63. 伝承なる日々
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「マスター!おかわりー!」
「ちょっとパーチェ!レガーロと同じ勢いで食べないでくださいね!?」
「ラディ、粉チーズ取ってくれ」
「ジジ、粉チーズなさそうだけど……」
「はぁ!?んでねーんだよ!?粉チーズくらいケチケチしないで出しやがれコラァ!」
「でねーエトワール壊れちゃってー、もうねー大変だったんだよ―」
「そ、そうなんだ……これ直るのかな…?」
「うーんフェルちゃん直してくれるー?」
「そこ!!イオンッ!お嬢様に近すぎます!」
「えー?」
「あらリベルタ、頬にケチャップついてるわよ?」
「ん?」
「ほぉら、ここよ、ここ」
「アロイスさん、完全に目つけましたね」
「……………。」
ユエはリストランテで手の動きを思わず止めてしまった。
店内の奥の奥。
一番広いスペースの一番大きな席を用意してもらい、その場には守護団とアルカナファミリアが食事を摂っていた。
だが、ユエが手を止めてしまったのはその事実ではない。
パーチェがレガーロと同じ量食べていることでもなく、食事がまずいなどということでもなく。
目の前のメンバー、そして光景が―――
「な、馴染みすぎてる……」
まるで対立していたのが嘘のようだ。
ラディと粉チーズのことで奮闘するジジ。
壊れてしまったエトワールを、食事そっちのけで首からぶら下げていた巾着から取り出して、1つ1つ魅力を説明するイオン。
イオンの話をどことなく真剣に聞いている真面目なフェリチータ。
隣では顔を赤くしたリベルタと、狙いを定めたアロイス。
アロイスはリベルタだけに及ばず、ノヴァにも絡んでいる。
デビトに至っては既にワイン片手に食事を楽しんでおり、ルカはパーチェを止めつつ、フェリチータに気を向ける。
アッシュは朝からアップルパイを頬張りながら、ジョーリィと怪しげな会話をしていた。
どう考えても、こんなに馴染みが早いのはおかしいだろう……とユエが顔をしかめる。
スープを掬う手が止まってしまったのは言うまでもない。
「あっれーユエちゃん食べないのー?」
イオンがエトワールをしまいながら正面のユエに尋ねた。ファリベルに食事中に部品を出していると失くすぞと釘を刺されたらしい。
「食べる……」
「食べないならおれにちょーだーい。エトワールと分けるからー」
このほわほわした男は、終始ほっとくことにしよう。
粉チーズ戦争を行っているジジを懸命に止めるラディたちも白熱していた。
「(なんか……)」
戦えばあれだけ強かった彼らの素が、こんなにも年相応なのかと知り、どこか脱力してしまう。
少しだけ気が抜ける空間だった。
皿に綺麗に盛られたオニオンスープを見つめて、ユエは自分の瞳の色を眺めた。
「巫女……」
彼女は……―――自分の母親は、どんな人間だったのだろう。
どうして100年前のこの世界にいたのか。
そして、ユエ自身はどうしてレガーロにいたのか。
分からないことだらけで。
目の前にいる彼らは、何か知っているのだろうか。
63. 伝承なる日々
「いやー食ったー!」
ジジが豪快に食した皿を重ねて満足そうに笑った。
パーチェはまだまだ食事中のようだったが。
「パーチェいい加減にしてください、さっきからコズエが所持金を気にして固まっています」
「えー?」
「え、いや、あの、そそそそんな……!足りないだなんて思ってないです!あ、いや思ってないは嘘になりますけど、あの、でもだだだだ大丈夫ですっ」
「噛みまくりじゃねーかァ」
すかさず突っ込みを入れるデビトに、ぴぎゃああと涙を見せるコズエ。
この子もこの子で切り替えが早すぎる……とユエが目を細めたのは言うまでもない。
コズエが皿を真剣に数え出したのを視界の端に収めながら、ユエはスープを飲んでた手を止めた。
「ユエ、それだけでいいのか?」
「うん。気持ちだけでお腹いっぱい」
「そうかぁ?ちゃんと食っとけよな!」
「パーチェ見てたらあたしは食べれない」
リベルタとノヴァに心配されつつ、放心状態になったコズエを見たら苦笑いするしかなかった。
イオンはいまだに――イヤらしい絡みではないのだが――親しくフェリチータとおしゃべりを続けているので、ルカが目をギラギラさせながら監視体制を続けている。
いろいろと突っ込みどころが満載な空間なんだよなぁ……と思いながら、ユエは頬杖をついた。
それを見ていたデビトとアッシュが、真剣に悩んでいる表情を見せる彼女に心を曇らせる。
「なんか……」
イオンの話が途切れた所で、フェリチータが辺りを見渡しながら切り出した。
その言葉には守護団も、そしてもちろんファミリーも動きを止めた。
「久しぶりだね。みんなで揃ってご飯食べるの」
「…」
「そーいやそーだな」
「どっかの誰かが常に離脱しているせいでな」
「ごめん」
ノヴァの言葉に素直に謝罪を述べたユエ。
フェリチータが笑顔を見せる。
汚れのない笑顔。
その笑顔に救われる。
「でも本当にユエがどこにも行かなくてよかった」
「……」
「あ」
フェリチータの想いに、どう返すか迷っていれば間髪いれずに声をあげたのはルカ。
思い出したように上着のポケットから小さいバッジを取り出して、彼女に差し出した。
「はい」
「これ……」
「湧水が出る庭園に落ちてました」
“A”と刻まれた、銀色に輝くそれ。
ユエが何者で、どこに存在するべきなのかを表すものだ。
「―――……あたしは、」
思わず、受け取ったそれを見つめて、零した本音。
弱音には聞こえなかったが、ユエの本心だった。
「誰なんだろうね」
いろんな意味が含まれていた。
存在するべき世界。
自分の血。
誰が親なのか。
今、何が出来るのか。
自分の存在で、何をすることが正しいのか。
今はまだ、この“A”というバッジを誇らしく掲げることができないと思えて仕方ない。
―――全てを、知りたい。
知っている事、分かること、全て。
「教えてほしい」
「…」
「知ってること、全部」
「ユエ……」
寝返りを見せた、守護団にユエが問いかけた。
顔を逸らしたジジやラディ。
真っ直ぐに視線を向けてくるアロイスとイオン。
そしてファリベル。
彼女の願いは…―――受け入れられた。
「ま、確かに話すのが筋だよな」
ジジがそう切り出す。
ラディは顔を伏せたままだ。
イオンは気にせずにテーブルに余っていたパンを頬張り始めている。
アロイスは両腕を支えにして顔を置き、切ない笑みを見せた。
「そうね……アタシらのこと、話すべきかしら」
「…」
「一応、そこのオジョーサンには助けてもらったことになるし?」
アロイスがユエを見つめる。
―――どこか懐かしい、その紅色を。