73. 繋ぐ絆
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「エリカ」
いつもの談話室。
たった1人で豪華なソファーに腰かけて、俯いていたのはエリカ。
心なしか、彼女の表情が暗いとリボンの角度も下がって見える。
「サクラ……」
そんな彼女を呼んだのは、いつも一緒にいるメンバーだった。
ピンクの長い髪を揺らして、現れた彼女。
「ファリベルが寝返ったって本当?」
それは聞く所によると、自分達とよくお茶をしてくれていた年上の姉のような存在が―――守護団から離れたという情報。
彼女だけじゃない。
ジジもアロイスも、イオン、ラディまで。
彼らは“こうすることが正しい”という導きを出していた。
「ねぇ……僕たちさ、このままじゃ良くないよね」
「サクラ……」
「僕は、正しくないと思うんだ」
「…」
「今、リアのとこ行って色々聞いてきたんだけど……」
シャロスのこと。
バレアの子孫が誰であるのか。
奴が狙うユエが、一体どんな存在でどんな人物なのか。
―――…このまま、守護団としてシャロスに仕えていても何の意味もないということ。
「姫様を助けられるからって言われても、このままシャロスの駒を続ける意味なんて……」
「そう、だよね……」
「シャロスは僕たちを救う気なんてないよ」
認めるのが怖かった。
“助けられる”と言われて、あの明るい笑顔が返ってくるのであればどんなことでもしようと思っていたから。
それは、助けてもらった12人全員が思っていることで。
だからこそ、シャロスに従った。
今、それが否定されて……―――。
「エリカ、サクラ」
「!」
2人が話していた空間に、扉が開く音。
顔をあげればシノブが。
「シノブ……」
少しだけ笑んで、彼は無言で問い質した。
“ここに残るかい?”と。
だが、誰もが頷くわけない。
「アルトの元へ行こうと思う」
「アルト、見つかったの?」
「今、リアが結構な力を消費しながらも探してくれてるとこだ」
「…」
「もう、事情は察しているだろ?」
シノブの言葉に、エリカとサクラが顔を合わせた。
「僕やリアの読みからすると、次に狙われるのはアルトだ」
「ユエじゃなくて?」
「ユエはもちろん、その存在を狙われているよ。でも違う……。ユエを確実に手に入れる為に、アルトが狙われる」
「どうして?」
「“呪縛”」
サクラの疑問に答えたのはエリカだった。
「アルトが、ユエにかけた呪縛でしょう?」
「そう。アルトはシャロスが誰の子孫であるか知ってると思うけど、ユエが誰の娘であるかは知らないはずだ」
「…」
「僕だって、ついさっき知った事実だから」
3人のいる部屋の焚き火が、静かにパチパチと鳴る。
「アルトがかけた呪縛がもし解けると、ユエが本来のアルカナ能力を使えるようになる」
「そうなるとシャロス側は手間がまた増える。だから―――」
「先手を打つ気でいるはずだ」
アルトが狙われるはず。
大事な仲間をもう誰1人失わないために、彼らは赴き……戦う。
「みなさん」
扉を開け放った隙間から、ツェスィが“準備が出来ました”と告げた。
「リアがアルトのおおよその位置を掴みました」
「行こうか」
もう、目的と欲に惑わされない。
失うのは、もう御免だ。
73. 繋ぐ絆
現れたエルシアとレミ、デルセ。
その背後、かなり離れた所にはリュアルとラルダも確認できた。
つまり、シャロスの配下がオールメンバーでアルトを狙っているということ。
「仲間の方はどうしたんですか?」
「なんで1人なんですかァ?」
バカにしたような口調で笑うエルシアとレミ。
どうやら2人の負傷が一番少ないということ、そして相手のアルトが男ということで、エルシアとレミが叩き潰しにかかるようだ。
「何の用だ」
