61. 召喚錬金術
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「逃げだすだなんて、許しませんよ」
無を見せる表情。
現れたコズエと瓜二つの少女・コヨミ。
彼女がユエの前に現れたのは初めてだった。
だが、デビトとルカは現れた少女の姿に、見覚えがあった。
「あの女……!」
「あの方は、幽霊船の……!」
「幽霊船?」
パーチェがルカとデビトから出てきた言葉に驚く。
アッシュもまさか自分の船のことがここで出るとは思わずに表情を歪めた。
「アイツ、ヴァスチェロ・ファンタズマで会ったな」
「えぇ。一瞬でしたが、覚えがあります」
ルカは廊下の端で気配を感じただけだったが、デビトに至っては船長室で会話もしている。
タロッコを盗み出したのは、この少女だ。
「アンタがコヨミ……」
「そうです。わたしがコヨミ」
姿は違和感なんてないくらい似ているのに、天然の姉と比べて纏う雰囲気が違う。
冷たくて、静かで…―――。
本当に双子であるのだろうが、相対するものを見せられた気分だった。
「ウィル・インゲニオースス様のホムンクルスです」
61. 召喚錬金術
上空には大きな馬に跨り、こちらに槍を向けている騎士。
誰もが動きを止めて、空を見上げるだけだった。
「なんだよこれ……」
アッシュが見たことないと零せば、隣でラディが答える。
「召喚錬金術」
「召喚……」
この黒騎士を召喚したのはコヨミ。
大きな姿がそのまま力に比例しているのは説明がなくてもわかった。
茫然と見上げてしまう光景に、レミやエルシア、デルセが一旦退きを見せてコヨミの後ろに隠れた。
同時に解放されたジョーリィが息を整えている。
「ジョーリィ……!」
身を案じて駆けよれば、口角をあげて苦しさを僅かに見せる彼。
ユエが次から次へと切り替わる場面に、頭を働かせてどう対抗するべきかを考える。
コヨミは表情もなく、そのまま黒騎士を見上げて何を仕掛けるかを考えていた。
「とりあえず、ユエの確保ですね」
「…っ」
「手っ取り早く終わらせますよ」
コヨミの声に、退かずにその場にいたラルダとリュアルがなるべくファミリーから距離を置いた。
それは、この後来る黒騎士の力がどれだけ莫大であるかを物語っている。
「どうしたらいいんだよ…ッ」
声をあげたジジにラディがあたふたし始める。
アロイスが試しに大きな音を放ちながら弾丸を向けて見たが、槍に弾かれてしまった。
「アロイスの銃でもダメなのか…っ」
こんな大きな図体に当てたところで、確かに倒し切れる相手ではない。
こちらに黒騎士を誇らしく掲げて歩み寄ってくるコヨミ。
まさか本当に敵対するとは思っていなかったようで、守護団にまた別の意味の困惑が見えた。
だが、冷静だったのはやはりイオン。
「ファリベルちゃーん」
「!」
呼ばれたと思い、顔をあげればイオンがファリベルに変わらずのヘラヘラした笑顔を向ける。
「ファリベルちゃん、召喚錬金術使えるよねー?」
「え」
「ファリベル…!?」
そうなのか!?とジジとラディが振り返る。
隣にいたアロイスは知っていたようで、そのまま表情を変えることなくファリベルを見つめた。
「……えぇ」
「マジかよ」
知らなかった…とラディとジジが顔を見合わせてギョッとしていた。
じゃあ、彼女が……と思ったがファリベルが不安そうな表情を見せているのだ。
「でも、元から持ってる力はコヨミの方が強いわ……」
ファリベルが、それでもやる価値はある……とポシェットに手を入れた。
大量のチョコレートと一緒に、彼女の手に1つの丸いピンポン玉サイズのボールが握られている。
刻まれた柄は、紫の格子状の模様。
ユエがそのボールを見つめて、ふと―――自分が今着ている―――あの金髪碧眼の男が貸してくれた上着のポケットに手を突っ込んだ。
同じサイズの、一抹模様が入ったボールに指先が触れた。
「やれ。ダークネス」
槍を高らかにあげて、黒騎士がついに集うファミリーと守護団に突っ込んでくる。
ファリベルが意を決して、空へとボールを投げた。
「いでよ……―――」
光が放たれ、反応するように中から空を舞うようにして美しい女神が現れた。
薄い紫の光に包まれた女性はハープを片手に笑みを浮かべ、黒騎士と対抗を見せる。
「お願い、ハルモニア……!」
ファリベルが黒騎士と対抗させるようにして力を放つ。
女神・ハルモニアと黒騎士がぶつかり合い、その場はアロイスが放つ弾丸よりも大きな音が響き渡った。
召喚された者同士がぶつかり合う中、コヨミ自身が狙いをユエやファミリー、そして守護団へと定めて行く。
「寝返りましたか。情けない」
「…っ」
「使いものにならない駒はいりません」
上空では黒騎士と女神が。
地上ではコヨミから放たれる錬金術が、守護団を含めたユエたちに襲いかかった。
「コヨミ……ッ!」
「コヨミてめぇ!」
大きな爆流を乗せるような風を起こす錬金術。
戦闘向けに開発された彼女は、コズエとはまた違う。
彼女は生きているけれど、どうしても今を見つめていると言うよりもどこか遠くを見据えるような視線。
ついに剣を携えて突っ込んできたコヨミに、応えたのはユエ。
「アナタがユエ」
「…ッ」
「巫女の娘」
「アンタ、本当にコズエの妹?」
一旦退いたかと思えば、空中から再度爆流を放つ彼女。
黒い髪が風に靡いて、強さと美しさを見せる。
無であるが、確実に秘められた思いが映った。
「姉さんがそちらでお世話になっていることは存じております」
「…」
「ですが、私は私。姉さんは姉さんです。双子だからと言って―――」
もう1度裂かれた風。
今度は的確な距離から、その場で固まっていたファミリーや守護団を捕えられるくらいの大きさのものだった。
「一緒にしないでください」
消滅しきれない……!と誰もが思った。
ファリベルが女神に守るように命令を出す前に、その風は訪れてしまう。
誰もが顔を背けて逃げようとしたが、全員を守ったのは…
「―――フッ、この程度で……」
「!」
「負かせると思うな」
最前線にいたユエすらをも包み込むくらい大きな結界。
強固であり、そして大きい。
振り返れば、ようやく呼吸を整えたジョーリィの姿。
「ジョーリィ……っ」
「前を見ろユエ。私は十分働いたぞ」
風が止んで、そのまま突破してくるコヨミを、ユエが鎖鎌で応戦していく。
コヨミの狙いは何なのか。
ただ勝てばいいわけじゃない。
勝たなきゃならないのはもちろんのことで、だが彼女の狙いも明確にしていかないと今後に響くのは目に見えていた。
「コヨミ……」
ファリベルが戦うことをやめない、シャロス側についたホムンクルスに目を疑う。
確かにシャロスへと繋げてくれたのは彼女……コヨミの存在が関係していた。
だが、コヨミがここまで必死に戦う理由が分からない。
「コヨミちゃーん……どれだけ戦ってもシャロスは姫様を起こす気ないんだよー?」
その場には似合わないのんびりしたトーンで話すイオン。
止めようとしたアロイスだったが、次のコヨミの答えで誰もが動きを止めた。
「分かっています」
「え……」
「……っ!?」