07. 発ちし時刻に鐘は鳴る
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部屋にとても深い、紅茶の匂いが立ちこめる。
「んー!やっぱりファリベルが淹れてくれる紅茶は美味しいっ」
「確かに、悪くはない」
「ふふ、ありがとう」
小さいお茶会が行われているその部屋には、3人の女性陣がいた。
その中には、先日のパーティでシャロス・フェアの横についていた赤髪の少女とピンクの髪の少女の姿。
もう1人は、会場には現れなかった女性。深い蒼の瞳には迷いなど到底見えなかった。
「あ、じゃあこれは私からっ!」
赤いリボンの少女が思い出したようにポケットからガサゴソと何かを取り出す。
出てきたのは渦巻きや、モザイク柄のキュートなお茶菓子だった。
「ビスコッティか」
「ありがとう。エリカのお菓子は私が淹れたお茶にあうから嬉しいわ」
本格的にお茶会が始まり、談笑する3人のいる部屋の扉が乱暴に開かれる。
だが、そんなことは気にも留めずに背を向けていた蒼い瞳の女性がお茶を口にしながら呟く。
「ウタラ。そんな乱暴に開けたらドアが壊れるでしょ」
「呑気にお茶してる奴らに言われたくないって」
ドアに背を預けて、そこに現れたもう1人の少女。こげ茶色の髪を後ろでポニーテールでまとめ、こちらに群青の瞳を投げかける。
「お茶してる暇なんてあるのー?―――…あの子、もうすぐ来るみたいだけど?」
群青の瞳が、口角をあげて不吉な笑みを浮かべた。
ピンクの髪の女の子が溜息をついてから、口に含んでいたビスコッティを音を立てて噛み砕く。
「リアが待ってる」
――ウタラ、と呼ばれた少女が半面振り返りながら背を向け、廊下へと再び出ていこうとする。
「ファリベル」
呼ばれ、反応したのは紅茶をブレンドして、他の2人をお茶会に呼んだ蒼い瞳の少女。
「エリカ」
こちらの名前に反応したのは、リボンをつけた赤い髪の可愛い少女。
「サクラ」
最後はピンクの髪を揺らして振り返った、ビスコッティをクールな表情で噛み砕いた少女。
溜息をついて蒼い目の少女……ファリベルが立ち上がる。
あとを追って、サクラが無言で席を立つ。
「エリカ。このビスコッティ、また後で作って」
「もぉ、しょうがないわね。あとで部屋まで持って行ってあげる」
サクラに促されて、リボンをつけた赤髪のエリカが笑う。
呼びに来たウタラに続き、3人がお茶会の部屋を後にした。
「――……楽しくなりそうね」
07.発ちし時の鐘が鳴る
―――…その日は、朝からイヤな予感がしていたんだ。
「ユエ、結局戻ってこなかったの?」
「みたいですね……」
巡回に出る前に朝食をとるために食堂に来た、昨日ユエの部屋で寝こけていた4人。
デビトに関しては未だに欠伸をしていたが、アッシュもりんごを口にしながら首をかしげた。
「どこ行っちゃったんだろうね?」
パーチェがマカロニサラダを食べながら言えば、アッシュとデビトが顔をしかめた。
ルカが紅茶を淹れながら、不安そうに言葉を詰まらせる。
神妙な空気の4人だったが、ここに1つの足音が響いた。
「なんだぁ?珍しいメンバーじゃん!」
「リベルタ…!」
食堂に姿を見せたのは、一旦港に出たはずのリベルタだった。
「どうしたんです?積荷の時間じゃないんですか…?」
「そうなんだけどよ。ダンテが見当たらないんだ」
リベルタが頭を掻きながら俯いたので、デビトが鼻で笑う。
「なんだァ、お子様は幹部長殿がいねェとロクに仕事も出来ねェのかァ?」
「さっすがヒヨコ頭」
「違うっつーの!今日の積荷の中に、予定してないものが入って来たから困ってんだ」
「予定してないもの?」
アッシュもいじりに参加してきた所で、ムッとなったリベルタが言い返す。
その言葉を受け止めたのがルカだった。
「あぁ。あの、なんだっけ?この前のサーカスの主催者からすんげー荷物が来てるんだ!」
「サーカスの主催者というと……」
「シャロス・フェア……だったかァ?」
ルカとデビトが顔を合わせながら見やれば、リベルタが“そーそ!”と言う。
パーチェが続けた。
「それで、ダンテがいないの?」
「そーなんだよっ!特に交渉事に出てるとかも言ってなかったし、どーこ行っちまったんだ?」
「ダンテは近海にモンドの命令で出ている」
「!」
食堂で話していた5人の中に、口を挟んだのはどこから現れたのか……――ジョーリィだった。
「ジョーリィ……」
「チッ……朝からイヤな顔見ちまったゼ…」
ルカとデビトが顔をしかめたのを確認して、口角をあげ笑うジョーリィ。
パーチェとアッシュ、そしてリベルタは彼が口にした言葉の意味を待っていた。
「ダンテがパーパの命令で?」
「そうだ。ユエと一緒にな」
「ユエと!?」
「……」
そんなの聞いてねぇよ!とリベルタが言いつつ、荷物の処理に頭を抱える。
パーチェは妙な胸騒ぎを覚えた。
「クックック…」
告げることだけ言い残し、食堂を出ていこうとしたジョーリィを、ルカが急いで引きとめる。
「待って下さい、ジョーリィ!」
「なんだ」
「どこへ……どこへ行っているんですか?」
ルカが表情を普段の穏やかなものから、険しいものへと変える。
デビトも黙ってられない、と席から立ち上がった。
アッシュはとりあえず、様子を見ているようだ。
「――悪いが、これは極秘任務だ」
「極秘……っ?」
「これ以上は言えんな」
「待てジジイ」
デビトがジョーリィのもとまでやってきて、掴みかかる勢いで出る。
さすがにこれは止めないと……!とパーチェも立ちあがった。
リベルタが“あちゃー…”という顔で見つめる先。
アッシュも席を立ち、会話の最中であるにも関わらず、食堂の出口を目指し始めた。
「極秘任務だと?」
「何か問題でもあるのか……?モンドの命令だ」
「――お前、アイツの手を汚させるような事……っ」
「クックック……それはモンドに聞け。私は内容を聞かされているだけだ」
「チッ…」
耐えかねて、デビトがジョーリィの胸倉に掴みかかった。
やばいやばい!とパーチェがデビトを押さえようとしたが…―――。
「だが、1つ言えるとすれば……危険な任務だ」
「ッ…」
ジョーリィが吐きだした言葉に、デビトもルカも、パーチェも目を見開く。
リベルタも光景を見つめながら、息をのんだ。
「ジョーリィ……ユエは最近、体調が望ましくなかったはずです。アナタはそれを知っていたのではないですか?」
「…」
「なのに行かせたと……?」
ジョーリィがデビトの手を離し、溜息をつきながら手をあげた。
「あの娘が自ら望んだことだ」