06. 破られた日記
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モンドの部屋から離れ、ユエが即座に向かった部屋があった。
「必ず……」
それは、あの報告書の中にも出てきた場所。
そしてこの1ヵ月で何回か訪れた場所。
「必ず理由があるはず」
06. 破られた日記
そこは普段メリエラたちが自室として使っている場所の近く。
今は物置として使われている一室だった。
「どうしてここで10分間、移動をしなかったのか……」
むしろ、それまでは順調に港から館までやってきていた。
ただここでだけ足を止めた謎の人物―――。
「何かがあるはず……」
扉に手をかけて、物置の部屋の中へと侵入した。
相変わらずの埃っぽさ。
そして窓すらも覆う勢いで収納してある物。
戸棚を埋める本と、実験道具、家具、雑貨。
色々あって、ある意味ゴミ捨て場のようだった。
一体、こんな部屋で何をしていたというのだろうか。
この足場すらないような部屋で、奴の目的を見極めるのはとても難しいがやるしかない。
ユエは近くにあったものから、“タロッコを奪う人物”が求めるものを探し続けた。
「効率の悪い方法だな」
「!」
背後から1つの声が響いたので、ユエが振り返る。
そこには…
「ジョーリィ……」
「お前らしい手法だがな」
「じゃあ他に方法あるの?」
ユエが文句を飛ばしたが、彼は鼻にかけて笑うだけだった。
―――……だが、いつもより瞳の奥がどこか揺らいでいる。
「?」
異変を感じ取ったが、告げる必要もない。
ユエは首をかしげるだけだった。
「懐かしい……」
「え?」
小さく呟かれた単語を、ユエは偶然にもきちんと聞きとってしまった。
「(懐かしい?)」
今は空き部屋で、同時に物置。
確かにジョーリィはファミリーにいる年月も長いし、ファミリーのNo.2と言われたっておかしくない立ち位置だ。
ここは彼にとって、とても思い出深い場所だというのか…―――。
「それにしても、まさか自ら乗り込むとモンドに断言するとは。バカもいいところだろう」
「どーゆー意味?」
「クックック……わざわざお前が行かずとも、なるようになる話さ」
「…」
「タロッコが望んでいることなのであればな……」
ジョーリィの吐き捨てた意味は汲み取ることはせずに、ユエは再び足場を埋め尽くす雑貨を手にする。
だが、やはり気になることがあった。
「ねぇ」
「なんだ」
「錬金術で、姿を消すことって出来る?」
「……」
「デビトみたいに」
足取りが全く掴めない。というのはその存在を“消す”……またはどこかへ“転送”させるということだろうか。
「レルミタみたいな能力……または、テレポート的な……」
「難しいだろうな」
「じゃあやっぱり異能者……?」
なんのために、タロッコを4枚だけ盗み出したのか。
そして……――
「あの時、ヴァスチェロ・ファンタズマに乗船してたってことでしょ……?」
「……」
「不穏な気配なんて、船の中に1つも感じなかったのに……」
風や空気、そして水すらも、不穏な気配をユエに伝えることはなかった。
だが、実際に“何者か”による被害は出ているのが現状だ。
「存在はしているが、その正体を無とする者……」
そこでジョーリィは重むろに呟いた。
雑貨を手にしていたユエは彼の言葉に顔をあげる。
「文献の中に、そのような力を持つ者がいたな」
「存在はしてるけど正体が無……?」
「中身が無いということさ」
なぞなぞのような言葉に、ユエは“わからない”と目を細めた。
「お前が知っている言葉で伝えると―――ホムンクルスのことだ」
「ホムンクルス?あれは人造人間でしょ。存在してるじゃん」
「貴様が知っているホムンクルスとはまた違う」
「……っ?」
ジョーリィは葉巻きを潰し捨てて、窓の外の月へ目をやる。
「世界には存在しているが、“どの世界にも所属しない者”のことだ」
「もっとわかりやすく言って」
「はぁ。バカを相手にすると疲れる」
確かにユエはジョーリィからすれば錬金術の知識もセンスもないし、ダメな部類に入るだろうが。
そこまで言われたくない。
ユエが頬を膨らまし、顔を背けた。
「何百年か前、時空を操るホムンクルスがいた」
「時空を操る……」
「己が行きたい時代に行き、己が戻りたい時へと誘う」
「…」
「かのウィル・インゲニオーススが造り出したホムンクルスだ」
「ウィル……インゲニオースス……」
「さすがに奴の名は知っているだろう?」
ユエは出された言葉に、息を止めた。
ウィル・インゲニオースス。
タロッコを創り出した人物……―――。
「ヴァスチェロ・ファンタズマと、タロッコの創造者……」
「我々と縁のある人物だな」
そこまで話し終えて、ジョーリィは少し考えた。
「あり得なくはないかもしれない」
「盗まれたタロッコと消えた人物……」
「タロッコと関わり深いモノ同士。―――まぁ、本当にそのようなホムンクルスがいたのかどうか……疑問だがな」
ジョーリィが背を向ける。
ユエもユエで、考えをまとめていた。
「―――気が向いた。俺がこちらは調べておく」
「ジョーリィ……、」
「貴様はここで探し物でもしているがいい」
パタンと扉が閉じられる。
ジョーリィが出て行った部屋で、ユエは視線を俯かせた。
「ウィル・インゲニオーススのホムンクルス……」
世界には存在している。
だが時空を操り、望むままにどこへでも行ける“それ”は、どこにも属さない。
存在がその時代に“無い”ことも同じ。
「もしそのホムンクルスがいて、タロッコを盗んだとしたら……」
―――なんのために……?
考え、手が止まっていた。
このままでは時間を無駄にするだけだ。
ユエは手を動かし、足場を埋めている大量の本と雑貨を確認していく。
もとい、ホムンクルス……またはタロッコを盗んだ奴の思考を探るために。
本をどかし、確認し終えた本を退かすために本棚へと積み上げていく。
窓辺に置かれた棚にも埃は多く、換気した方がいいな……と窓に手をかけた時だった。
「えっ」
肘を本棚に当ててしまい、脆くなった金具がパキンと音を立てて折れた。
同時に大量の埃を巻きあげながら、本棚が倒れてくる。
「わわわわわ……ッ」
危ない!となんとか本棚を避ければ、窓を開けると同時に砂埃が部屋へと衝撃波を呼ぶ。
むせながら落ち着いた空間を見つめて、ユエは“やってしまった”と顔をしかめた。