かなかった。
そのまま操り続けた力はエルシアを苦しめ続け、やがて蹲らせる。
「く……ッ」
「……おのれッ!!!!」
落ちていた剣を片手に突っ込んでくるレミ。
加勢を見せたデルセの人形と、その本体であるデルセ。
人形は止めることが出来なかったが、デルセの前には腕を振って、ファリベルが鞭を見せる。
「アナタの相手は私」
傷を押さえ、立ち上がる彼女。
デルセが赤い目で笑いながら応える。
フェリチータがユエやファミリーの前まで戻ってくれば、戦いは既に終結するのではないかと思われた。
だが、本当の戦いは……―――
「全くもってダメですね」
「!」
―――ここからだった。
「コヨミ……!」
75. 譲らない戦い
空から声がしたと思えば、エルシアの背後に立つのはコヨミ。
再び現れた強敵である彼女に、無意識にユエが構えを強める。
コヨミもユエの瞳を見ながら、先刻よりも睨みを利かせた。
「随分と好き勝手にするんですね、巫女の娘」
「…」
「アナタがどう足掻こうと、その血はどうにもなりません」
コヨミが碧い瞳で、冷たく言い放つ。
フェリチータもユエも並んで彼女の目に答えれば、コヨミはその手で剣を引き抜いた。
「エルシア、レミ。一体何をしているのですか」
「…っ」
「いくら負傷しているからと言って、気を抜きすぎです」
「…ッ」
「―――相手は、あのカレルダの娘なのですから」
いちいち勘に障る言い方だ、とノヴァとアッシュが顔をしかめる。
だがユエは何も気にしていないという顔をしていた。
偽って、装っているわけでもなさそうだ。
本心から涼しい顔をしていた。
「こちらにも事情があります」
コヨミが剣を完全に抜いて、構えた姿を向けて来たのでフェリチータがナイフを握る。
ユエも腕を前に突き出して、鎖鎌を整えた。
「今日は、本気で行きますよ」
戦いが幕を切って落とされた。
剣を振りかざして突っ込んでくるコヨミ。
フォローするように出てきたエルシアとレミ。
さすがにフェリチータだけではやばい…とユエが彼女より先に前に出てコヨミの相手を引き受けた。
「ユエ!」
「大丈夫」
フェリチータが心配するようにして声をあげたが、1つ返事で返してコヨミとぶつかり合う。
鎖鎌と剣。金属音がぶつかり合い、擦れ合い、嫌な音を立てた。
呼吸を苦しめられるファミリーと、中央で倒れ込んだ守護団のメンズ達。
コヨミの力で押されたユエが体勢は崩さず、一旦自分の意志で距離を取ればそれすら詰める勢いで追っている彼女。
冷静な面持ちをしているが―――動きから切羽詰まっているように思えた。
「こんな仲間が大勢いる場所で、よく戦おうと思えましたね」
「どういう意味?」
「今のアナタの実力からして見るに―――」
コズエがバッと翳した左手からは新手の錬金術が放たれる。
ジョーリィの使う蒼い炎に似た、意志を持っているようなそれにユエは足を止めずに避け続けた。
「守るべき者が多すぎます」
火を避け、避けたそれが仲間に当たらないようにしながら動けばコヨミの思惑通りだった。
「知ってますか?」
「なに……ッ?」
「アナタが生きてきた時代とは違い、この国には特殊な錬金術があります」
コヨミが炎を止めたと思えば、地面に手をつけた。
ドクン…と黒く波打ったそれに、ユエは顔をしかめた。
何か…来る―――。
「例えば」
「!」
異変を感じて振り返った先には、見慣れた姿。
「アッシュ―――ッ」
「他人の影を操る錬金術」
振り返ると同時に、ユエに斬りかかったのはアッシュだった。
だが、本物ではない。
本物は背後で喉を押さえて倒れ込んでいる。
目の前にいるアッシュは目は虚ろで、どこか瞳は伏せられたまま。
鍔のない剣を構えられて、ユエはコヨミと現れたアッシュの偽物と戦わなければならなくなる。
「影……ッ!?」
「えぇ。強さも本物と同じですよ」
獣が出す速度で動き始めた彼の速度。
昔はヴァスチェロファンタズマで共に戦い、力を競いあっていたものの、それも昔の話。
前に比べると手合わせする回数も時間も減り、彼がこんなに力を増していることに驚きを隠せなかった。
「…っ」
キーン!と音を立てながら、影のアッシュと戦う。
隙をついて、ブッ飛ばすつもりでいた。
だからこそ、そのチャンスを自分で手にするためにアッシュの剣を避けて、鎖鎌でなくわざわざ蹴りをお見舞いした。
同時に囁かれた言葉はとても残酷なもの。
「影に実体はありません」
「…!?」
「攻撃をして、ダメージを喰らうのは本体ですよ」
「…ッ」
蹴りあげた脚は、そのまま当たらないようにして軌道をずらせば、もちろん相手にとってはチャンスだ。
逆に腹部を本気で斬られ、右のわき腹から血が舞った。
「ユエッッ!!!」
フェリチータがレミとエルシアを相手にしながら上げる声。
痛みに顔をしかめていたが、それも一瞬。
もっと意識をくばらなければならない人物がそこにいた。
「―――ッ!!!!!」
銃口を真っ直ぐに向けて、こちらにニヤリと笑みを見せた隻眼の男。
彼の武器は銃だ。
1歩間違えば完全に命を持って行かれると自覚した。
「デビト……ッ」
乱射される弾。
避けきって、自分は助かった…と思ったのもつかの間。
影のデビトは、影のアッシュが傷付こうが関係ないんだ。
「!!!」
「さて、どうしますか?」
もし、影のアッシュが影のデビトに撃たれたら。
傷付き、死に至るかもしれないのは……―――
「オーラコンドゥシャン…―――」
止めようと思い、呟いた言葉は“アルカナ能力”。
そこで思い出す。
今の自分に、それは使えないと。
「やば…ッ」
避ける素振りも見せない影のアッシュにユエが無心で飛び出そうとしたその時だ。
「!!!」
「ッ!」
真横から、ピンクの長い髪の少女が、影のアッシュを突き飛ばす。
2人して倒れ込んだと思えば、加勢を見せるようにして影のデビトの銃を体術で狙ったのは水色の瞳の少女。
参戦したのは…―――
「サクラ!リア!」
デルセの相手をしていたファリベルが、ユエやフェリチータ側に現れた仲間の名前を呼ぶ。
リアの蹴りによってデビトの銃が飛ばされ、サクラが身を呈して守ったアッシュも銃弾は避けることができた。
背後にはまだ立っている事が出来るアロイスとシノブがいる。
「みんな……!」