53. 蝕む存在
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街は、劫火に飲まれようとしていた。
「女と子供も容赦なく殺せッ!男は誰1人と残すな!」
「いやぁぁああああ」
「おかーさぁぁぁん!おとぉぉぉさぁぁぁん!!!」
「…っ」
ランザスの放った火のせいで誰もが逃げ惑って、街はごった返しの状態だ。
一体、この攻撃の意図は何だ。
ウィルも実際に街に出て、錬金術で対抗をしているが数が半端なものではなかった。
恐らく緻密に計算され、計画していたに違いない。
「バレア……ッ」
ウィルが溢れ出てくるランザスの一般兵を相手にしながら、なんとか街中にまで攻められないようにと結界を張っていく。
それでも開港記念のパレードの最中だったので、結界の外には多くの人々がいた。
彼らを見捨てることをウィルが選ぶはずもない。
どうにかして別の方法で守りにいくが、オリビオンはランザスに比べて軍を所有している国ではない。
ランザスの勢力に、ましてはこの不意打ちで対抗できるだけの力がなかった。
イオンもアルトと共に結界の外にいた。
アルトは武器をきっちりと装備して乱戦の舞台に立っていたが、イオンは戦うより先に1つの存在を探し回る。
「エトワールッッ!」
探しても探しても燃える炎と鉄が焦げる臭いの中、彼女は見つからない。
「エトワール……ッ」
木霊する叫びは、爆音に1つずつ掻き消されていった……。
53. 蝕む存在
「リア、どこへ行くの!?」
「どこって、港」
「やめなさい!あそこは今…っ」
「アルベルティーナ」
「…っ」
城の中。
安全地帯として解放された空間には、多くの人々が避難してきていた。
だが、その中で1人……まだ幼さを見せる少女が姫であるアルベルティーナに背を向けて、出口を目指している。
「リア、今ウィルとヴァロンが応戦してる!何もアナタまで……!」
「そんな弱気でどーすんの?相手は戦いを仕掛けてきてるんだよ」
「でも……!」
「一国の姫がそんなんじゃ、ダメ」
「!」
水色の瞳から放つ光は、“負けない”と訴える彼女。
この時、僅か14歳。
だが、リアもアルベルティーナ……姫様に拾われた身。
戦いのセンスも、技術も、誰よりもズバ抜けていた。
そして、タロッコも宿している。
城を守る騎士団の青少年版の部隊の中に、唯一の紅一点として名前を轟かせていたのがリアだった。
後に、ヴァロンが消えた守護団を引っ張っていく要になったのも彼女。
ジジやアルトも後に引け目を取らぬほど強くはなるが、この時はリアの方が強かった。
「アンタはここにじっと構えて、みんなを安心させるべきでしょ」
「リア……」
「王女って自覚を持ったら?」
「…」
鞘におさめたままの剣を、アルベルティーナにむけたリアが言い放つ言葉。
彼女より8つも年上だったアルベルティーナ自身も圧倒される威力を持っていた。
リアの言葉を受け止めて、アルベルティーナは頷く。
「そう、ね……」
「うん」
「―――気をつけて、リア」
「わかってるって」
そのまま城を出て行ったリア。
アルベルティーナは不安な心を隠して彼女の言葉通り、堂々と構えた。
――あとからの結果で言えば、このオリビオン城にいた者は、この日の襲撃からは逃れられたという。
だが、問題は戦火となった港付近。
「リア!」
「サクラ、エリカ……」
リアが港へ向かうために廊下を駆けていると、真正面から戻って来た仲間の姿が。
ヴァロンと共にパレードを見に行っていたサクラとエリカだった。
「無事でよかった」
「ヴァロン様が助けて下さって……」
「そう…」
肝心なヴァロンの姿はそこにはなかった。
恐らく、あそこの兄弟は戦火が完全に止むまで帰還することはないだろう。
リアも目を細め、空へと炎上する光景を目に焼き付けた。
「アルトやアロイスはどこ行ったか知ってる?」
「ううん、僕たち会ってないんだ」
サクラの言葉に、どっかしらで2人が参戦していることは読めた。