「何のって……姿が見えないから心配しに来ただけじゃないですか」
「アルト様こわーい」
「ふざけるな。お前らの狙いはもう分かってる」
「……へぇ」
「わかってる。ねぇ」
攻撃は、やはり突如訪れた。
前回と同じように、アルトの両脇スレスレに風を送り込んできたエルシアとレミの姉妹。
背後からデルセが人形を操り、攻撃を繰り出す。
「…ッ」
「わかっているのであれば、自分が狙われる理由も理解してくれますよね?」
「アルトさんには真っ先に死んでもらわないと困りますぅ」
「…」
アルトがよけて、空中に逃げる。
追うようにして人形の女戦士がアルトの背後に回り込んできた。
これは銃よりもナイフの方が速い、と引き抜いて、切り裂く。
相手もアルトと同じくらいのスピードがあるために避けられてしまうが距離は置くことが出来た。
同時にエルシアとレミが近付いてくる気配。
右手はそのままナイフを握り、利き手の左手でホルスターから銃を引き抜いて乱射をする。
「フフフ…」
「アハハ…」
見事に避けられ、地に着地すると蹴りが交互に飛んできたので腕でガードしつつナイフと銃で攻撃を繰り出す。
相手は少し遊んでいるようで、悪魔の能力はまだ発動していないようだ。
アルト自身にも手ごたえはあった。
「ねぇ、アルト様。知ってます?」
「ユエの父親のこと」
「…ッ…?」
蹴りと拳、風が飛び合う中、アルトはまだ近くに気配を見せる人形にも気を張り巡らせていた。
どっから奴が出てきて邪魔をするかもわからない。
奥の奥で、辛そうにはしているがこちらを見つめているリュアルとラルダも気になる。
頭数では負けてしまうこの現状。
どうしても不利だ。
「その顔、知らないみたいですわね」
「それは残念」
「なんの話だ」
「ユエの父親は誰でしょうというお話ですよ」
クスクス笑みを浮かべ、押してくるエルシア。
あの紅色の娘が誰の子供か?
入れていた知識の中には、多少“巫女の娘”という予測があったが……―――。
「では、教えて差し上げます」
「…っ!」
そのタイミングで背後から人形の剣が飛んできた。
エルシアとレミはそのままに、止めるために振り向きながらナイフで応戦。
このまま固まってしまえば、確実にやられると思ったが力任せに押されてしまえば押し返すことが出来ず。
バランスを崩したところで、レミが背中を全力で蹴りあげてきた。
「がッ…!!!!」
「ユエは、巫女の娘…」
「―――…ッ」
「そして―――」
少しの距離飛ばされて、エルシア、レミ、そして人形と対峙する形になる。
背後には人形を操る本体のデルセ。
負傷した個所をさすりながら、立ち上がった。
「ユエはカレルダの娘です」
「!?」
声にならない驚愕。
目を見開いてしまった。
「巫女がカレルダに襲われたことはご存知でしょう?」
「そしてその後、心の傷からこの国を去ったということになっていたと思いますが、巫女のその後の真実は全くの別物」
「(嘘……だろ)」
「巫女はカレルダの娘を孕んで、見事にこの世に出生させた」
エルシアとレミ、そしてデルセも、リュアル、ラルダもアルトの表情に口角をあげた。
だが、彼らにも余裕はないようで笑ってはいるがどこか本気だ。
これだけの頭数があるにも関わらず。
「どんな意図があってかはわかりませんが、シャロス様にとってはそれがチャンス」
「廻国を手に入れることが出来る、扉をあける事に繋がる存在が……まだ生きていたのだから」
「…ッ」
「さぁ、頭の回転が早いアルト様」
「何故、自分が狙われているのかはお分かりですよね?」
エルシアとレミが風を解き放つ。
転がりながらも避けて、視線をあげると人形の刃。
右手も銃に切り替えて、乱射を決め込んだがなかなか素早く、当たらない。
「お前たちがユエを狙うのは、それが理由か……ッ」
「そうですわ」
「ご名答」