59. 加護の銃声
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全力でぶつかり合うラルダとユエ。
コイツを倒せなければ、後ろにいた4人は守れない。
助けられない。
「ふざけやがって……!お前がここで負けて、俺が捕えてる奴が死んだらそっちのが後悔するのは目に見えてんだろッ」
「負けないって……―――」
ラルダの剣を鎖で弾き返しながら、脚を蹴りだす。
「言ってんのッ!!!」
「うぉ……ッ!!」
蹴りから空中で剣を弾き返して、空中で彼の上から体重をかけて斬りかかった。
ラルダが対抗しつつも、重力による力に負けて怯む。
エルシアがジョーリィにむけて斬りかかれば、彼は錬金術の盾で応戦し続けていた。
「乱戦は好まないんですね……?」
「フッ…私は武道派ではないものでね」
もう1度手を翳して盾の向こうに炎が実現するように仕掛けたが、エルシアには効かなかった。
「ほぉ、本当に効かないのだな」
「えぇ。サキュバスの力です」
「淫魔か。夢魔とも言うな」
「そう……。ただわたくしたちの力は夢で襲うものではなく、異性からの攻撃が全く効かなくなるものです」
「なるほど。興味深い」
「逆に―――」
「!」
エルシアがジョーリィに向けて手をかざせば、彼はエルシアの術中に捕えられた。
「わたしの力は、アナタを苦しめることも出来ます」
エルシアの力が、目の前のジョーリィに及ぶ。
ドクン…と鼓動が跳ねる音がしたかと思えば、同時に息が苦しくなる。
「…っ」
「わたくしとレミのサキュバスの力は、生命力も奪えるんですよ」
急速に体の中の酸素が奪われるような力。
息が出来なくなり、体の動きも鈍る…。
ルカが白い腕に包まれた中で、ジョーリィの姿を見て危機を感じていた。
「ジョーリィ……っ!!」
ルカの声に、ラルダを突き飛ばしたユエが振り返る。
ルカやデビトを超えた向こう側で胸を押さえてふらふらしているジョーリィの姿。
彼がやられるということは脳内になかったが、ユエが踵を返した。
「どこへ行く?」
「っ…!」
白い塊を越えようとして、背後から声が響いた。
振り返れば怒り狂ったリュアルの姿。
先程までは体術のみだったが、剣を携えてユエに迫る。
「リュアル……!」
飛ばされたラルダが、リュアルの姿を見て“暴走してる…”と零した。
剣を扱う力も強く、鎖が飛ばされそうになる。
「調子に乗るのも大概にしろ。貴様にはバレア・フォルドを甦らせる以外の価値など無い」
「アンタにそんなこと決められたくない……!」
白い腕をいくつか裂いて退路を作れば、真横に捕まったままのファミリー。
白い腕がうじゃうじゃ生えている空間で、リュアルとユエが対峙する。
「アルカナ能力もないお前には、利用される価値しかない」
「…」
「アルカナファミリアにいることすら許されないだろう?」
「ははっ、そりゃごもっとも!」
「ユエ……」
笑ったユエにルカが声をあげるが、ユエは絶対に怯まなかった。
前だけを見て、真っ直ぐ進む。
その姿は奥の正面にいたジジにも届いていて……―――。
「……―――」
彼の心を動かした。
59. 加護の銃声
「アイツ……」
ジジが唖然として戦い続けるユエを見つめていた。
信じられないことが山ほどある。
ユエがガロの存在を奪った。
そして廻国へと繋がるキーマンで。
でも同時にラディを助けてくれた女で、そして……
「アイツが……巫女の、娘……?」
信じられない事実。
巫女が消息を消して5年。
ウィルが封印されて、姫が眠りについて、巫女が無理やり襲われて。そしてヴァロンが消息を消して、5年。
どうして5年しか経っていないのに、19歳のユエが巫女の娘として存在するんだ。
