43. 罪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ、コズエ~。おれもオリビオンまで飛ばしてよー」
「い、イオンは自分の足で帰ったらどうですか…っ」
「えーだってアルトくん、ここにいないんでしょー?じゃあ来た意味ないもーん」
「あ、アナタ自分の今の状況わかってるんですか!?」
「うーん?」
ジジがオリビオンに飛ばされ、取り残されたイオン。
駄々をこねる子供のようにコズエにオリビオンまで空間を使って飛ばしてくれと頼んでいた。
この状況、先程まで戦っていたメンバーがいる前で当り前のように素を出す彼に誰もが調子を狂わされている。
コズエはもちろん前から認識があり、彼のこんな所も知っているので特に何も感じなかったようだが。
「れ、連続で何度も飛ばせる力なんてわたしにはありませんっ」
「えー、ケチー」
「ケ、ケチとかじゃなくて……!」
「コヨミならやってくれるよー?」
「だ、黙ってくださいっ!もぉー!」
腕を上下に振りながらイオンの絡みを振り切ろうとしているコズエ。
あまりにもそれが自然すぎて。
その光景を見つめていたアルカナファミリアの面々は目をぱちくりさせていた。
「な、なんなんだろう……イオンって」
「さ、さぁ…」
恐るべし、100年前の悪魔の宿主。
43. 罪
イオンがコズエと揉めている間もユエはただ俯き、ジジから放たれた言葉を並べ考えていた。
その虚ろになってしまった紅色に、デビトやパーチェは何と声をかけていいか迷った。
「ユエ……」
虚ろと言っても完全に病んでいるというより、思考を色々めぐらせて考えているようだった。
そんなユエの光景を見て、アッシュは脳裏に1つ……―――ヨシュアの言葉が甦った。
【アッシュ……もしユエが崩れ落ちそうになった時は、】
「…」
【何も聞かず、傍に寄り添ってあげてください】
「……ユエ」
アッシュがユエの名を呼ぶ。
少し遅れて反応を示した彼女と視線を合わせるため、アッシュがしゃがんだ。
正面に来て、視線が絡んだ直後に忍ばせていたリンゴをそのままユエの口に突っ込んだ。
「むぐっ?!」
「食え」
「アッシュ…」
「お前…」
「いいなー!リンゴいいなー!」
「パーチェ、お前もなぁ…」
口にそのまま突っ込まれたリンゴを、ユエが――仕方なく――しゃりっと噛めば、ちょうどいい甘さ。
少しだけ、心が落ち着いた気がする。
アッシュの何も聞かない優しさを見て、ルカとデビトも本心からではなかったが――笑って見せた。
「戻るゼ、ユエ」
「…っ」
「そうですね。怪我の手当てをしましょう。痕が残ったら大変です!」
「デビト……ルカ……」
必死に繋ぎとめるように。
彼女が、彼女しか知らない事実に押しつぶされないように。
幼馴染達は、彼女を守ったつもりでいた。
―――だが、結果…それは裏目に出ることになるのを未だ、この時は誰も知らない。
「へぇーあんだけジジくんが騒いだのに、ガロのことについて誰も聞かないんだねー」
「…」
イオンが感心するようにしてコズエに言い放つ。
ユエたちのやりとりを見ていたイオンの言葉に、反応を硬くしたのはコズエ。
気になっているというようにノヴァとフェリチータはイオンの顔を睨むように見つめる。
「やだなー怒んないでよー」
「なら、お前が洗い浚い話せばいいことだ」
スッとカタナを引き抜いて、イオンに真正面から向けたノヴァ。
イオンは既に戦う気は殺がれていたようで、“えー”と顔をしかめている。
「いやだよー。おれがガロのことを話すのはジジくんにも失礼だしー」
「…」
「それに、おれはここにアルトくんを探しに来たついでだったんだよー?もう用は済んだから帰るー」
「なんなんだコイツは……!」
ノヴァが思わず口にした言葉にフェリチータも苦笑いになる。
イオンはコズエに頼んでも帰してもらえないと気付いたようで、ぽつぽつと1人歩き出した。
片手には何故か、ホルスターには入れずにエトワールを握りしめて。
「帰るよーエトワール~」
そのまま去っていくイオンを、……あまりにも敵とは思えずに、そのまま見送ってしまった。
「なんか……アイツから色々聞きだす気にはなれないな」
「敵っぽくないしね…」
戻って来たリベルタとパーチェが顔を見合わせてノヴァの前で話し合う。
確かにイオンは敵という空気が全くない。
どちらかというと、別の目的がありそうだ。
空気などから殺気も感じられたことがない。
まるで、先程のジジとは対照的すぎるくらいだ。
「…」
フェリチータがイオンの背中を見送りながら、“なら、真の目的は何なのだろう…”と、考えを巡らせるだけだった……。
◇◆◇◆◇
夜。
傷の手当てをしてもらい、怒涛の1日を終えてユエはどうしても1人になりたくて、部屋にこもっていた。
あれから数時間が経過して、夕食を用意してくれたコズエ。
パーチェやリベルタは色々あった中、食欲が治ることをしらなかったけれど、ユエはやはり違ったようだ。
部屋にいるはずなのに、呼びかけても出てこない。
「ユエ……」
最近共に食事をすることがめっきり減り、会話という会話も減って来たことに気付くファミリー。
デビトは心配しつつも、どうしても今日起きた拒絶が頭から離れずに、うまく行動が出来ないでいた。
だがこの時、当の本人は部屋にはいなかった。
民家の窓から抜けだし、テラスを目指す道をはずれた森の中。
ある目的地を目指して、その足を進めていたのだ。
夜。
まして能力が使えないことも分かっている。
だが、彼女はどうしても―――胸に秘めた1つの願いを叶えたかったのだ。
「…」
開けた視界。
オリビオンが見える距離までやってきた。
森の出口はすぐそこだ。
その先にある橋を渡れば、今日ユエやファミリーを襲ったジジやイオン。
そして“ファミリーを抜けて来い”と言ったリア達が待っているであろう宮殿が聳えている。
ユエは何かを決意したように、足を踏み出そうとしていた。
だが、1歩踏み出したところで心の靄が取れず……立ち止まる。
「……」
腹部に手を当てて、自分の中にいるであろう力に問いかけてみた。
「ラ・ペーソ…」
いつもなら。
リ・アマンティのように、問えば返してくれる彼は――現れてくれなかった。
「あたしの力って、」
この力が手元を離れた意味。
それを考えることで、呪縛が解けると言われた。
簡単に言えば、アルトに負けたということだ。
弱かったから。
技術が、馬力が、速度が。
全てがアルトに負けていたから。
誰でもない、自分のせい。
ユエの力がアルトを下回った。
誰かを責めることなんて出来ない。