55. 這ってでも前へ
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来た道を走り続けた。
それは、いつかの光景のよう。
あの狼と、ここではない海が綺麗でカジノで栄えていた島で、街中を駆け抜けた時のようだ。
あれから4年近くが経過しようとしている。
あの狼を存在を忘れたことは、1度とてない。
「みんな……ッ」
ガロと駆け抜けたときは晴天の下、あの丘への競争だったり、楽しい事しかなかったけれど。
でも今は違う。
脚を動かす理由は、失いたくない者が在るからだ。
未だ誰かの背に守られる日々。
ダンテが体を張って守ったユエ。
それは深く封じ込めて、哀しみを表に出すことがなくなりつつあった“ガロ”という存在を再び焼き付けた。
ようやく気付く。
これは、意味があったことなんじゃないかと。
「デビト……アッシュ……みんな……ッ」
【大切なのは、1人じゃないと気付くことだ】
【ガロは弱い】
【どうしてその力は君の手元を離れたのか】
【強さの意味を履き違えるな】
「もっと…ッ」
もっと速く。
もっと強く、地面を蹴って。
速く、強く、失いたくないから、その先へ…―――。
「みんな……ッ!」
55. 這ってでも前へ
「ユエ……」
ユエを捜しに来ていたノヴァとフェリチータは、消息不明になっていたユエの身をただただ案じていた。
どこを捜しても見つからない。
まさか、能力を使って確認してしまったように…―――本当に彼女が消えたのではないかという不安が過る。
「フェル」
テラスよりも先に来ていたノヴァとフェリチータ。
ノヴァの声により…―――いつかジジが来ていた―――ダクトの先の街が見渡せる丘まで来てみれば、ユエはこちらには来ていないということが分かった。
どうすることも出来ず、フェリチータが丘の上から広がる街並みを見渡す。
ぼやけるような朝日が輝く。
街灯もレガーロとは違う電球式ではなくて、本来の字の意味を持つ燈だ。
とても綺麗で揺らめいて光が消える、この時刻。
キラキラと朝日が反射しながら姿を現わせばノヴァが“戻ろう”と告げてきた。
「戻ろう。ユエはここにはいない」
「…」
「リベルタがユエの奴が行方不明であることはアッシュに告げたはずだ。黙って見過ごす奴らじゃないだろう」
「うん…」
「情報を共有し合うのも必要だ」
顔から不安を拭いきれないフェリチータに寄り添いながら、ノヴァが元来た道を戻り始めた。
朝日に当たり、輝く緑。
こんな長閑で綺麗な国に、今も戦争や戦いがあるだなんて思えないし、思いたくなかった。
「オリビオンか……―――」
まさかそのオリビオンに直接能力を失った状態の彼女が足を運んでいたとは誰が思うだろうか。
予想もつかなかっただろう。
彼女がそのオリビオンで、1つの戦いと真実を受け止めて、帰ってくることを。
一方、そんなユエがこちらに向かっていることも知らぬまま、アッシュやデビトは民家から飛び出して、オリビオンへ抜ける方角の森を探し回っていた。
「ユエッッ!!!」
アッシュが答えろ!というように森の中に叫ぶが、もちろん返事はない。
この時のユエは、まだオリビオンの上層部にいたはずだ。
湧水の庭園がある所まで来れば、先に確認していたデビトやルカ、パーチェが小鳥がさえずっている庭園を見つめていた…。
「お前ら……ッ」
こんな所で何してるんだよ……!と、朝陽に揺れる空間に佇んでいた3人にアッシュが声をかける。
だがアッシュも3人が見つめていた個所を見て、動きを止めた…。
「これ…」
「……ユエ…、」
彼女がここ最近つけずにいた、“A”と記されたバッジ。
置いてきたと認識でもしているのだろうが、それは湧水の庭園に落ちていた。
銀色に輝くそれが、動きなくそこにある。
「これが何を意味するかってとこだな」
デビトの言葉に、ルカが目を細めた。
「まさか……」
「……そのまさかかもしれないね」
「パーチェ……」
「ユエは……もしかしたら、それが最善だと思ったのかもしれない」
ユエ自身が、自分が理由はわからずとも狙われていることを自覚していた。
ファミリーに迷惑をかけるのであれば。と動いたのかもしれないと。
実際、彼女はそう思わせてしまうような行動を今までもしてきている。
キマイラの戦いの時も、幽霊船の時も、そしてここ最近の特別指令といい。
いくらパーパの命令だからと言っても…―――腑に落ちない。
「チッ……どこ行きやがった!」
デビトの言葉だけを見れば、誰もが冷静に取れるそれ。
だが、表情からは余裕なんて見られなかった。
それはいつも笑顔を浮かべて食欲に関することしか連想させないパーチェも。
お嬢様病かつ列記としたシスコンに該当するであろうルカも。
まったくの行方知らずの少女に困り果てた。
アッシュも眉間にシワ寄せて、庭園を出て行く。
庭園の出口から真っ直ぐに伸びる橋。渡った先に見える聳えた孤島を見つめた。
今日もこれだけ晴れているというのに橋の向こうは霧が出ている。
迷宮都市・オリビオン。
あそこに全ての真相が眠っているのだとしたら、今すぐ叩き起こして納得のいく答えを突き止めたい。
時代の枠を超えてまで巻き込まれたこちらの身にもなってほしいものだ。
「とりあえず、これを持って戻りましょう……」
ルカが花と花の間に落ちていたバッジを拾い上げて、手に収めた。
パーチェもアッシュが向かった出口の方を見つめる。
視界がすこしぼやけるくらいの温かくて、素晴らしい朝。
1日が幕開けるにはとてもいい気候だった。
だが、心には暗雲が停滞している。
「戻ろう」
パーチェがデビトに言い聞かせ、庭園を睨むように見つめていたデビトが踵を返した。
4人がコズエの家の方向に歩き出した時だった。
―――奴らは、現れた。
「―――…っ」
一番背後を歩いていたデビトが、不審に感じホルスターから銃を引き抜いた。
ゆっくりと。
同時にアッシュも異変に気付いて、背後へと視線を向ける。
「へぇ。お前らがアルカナファミリアか」
「ッ!」
天から降ってくるように現れた男・ラルダの剣が振りかざされる。
咄嗟の判断で、それを受け止めたのはアッシュ。
腰に携えてあった剣を鞘から抜くと同時の行動だった。
「やるな」
「なんだ、お前」
「ん?俺か?」
デビトが完全にホルスターから抜き放った銃口がラルダを捕えたが、刹那もう1人の気配。
振り返れば、最前側にメガネの男。
「!」
体術で対抗してくるメガネ―――リュアルには、パーチェが拳で対抗した。
「邪魔だ」
「…っ」
「ユエはどこにいる?アルカナファミリア」