頭が混乱していく。
「ジジ……」
「!」
ラディの声に視線を落とせば、疲労感を顔にも出して彼は笑った。
「ユエのこと……許せない?」
「…っ」
「ガロさん……ユエを守ったんだよね……?」
「……」
ラディは知っていた。
あの日……この戦いの発端になる、開港記念の祭典の日。
ラディは僅か3歳。
その年に姫は眠りについてしまうので、姫やウィルとあまり記憶はないだろう。
だからこそ、周りがラディに対して歴史を教えてきた。
誰かが、ガロとジジのことも。
「ヴァロン様……巫女様を、守りたかったんだよ」
「……」
「巫女様を守りたかったジジが……ユエを、許せないの……?」
ラディの言葉は、ジジに深く突き刺さる。
全部、経緯も結果もわかってる。
わからざるを得なかった。
受け入れて、飲み込むしかなかった。
「…―――」
同じタイミングで、リュアルがガロのことを口にしていた。
「お前を守って死んだ人狼は無駄死だなッ!」
「…っ」
「あの人狼も自分の時代で、愛したお前が死ぬなんて予想もしなかっただろう!!!」
「…ッ」
「それを防ぐために、全てを捨てたというのにッッ!!!」
リュアルの言葉1つ1つが、ジジとユエに響く。
すさまじい馬力を見せたリュアルの剣さばきは、周りの腕を切り裂きながらユエを捕えようとしていた。
冷静に見えた彼だったが、実際今は考える力を失っているように見えた。
こんなに近くにユエが守るべき対象の4人がいるのに、矛先が捕えていたのはユエだけ。
「あの狼は無駄死だッッ!!!」
「黙れよ……!」
剣が横に薙ぎ払われたのを見て、ユエが腕の塊の中で静かに吐き捨てた。
デビトとアッシュが手の届く距離でリュアルに対峙したユエを見つめて……気付く。
放つ殺気が、“本気”であることに。
圧倒される空気に、思わずパーチェとルカも息を吸うのを忘れた。
「あたしが生きることを全うすれば、ガロの死は無駄になんてならない」
「無理だッッ!!!お前はここで終わらせる!!」
「無駄になんてさせない」
【ガロはお前がキライだ】
「生きてみせる」
想いは、力になる。
ガロがあの日、ユエを背中で守ってくれたのは想いからだったのだろうか。
キライと言われ続けた日々。
深く考えたことはなかった。
共に過ごした1ヵ月。
でも……1ヵ月ではなかった気がした。
もっと、ずっと前から……彼を知っていた気がする―――。
「黙れフェノメナキネシスッッ!!」
「そうだよ」
向かってくるリュアルと、ユエに絡みつこうとしている地面から生えた腕。
一掃するように、目を伏せてから応えた。
「あたしはフェノメナキネシスト」
「―――…ッ!!!」
伏せた紅色が上げられた時、デビトやアッシュたち4人には危害が加わらないようにして炎が上がった。
白い腕が消えて。
ユエたちの周りには視界を塞ぐものが無くなる。
リュアルは爆風に飛ばされて、ずっと先で倒れ込んでいた。
「…っ」
「ユエ……!」
ここまで威力を増幅できたのは想いからだが、反動はある。
アルトから受けた傷も、封印の呪縛に制限された力も、今のユエは体を傷つけるものになっていた。
ボロボロになりながらここまで暴れたユエだったが、まだ敵は退かない。
参戦を……と思った4人だったが、ラルダの力はまだ効いていた。
デビト達に巻き付いた腕は解放されていない。
「やりますね……フェノメナキネシスト」
エルシアが目の前に現れたユエに真顔で呟く。
ジョーリィが顔をあげて、力を振り絞りながらエルシアに錬金術の炎を浴びせたが無効化された。
「邪魔しないでください」
「…」
「アナタを殺す気はまだありません。安心して観戦してて下さいな」