62. 誇り高き狼
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「ユエ!!」
天空に狼が現れると同時に、守られるように背後から抱きしめるように引き寄せられた。
触れられた瞬間、いつかの悪夢が甦りそうになり、もう一度拒絶を見せてしまいそうになったが思いとどまる。
背後から包んでくれたのは、嫌でも誰であるか分かった。
「…っ」
「なんだコレ…」
彼を捕えていた白い腕が破壊されたのだろう。
自由になったデビトが、ユエを守るように引き戻し、上空を見上げながら呟く。
大きい狼が確かにそこに存在し、黒騎士の槍を砕き雄叫びをあげていた。
ガロ……ではない。
今、空を覆っているのはただの狼。
狼の召喚錬金術。
ファリベルとアロイスが信じられない…という顔をして空を見上げる。
狼……そして、それを発動したのが、このユエだからだ。
「この子……」
62. 誇り高き狼
「これは……」
空を見上げて、黒騎士を放ったコヨミもこの事態に目を疑う。
目の前に現れた、巨大な狼。
黒騎士と対抗する勢力を、まさかユエが出してくるとは誰が想像しただろうか。
「ガロ……」
ユエが零した言葉。
ジジも、召喚錬金術の扱いをよく分かっているファリベルも、ユエの手の中で光を放つ碧いボールから視線を離すことが出来なかった。
誰もが戸惑いを見せる中、黒騎士が噛み砕かれた槍を捨てて、狼と激突し合う。
馬を使い、召喚された狼を蹴りあげようとする。
素早く避けた狼が、逆方向から黒騎士の首に狙いを定めた。
「…っ」
声になっていない、高い叫び声をあげる黒騎士。
力強く立ち向かう1匹の獣…。
視線を逸らすことが出来なかった。
だが、そうして戦いを眺めているだけではダメだ。
コヨミが表情を歪めて、こちらに向かって突っ込んでくる。
「わたしの目的を妨げる者は、許しません」
「チッ…」
解放されたデビトがホルスターから素早く銃を取り出して、右手だけで銃口をコヨミに向ける。
再び放たれた錬金術からコヨミの手に生まれた長いロット。
デビトの銃撃をかわしてコヨミがロッドを振るった。
ユエが前に出るか迷っていると、デビトとユエの横から剣を振りあげて、参戦を示した者が。
「アッシュ……!」
白い腕の呪縛は解き放たれたようだ。
アッシュ、そして背後から拳を見せるパーチェ。
更に背後から盾を生み出したのはジョーリィ。
強力な味方が一気に解放されてしまい、コヨミは表情を歪ませた。
「コイツは渡さない」
「邪魔です」
「連れて行くなら俺を越えて行くんだな」
アッシュがコヨミに言い放つ言葉。
コヨミが無表情を崩して、奥歯を噛み締めた表情を見せた。
同時に空で暴れていた黒騎士の悲鳴が鳴りやみ、舞っていた狼がトドメと言わんばかりに黒騎士にもう1度噛みつく。
遠くから眺めていたエルシア、レミ、デルセ、リュアル、ラルダがコヨミの黒騎士が押されていることに驚きを見せた。
「あの狼……どれだけ強いのよ……っ」
ましてや解放されてしまったアルカナファミリアのメンバー。
ユエも対峙をしようとしたが、デビトとルカがそれを許さなかった。
ユエの前に出たルカ。
そして――拒絶されたことを思い返してか――触れていた指先を離しつつ、デビトもコヨミからユエを遠ざけるように立つ。
背後では呼吸を整えたジョーリィが口角をあげて強固な結界を生み出し続けた。
空で狼が黒騎士を噛み絞めて、光へと還す。
コヨミが完全に消えてしまった黒騎士に目を細め、手元に戻って来た光を受け取る。
「まさかアナタが召喚錬金術を使えるなんて、思ってもいませんでした」
「…っ」
「つまり、自分でカレルダの娘だということを認めたのです」
責めるような口調で言い放つコヨミ。
睨み上げる視線を受け取り、惑うユエ。
何と返せば、と思っていた瞬間、森の方からいくつかの足音と叫びが響いた。
「コヨミ……ッ!!」
叫びをあげたのは、彼女の姉だった。
琥珀色の瞳に、切なさを見せて。
その視線を無言で受けたコヨミが視線を1度姉へと向けた。
「コヨミ……どうして未来に干渉しているの!?もうやめて……!」
「わたしにはわたしの目的があります」
「コヨミ……っ」
「よかったですね、姉さん。守護団のメンバーが寝返って」
「なんてこと……」
「わたしはわたしの道を行きます。姉さんは友情ごっこでも何でもしててください」
コズエと一緒に駆けてきたリベルタやノヴァ、そしてフェリチータは上空に放たれた狼と、ファミリーと対峙しているコヨミに言葉を止めた。
コズエは妹から放たれた言葉に、今にも泣きそうな顔をする。
「巫女とヴァロンを殺したアナタをわたしは許しません」
「コヨミ……」
その言葉だけを残して、劣勢であると悟った彼女は退きを見せた。
作られた時空の光に次々とシャロスの支配下が入り込み、最後にコヨミが潜り込んだ。
行かせてたまるか…!とコズエが手を伸ばしたが、届かず…――――。
「コヨミ……ッ!!!」
叫びは虚しく、そのまま光となり…―――。
残されたのはアルカナファミリアのメンバーと、守護団のジジ、アロイス、ラディ、イオン、ファリベルだけ。
コズエは頭を垂れながら、地面をゆっくりと引っ掻いた。
「コヨミ……どうして…」
何故、彼女がシャロスに従っているのか。
どうしてこんな形になってしまったのか。
それは、まだ誰にも分からない真実。
誰もがコズエを心配する中、空にあがっていた光がだんだんと薄れて行く。
「狼が……」
ゆっくりと、こちらに鋭い視線を向ける……召喚された物体。
光に包まれて獣の視線を向けられたが、それは優しさに似ていた気がする。
会釈するような仕草を見せてから狼は空から消え、強い光を描きながらユエの中のボールまで戻って来た。
「わ……っ」
押さえきれずに、ボールを落としそうになったが、なんとか留まって手の中にある一抹模様のボールを見つめた。
一体、この短時間で何が起きたのか、理解が出来なかった。
「ユエ……!!」
「!」
森の入り口に来ていたフェリチータが、心配という色を見せながら駆けてくる。
「大丈夫!?怪我とか……っ」
「うん……」
虚ろな返事に、ルカとパーチェが顔を合わせた。
剣をしまい、終わった戦いに息を吐きだしたアッシュ。
デビトもホルスターに銃をしまいながら、中心で会話をしているユエとフェリチータを見つめる。
「…」