74. サキュバスと少女たち
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森の中やオリビオンの橋から見えた紫の光を、アルトは目の前で眺めることになる。
エルシアが包まれたかと思えば、同調するように突き飛ばされた妹のレミも光を放つ。
デルセは少しだけ脅えるような表情で、2人を見つめていた。
「く……」
「今日のは……強いな……っ」
リュアルとラルダが、巻き添えを食ったようで苦しい中、更に苦しめられて顔をしかめる。
彼女たちが契約をしている悪魔の種類はサキュバス。
この能力は異性を対象としており、それなりにエグいものであった。
「…ッ」
ガクン…!とアルトも膝から崩れ落ちた。
顔を上げれば、見下ろして笑顔を浮かべるエルシア。
「サキュバスというこの能力は、異性を対象とし苦しめ、攻撃を無効化するもの」
「く…ッ」
「死にかけを殺すのは楽しくないわ。じわじわと苦しめて、最後の最後で楽にしてあげます」
生気が吸われているようだった。
立っている事が出来ない。胸の奥から肺を押しつぶすような感覚。
これでは、どれだけ身体能力が上がっていたとしても意味がない。
うまく動くことが出来ないのだから。
「さぁ、まずは―――」
「!」
「その綺麗な顔から、いたぶりましょうか?」
エルシアの爪が、アルトの頬を捕えた瞬間だった。
「!」
風を切り裂く音。
かなりの遠距離から定められた矢。
エルシアとレミが確認するようにして捕えれば、クロスボウを構えたラディの姿。
同じく前方から突っ込んでくるのはイオンだった。
「エトワールー(2号)」
「アルトッッ!!」
「お前ら……ッ」
アルトから強制的に離れなければならない状況を作られたエルシアが顔をしかめた。
ファリベルが鞭を構えて、最前線に飛び出す。
デルセが人形を構え、ファリベルの相手をするために出てきたので応えた。
そこで異変に気付くラディ。
「これ……っ」
胸が少し苦しい。
距離を詰めれば詰める程、肺が潰されるような感覚。
気にせずに突っ込んでいくイオンに、ラディが不安を覚えた。
「アルトくーん、みーつけたー」
「イオン……っ」
「あっれー?だいじょーぶー?どっか痛いのー?」
「お前……大丈夫なのか……ッ?」
「えー?」
気にせずに真横で突っ立っているイオンに、アルトが相変わらずだな…と呆れを見せた。
へらへらと笑うイオンが両手にエトワールを構えて、笑う。
エルシアとレミは平然と立っているイオンに首をかしげた。
「アナタ、男装でもしているんですか?」
「この能力の対象は男性ですよ……?」
「おれ男だよー?列記とした、エトワールのお兄ちゃんですー!」
へらへら笑っているイオン。
何が何だかよく分からないままだったが、だんだんと状況を理解し始めた。
体が、肺が、膝が悲鳴をあげる。
顔にはあまり出ていないが。
「あっれー?なんかおかしーなー」
「お前……自分のことなんだからもっとちゃんと気付けよ」
呆れに入ってしまったアルトが珍しく口数多く突っ込めば、イオンが笑っていた。
「う……なに…コレ……」
「ラディ……!」
デルセの相手をしていたファリベルも、ラディが崩れ落ちたことで、何かしらの力が発動していることを悟る。
「(サキュバス……能力が効く対象の相手は異性)」
つまり、このままじゃ…―――。
「さぁて、ファリベル様」
「…」
「1人でわたくしたちを相手に出来るかしら?」
74. サキュバスと少女たち
ファリベルが1人、なんとかエルシアとレミの応戦を始める中、土地勘のないユエはあがった光の位置を求めて市街地を走りぬけていた。
それを追うアルカナファミリアのメンバー。
コズエの民家に残ったのは、ジョーリィとアロイスだった。
「まったく……コズエはこんな時にどこに行ったのよ?」
