42. 巡り逢わせ100年
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イオンの銃口が、ユエの紅色の瞳をきっちり捕える。
「ユエッッ!!!」
アッシュの声が聞こえる。
脳内でヤバイと反応する。
だが、引き金が引かれる方が恐らく速い。
ダメだ―――と顔を背ける。
閑静な森の中に、確かに1つの銃声が響き渡った。
42. 巡り合わせ100年
「ユエッッ!!!」
ジジとイオンの狙いがユエである以上、2人はユエを優先的に襲うであろうと予想もついていた。
どうして行かせてしまったんだ…!と後悔に唇をかみしめたアッシュが追いかけてきて、ジジが倒れている所やルカやリベルタの位置まで来て、足を止めた。
「…っ」
銃声は、―――イオンのものじゃない。
「オイオイ、何物騒なモンむけてんだァ?」
「…ッ」
姿が見えないが、ユエの真正面からイオンのエトワールを見事に弾いたのは、隠者の力を発動させたデビトだった。
「デビト…っ」
背中でユエを守る彼が呆れた顔しながら現れたのは言うまでもない。
「……、」
エトワールが弾かれ、背後に銃が飛んでいく。
イオンが顔をしかめてから、姿を見せたデビトに笑顔を消して視線を飛ばした。
「ユエ、散歩は終わりか?」
「…っ」
顔は見ずに、デビトがユエに尋ねる。
自分より高い背に守られて、過去の光景と重なり再び不安が過った。
デビトが前を見据えたまま、丸腰になったイオンを睨む。
「ジジくーん、負けちゃったぁ~」
「テメェは少し緊張感持ちやがれ…っ」
傷を押さえてようやく立ち上がったジジが、へらへら悪魔に返す。
当人は手を肩くらいまであげて、降参のポーズを取っていた。
「ンじゃァ、吐いてもらおーか」
デビトがガチャリ…ともう1発装填して、イオンを捕える。
背後に並んだジジもイオンに向けられた銃口を見つめ、頭をフル回転させ、計算を重ねる…。
それはイオンも同じようで、にこにこしつつ顔は笑っていなかった。
イオンに至っては危機という危機よりも、弾かれた銃に対しての怒りだろう。
「吐くってなにをー?」
「全部だァ、全部。テメェらがやってることの目的を当人側から説明してもらおうじゃねェか」
ユエが完全にデビトの背中に守られることがイヤだったようで、横に並びながら会話を見守る。
ジジを拘束しようとやって来たノヴァと、フェリチータもデビトとイオンのやりとりに目を向けていた。
ジジの灰色の瞳が…―――揺れる。
「教えることなんて、なぁーんにもないよー?」
「…」
「むしろおれがアルトくんの居場所を教えてほしいくらいだもーん」
イオンの言葉が並んでいく間に、背後で動きを見せたのはジジ。
次の言葉が来る前に、ジジが自分の背後に回って来たフェリチータの腕を取り、立場を逆転させた。
フェリチータの背後にジジ。
片手で彼女を押さえつけて、腰と太腿に収納してあったナイフをある物…―――地に落ちていたエトワールに投げつけた。
「!?」
「お嬢ッ!」
「イオンッ!!」
フェリチータのナイフがエトワールに当たり、エトワールがテコの原理で跳ね上がる。
デビトが視線を一瞬逸らしたことを隙に、イオンが華麗に舞った。
跳ねあがったエトワールを踵を弾き、宙に浮いて右手で受け取る。
溺愛の銃を手に収めると同時に、イオンは引き金を引いた。
今度は、確実にエトワールから弾が放たれる…―――。
「デビトッ!!!」
「チッ…」
イオンの弾に反応が遅れ、デビトが数秒遅れて引き金を引いたが、相殺できない。
