58. 強さの意味
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「ユエがカレルダの娘……」
「そんな……」
「巫女様……どうしてカレルダの子なんか……っ」
誰もが困惑の空気に包まれる。
シャロス側の人間はゲラゲラ笑い続けていた。
告げられた真実は、自分と向き合うことをし直し始めたユエにどう影響してくるのか……―――。
58. 強さの意味
「さ、狙われる理由はわかったんだ。来いよ、ユエ」
「―――」
「ここにいる全員、死なせたくないだろ?」
ラルダが言い聞かせる言葉に、ユエが唇を噛み締める。
聞いていたジョーリィは、ユエの返しを待っていた。
ただ、待ち続けた。
彼女がどう返すのか。
それが、ユエが出した答えだからだ。
「分かってんだろ?大事な誰かが死ぬ辛さ」
「…」
「ガロが死んだ時、その痛みは死ぬほど味わったはずだ」
「―――…っ」
ユエの表情はただただ険しくなる。
思考はフル回転だ。
自分がバレアの子孫?シャロス側の人間?
正直、今はそこじゃない。
この状況をどう打開するかだ。
「巫女様……カレルダの子だと分かってて生むだなんて……ッ」
「…っ」
「だからいなくなっちゃったの……?」
ファリベルが完全に手を止めて呟く言葉。
アロイスは言葉が出てこない。
だが、ジジは違うんじゃないかと読んでいた。いや、願望かもしれない。
ガロがユエを守った理由を深く読む。
それは……―――。
「来い。お前が正真正銘のバレアの孫なんだ」
リュアルが差し出す言葉。
ユエの頭に残ったのは、何故だろう。
そんな言葉じゃなかった。
【ガロは弱い】
「また自分のせいで殺されるんだぜ?命が」
「―――…さい……」
【ユエ、強くあれ】
「ガロの死は無意味だったのか?」
「うるさい……」
「事実だろう?」
「俺らとくればいいんだから」
【優しさは、時として罪になる】
「優しさ…?」
【強さの意味を履き違えるな】
「―――…」
1つの大きなことに、気付いた。
強いということ。
優しさが、罪になる。
“ガロは弱い”
「―――……」
紅色の中に、何かが宿った。
ようやく……理解した気がする。
ここまで、4年。
どれだけ時間をかけても、その真意が分かったとしたら。
ただ涙を流し、意味を理解しようとしなかったあの日。
ガロが伝えたかった言葉。
ガロがガロ自身を弱いと言った意味。
そして、金髪碧眼の男の言葉もまた、ユエが求めた答えそのもの。
「断る」
その場が凍りついた。
特にシャロス側の5人は、ユエが出した答えに息を止めた。
こんな悪条件の中、まさかユエが仲間の命を投げ捨てるだなんて誰もが思わなかっただろう。
「は?」
「あたしは行かない」
伏せ気味だった顔が上がる。
宿った紅色は、今まで無かった力を持っていた。
「……なんだと?」
「行かない」
「お前バカかよ?」
「あたしは行かない」
何度でも言うと告げる彼女。
ルカとデビト、パーチェは意外だと思った。
あの抱え込んでしまう彼女が、自分を犠牲にしなかったことが。
そして4人の中で誰よりも驚いていたのが、アッシュ。
「ユエ……」
「クックック……成長したではないか」
ジョーリィの唇が、孤を描く。
「それでこそ、あの女の娘だ」
「ふざけやがって!お前、自分がどんな立場にあるのか分かってんのか!?」
「通用しませんよ」
「エルシア…!?」
叫んだラルダを宥めるようにして、エルシアが真顔でユエを見つめながら言う。
「あの目。もう揺らがないでしょうね」
「…っ」
「つまり、和解案は破られたということです」
「だなぁ」
ラルダとリュアルが並び、レミとエルシアが手を構えた。
デルセは持っていたナイフを宙高く振りかざす。
「全力で殺しましょう」
止まっていた守護団側の戦いも再開され、人形がアロイスとファリベルを再び狙いだす。
ラルダが地中から生み出していた白い腕に力を込め、絞殺しろと念じた。
ユエがヤバイ…と振り返ると同時にジョーリィからの声が、場面に似合わずに振り返る際スローモーションで聞こえてくる。
「ユエ」
「!」
「これがお前の答えか……?」
悩んで悩んで。
全て知っていたという顔をした、血の繋がらない父親。
少しだけ気に喰わなかったが―――。
「うん」
「…」
「あたしは、行かない」
完全に振り返って、視線が絡み合って。
ジョーリィが笑い、手を翳す。
「なるほどな」
同時に白い腕にジョーリィの錬金術で生み出された炎が攻撃を加える。
ユエが口角をあげて鎖鎌の柄を掴み直した。
「力を貸してやろう」
「珍し」
「この俺がな。有り難く思え」
そっちは安心だと思い笑う。
そして。
「いやだね」
ユエが鎖をジャラリと鳴らして振り返った。
襲いかかってきていたリュアルとラルダの攻撃を抜ける。
向かう先は……―――
「逃げんじゃねぇよッッ!!」
追ってきたラルダの追撃すら交わして、鎖を唸らせながら一直線に駆けた先。
それはデルセの元。
「ラディッ!!!」
攻撃が再開されてしまい、動けないジジが高らかに上げられたデルセのナイフの矛先に叫んだ。
アロイスとファリベルが、そこで初めてラディの命の危険を感じ取った。
「あぁ……ッ」
「死んでね」
意識を取り戻したが、首元を潰されて苦しそうに呻くラディ。
デルセの腕が振りかざされたと同時に、真横から飛んできた鎖。
デルセもさすがにユエがラディのために動くと予想はしていなかったためノーマークだ。
弾かれたナイフが宙を舞う。
「…ッ!?」
目を疑い、ユエの方向に視線を上げた時は遅かった。
同時にラディを自由にさせるに全力の鎖がやってきて、デルセが向かいの木々まで飛ばされる。
「キャア…ッ」
「う…ぅ…ケホ…ッ」
ラディは危機一髪のところをユエに救われ、喉を押さえながら噎せ返る。
くらくらする視線をあげれば、目の前にショートパンツと――右腕の裾が破れ、紺色のリボンが曝された――ワイシャツだけの軽装のユエ。
ラディは目を疑い、首をかしげた。
「ユエ……っ?」
何故、彼女に守られているんだろう……と思いながらも、ラディは意識をしっかり保つことが出来なかった。
ジジも相棒を救ったのがまさかユエだという事実に、開いた口が塞がらない。
どうして。と。
あれだけ傷つけられ、悩まされ、大事な者を殺されかけた事実があるにも関わらず、助けようと思えたのか……。
「―――なんなんだよ……アイツ」