アロイスが周辺を探し回っても、どこにもコズエの姿がないことに気付いていた。
仕方なく民家に戻ってくると、中はまるでもぬけの殻。
「えッ!?」
誰ひとり、家の中にいないような気配にアロイスが衝撃をうける。
「ちょっとぉん!アタシを置いてどこに行ったのよ!」
とても男らしい、素敵な声がオカマ口調で家の中に響いていたが、リビングでくつろいでいるジョーリィは相も変わらず本を見つめたまま。
「あらやだ、いるんじゃない」
アロイスがジョーリィを見つけて、“いたのか”という空気を出せば、ジョーリィはクックックと笑うだけだった。
「アンタの仲間、どこ行ったのよ?」
「ダクトの南に紫の光が上がったといい、騒いでいたな」
ペラリ、と本をめくる音だけが静かに響き“何故、コイツだけはこんなに冷静でいられるんだ”と思いながらもアロイスは外を見つめる。
「紫の光……」
覚えがあった。
エルシアとレミではないか、と。
ならば、自分も追うべきだと判断したアロイスがジョーリィに後ろ背で伝えた。
「アタシは行くけど、アンタはいいの?」
「フ……私が行かずとも、事は治まる」
「ふーん?」
あっそ、と言い残してアロイスが民家を飛び出す。
ダクトの南と行っていたな、と思いながら駆けだそうとした時。
空から降ってくるような音がして、誰かが現れた。
思わず振り返ると、少しだけ懐かしく思えるメンバーが。
「!」
「アロイス……!」
「シノブ……っ!」
まるで瞬間移動の速度で現れた彼が、足を止める。
アロイスが寝返ったとは聞いていたシノブが、まさかこんな所で彼―――いや、彼女に会えると思っていなかったので驚いていた。
背後からはもう複数の気配。
「アロイス!」
「リア、エリカ……サクラも」
「私もいます…♪」
「ツェスィ……!」
思わず誰もが足を止めて、アロイスとの遭遇に驚きを隠せずにいたが、爆音が響いたので顔をそちらに向ける。
今の音で、ユエも場所が突き止められたことだろう。
「アンタ達、ここでなにしてるのよ」
「アルトがダクトの南で襲われてる」
「!?」
「今の音、間違えなくそーだろうな」
リアの発言に、エルシアたちが狙われているのがアルトだと知り疑問が浮かぶ。
だが、少し考えて狙われる理由を見つけた。
「呪縛よね?」
「あぁ」
「エルシア達は、アルトを殺す気でかかるだろう」
「…」
「そうはさせない」
シャロスの支配下に、ついに裏切りを見せるリア達。
事実上、誰もがシャロスと対立をすることになった。
完全な寝返り。
もう姫様を起こすことは、出来ないと誰もが認めた結果だった。
「行こう」
リアが言葉と同時に走り出すので、サクラとエリカがそれに続く。
シノブは消える速度で誰よりも先に戦いの場に乗り込んで行った。
「アロイスさん」
「……なぁに、ツェスィ」
久しぶりに呼ばれた気がしたので、にっこり笑顔で返してやれば、ツェスィが笑う。
「わたしも、決めました…♪」
「!」
アロイスの腕にあった、切り傷に手を宛てて。
優しい光でヒーリングをすれば、彼女の腕に残っていた傷の線が消えた。
「姫様のこと……大好きです」
「…」
「でも、………取り戻すためにまた何かを失うのは、もっと嫌です」
「ツェスィ……」
「いつか、必ず姫様を起こしてみせます…♪」
―――自分達の力で。
姫様を起こしてみせる。
決意が秘められたツェスィの瞳は強かった。
時間があれば、共に居た仲のアロイスには無言のまま彼女が“正しいこと”で悩んでいたのを知っている。
だからこそ、出てきた答えに安心できた。
「行くわよ、ツェスィ」
「はい…♪」
アロイスとツェスィも同時に駆けだす。
ジョーリィがその光景を見つめながら、部屋の中で煙を吹かしていた。
これで立ち向かうものは1つになったはずだ。
止められるかどうかも、自分達次第。
あとは譲らない、諦めない心と力の問題だった。