72. 鳴り響く開戦のベル
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「リア」
静かな夜を迎えた、オリビオンの城内。
窓から崩れ落ちた街並みと、冷たく揺らめく水面を見つめていた少女は、背後から呼ばれて振り返る。
偵察に出ていた、シノブがそこにいた。
少女・リアは次に彼から返ってくる言葉を、理解していた。
「ジジ、ラディ、アロイス、イオン、ファリベルが寝返ったよ」
「みたいだな」
知っていただろう。
彼女・リアの星の能力をもってすれば彼らが何故そう動き、どんな戦いをしたのかも、見えていたのかもしれない。
「これからどうする?」
「…」
「シャロスについて行くの?」
分かっているはずだ。
この立場でいることが、利用されていることに繋がっているのは。
だがだからと言って、アルカナファミリアと手を組んだとして。たかがあの組織に姫を甦らせる力があるとは思えない。
「どーかな」
「え?」
リアが言葉を続けると思ったところで、2人が話していた部屋の扉が荒々しく放たれる。
ガチャリと飛び込んできたのは、1枚の書類のようなものを持ってきた、ツェスィ。
「リア…!シノブ…!」
「ツェスィ……?」
「これ…ッ」
明らかに、手渡された書類は先日ツェスィがアルトの部屋で見つけたもの。
アルトはこの事実を知っていた。
エルシアやレミと戦い、ユエに呪縛の呪いをかけたのは、きっとこれも1つの原因だったのだろう。
―――だが、彼はまだ耳にしていなかった。
ユエが例え、シャロス側に回って力を使えないように呪縛をつけたとしても、本来の狙いはそこじゃないということに。
三親等。
バレアにとって、そう示されるユエ。
だからこそ、存在を狙っているという事実を。
封じ込めて、手駒を減らせばいいと思っていたのが今、裏目に出る。
「バレアの子孫がシャロス……」
「やっぱね」
「リア、知ってたんですか……?」
「そんな気はしてた」
鋭く横目で夜の帳へと投げる視線。
落ちる先は、ダクト。
「じゃなきゃ、わざわざ100年も先から“アルベルティーナを起こします”なんて、ありえないでしょ」
「…」
「アイツの狙いは廻国」
リアが冷静に告げるもの。
シノブもツェスィも表情は崩さなかったが、かなり驚いたようだ。
「まったく、厄介だよなぁー」
呆れたようにして吐き出したリアが、窓に向かって正面を向く。
何をするのかと思えば目を一度伏せてから、水色の光をその場に発動させた。
「リア……」
「!」
「つまり、今あの女が全力で戦えないことは裏目に出る」
腕に刻まれた、星のスティグマータが熱を持った。
使われる能力は、自由にしていた彼を追うもの。
「アルトのとこに行って解くか、」
その先に、新たな戦いが待ちうけていた。
「廻国を開く鍵を……ユエを殺すかだ」
72. 鳴り響く開戦のベル
「ふざけやがって……!」
時代はレガーロに戻る。
オリビオンがあった時代から100年後。
コヨミの力で戻ってきたシャロスの支配下5人はボロボロな姿で着地した廊下に蹲った。
「なんだあの狼……ッ」
「アイツ、錬金術が使えるなんて聞いてないぞッ!!」
リュアルとラルダがコヨミに文句を言い放ったが、目を丸くして、誰よりも驚いていたのは支配下たちではない。
「オイ、コヨ―――「煩い」
誰よりも驚きを隠せなかったのは、コヨミだった。
「どうしてですか……どうして召喚錬金術をあの娘が……」
使えるはずないんだ。
どう考えても。
使えるはずなんて……巫女の娘で、カレルダの娘のアイツに―――召喚錬金術が、使えるはずないのに。
驚愕の表情を浮かべたコヨミに、事情が変わっていることを悟る5人。
このままではこちらも危ないのではと思った所で、更に厄介な男の出迎えが。
「おや。随分とやられてきましたね」
「!」
「シャロス様……!」
「…っ」
「それだけやられて、収穫ゼロはないでしょう?」
廊下にへたる5人と、ただただ立ち尽くしたコヨミに、シャロスが冷たい視線を向ける。
ニヤァと上がった口角に、支配下である5人は悪寒を感じた。
「コヨミ。アナタまで動いたんです。ユエはどこにいるのですか?」
「……」
「まして、こちらの状況もベラベラと話してくれたようですし。ねぇ、みなさん?」
この男の情報網をなめてはいけなかった。
かねてから“用が済んだら守護団は殺せ”と言われていたものの、今回の出撃には彼らの独断が含まれていた。
贔屓される守護団という100年前の12人の人物たち。
支配下は自分達だ、と思えば思うほど面白くない。
だからこそ独断で動き、全員仕留めるはずだった。
―――ユエが、“強さの意味”を知らなければ。
「アナタたちのおかげで、残りの守護団たちも使いものにならない上、ユエはユエでメンタルが強化されてしまったようですし、まったくどうしてくれるんですか?」
「…ッ」
「休んでる暇なんてないでしょう?」
立て、と無言の重圧。
耐えきれずに傷だらけの5人が立ち上がり、もう1度戻るように仕向けられた。
「コヨミ。アナタも案外使えないんですね」
「……」
「私に廻国の話を持ちかけて、100年前の世界に干渉させているのは、アナタではありませんか」
「…っ」
「精一杯、働いてくださいね。我が一族に伝わる“ウィル・インゲニオーススの封印の錬金術を解く伝承”をアナタに無償でお伝えしたんですから」
コヨミの碧い瞳が揺れた。
シャロスの手の中で、4枚のタロッコが揺れる。
「おもしろいですねぇ……。アルカナファミリアも、守護団も。とても素晴らしい力を持っている」
「……」
「どこぞの悪魔と契約をするよりも、素敵な力だ」
責めるような視線。
デルセが脅えて、人形を握る手に力を込める。
コヨミは彼を見つめたが、こんな反抗も通用しない。
次こそ連れてこないと……―――コヨミの願いは潰えるかもしれない。
「行きなさい」
そのままのボロボロの体で投下されるように、6人はもう1度100年前の世界に戻る。
シャロスがクツクツと笑みを浮かべて、4枚のタロッコを眺めた。
「タロッコ……。神秘の力であり、我が先祖・バレアが戦ったもの」
何が面白いのか分からないが、彼の手にはアルカナ・ファミリアには適合者がいない、星・女帝・悪魔・司祭長のカードが。
あの日、幽霊船騒動が起きた日。
アルカナファミリアの館を離れ、コヨミの手によってヴァスチェロ・ファンタズマの船長室から盗まれたもの。
コヨミ曰く、守護団の力を見て“厄介”だと読んだこの4枚の力。
この時代で新たに契約者が増えないようにということで盗んで来たもの。
オリビオンとユエとの出逢いは、皮肉にもこのカードから始まったのだ。
「タロッコが宿主を選定する。面白い代物だ」
そのまま歩き出し、自分の執務室に戻っていくシャロス。
その背を、柱の影から大きな男が見つめていた。
「……」
―――逃がすわけになんて、いかない。