51. 恃みで潰えた悠遠
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「エトワール……っ」
イオンの目の前で、投下されてしまったエトワールが弾に撃たれ、破壊される…。
アロイスが声をあげたが、彼には既に聞こえてなかった。
リュアルとラルダが“ちょろいな”と思い、イオンに刃を振りかざした。
「イオンッ!」
「―――…」
前に出て、間一髪でイオンを守ったのはジジ。
怪我がある。
彼のフォローも長くは続かないだろう。
だが、イオンはその場から動こうとしなかった。
「エトワール……」
心が壊れたように虚ろに呟く彼。
ジジが押さえたのはラルダだけだったので、リュアルが彼に向って斬りかかってくる…。
そんなリュアルを背後から襲撃したのは、怪我の手当てをしていたツェスィ。
「ヒーラーの女か」
「ただのヒーラーではありません」
戦うことだって出来るんです。というように出てきたツェスィの参戦に、リュアルが顔をしかめた。
同時に両腕に仕込まれていたデザインのいい暗器から、湾曲の鎌の刃が出てくる。
あのサーカス団で、踊り子を務めた彼女。
まるで踊りを披露するかのような動きで、リュアルに向けて攻撃をしかけていく…。
「戦えたのか」
「他人が苦しんでいる姿を見ると、笑顔が零れてしまいますがそれはあくまで見てるのが専門です…♪戦いは好みませんが、戦うことは出来ます」
「…」
「でないと」
リュアルの頬を、左からきた暗器の刃が捕えた。
深くはないが、たしかに掠り、鮮血を現す…。
「守りたいものも、守れませんから…♪」
51. 恃みで潰えた悠遠
この乱戦を見ているだけでいいのだろうか。とユエは思っていた。
酷くなる戦い。
だが、確実に敗北が見えるのは守護団の方だ。
もし、やはり彼らがシャロスの目的のために使われていたとして。
ユエを狙う理由が、ただそれだけだったとして。
その先にある姫を起こす、ということに直結しているが故に戦っていたのだとしたら…―――。
本当の敵は彼らではない。
参戦するべきではないだろうか、と思う。
「ぐあッ…!」
「ジジッ!!」
「!」
ユエ自身も葛藤を繰り返している間に、目の前の戦いは過激化を増していく。
ファリベルとアロイスの声が響いたと思えば、ジジがラルダの剣に破られた。
血が舞い、脳内にあの雨の日の光景が甦る…―――。
「ガロ……」
同じくして、ジジに言われた言葉も…。
【ガロを返せ!!!】
彼が、ガロを知っている。
何故なのか。
そこも疑問で、問い質したくて、きちんと経緯を説明して、謝罪したい。
自分のせいなのだと。
彼に、ジジに、ここで死なれたら困る…。
「っ…―――貫け…」
そこまでフェノメナキネシスの言葉を呟いた時だった。
「ガロは弱い」
「―――ッ」
「ユエ、強くあれ」
彼の…あの狼の声。
きちんと、背後から正されていると思い、思わず振り返ったが―――。
「強さの意味を履き違えるな」
聞こえたのは声だけ。
誰も、そこにはいない。
まして、あの雨の中消えてしまった狼は……いない。
「ガロ……?」
足を止めてしまった。
振り返っても変わり映えのしない景色を同じくして、目の前の戦いにも変化が起きる。
空が先程よりも明るくなったせいか。
黎明だ。と敵である5人が顔を上げた。
「まったく、こんなチンタラしてられねーな!」
ラルダがジジから退いたと思えば、リュアルやエルシアに手をあげて、駆けだした。
「俺は先に行くぜ!」
倒れたジジを抜き、ラルダが城門の広場から崖へと飛びこむ。
ユエの存在には気付かなかったようだが、奴が向かったのは…―――。
「さっさと追わないと、めんどくさいことが増える」
「行かせません」
リュアルがメガネを直し、ツェスィと対峙をする。
暗器の先端はリュアルを捕えていたが、彼女の邪魔をしたのが…――
「!」
スッと横から出てきた人形。
いつかの戦闘で出てきた女戦士だ。
「…っ」
「デルセ、レミ、エルシア」
退いたと思えば、リュアルはその腕に倒れていたラディを抱えて告げる。
「ラルダを追う。お前らも後から来い」
「えぇ、今すぐ行きますわ」
「わかりました」
「ラディッ!!」
リュアルによって連れて行かれてしまったラディ。
コイツら5人の目的は、自分達じゃない。
ただの駒。
もはや使えない駒。
いや、駒としても最初から助ける気なんてなかったんだ。
匿う気も、力を貸す気も。
「騙されてた…ッ?」
アロイスが相手にしていた姉妹も、キリがいいと判断し、デルセを連れて姿を消す…。
「待ちなさいッ」
「待つ必要なんてありません」
「だってアナタ達、使えないんですもの」
「…っ」
ファリベルも、“やられた…”と奥歯を噛み締めた。
「クソっ…」
残された守護団のメンバーの頭は混乱状態だった。
「本当に駒だったってこと…ッ?」
ファリベルが納得いかない、という顔で鞭を握りしめる。
それに…―――
「ユエがバレアの封印を解けるって、どうゆうことよ…ッ」
本人にも分からない事実。
ただ、明らかになった目的は1つ。
奴らがユエを求めるのは、ユエにバレアの封印を解ける力があるから。
「バレアの封印を解けるって…ウィル様が使った封印の錬金術は、三親等までしか解けないものじゃないの…!?」
「ヴァロン様にしか解けないと思ってたけれど…」
ファリベルの叫びに、アロイスもその美貌を歪ませる。
「ヴァロン様…行方もわかりませんし…」
「…クソッ」
どうにもならないのか。
一体、どうすることも出来ないのか。
「ユエに鼓動の神殿の封印が解けるとしたら、バレア側が何かしかけているのかもしれないわ」
「アロイスさん…」
ツェスィが戻ってきて、アロイスの言葉の真意について考えてみる。
バレアが何かを仕掛けて封印されているとしたら、ユエの力でそれを解ける?
それはユエにしか出来ないことであるのは、今までの彼らの発言からしてそうなのだろう。
「止めないと」
ファリベルが顔をあげて、奴らが飛び込んだ崖へと視線を向ける。
オリビオンの街並みを見渡せるそこ。
飛び込めば、森へと続く橋が一直線。
奴らが向かうとすればダクトだ。
「ラディを取り戻さないと」
「…でも、どうして連れて行ったんですかね」
「ツェスィ?」
「だってそうですよね…?私達を殺していいと言われているのに、どうしてラディは殺さずに連れ去る意味があるのか…」
「恐らくシャロスから許可が下りてないのよ」
推測で進めて行くしかない。
更に考えなければいけないのは、その導きから今何が出来るのか。
「もし万が一、ユエを手に入れることに失敗すれば…シャロスはアタシたちを使ってまた行動をするということ」
「…」
「あの子たちはきっと…シャロスの意志ではなく、自分達の意志で動いてるってことよ」
「どうして?」
「さぁ。理由付けをしてたらキリなんてないわ。単にシャロス様様の手下に自分達以外のアタシらが入ったことが気に喰わないんじゃないかしら」
アロイスが呆れたようにして溜息をついた。
「追う」
「ジジ……」