48. 裏切りと庇護の狭間
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「やぁね、まったく…。ジジもイオンも先走っちゃってぇ」
「気持ちはわからなくもないけれど…」
ジジとイオンが出て行ってからそれなりの時間が経過したオリビオンの城では、ファリベルとアロイスがお茶をしていた。
薄暗い食堂の中で頬杖ついて溜息を吐いたファリベル。
ここ2人は大人なので――イオンも大して年は変わらないはずなのだが――落ちついた行動が出来るようだ。
帰ってこない2人を心配しつつ、ファリベルがブレンドした紅茶を楽しむ。
「アルトもどこかへ行ってしまったし……」
「どっかに美少年のかわいこちゃんでもいたのかしら?」
「アロイス、アルトはそんなキャラじゃないわよ……」
ファリベルが苦笑いしながら言えば、アロイスは整った唇を尖がらせて反論していた。
このずば抜けた美貌を持ちつつ、何故声がこんなに男前なのか。
守護団は慣れてしまっていたが、アルカナファミリアの連中は驚いたに違いないだろうとファリベルは思うのだった。
「でも、そろそろヤバいんじゃないかしら?」
「え?」
アロイスが声音を真剣なものに変えながら、角砂糖を1つアールグレイの中に落とす。
「シャロスの狙いは、あの小生意気なユエよね?」
「え…えぇ」
「目的も達成できていないにも関わらず、こんなにアタシ達……自由でいいのかしらね?」
と言いながら、焦りすら見せない彼…いや、失礼、彼女。
ファリベルがティーカップの中に映る自分を見つめながら、思う。
「ユエ…」
「アタシは、あの子の存在が何か1枚噛んでると思うの」
「…」
「シャロスが言うほど、あの子が強いとも思えないし」
求めている理由が別にあるのでは、ということはそれとなく伝わっていた。
「だとしたら、何だと思う?」
「…」
「そこまで求める理由」
ファリベルが素直にアロイスに問いかけた。
天井からぶらさがる、趣味のいいランプの光。
アロイスの瞳と同じ色を放つそれが、揺れる。
「そうねぇ、」
彼女は狙撃の腕も、センスも、そして女の勘も。
ズバ抜けていた。
「時を超えた少女……とか」
「それって……」
アロイスが口角を上げて、楽しそうに笑んだ。
その綺麗な容姿で。
「強大な力を持ったフォルドの血を引く娘」
ファリベルが、アロイスに真っ直ぐに視線を向ける。
アロイスがその視線を受け取り、手をひらひらさせながら続けた。
「やぁね、そんな顔しないでよ」
「でも……」
「ねぇ、ファリベル」
呼びかけに、彼女は戸惑った。
「アタシはねぇ、この先に姫様が甦ることなんてないと思ってるわ」
「アロイス……」
「どちらかというと、アタシは使われてる気がしてならないのよ」
「…」
「あのシャロス・フェアという男……――なにかあるわ」
「どうして、そう思うの……?」
ファリベルが、予想をしていても信じたくなかった言葉。
ストレートに告げられて、目的を見失いそうになった。
「さぁ?オンナの勘って奴よ、オンナの勘」
「…」
「だから、ある程度は覚悟しておかないとね。フフフ」
アロイスが笑ったところで食堂の奥にガッシャーン!!!と、何かが割れて、モノが落下する音が響いた。
さすがにそれは2人もびっくりしたようで、目をぱちくりさせる。
「な、なに……」
「あらやだ、誰か降って来たのかしら」
そそくさと確認しに行けば、食堂の奥の窓。
その先は屋根になっているのだが、屋根の上に大穴を作って倒れていた存在が。
その正体が数時間前に見送ったはずの存在だったので、ファリベルが意外な所から帰還した彼に驚きを隠せずにいた。
「じ、ジジ!?」
48. 裏切りと庇護の狭間
「いってぇぇぇ……!!」
「やだ、アンタなにしてるのよ」
アロイスが窓を超えて、穴の中心で転げているジジに吐き捨てる。
ジジは倒れたまま、腰を押さえ、本当に痛そうな顔してアロイスを見上げていた。
「こっちが聞きてえんだよッ!!」
「なに逆ギレしてんのよ」
「うるせぇ!」
半分涙目になってるジジにアロイスが呆れを見せて“可愛くない”と返す。
ファリベルも屋根の上に駆け寄ってきて、ジジの容態を確認した。
「コズエの奴次会ったら、根こそぎ貯金奪ってやる……」
「なぁに、ジィジったらコズエにやられたの?」
「るっせーな!その呼び方やめろ!オカマ!」
「もっぺん言ってみなさい?え?レディに向かって今“オカマ”って言ったのはどの口かしら?」
「むぐぐはあぁあぁなぁぁせぇぇ」
腰を押さえて起きあがったジジの頬をつねりつつ、アロイスがにこにことジジに黒い笑みを見せた。
ファリベルが2人を見守りながら、上空に現れていた時空のゲートを見つめる。
「コズエ……」
あの琥珀の光で人を移動させることが出来るのは、コズエの力。
間違いはないな、とファリベルが頷いた。
「コズエに会ったの?」
アロイスの腕を掴み返して、ジジがファリベルの問いに答えた。
あくまで視線は逸らしながら。
「あぁ」
「フフフ、まんまとやられたって顔ね」
「うるせーな…っ」
ジジが先程よりも負傷している傷が増えていることに気付いたファリベル。
これは一戦やり合ったなと見越してから、1人で帰って来たことに僅かに落胆した。
手に入れなければいけない少女がいなかったことも。
そして素朴な疑問はイオンがいなかったことだ。
「ジジ、イオンはどうしたの?」
「知らね」
「まさか置いてきたの?」
アロイスが信じらんない…という顔して見つめれば、ジジが“俺のせいかよ!?”と視線で言い返している。
「俺はコズエに飛ばされたから、イオンの行方は知らねーって」
「飛ばされたって……」
コズエの性格を知っているアロイスとファリベルが、顔を見合わせた。
意外だったのだ。
あの温厚で、気弱なコズエがこんな強硬手段に出るなんて。
ましてや今は敵対しているといっても旧知の仲。
「意外ね」
ファリベルが思わず零した言葉に、ジジが顔を背ける。
理由を聞かれてたまるか……というものだった。
だが、その思いは背後からの声に打ちのめされる。
「ジジくんったら、ユエちゃんにブチキレたんだよー」
「え?そうなの?」
「そぉそー。紺色のリボンを見たら、怒り狂っちゃって~」
馴染みのある、あのヘラヘラ担当の声であることはすぐにわかった。
バッと顔をあげれば、エトワール片手に戻って来たイオンの姿。
「い、イオンテメェ!」
「あら、おかえり」
「アロイスたっだいまー」
「遅かったわね」
「遅かったのはおれより、ジジくんだよー」
コズエのゲートに投入されてから、何時間と経過しての帰還。
その間、歩いてゆっくり帰って来たイオンと同着。
さすがはコズエの時空ゲートだ。
「コズエのゲートだからアテにはしてなかったがまさか3時間近く閉じ込められてるとは思わなかったぜ……」
「はははーさすがコズエー」
「相変わらずみたいね、コズエも」
ある意味安心した、というような顔したアロイス。
ジジがいい迷惑だ、と吐き捨ててようやく立ち上がる。
そこへ更に通りかかったのは――傍から見れば、わざわざ窓から出た先の屋根上で会話をしている4人だったので、不思議で仕方ないだろう。だが、慣れているのか特に突っ込まず――ツェスィの姿だった。
「あら、みなさんお揃いで…♪」
「あ、ツェスィちゃーん」