デビトのケガは免れないだろう…と読んだ時、真横から力を加えたのは他の誰でもない。
「!?」
「っ…!」
ユエだった。
「ユエッッ!!!」
イオンの弾はずれることなく軌道を進み、ユエの右腕を捕えた。
しかし弾は掠るだけ。ユエの服が破れ、右の二の腕に傷をつくるだけで済んだ。
「っ…」
イオンは仕留めた、と思っていたがユエが腕を押さえただけだったので、少しだけつまらなさそうな顔をする…。
「もぉ~ジジくーん、エトワール傷ついちゃったじゃーん」
「俺よりもそっちの隻眼野郎ので傷ついただろ」
「そうだけどぉー」
エトワールの状況を確認しつつ、イオンがジジに投げた言葉。
ジジは未だにフェリチータを捕えたまま返事をしていた。
「ユエッ!」
デビトがイオンに銃口を向けたまま、腕を押さえたユエに意識を向ける。
ユエは裾が破れた個所から、傷の具合を確認した。
その姿をたまたま見ていたジジが―――息を止める。
「―――…」
右腕に二重に巻かれた、紺色のリボン。
長さも、あの色も……―――特殊なオリビオンにしか咲かない花から染めたもので、他の者が持っているはずがない。
見間違えじゃなかった。
「オイ」
腕を押さえて、痛みをこらえたユエにジジが睨みを利かす。
「その腕のリボン」
「―――……っ」
ジジの問いかけに、ユエが先程の彼と同じ反応を見せる。
「それ、誰のもんだ」
ジジの問いは、当人同士にしか確認が出来なかっただろう。
周りの者も、フェリチータを解放しようとしていた誰もがジジに首をかしげる。
どう考えてもユエがしているんだから、ユエのものだろう…と思いながら見守る。
言葉を詰まらせて返せないのはユエの方だった。
「お前……」
ジジが思わず目を見開き、ユエの反応を見て何かを確信する…―――。
「お前が…―――」
【ジジ】
【お!ガロ!】
【ありがとう】
【は?】
【今まで、ありがとう】
【どこ行くんだよ…ガロッ!!!】
ガロ…
【ガロォォォォォォッッ!!!!】
「―――…っ」
時が止まる。
フェリチータは自分を押さえつけたジジの心情を読み取ってしまった。
心の中に、怒りと悲しみと、切なさ、そして向けられた殺意は…―――。
「イル・マット」
「…っ」
静かに囁かれた言葉が、爆発した。
発動したジジ本人も大怪我を追っているはずなのに、フェリチータを突き飛ばす。
ジジが剣を引き抜いてからは瞬間だった。
ユエめがけて剣を振りかざす。
やばい、と思ったユエが鎖鎌を抜いてジジの剣を受け止めた。
「ジジくーん…!?」
へらへらしつつもエトワールを構えたイオンは、ジジの変化にどこか驚きを見せていた。
「ユエッッ!!」
「邪魔すんなッ!」
デビトが、斬りかかられたユエを追おうとしたが、ジジの呪文なしで発動された愚者の力に襲われる。
再び燃え盛る炎。
一歩間違えれば、火事が起きる。
区切りを付けられてしまったデビトが炎の壁を超えることが出来ずに立ち尽くした。
「アイツ…ッ」
「デビト!」
デビトの所まで駆け寄ってきたノヴァやパーチェが、炎の向こう側で乱戦を見せるユエとジジを見つめる。
「なんなんだアイツ…ッ」
「ユエ…」
リベルタとルカが、突き飛ばされたフェリチータを心配していた所でイオンが呟いた。
「あーそうだったんだー。ユエちゃんがガロが守った子かー」
思わず、その言葉にリベルタとルカ、フェリチータがイオンの方を見つめる。
「ガロ?」
「ユエが何…ッ?」
少し先で呟いたイオンが、フェリチータとリベルタの反応に振り返る。
なんでもないように首をかしげてから、おしゃべりなイオンは笑った。
「ユエちゃんの正体の話だよー」