05. 4枚のタロッコ

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第12のカードの宿主




「ひぃ…ふぅ…みぃ…」


「なにしてるの?ジジ」



サーカスの公演を終えたその日。
ラディは普段の服に着替え、暗闇の中、仲間に背中を向けて何かを必死に数えている濃灰色の髪の男に声をかけた。


振り返ったその男の頬には、縦にのびる涙をモチーフにしたタトゥー。


この者……―――先刻のサーカスの入場口でアッシュとユエから入場代金を回収した者だった。



「あ?んだ、ラディ」


「さっきから何数えてるの?」


「金」



必死に束を作り、10枚10枚、と区切りをつけて整理していくタトゥーの男・ジジ。


ラディは“すごい数…”と思いながら見つめていた。



「これどうしたの?」


「入場料に決まってるだろ?」


「え、お金とったの!?」


「当り前だ。俺がただ働きなんてするわけねぇじゃん」



お金の整理を終えて、立ち上がったジジにラディが見上げるように首を仰ぐ。


ジジがラディのふわふわの髪を撫でながら、ニヤっと口角をあげた。



「またサーカスやるんだったら、俺を入場口に立たせてくれよな」


「じ…、ジジ…」



呆れた…という視線を向けながらラディが笑うと、ジジはお金を乱暴にポケットにいれた。


同時に背後に気配を感じて振り返れば…



「よぉ、シノブ」


「戻ってたんだね、ジジ」



彼らがいた場所に現れたのは、音をたてることなく現れた桃色の髪の青年。


他の者と比べると、随分と独特の服装に身を包んでいた。


ジャッポネでいう“ニンジャ”…忍にあたるような服装だ。



「シノブこそ、早かったな」


「アルトとイオンが偵察に出たからね。代わりに僕は戻って来たよ」


「おかえり、シノブ!」


「ただいま、ラディ。今日の玉乗り…よかったよ」


「本当?」



シノブが薄く笑顔を見せ、ラディに告げた。


ラディはとびっきりの表情で頷く。


ジジは欠伸をしながら、完全なる闇へと染まった空を見つめていた。



「ふぁぁぁ……。アルトとイオンだけで、大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。まだあくまで“偵察”だから」


「……」


「アルトは賢いし、イオンが好戦的に“ターゲット”を襲うと思えないからね」


「……まぁ、そうだな」



ジジがここで確信的な言葉を1つ投げた。



「むしろ、お前が行かなくて正解かもな…?」



振り返り、シノブのオッドアイの瞳へ投げる視線。シノブは微笑でそれを受け取り……己も認めた。



「そうだね……。僕じゃなくて、正解かもしれない」



優しい表情の向こう側に隠された強さをジジは知っていた。
―――そして、その緩やかなサディステックさも。



「ラディはどう思った?ターゲットの彼女」


「そういえば、花やってたよな?」



ジジとシノブが思い出したように告げると、ラディもまた、彼らに負けないくらいの不穏な笑みを浮かべて答えた。



「とっても可愛かったよ」


「…」


「殺すのが、残念なくらい……ね」





05. 4枚のタロッコ





場所が変わり、同時刻――レガーロ港。


今日も同じくスーツではなく、ショートパンツにローブ姿でフードを被り、港に立つ者がいた。



睨むように投げる視線は海の向こうへ。
悔しそうに拳を握った人物……ユエだ。


――そして、それを追跡していたのは、身を案じた幼馴染だった。



「(港…?なにしてんだ、アイツ)」



『隠者』……まさにその力をつかい、6つ年上の幼馴染であり、彼女の義理の兄でもあるルカから頼まれたことをデビトは遂行していた。


―――サーカスが終了して、真っ直ぐ館へ帰還した一同。


食事を久しぶりに全員で共にし、各自部屋へと戻った。


時間を待ち、時計の針がてっぺんを指した時刻――デビトが見張っていた人物は部屋から出てきた。


館を出ると同時に、灰色のローブについたフードを深く被り……紅色の能力を発動させる。


そのまま彼女は――たまにフラフラと足取りを悪くしながら――港までやって来たのだ。



「(アルカナ能力を使って、わざわざ港まで来るだと?)」



そして、ただただ海の向こうへ視線を投げるだけの彼女に、デビトは正直理解に苦しんでいた。



「(ユエの能力は……数字を操るだったなァ?)」



一体なんの数字を操ったのかと思いながら、ユエを見守る。


デビトは知らなかった。
ユエが空間の数字を戻し、追跡術ができることを。



ユエ


「!」



デビトが考えにふけっている時だった。


ユエの名前を呼び、姿を現した人物にデビトが顔をしかめる。



「(ダンテのオッサン……?)」


「…なに」


「時間だ。モンドに報告を頼む」


「…」


「現状を伝えるだけでも、こちらとしても考えがまとまる」



ダンテが海を見つめるだけのユエに言い聞かせた。


本人は諦めたようで溜息をついて、振り返る。
同時に能力を解いたようで、微かに停滞していた紅色の光が消えた。



「っ、」


ユエ……!」



同時に地に膝をついたのを見て、ダンテが駆け寄る。


デビトは目を疑った。



「(膝から崩れ落ちる程、力を使ってるだと……!?)」



息を整え、胸を押さえたユエ


距離はあるが、真正面からそれを見ると―――心がざわついた。


一抹の不安。
理由を求め、叫びが内で暴れる。



「(一体、なんのために……)」



「お前、きちんと休めているのか……?」


「うるさい…っ」


ユエ、アルカナ能力は精神力の力だ。だが、体が壊れていては……」



そこまで言いかけた時、ダンテの手を弾いて、自分の足で立ち上がった彼女。


そのまま何事もなかったかのように館へ向けて歩き出したユエにダンテは溜息をつくことしか出来なかった。



館へ帰っていく2人を見つめてデビトは顔をしかめる。


何かが隠されている。それは確かだ。


一部の人間……―――恐らく、ダンテ・ジョーリィ・マンマ・そしてパーパくらいにしか話されていない“何か”があるはずだ。


ユエが最近1日寝ていたり、常に寝不足そうだったり、体調が悪そうなのはこれが関係しているだろう。



ユエ……」





◇◆◇◆◇





館まで戻って来たダンテとユエ


最後まで追ってきたデビトだったが、2人が入って行ったのが、パーパの部屋だったので――確信を得て、この先には行けない。と断念した。


一方、部屋の中へと迎え入れられたユエとダンテの前にいたのは、“待っていた”という雰囲気のジョーリィ。


そしてパーパとマンマの姿。



「遅かったな」



ジョーリィの言葉には一瞬だけ視線を向けて、ユエは真っ直ぐパーパ―――モンドを見つめる。


マンマも少しだけ視線を俯かせ、頷いた。



ユエ、報告をしてくれ」



ユエは依然、納得できないという顔を見せつつ、目を閉じた。
呼吸を一拍置いて、瞼をあげる。



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