60. イカサマ破りの紅眼
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「この俺が寝返るんだ」
傷口を押さえて立ち上がったジジの瞳に、強い光が宿った。
隣で様子を見ていたラディが苦しそうにしつつ、笑う。
ファリベルとアロイスはただただ驚いていた。
「その代わり……―――」
これは、彼の想いだ。
ジジの想いが、ジジ自身を強くする。
「負けたらただじゃおかねぇからな」
60. イカサマ破りの紅眼
「ジジ……」
思わずユエの口からもジジの名前が飛び出した。
助けられたデビトを始め、ジジの行動に驚いたのは他でもなく、アルカナファミリアのメンバー。
「前見ろよ、ユエ」
「……っ」
「ガロの死を無駄にしないんだろ」
一歩一歩、確実に踏み出したジジがユエの隣へ並んだ。
ユエはジジとガロがどうゆう関係だったかはわからないが、彼がガロの知り合いで、ガロのことを大切に思っていたことは嫌でも分かった。
だからこそユエの腕に巻きついているリボンを見つめて、怒り狂った彼と対峙したことも分かっている。
まさかジジが自分達側に真っ先に寝返るだなんて思ってもいなかった。
「だったら、守ってみろよ」
「…」
「ガロが命を懸けたのがお前でよかったって……俺に思わせて見ろ」
ジジの言葉は、信念が貫かれていた。
彼にだって、どうしてガロがユエを守ることを選んだのか。真意は知らないのだろう。
それでもガロが通って来た道をジジが懸命に間違っていないことを証明しようとしている。
証明は、ユエが導き出すものだ。
ジジに応えるのは、ユエなのだ。
「強さの意味……」
ガロが弱い、と告げたのは自分を守ることを選ばないからだろう。
本当に強いということは、そうじゃない。
自分も、仲間も、目の前の敵も、誰1人殺めずに戦う。
強いということは―――。
「やってくれるじゃねーか」
ラルダが焦りを見せつつ、弾かれた剣を再度手に収めて、ユエとジジの前に対峙する。
睨みを利かせた2人。
どちらの背も、強さを感じた。
「ユエ……ジジ……」
ルカが不安そうに吐き出した言葉は、すぐさま打ち消されることになる。
ラルダが駆けだすと同時に、ジジとユエもつま先を蹴りあげて、走りだす。
ユエが狙うはラルダかと思えば、彼の相手をしたのはジジだった。
そして、ユエが向かった先は…―――
「!」
「貫け」
「へぇ。わたくしですか」
「鳴音」
雷は追撃をかけながら、ジョーリィを追い詰めていたエルシアに迫る。
エルシアが距離をとったところで、ジョーリィに駆けよれば、表情にこそ出していないが辛そうな彼がそこにいた。
「ジョーリィ……っ」
「…っ」
「サキュバス……」
夢魔と言われる彼女たちは、異性を惑わし誘い出す……下等の悪魔であることは知っている。
だが、あれよりも厄介な悪魔の力と対峙し、勝利を収めていることを忘れてはいなかった。
ましては自分は異性ではない。
美人かどうか、中身が女らしいかどうかは置いといて、エルシアと同じ女である。
こんなところで負ける訳にはいかないんだ。
「あら怖い。そんな睨まないでくださいな」
「術を解いて」
「お断りします」
ジョーリィの術を解くように言ったが、彼女は効く耳を持たなかった。
ちんたらしている暇はない。
ここで今戦えるのはユエと、意志を見せてくれたジジだけ。
デビトをはじめとした4人は捕まっているし、ジョーリィは動けない状態。
後ろで茫然としているアロイスとファリベル、そして傷だらけのラディはどうなるのか分からないまま。
残っているデルセとレミ、ラルダの相手をしなければならない。
「行きますわよ」
「…ッ」
正面衝突することを決め込んだユエとエルシア。
それぞれが風を切り裂いて、ぶつかる音が当たりに響く。
同じ頃、ジジも携えた剣をラルダとぶつけ合っていた。
「お前意外としぶといな……ッ!」
「雑魚キャラみたいな扱いしてんじゃねぇよッ!!」
ラルダが吐き出した言葉に、ジジが全力で反論をする。
ファリベルは開いた口が塞がらなかった。
まさか……まさか仕えていたシャロスの配下と本気でやり合っているだなんて、と。
それが正しいことか間違っているのかどうかも、一概には言えない。
それでも……―――
「ジジっ!」
「!」
元はと言えば、怪我をして無理をしながら動いている彼だ。
ラルダの攻撃を全て交わし切れる体力は当に底を尽きていた。
よろけた所でアロイスが声を上げれば、ジジを助けるために動いたのは小さな影。
ファリベルは更に目を見開いた。
「ラディ……!」
「はぁぁぁあああああ!!!」
切り傷だらけの疲れ果てた小さな体で、ラディはクロスボウから矢を放つ。
よろけたジジを捕えようとしていたラルダを仕留めるそれ。
ラルダの頬を掠り、後方へと消えて行く鋭い歯を持った矢。
ジジが振り返れば、血まみれの姿でラディが辛そうに笑う。
「ジジ前見て!」
「ラディ……」
「ぼくはジジの相棒だから!」
「…っ」
「ついてくよ!ジジが選ぶ答えに!」
―――守護団という組織に対しての反逆行為になるとしても。
姫様を守り、甦らせるためにアルカナファミリアと対立をして。
それが間違っていたことに気付いた。
無意味に誰かを傷つけて、怒りに任せて、“自分達12人には姫様をどうすることもできない”と。
そこに手を貸したのがバレアの子孫。
一体、誰が何を悔やめばいいのか。
それでも目的を果たすため、一筋の光となったシャロスの言葉に縋って……守護団は進み続けている。
気付いたからといって、足並揃えて生きてきた他のメンバーを裏切ることになるのでは。と頭を過った。
だが、これこそが正しかったのかもしれない。
ジジに倣ったラディが再度腕を構えて、全力で後方から支援を繰り返す。
前を見つめられた。
左手で剣をふるいながら右手で弾丸を放ち、守るべきものを貫く。
ジジが守ったのは、“アルカナファミリア”だった。
「邪魔なんだよ……ッ退け!!!」
「小遣いくれたら、どいてやってもいーぜ?」
「はぁ!?」
捕えられた4人を、前方でジョーリィを取り戻すために戦い続けているユエに代わって守り抜く。
ラディも足並揃えて、無理をしつつジジへのフォローをやめなかった。
「クソガキ共が……ッ!!」
ラルダが怒りに任せて、もう一度力を発動しようとする。
デビトやルカたちに使っている白い腕で、ジジとラディを捕えようとした。
同じタイミングでエルシアに押されたユエが、ジジと背中合わせになる状態で中央に戻ってくる。
サイドのルカとパーチェに見守られながら、ジジとユエが背中を預けあった。
「大人しく従えばいいもんを……」
「残念すぎて敵いませんね」
ラルダとエルシアの言葉に、ジジとユエが再び構えを取る。
レミが2人の邪魔をしようと乗りきったので、ラディが彼女の足元目がけてクロスボウを放った。
「!」
「ねぇ、おねえさん」
ラディを捕えたのは、エルシアとレミ。
弄んだのはデルセ。
ラディの体力だって限界だったはずだ。
だが、彼を助けた1人の少女の存在と。
真っ直ぐに向きなおした相棒の存在が彼を戦いへと向かわせた。
「ぼくの相手、してくれるよね?」