城の中でいそうな場所は既に見ていたが、戦える者の姿はなかった。
「サクラ、エリカ。アンタたちは部屋に戻りな」
「でも…っ」
「でもじゃない。危ないから」
「リア……」
この2人も、後のタロッコを宿し守護団のメンバーとなるが、この時契約が出来ていたのはリアを入れて6人。
ジジ、アロイス、シノブ、アルト、そしてイオン。
力が使える彼らは、自分の意志でオリビオンを守るために動いているのだと思った。
「ほ、ほんとに行っちゃうの…!?」
「あんな真っ赤なのに……」
サクラもエリカも不安そうにしているが、止まるわけにはいかない。
「大広間にアルベルティーナがいるから、一緒にいた方がいい」
「っ…」
行かないと、と告げて2人の顔を見つめる。
サクラもエリカもリアを止めることが出来なかった。
言われた通り、大広間に向けて走り出した2人を見届けてリアも城を駆け抜けた。
―――場所は変わり、アロイスは東の港で1人で銃弾を放ち、応戦をしていた。
「退けぇぇぇぇ!!!」
「あらやだ、退くのはそっちでしょ…ッ」
この時はまだ、現在使用しているオーダーメイドのアロイス専用の銃がなかったため、一般的なリボルバーで戦っている彼。
銃でしか戦えない訳でもなく、蹴りや体術も炸裂していたがやはり1人で応戦できる量は限られている。
「レディー相手に一体何人掛かりで襲ってくる気ぃ…ッ!?」
溢れて止まらない兵士の数に戸惑いながら、引き金は止めなかった。
弾が切れては装填をしているが、その時間はほんの一瞬。
アロイスだって、オリビオンで錬金術や己の技術を高めてきた。
伊達にアルベルティーナの傍にいるわけではない。
幼くもなく、成人もしていたので現状をしっかり飲み込んで冷静な戦いが出来ていた。
だが、それを乱すのが変わる変わるの周りの環境だ。
「助けてくれぇぇぇぇええ!!!」
「っ…――!?」
「誰かぁぁあああああ!!!!」
民家の下から悲鳴が聞こえる。
あの方向は、先程まで激しく炎が上がっていた個所だ。
燃えた木材やらが落ちて、誰かが下敷きになっているようだ。
「もぉ…ッ!!」
戦線離脱して、助けに入ろうと余所見をしたその時だ。
「死ねぇぇぇえええ!!!」
「っ…!」
全く気にしていなかった方向からの攻撃。
やられる…と直感的に受け身をとったが、真横からの疾風を感じた。
「ひゃぁああああ」
「!」
「アロイス!」
聞き覚えのある声。
視線をしっかり前を向けば、アロイスを守るようにして尖がった耳とふわふわな尻尾が印象的な人物が。
これが疾風を起こした人物だ。
「人狼…ッ」
「グゥウ…」
「ナイスだガロッ!」
アロイスの前に現れたのは、約束をしていると言って城を飛び出したジジの姿だった。
「ジジ……!アンタどうしてここに……!?」
「なんでもいいだろ!それよりこれどーなってんだ!?」
ジジが襲ってくる兵士を見つめながら、地面に落ちていたカットラスを拾う。
アロイスも弾を装填して、真っ直ぐに銃口を構えた。
「わからないわ。買い物してたらこのザマよ」
「なんだよ…ッ!」
「ジジ」
グルグルと喉を鳴らしていた狼は、ジジの方に視線を向け、赤い目に真剣さを宿していた。
「こっち、ガロに任せろ。前向け」
「あぁ、頼んだぜ」
「ガロ負けない」
そのまま音速の速さで攻撃しつつ、木材の下敷きになっていた人物を救いだしたガロ。
戻らずに戦いに自ら赴き、兵の数を減らしてくれた。
アロイスが思わぬ助っ人に驚きを隠せずにいた。
「ジジ、アンタいつから人狼と友達だったのよ」
「いつからでもいいだろ。アイツは俺の親友だッ」
「へぇ…」
「アロイス。銃使ってもいいけど、ガロに当てんなよ」
「やーねこのクソガキ。誰に向かってそんなコト言ってるのかしらぁ?」
そのままガロを含めた3人で、東の港は持ちこたえたのは事実。
乗り込んでくる兵が少なかったのも理由としてはあるが、死人が圧倒的に少なかったのは東の港であった。
最もひどかったのは、言うまでもなく中央の港。
そこにアルトとイオンはいたのだ。
そして、エトワールも……